目次

  1. 前編では各社の工夫にアドバイス
  2. 展示会は部門横断チームで
  3. 出展する展示会選び、2つのポイント
    1. 定番展示会に出展する
    2. ズラして出展する
  4. あれもこれもは厳禁 出展コンセプトを決めよう
  5. コロナ以降の集客方法
  6. 営業プロセスの目標値を設定しよう

 前編記事では、展示会営業マーケティング代表取締役の清永さんに対し、ツギノジダイの特集企画「展示会の集客のコツ」に登場した全国の中小企業がさらに工夫できるポイントを聞きました。

 この後編記事では、展示会に出る前にどんな準備を進めればよいかを聞きます。

―今回、出展経験をシェアしてくれた中小企業に共通するのは、事前準備の大切さだったように思います。それでは、どのように準備すればよいでしょうか?

 展示会で成果を出すために、準備は非常に大切です。遅くとも3カ月前には準備に着手しましょう。その際にお勧めしたいのが、5人程度の展示会プロジェクトチームを結成することです。

 時間と労力が許すならば、営業部門、マーケティング部門はもちろん、日ごろ顧客と接しない購買部門や設計部門などもメンバーに加えて部門横断的なプロジェクトチームをつくり、展示会準備を進めていくのが理想です。

 社内のコミュニケーションが増え、組織が活性化します。学生時代に、放課後、クラスで学園祭の準備をした時のことを思い出してみてください。夢中で準備を進めているうちに、日ごろはあまり親しくなかったクラスメイトとも気づかないうちに積極的にコミュニケーションを取っていたのではないでしょうか?

 「学園祭をよいものにしたい、でも、なんとか期限に間に合わせなくては……」

 時にはクラスメイトと激論になったこともあったかもしれません。でもそういう経験を通して、クラスの一体感が格段に高まったはずです。

 企業の展示会出展も、まさにこのようにするべきです。期限が決まっているなか、みんなでよりよいものを作り上げていくという点で、展示会はある意味学園祭と同じです。企業も営業部門と製造部門など日ごろの接点が少ない部署間は、だんだん疎遠になってしまいがちです。それではもったいないのです。

 中小企業は、一人ひとりがまじめに仕事に取り組むだけでなく、部門を越えて社員同士がコミュニケーションを取りながら、全社一丸となって仕事に取り組んでいくことが必要です。ぜひ、部門横断的なプロジェクトチームをつくり、展示会出展の学園祭効果を発揮してください。

―たくさんある展示会でどこに出れば良いか分からないという声もあります。

 日本国内で、大規模なものだけでも年間680件以上もの展示会が開催されています。出展する展示会の選択をまちがえると成果にはつながりません。

 展示会選びのやり方は、大きくわけると次の2つです。

 ひとつは、自社が所属する業界の定番と言われる展示会に出展することです。たとえば、製造業なら日本ものづくりワールド、食品ならフーデックス、化粧品ならビューティーワールド、介護系ならケアテックスなどです。

 「定番展示会には、自社のライバルもたくさん出展するぞ。ライバルがたくさん集まっている血みどろの海に自ら飛び込んでいくなんて、愚行だ!」

 確かに、通常のマーケティング論の世界では、競争環境の激しい場所に自ら出向いていくのは悪手だと論じられています。しかし、展示会は通常のマーケティング論とはちがうのです。

 定番展示会には業界トップの企業も出展しています。こうした企業は知名度があり、営業経費も潤沢に使えますから、業界のトップ企業を目当てに展示会に訪れる来場者は非常に多いです。

 中小企業は、この状況を生かし、業界のトップ企業を目当てに来場したお客さんに対して接点を持ってみましょう。定番展示会に出展すれば、業界のトップ企業の集客力を活用して見込み客との接点を増やすことができるのです。名付けて「コバンザメ作戦」です。

 ふたつ目は、ズラして出展するというやり方です。たとえば、SCAJという展示会があります。この展示会は東京ビッグサイトで行われるアジア最大のスペシャルティコーヒーのイベントです。

 コーヒーの展示会ですから、展示会場は、コーヒー一色に染まります。コーヒーの豆、コーヒーに入れるシュガー、コーヒーのカップ、コーヒーをつくるバリスタさんの腕を競う大会も行われています。そんな中で、一番人だかりをつくっていたのは何の商材のブースだったと思いますか?

 答えは「紅茶」のブースです。

 「え? コーヒーの展示会なのに紅茶? 何かの間違いではないか?」

 そう思ったかもしれません。でも、それがポイントなのです。展示会場は閉鎖された空間ですから、ある意味、ひとつの世界と言えます。そんな閉ざされた世界が、コーヒー一色なのです。どこを見ても、コーヒー、コーヒー、コーヒー、コーヒー。

 だんだん飽きてきませんか? そんな中、パッと見ると、紅茶のブースが現れるのです。

 「おっ!紅茶じゃないか!ちょっと行ってみようか」

 コーヒーに飽きた来場者がつい紅茶のブースに足を向けてしまう心理が分かるかと思います。このように、テーマや商材をズラして出展するというのが、成果が出る展示会の選び方のもうひとつの方法なのです。

 テーマや商材をズラすことによって、閉鎖された空間である展示会場で容易にオンリーワンの存在になることができるのです。

 ただし、単にズラせばよいわけではないことに注意してください。成果を出すためのポイントは、来場者の属性を考えることです。前述の「紅茶」のブースはその意味でも秀逸です。なぜなら、コーヒーに関する商材を買い付ける権限がある人は、おそらく、紅茶を買う権限も持っているからです。

 来場者の属性が自社の見込み客に合致するかどうかを考えた上でズラすという発想を持って出展する展示会を選んでください。

―出展する展示会を決めたら次は、どうすればいいですか?

 自社商材を来場者にどのように訴求していくかを考えていきましょう。

 「展示ブースのパラペットに掲げるブースキャッチコピーをどうするか」、「来場者を惹きつける体験アトラクションをどのようにつくるか」、「展示会後、来場者から望まれてフォロー面談できるようにどう仕掛けるか」などの各論に入る前に、まず、しっかり土台固めをしましょう。土台固めとは、出展コンセプトを決めることです。

 「せっかく出展するのだから、当社の商品を全部見てほしい」、「展示会だからとにかく数多く展示しよう」……。決して安くない出展料を払っているのですから、お気持ちはよくわかります。

 しかし、このような考え方では、展示会では成果は出ません。あれもこれもと欲張るのではなく、『ワンブース=ワンアイテム=ワンターゲット』の出展コンセプトを練り上げることが重要なのです。

 これは、出展コンセプト検討シートに沿って4つの質問の答えることで自然と錬成されていきます。出展コンセプト検討シートのフォーマットとその例を掲載しておきます。

清永さんの出展コンセプト検討シート

 「販促EXPO」に「企業向け紙袋」を出展する「紙袋製造業」のもので、実事例をデフォルメしています。こちらを参考に「自社の場合だとどうなるだろうか?」と考えてみてください。

―2022年春ごろから、展示会に人が戻りつつありますが、コロナ禍以前よりは集客が難しくなったという意見もありました。どのように成果を出せばよいでしょうか?

 2022年6月時点で、ずいぶん回復してきているものの、コロナ禍以前の2019年と比べると、展示会の来場者はやはり減少しています。では、展示会で成果が出にくくなっているかというと必ずしもそうではありません。

 コロナ以前は、まったく買う気がないのに長時間ブースに滞在する「冷やかし客」がたくさんいました。「冷やかし客」と本当にニーズがある「真の見込み客」をどのように選別するかがコロナ前の展示会ブース運営の肝だったのです。

 ところが、今は「冷やかし客」が圧倒的に減りました。コロナ禍でも、わざわざ展示会に訪れる人は、解決すべき悩みがある人、決裁権がある方、真剣にヒントを探している人など、「真の見込み客」が増えています。

 コロナの影響で、出展者数もコロナ以前よりも減少傾向にありますから、ある意味、優良な来場者を少ない出展者が分け合っている状態とも言えるわけです。

 たしかに、ブース前に人だかりをつくることは、コロナ前よりも難しくなりましたが、展示会の目的は、ブースにたくさんの人を集めて盛り上がっている感を出すことではありません。

 展示会の目的は、売上アップに置くべきです。優良な来場者に対して、ブースでしっかり興味喚起し展示会後のアポイントをその場で取るような運営をしていきましょう。

―これから中小企業は展示会をどのように活用していけばよいでしょうか?

 展示会は、知恵と工夫次第で、中小企業でも大企業以上の成果を上げることができる魅力的な営業手法です。

 「有効名刺獲得数」、「展示会後のアポ数」、「案件化数」、「受注数」などの営業プロセスの各段階の目標値を設定し、結果を検証して、次の出展に向けてブラッシュアップしていくことで、必ず大きな成果に結びつきます。ぜひ展示会を積極的に活用してください。