人事評価はなくても大丈夫?人事評価制度の基本から導入フローまで解説
「人事評価制度はないがうまくやっている」つもりなのは、もしかしたら経営者だけかもしれません。本記事では、経営者の基礎知識として、人事評価に取り組むべき理由から評価方法・導入フローを説明しています。効果的なフィードバックと、人事評価制度へ不満を持つ従業員への対応もご紹介しますので、ぜひご参照ください。
「人事評価制度はないがうまくやっている」つもりなのは、もしかしたら経営者だけかもしれません。本記事では、経営者の基礎知識として、人事評価に取り組むべき理由から評価方法・導入フローを説明しています。効果的なフィードバックと、人事評価制度へ不満を持つ従業員への対応もご紹介しますので、ぜひご参照ください。
目次
人事評価は人材マネジメントの中心にあり、人材育成・賃金・異動などの他の要素へ強い影響を与えるものです。
一般的に、評価というのはする側もされる側も緊張感が伴います。低い評価を与えるときには、双方嫌な気持ちになることもあるかもしれません。
それでも人事評価に取り組んだ方が良い理由として、私は次の2点を挙げます。
上記に挙げた理由について順に解説いたします。
事業を運営していくなかで従業員が複数名いるとき、全員が全員同じ賃金・勤務地・業務内容ということは無いと思います。
経営者は、人事評価を行ったつもりはなくとも主観や直感で評価を行い、業務分担を考えたり、賃金を調整したりされています。
それでやってきて今まで問題は無かったとしても、もし、従業員から「私の業務/賃金が変更になった根拠はなんでしょうか」と尋ねられたときにどう答えるでしょうか。
ここで従業員が納得できる回答が出来ると、従業員が自身の課題や問題点を認識し改め、成長することが期待出来ます。
ある美容室は、職層を大きく2つに分けており、昇格試験を設けていました。しかし、その昇格制度を認識している従業員がおらず制度は活用されていませんでした。
ある従業員が経営者へ自身の処遇について尋ねたことで、経営者は昇格制度が認識されていないことに気づきました。全員へ制度説明を行ったところ、より一層技術向上に励み昇格に挑戦する従業員も多くなったそうです。
同じような問い合わせが従業員からあったときに、根拠が弱い回答をしてしまうと不満だけが募り、仕事の意欲も逓減してしまうかもしれません。
人事評価を行う理由の一つ目「公平・誠実な処遇を用意するため」が短期で効果を感じられるものだとしたら、二つ目の理由は効果を実感するまでに数年かかることでしょう。
人事評価と組織文化は一見関係無いようにみえます。しかし、人事評価制度を構築・導入するにあたり、経営者は評価基準を考えたり、経営者をはじめとした評価者はフィードバックを行ったりします。
このとき経営者は自ずと、「自分たちがどのような組織でありたいか」「組織が重視する価値基準はなにか」を考え、全従業員へ周知することとなります。
それは、結果的に、従業員へ組織文化に対する強い意識を芽生えさせることにつながります。
人事評価制度の運用は実施とフィードバックの積み重ねが、従業員にとって組織文化を強く意識させ、経営目標の早期達成組織を発展させていくことにつながるのです。
ある会社では、目標管理制度の導入と併せて創業以来初の中期経営計画を策定しました。若年社員については、特にフィードバックをきめ細かに行い、5カ年の経営目標を2年前倒しで達成しました。
様々な経営努力から成る結果ですが、私は人事評価制度の導入も寄与したと考えています。
人事評価の手法は、見る対象や評価する人によって○○評価など様々な呼ばれ方をします。代表的なものを次の表にまとめました。
評価制度 | 評価対象 | 評価する人 |
---|---|---|
目標管理制度・業績評価 | 業務成果 | 自己・上司 |
コンピテンシー評価・行動評価 | 業務過程 | 上司 |
360度評価 | 結果・業務過程 | 上司・同期・部下 |
面談 | 個人の特性 | 上司 |
様々な名称の人事評価がありますが、評価対象と評価する人に着目すると、どういった人事評価制度なのか、わかりやすいと思います。
なお、表中の「面談」は、個人の特性(社員が育児・介護中であったり業務と関係ないスキルの習得であったり)を見るもので、「目標管理制度・業績評価」「コンピテンシー評価・行動評価」「360度評価」に付随する面談とは異なるものです。
人事評価制度を導入するときに、最初に考えることは「どの人事評価の手法を取り入れるか」ということです。
手法の検討要素として、組織文化や従業員の層、経営課題など、組織によって様々です。
先ほど挙げた4つの評価制度について、評価反映先として適しているだろう要素と、評価者の教育労力を記載しますので、参考程度にご覧ください。
評価制度 | 反映する要素 | 評価者育成の労力 |
---|---|---|
目標管理制度・業績評価 | 賞与 | 中 |
コンピテンシー評価・行動評価 | 昇進・昇給 | 大 |
360度評価 | 異動・人事育成 | 大 |
面談 | 異動・人事育成 | 中 |
どの制度を採用にするにしても、人事評価の導入フローは次のように行うと良いでしょう。
フロー1では目的を決定することで導入する人事評価制度が定まります。
例えば人事評価の目的が、賃金の等級や昇給の仕組みを中長期的に設計したいということであれば、業務過程を重視するコンピテンシー評価・行動評価が良いということになります。
賞与のようなインセンティブを与えて従業員の士気・意欲を向上させたいということであれば、結果に重点を置く目標管理制度・業績評価が良いでしょう。
評価基準・項目は導入制度で異なってきますが、共通して重要なのは評価される従業員側が公平性を感じることであると思います。
評価基準・項目は従業員に説明しますので、不明瞭なものは避け、極力言語化することが望ましいです。
例えば、入社間もない事務職に対し「スピード感を持った対応を心がけよう」とするのではなく、「メール・電話の問い合わせ対応の遅れについて、取引先・社内から指摘がないようにする」と示します。0~2の3段階評価だとして、取引先から指摘があれば0、取引先からの指摘は無かったが社内から有った場合は1、どちらからも無ければ2といった具合です。
評価に応じた処遇は、長期的に制度運用することを考えて設計しましょう。
特に賃金がかかわる昇進・昇給は、最高評価が40年続いても無理のない給与体系や等級制度を考えた方がよいでしょう。
人事評価制度の策定と同時に賃金の等級を定める場合などは、就業規則の改定が必要な場合があります。早めに就業規則を所轄労働基準監督署へ提出する準備を進めましょう。
評価者によってズレが発生しないよう評価ルールを定めた評価フォーマットを策定します。
今は、ウェブ上で行う人事評価(タレントマネジメント)システムがあります。紙やエクセルのフォーマットの代わりに、そういったシステムを利用する方法もあります。
人事評価システムは評価基準項目や目標の設定、評価、フィードバックといった人事評価一連の流れがシステム上で管理出来るものです。
テレワークの急速な導入により対面機会が少なくなった今、注目されているシステムです。
従業員への説明と評価者の研修は1度と言わず、新入社員が入社するタイミングや少なくとも3年に1度など、定期的に行うのが理想的です。
従業員への説明のポイントは人事評価の公平性と透明性を確保することです。公平性は評価基準と処遇に、透明性は評価プロセスで示します。
評価者は評価基準に沿って正しく見ることが必要です。しかし、どうしても主観は入り込むので、評価者同士が集まり話し合い、互いの「主観」を認識する機会を設けると良いでしょう。
そうした場は「主観」を磨きあげるだけではなく、評価者同士で何が組織にとって評価に値する行動なのかを考える場となり、評価者のマネジメント力向上につながります。
導入後、フィードバックをしながら運用していきます。フィードバックとは、評価して処遇を決定する半期に1度だとか、四半期に1度というものではありません。
フィードバックは、評価者が評価対象者について気づいたことがあった際に都度伝えるものです。これを繰り返すことで、評価対象者は評価者が「見てくれている」ということを感じ信頼関係につながります。
また、低い評価だった場合も、フィードバックで「日々言われていたこと」であれば、相互の認識のすり合わせがしやすくなります。
最後に、人事評価システムの活用方法と、評価制度に不満を持った従業員が出てきた場合の対応案を説明いたします。
人事評価制度を紙やエクセルで運用されている組織は多く、給与計算システムや勤怠管理システムに比べると、人事評価システムを利用されている組織はまだまだ少ないです。
しかし人事評価システムを活用すると、人事担当の負担が減り、評価の公平性・透明性が高まることが期待されます。
また、人事評価情報のデータベースとして利用出来ますので、経営者が経営目標や経営戦略を策定する際に必要な情報へ速やかにアクセス出来るようになります。
様々なシステムがありますが、オープンチャット機能があるものや、従業員が簡単に日報を作成・共有できるものなどもあります。
システム導入の際には、先に説明した人事評価制度導入フローの1~3の3点を決定しておきましょう。
運用を開始してからシステムが合わないとなって変更すると、手間も初期導入費用(カスタマイズ料)もかかってしまいます。システムが上記の3点に対応可能かはもちろん、組織規模・体制にも適しているか確認が必要です。
人事評価制度を運用していくなかで、どうしても主観は除けないので時には評価に不満を持つ従業員が出てくることもあります。
対応としては、まず評価基準・項目と評価プロセスの説明を再度行います。
それでも処遇に納得がいかない、という場合は評価者の変更やフィードバックを意識して増やすなどしましょう。
この対応を実施している段階で従業員が不満を発した時から3カ月は経過していると思います。段階を踏み、時間をかけて対応すると、従業員も組織がきちんと自身のことを理解しようとしてくれていると感じるようで、ここまでで不満が解消されるケースがほとんどです。
最終手段は、その従業員が評価してほしいポイントを尋ね、評価基準・項目を再考することです。こうならないためにも制度導入の初期段階で、従業員全員から評価してほしい項目を募集しておくのも良いでしょう。
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