目次

  1. 人材育成とは何か
  2. どんな能力を・どのように育成するのか
    1. 社会人基礎力
  3. 人材育成の手法とOJTについて
    1. Off-JT/自己啓発の実施率と会社負担額
    2. Off-JTについて
    3. 自己啓発について
    4. 自己啓発を促進する「会社の風土」
    5. 自己啓発を促進する「アドバイス」
  4. 経営者に求められることは何か
    1. 育成計画の策定
    2. 正社員と非正社員への待遇
    3. 人材育成の実施

 定義は様々ありますが、共通している部分として「会社が持つ人的資源に会社が投資すること」があります。

 一般的に、会社の経営資源はヒト・モノ・カネ・情報と言われています。モノ・カネ・情報の使い方は皆様ご存じの通りだと思いますが、ヒト(人的資源)についてはいかがでしょう。

 人的資源についてドラッカーは著書『マネジメント』で、「あらゆる資源のうち、人が最も活用されず能力も開発されていない」「人を資源としてではなく、問題、雑事、費用として扱っている」と述べています。

 耳が痛い言葉かもしれませんが、人的資源を活用するような人材育成が、会社の成長につながるのです。

 とは言え、何をどう育成すれば良いのか迷うところでしょう。能力の例として「社会人基礎力」と、三つの人材育成手法について解説いたします。

 社会人基礎力は、経済産業省が2006年(平成18年)に提唱し、2018年(平成30年)に「人生100年時代の社会人基礎力」として再定義・公開されました。

 社会人基礎力では3つの能力と12個の能力要素を、職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力としています。いずれの能力・能力要素も仕事の成果に直結、若しくは仕事をするうえで文字通り基盤部分となるものです。

 そのため、経営者は社会人基礎力の向上・ブラッシュアップを前提として、自社の業務内容や経営目標から育成する能力を検討することが求められます。

 下記に、「人生100年時代の社会人基礎力」を構成する要素を引用します。

前に踏み出す力(アクション)~一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力~
 主体性-物事に進んで取り組む力
 働きかけ力-他人に働きかけ巻き込む力
 実行力-目的を設定し確実に行動する力

 考え抜く力(シンキング)~疑問を持ち、考え抜く力~
 課題発見力-現状を分析し目的や課題を明らかにする力
 創造力-新しい価値を生み出す力
 計画力-問題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力

チームで働く力(チームワーク)~多様な人々とともに、目標に向けて協力する力~
 発信力-自分の意見をわかりやすく伝える力
 傾聴力-相手の意見を丁寧に聞く力
 柔軟性-意見の違いや立場の違いを理解する力
 情況把握力-自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力
 規律性-社会のルールや人との約束を守る力
 ストレスコントロール力-ストレスの発生源に対応する力

引用元:「人生100年時代の社会人基礎力」説明資料(PowerPoint形式:176KB)

 上記を見ていただくと、チームで働く力が多くの要素から成り立つ能力であることがわかります。社会という人の集団で働く限り、対人能力はどのステージにおいても常に求められます。

 以前、お話を伺った人事部の方は、コンプライアンス意識の低さが招くハラスメントの発生を危惧し、職層別にコミュニケーションについての研修を行ったとおっしゃっていました。

 人材育成は入社当時に限らず、社会人基礎力を基盤として教育研修を繰り返し、自社の目標・経営戦略を達成するために必要な能力を育成していくこととなります。

 人材育成の手法は次の三つが挙げられます。

  1. OJT(On the Job Training):仕事の中で学ぶ
  2. Off-JT(Off the Job Training):仕事を離れて学ぶ
  3. 自己啓発:自発的に学ぶ

 最もなじみ深いのはOJTではないでしょうか。

 日本企業の多くは社内異動があるポスト可変型です。異動先で行う業務について社員同士で教えあうのもOJTですし、異動がない非正社員が主体の事業所で新人バイトに先輩が教えるのもOJTです。

 OJTは日々の仕事の中で行うため特別な費用がかからず、現場の仕事に直結し即戦力につながります。また、教えることで教育者となる上司や先輩の成長を促すのも、OJTのメリットです。

 OJTのデメリットとしては、会社独自の知識に偏り仕事を俯瞰(ふかん)しにくくなる、教育者との関係性が育成の効能に影響する、といったことが挙げられます。

 Off-JTと自己啓発については、それぞれ実施(自己啓発の場合は支援)率と会社の平均負担額を下記の表にまとめます。

Off-JTの実施率と自己啓発の支援率、それぞれの1人当たりの平均額をまとめました

厚生労働省「2019年(令和元年)度能力開発基本調査」を元に作成

 Off-JTには、自社内で行うものや民間の教育研修会社を利用したり商工会議所などの経営者団体のセミナーに参加したりする方法があります。

 費用の多寡はあれど、いずれにせよ業務から離れて社員の時間を使うことは会社にとって大きなコストです。

 しかし、コストを惜しんでOJTばかりのみ行っていると社会人基礎力で挙げた能力がおろそかになる可能性があります。

 OJTは仕事中に1対1で行われるのに対し、Off-JTは外部講師1対複数の集合型であることが多いため、日常業務中で習得が困難な技法や多角的視野の学び、同期との経験や知識共有の機会となりえます。

 OJTとOff-JTは手法としてどちらが優れているかというものではなく、補完関係にあるものと捉えると良いでしょう。

 自己啓発は、会社からすると社員が自ら能力やスキルを身に着けることで生産性向上や新しいアイディアを生む場合もあるので、ぜひ促進したいところです。

 しかし、23,101人の労働者に対して実施した「2019年(令和元年)度能力開発基本調査」結果を見ると、自己啓発を行った労働者割合は29.8%に留まりました。

 自己啓発を行うにあたり問題があるとした労働者は76.7%で、理由として「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」「費用がかかりすぎる」「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」などがあります。

 会社が社員に自己啓発を強要することはもちろん出来ませんが、促進が期待される2つのポイントとして「会社の風土」と「アドバイス」を挙げます。

 個人の習慣は会社が干渉出来ない部分でありますが、自己啓発を促進する会社の風土として次のような特徴を挙げます。

  • 自由参加型の学びの場を企画する人がいる
  • 上司が部下の学びに対しやる気をそぐ発言(「業務と関係ないだろう」など)をしない
  • 社内広報で資格やラーニング方法を紹介する
  • 自己啓発の費用負担や報奨金制度がある

 ただ、報奨金制度や学びの場を企画しても一時的な自己啓発で終わる会社が多いです。

 継続的な学びを維持・風土化しようとしている会社は、社内広報やグループウェアを利用して自己啓発を行った労働者にスポットライトを当てるようにしています。参考にしてみてください。

 「2019年(令和元年)度能力開発基本調査」によると、自己啓発を行った労働者の平均実施時間は年間39.5時間でした。1日あたり6分強です。

 社員からしてみれば1日7分勉強すれば過半数の労働者より学んでいることとなります。「7分で同期に差をつけられる」と話したら、少しやってみようかなという社員もでてくるかもしれません。

 人材育成を行うにあたり経営者は、どのように・何を意識して計画を作成し、実施すれば良いのでしょうか。

 人材育成計画を策定する方法に、ニーズドリブンがあります。

 会社の目標・経営戦略の達成に必要な能力と、現在社員が持つ能力のギャップをニーズとしてそこを解消するよう、育成計画を策定します。

 社員の段階にあわせて、また、人事評価も考慮しつつ仕事の割り当てや支援を計画します。

 特に、満15~34歳の若年労働者と呼ばれる社員については、育成という投資機会をおろそかにしていると退職の可能性が高まります。

 厚生労働省が29,955人の若年労働者を対象に行った2018年(平成30年)の若年者雇用実態調査の概況によると、職業生活中の満足度について「賃金」が最も低く、次いで「教育訓練・能力開発のあり方」となっています。

 育成計画を策定する中で、週2回のアルバイトや短時間で働くパートタイマーの非正社員にも正社員と同様の育成機会・制度を設けるべきか悩まれる方もいらっしゃると思います。

 先述の調査結果を見ると、総じて育成機会は正社員の方が多く、非正社員は少ないことがわかります。

 同一労働同一賃金という、同一会社内で同じ業務内容・同じ責任程度の労働をしている人については、正社員・非正社員というだけで不合理な待遇差を無くそうという取り組みがあります。

 これに伴いパートタイム・有期雇用労働法も改定されており、中小企業に対しても2021年(令和3年)4月1日より施行されます。

 「待遇差」のなかには人材育成にあたる「教育訓練」も含まれています。

 人材育成を計画する際には、正社員・非正社員というくくりで考えるのではなく、実際に従事している業務内容から、今後期待する能力・スキルを考えることが望ましいです。

 OJTとOff-JTを補完しあい、さらには自己啓発も促進するのが理想ですが、現実に取り組めている会社は少ないと思います。

 会社の特徴によって、注力する手法を決定するのはいかがでしょう。

会社の特徴ごとに、向いている人材育成の手法をまとめました

 新型コロナウイルスの流行により、eラーニングやオンライン研修がぐっと身近になりました。そういったものも活用して、ぜひ人的資源への投資を実践してみてください。