目次

  1. コスト削減のポイント①「無駄な支出を省く」
  2. コスト削減のポイント②「仕入れと在庫」
  3. コスト削減のポイント③「人件費」
  4. 事務所の家賃はどう考える?
  5. まとめ:「無駄な支出」か「投資」か見極めを

 私は、これまでに相当数の中小企業を見てきましたが、経営状態が良くない会社のほぼすべてが「コスト管理」に失敗しています。

 「コスト管理」の失敗の中でも、もっともたちが悪いのが「無駄な支出」です。では、「無駄な支出」とは、具体的にどのような支出のことでしょうか。

 私が知るE社を例に考えます。E社は、SaaS(Software as a Service)ベースで勤怠管理システムを提供するベンチャー企業です。

 大手電機メーカー出身の社長が立ち上げ、設立当初より新宿の一等地に拠点を置き、宣伝広告費を派手に使った営業をしていました。また、夜になると六本木や赤坂で、「夜の営業」と称して派手な接待を繰り広げていました。

 立ち上げ直後の時期で、売り上げがまだスズメの涙の状態です。一体何が「無駄な支出」であるかは、あえて説明するまでもないでしょう。

 以上は極端な例ですが、「無駄な支出」は多くの会社に見られるものです。

 特に多く見られるのが「接待交際費」「会議費」「広告宣伝費」「通信費」「福利厚生費」「交通費」などです。

 また、事務所の家賃や車両費などにも「無駄な支出」があるかもしれません。

 売り上げはそれなりにあるのに会社にお金がないといったケースでは、まずはそうした「無駄な支出」を見つけ出し、削減することを検討してください。

 「無駄な支出」を見つけ出すには、社内監査チームを設けて定期的に費用の妥当性や整合性などをチェックするのが有効です。

 コスト削減の第二のポイントは「仕入れと在庫」です。いずれも会社の資金繰りに重大な影響を与える重要なものです。製造業の場合、特に重要です。

 プログラミング教育用小型ロボットのメーカーM社の事例を紹介します。

 新製品の開発にあたり、中国の部品メーカーと商談を行った結果、ある程度まとまった数量を発注すれば50%のボリュームディスカウントがもらえるという話になりました。

 その話に乗って1万個を注文し、輸入して製品を製造したのですが、予想以上に売れず、在庫の山を築いてしまいました。

 私は、製品や部品などの仕入れについては、「ジャストインタイム方式」(必要なものを必要な時に必要な分だけ仕入れる仕入れ方法。トヨタ自動車が発案、発展させたとされる)で行うのがベストであると考えています。

 需要を先読みし、あらかじめ仕入れて在庫しておくことはリスクを伴うだけでなく、在庫コストという「無駄な支出」を強いることにもなります。

 仕入れと在庫を常にチェックし、最適化を目指すことで、結果的にコスト削減につながります。

 また、こんな事例もあります。酒類の輸入業者Q社は、海外から主にワインなどを輸入し、国内の卸業者へ販売しています。

 ある時ニュージーランドのワイナリーから、スパークリングワインが余っていて、安くするので買ってくれないかという話がありました。

 提示された価格があまりにも安く、その話に乗ったのですが、輸入して冷蔵倉庫へ貯蔵したものの、ほとんど売れ残ってしまいました。

 冷蔵倉庫というものは想像以上にコストがかかるもので、Q社は毎月相当の倉庫賃料を支払う羽目になりました。

 資金繰りが悪化し、最終的に酒の買い取り業者に全数を買い取ってもらったのですが、相当の除却損を計上する結果になりました。

 「不良在庫」は、会社の経営に致命傷を与えかねない、実に恐るべきものなのです。

 私は、経営者はむやみに従業員の給与を削減してはならないという考えを持っています。

 給与の削減は、従業員のモラルを下げ、会社全体の士気を低めます。

 また、何よりも給与を削減することで、経営者と従業員との間のトレードオフの関係(一方が得をすれば他方が損をするという関係)が固定化するという、組織運営上のリスクが生じます。

 しかし、例えば会社を存続させるためにどうしても人件費を削減しなければならないといった場合は、一体どうすればいいでしょうか。

 その場合、私は従業員の給与を削減するのではなく、人員を削減することをお勧めしています。経験上、従業員給与を一律カットするよりも、余剰人員を削減する方が色々な面で経営再建上、効果的だと感じているからです(なお、これはコンサルタントとしての一意見であり、他の考え方を否定するものではありません)。

 では、人員を削減する場合、実際にどのように行うべきでしょうか。

 人員を整理する、特に会社都合で従業員を解雇する場合、「整理解雇の4要件」を満たすなど、法律的に問題ないように行う必要があります。

〔参考〕整理解雇の四要件について(厚生労働省静岡労働局)

 仮にそのような状況になった場合は、弁護士などの法律の専門家に十分相談することをお勧めしますが、一方で、私がこれまでに見てきたところでは、経営の上手な経営者は、従業員の削減の仕方も上手なのです。

 従業員の削減の仕方が上手とは、どういう意味でしょうか。

 従業員の削減の仕方が上手な経営者は、まず解雇される従業員との関係を最後まで悪化させません。

 対象となった従業員と十分に対話し、話を聞き、特に希望する転職先などの情報を共有したりします。

 解雇まで十分な時間をかけ、場合によっては転職支援サービスなども活用して、従業員がきちんと再就職できるようサポートします。

 最終的には、両者が笑いながら握手して別れるといったイメージです。

 なお、人件費は、コスト削減の検討対象としては、「無駄な支出」「仕入れと在庫」の後に位置させるべきでしょう。人件費は、コスト削減においてはラストリゾート(最後の手段)とすべきです。

 ところで、筆者は事務所の家賃とは、基本的に安ければ安い方が良いと考えています。

 新型コロナウイルスのパンデミックが広がり、世界中のオフィスワーカーが在宅ワークやリモートワークを強いられている中、在宅ワークで仕事ができるのであれば、在宅ワークで仕事をすべきだと考えます。

 また、事務所に社長室がある場合、社長室はできるだけ質素であるべきだと考えます。

 亡くなった伝説の経営コンサルタントの一倉定(いちくら・さだむ)氏は、社長室は質素でなければならないという趣旨の主張をされていましたが、それに近い考えを持っています。

 経営者が社長室を持つ必要性は認めますが、それが豪華である必要性はまったくないと考えています。

 結局のところ、事務所の家賃とはコストなのです。しかも毎月発生する固定費です。固定費をいかに下げられるかを考え、実行する。これもコスト削減の重要なポイントです。家賃を毎月10万円削減できれば、直ちに年間120万円のキャッシュを手元に残せます。

 以上、コスト削減のポイントや考え方をお伝えしました。

 コスト削減の要諦(ようてい)は「無駄な支出」をせず、お金を有効に使うことです。「無駄な支出」をしないだけではだめで、同時にお金を有効に使う、つまり投資することも必要です。

 では、投資するとはどういうことでしょうか。それは、お金を使ってリターンを得ることです。

 従業員のスキルや知識を増やすために投資する。製造効率を向上させるために投資する。社内のデジタルトランスフォーメーションを進めるために投資する。何よりも自分自身の成長のために投資する。

 経営者には、会社が使うお金が「無駄な支出」なのか、それとも「投資」なのか見極める目が求められます。両者は一見似ています。場合や結果によって「無駄な支出」になったり、「投資」になったりします。

 100%完全に見極めることは難しいにしても、少なくとも限りなく100%に近づける努力はすべきでしょう。

 そのような努力を行い、実際に100%に近付くことが、もしかしたら「究極のコスト削減」になるのかも知れません。