目次

  1. 360度評価とは何か
  2. 360度評価の導入が進む要因
    1. 成果主義の導入
    2. コンピテンシー(行動特性)評価の導入
    3. 顧客満足度(CS)の向上
  3. 360度評価の成功事例
    1. 人材育成に役立てるクレディセゾン
    2. 管理職育成に活用したアサヒビール
  4. 360度評価の活用方法
  5. 360度評価のメリット
  6. 360度評価の失敗事例とその理由
    1. コミュニケーションの不足
    2. 評価者の選択を誤る
    3. 評価者に適していない評価方法を採用する
  7. 360度評価のデメリット
  8. 360度評価システムの活用
    1. クラウド型人事システム「EHR」
    2. クラウドタレントマネジメントシステム「カオナビ」
  9. 360度評価制度を成功させるためには

 360度評価とは多面評価とも言います。定義としては「直属の上司だけでなく部下、同僚、顧客など会社にかかわるさまざまな人間からの評価を行うこと」とされています。

 人事評価制度では今まで、上司が部下を評価する制度が一般的でした。現在、導入が進む要因としては下記が挙げられます。

 導入が進む要因としては3つが挙げられます。

 第1に成果主義が進んだことです。

 今までは年功的な職能資格制度を導入している企業が多く、職務遂行能力についての評価が一般的でした。

 賃金制度としては職能給であり、年次が上がることで職務遂行能力が上がると考えられて定期昇給することが一般的でした。

 しかし、成果主義の導入により定期昇給の廃止または減給も考えられることになり、公平な評価が求められることになりました。

 上司の評価スキルに頼るだけでは、公平な評価を実現することは難しく上司以外の評価が必要になりました。

 第2にコンピテンシー(行動特性)評価の導入が進んだことです。

 コンピテンシーを評価するには、実際に行動を観察しなければなりません。

 しかし、上司のプレイングマネージャー化が進み余裕がなくなってきていること、客先常駐や派遣などいつも一緒にいる働き方が一般的で無くなったこと、テレワークの導入が進んでいることも、上司が行動を観察することが困難になる要因に挙げられます。

 よって、様々な同僚や部下、顧客などの関わりによって、コンピテンシーを評価してもらうしかないこととなります。

 第3に現在の経営課題として顧客満足度の更なる向上があげられます。

 営業以外にコールセンターやカスタマーサポートなど顧客に直接接触する部署が増えていることにより、これらの部署が会社の顔として評価されることも多いです。

 よって、顧客からの評価を導入しこれを人事評価に結びつけることで、更なる顧客満足度の向上を図ることも考えられます。

 360度評価を導入した企業の成功事例をもとに、その特徴を考えていきます。

 信販会社のクレディセゾンではいろいろことに没頭できる能力を「夢中力」といい、行きたい部部門に行く自己申告制度を「夢中力チャレンジ」と呼び、自分の「夢中力」をどの程度なのかを360度評価する「夢中力アセスメントプログラム」を導入しています。

 引用でご紹介しますが、人事考課には一切反映させず自分自身をどのように成長させるかの目標管理に活用して、人材育成に役立てる仕組みがユニークです。

 この「夢中力アセスメントプログラム」は、人事考課にはまったく反映させません。アセスメントによって、自分で伸ばすべき点がみつかれば、それをそれぞれの目標管理の項目に組み込んでいくということです。私はこの360度アセスメントについて、「社員に自分を見る手鏡を渡すようなもの」だと言っています。自分がどのようにみえるか理解し、必要があれば自分自身で目標を決める、成長の糧にして欲しい、そんなきっかけとなるツールだと考えています。
 また、アセスメントの結果については、自分と周りの評価者、評価の高低の4象限でも表示して、自身の評価が客観的に理解できるようにしています。これには結果に応じた応援のコメントを付します。どのキャラクターだからベストというわけではありません。いろいろなキャラクターがチームの中にいて、結果、いいパフォーマンスが出てくるよねという考え方をもとにつくられているものです。キャラクターをつけることによって社員同士も「何キャラだった?」というのを口にするようになります。違っていいよねという考え方を浸透させるにも、ちょっと手前みそにはなりますが、かなり効果的なツールだと考えています。

独立行政法人労働政策研究・研修機構「第77回労働政策フォーラム」報告

 360度評価を管理職育成に活用したのがアサヒビールです。

 課長職、部長職、支社長、工場長クラスを公平に評価するツールの一つとして部下を持つライン管理職に導入したのが360度評価制度でした。

 この360度評価の結果をもとにグループコーチングを実施して、様々なマネジメントスキルの向上に役立てています。

 自己評価と他者(上司・同僚・部下)評価の差異に気づくとともに、評価後に開催される研修の講師や同じ管理職のメンバーからのアドバイスを参考に、自分自身のマネジメントの課題を見つめ直し、目標を設定して研鑽(けんさん)を図り、マネジメント力の向上に役立てています。

 「アサヒビールグループCSR活動報告サマリー2010 【従業員】」( 発行:2010 年 6 月 )から引用します。

 ●人事評価の仕組み
アサヒビールでは、人と職場の活性化を目標に、人事評価において、従業員の主体性に基づく「対話」を重視した仕組みを整えています。また、上司からの評価だけではなく、同僚や後輩、部下による多面評価をとり入れています。さらに、人事評価制度を適正に運用していくために、部下を評価する上司を対象として、制度の正しい理解と評価スキル向上を目的とした研修(「全所属長研修」「新任所属長研修」)を実施しています。

「アサヒビールグループCSR活動報告サマリー2010 【従業員】」

 上記成功事例の通り、360度評価を実施したとしても、それが必ずしも人事評価、考課に直接結びつくというわけではありません。主な活用方法を見ていきます。

  • 評価ギャップの検証
     上司だけが評価していたものを他の評価者が行うことにより、上司と他の評価者の評価ギャップを検証する。よって、評価の客観性を保てる。
  • 人材育成への活用
     360度評価によって本人の強みと弱みを発見し人材育成に活用する。
  • 社員からの意見調査
     社員からの意見調査に360度評価を活用することで、人間関係上の問題解決を図る。
  • 管理職への昇格基準
     360度評価の部下からの評価を活用して「部下を統率して慕われているか」を部下となる人から評価させる。

 360度評価のメリットは、上司のみが評価するので無いため、納得性が高まり被評価者のモチベーションアップにつながることです。

 また、やはり評価の公平性や客観性を活用して人事評価、考課への積極活用を図る考え方もあります。ただし、人事評価、考課へ活用する場合はルールや仕組みづくりが重要になります。今までの上司からの評価だけで無いため、混乱を招く可能性もあるからです。

 360度評価を活用している企業がある一方で、失敗事例もあります。事例を紹介します。

 ある銀行の事例では、営業職の顧客評価を実施する際に何の説明もなく評価シートを顧客に郵送してしまいました。

 人事評価の時期と銀行の繁忙期である年度末(3月)が重なったためか顧客も忙しく、また、顧客がどう評価したかが営業職に直接伝わると勘違いされて顧客の不満や苦情を受けてしまいました。

 評価を行うときは、「だれが評価者になるか伝えないほうが良い」とも言われます。

 事前に伝えてしまうと評価者と被評価者の間で話し合って公平な評価ができなくなる可能性があると思われるからです。

 しかし、このような話し合い=駆け引きが行われないようにするためには事前に教育や仕組み作りで対応することが必要です。

 評価ではコミュニケーションが重要です。どの評価者が何を評価するかが分かった方が評価される方にとっても「誰に対してどのような責任を果たすべきか」が分かり、高い効果が望めます。

 ある会社では「評価は公平でなければならない」という理由から評価者数を3でそろえたうえに上司、同僚、部下にしました。しかも、評価項目も同じものにしました。

 結果として、評価結果もほとんど同じであり手間が増えただけで終わりました。

 360度評価は原則として上司だけの評価より手間がかかるものです。一律に評価者を選定する必要はありません。役職や職務に応じて変更して評価しにくい項目を評価できるようにしましょう。

 一例をあげれば、コールセンターであれば顧客対応の良さをその顧客から評価をフィードバックすることが考えられます。

 ある会社では従来管理職が用いていた「評価シート」を部下に配布して上司評価に活用しようとしましたが、評価項目や内容に関する理解がバラバラで信頼できる評価内容になりませんでした。

 360度評価は組織内、組織外や様々な立場の人間が評価者としてかかわることになるため、知識や職務に関する理解度もバラバラです。

 それらを考慮した上で評価項目やフォーム、記述内容も選択する必要があります。

 360度評価にはデメリットもあります。改善のヒントとあわせて紹介します。

  • 評価者が増えるため複雑、煩雑な仕組みになる
     分かりやすい仕組みを構築するのが重要です。
  • 高評価を求めるために部下に厳しく指導しなくなる
     コミュニケーションや評価のフィードバックを上手に活用して防ぐようにしましょう。
  • 主観が評価に影響する可能性が高い
     評価項目の選定や記述内容を工夫する必要があります。
  • 手間がかかる
     評価者が面倒と感じない仕組みを構築する必要があります。システムの導入や活用も解決策の一つです。

 現実的に360度評価制度を導入するときに大きな問題になるのが「手間」です。

 一般的に人事評価かける作業はそれ自体に大きな手間がかかり社員にとっては「本来業務の邪魔」「やっても意味が無い」などと思われやすいものです。

 360度評価は、評価者が増加することによりこの手間が大きく増えることになります。このことは360度評価を導入する上での阻害要因になります。

 そこで、現実的にこれらを効率的に行う方法として、評価者と被評価者をインターネット上のシステムを活用する方法があります。

 多くのシステムが開発して市場に出ていますが、ここで2つのシステムを紹介します。

 多面評価だけでなく目標管理支援、勤怠管理、入退社手続き、給与計算や社会保険等の人事業務全てをクラウド上で行うシステムです。
360度評価機能の特徴は

「自己・上司・部下・同僚・他者(取引先など)の最大5つのカテゴリーで、多面評価を行うことができます。評価はカテゴリ毎に自動的に集計され、結果はWeb上のレーダーチャートで表示されます。これにより、評価者ごとの定量的な差異を容易に把握可能です。また、コメントなどの定性データも同時に収集できます。」

クラウド型人事システム「EHR」公式サイトはこちら。

と紹介されています。

 クラウド型のタレントマネジメントシステムでは利用企業約1900社数の実績があるのが「カオナビ」です。(「カオナビ」公式サイトより)

 人材情報の一元化や見える化を行うことができ、紙やエクセルなどでバラバラに管理されている情報を一元的に集約できます。360度評価に関するテンプレートも提供されています。

 「カオナビ」の公式サイトはこちら

 360度評価を成功させるためには、フィードバックに力を入れることが重要です。

 360度評価を実施しても被評価者にフィードバックを実施していない会社もあります。しかし、これでは、自分につけられた評価の根拠が分からず公平感や納得感を得ることができずに、360度評価を行う価値がなくなってしまいます。

 複数の評価者から直接意見をもらうことにより納得できることもあり、自分の良いところや改善点を深く認識できます。

 システムや電子メールなどでの評価フィードバックも効率的ですが、評価内容を深く伝えるには対面やWEB会議システムの活用により、直接評価者から被評価者に伝えることも重要です。