リモートワークで必要なマネジメントスキルとは 10のポイントを解説
元々多忙を極めていたのに、リモートワークが始まったことでマネジメント業務はますます難しくなっています。これ以上負担を重くせず、リモートワーク下で必要なマネジメント業務をするための10のポイントについて、「リモートマネジメントの教科書」の著者、リクルートマネジメントソリューションズのシニアコンサルタント、武藤久美子(ぶとう・くみこ)さんが解説します。
元々多忙を極めていたのに、リモートワークが始まったことでマネジメント業務はますます難しくなっています。これ以上負担を重くせず、リモートワーク下で必要なマネジメント業務をするための10のポイントについて、「リモートマネジメントの教科書」の著者、リクルートマネジメントソリューションズのシニアコンサルタント、武藤久美子(ぶとう・くみこ)さんが解説します。
目次
「長時間労働の是正や若手社員の流出防止、メンタルヘルス……。マネジャーはすでに忙しいんです」
こう話す武藤さんによると、マネジャーの業務負担が年々増していくなかで、新型コロナの影響により急きょリモートワークが始まり、さらに忙しくなっています。現場では次のような課題が生まれているといいます。
たとえば、メンバーの様子がわからなくなった理由の一つとして、武藤さんは「リモートワークになり、偶然やついでの機会を生かして指導するというマネジャーの得意技が封印されてしまいました」と指摘します。
これまでマネジャーは、たとえば顧客先に同行するとき、行き帰りなど移動中に業務やキャリアの相談を受けることができていました。また、会議の前後にメンバーの近況の共有ができていました。
しかし、リモートワークが始まり、「偶然」や「ついで」の機会が失われ、マネジャーは意図してマネジメントすることが必要になっています。
「リモートマネジメントでは、時間のかけどころややり方が変わります。なりゆきでこれまで通りのマネジメントを続けていくと、得意技の封印も相まって、リモートワーク下でのメンバーマネジメントが難しくなるかもしれません」と指摘します。
そもそもリモートワークとは、ICTを活用し自宅などでオフィスを離れて仕事をする柔軟な働き方のことを指します。時間や場所を有効に活用できる特徴があり、2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大とともに普及しました。
新型コロナの感染が広がる前からリモートワークをする企業はありましたが、労働時間の管理などに不安や懸念があり、なかなか導入に至りませんでした。しかし、新型コロナの影響で好む好まざるに関わらずリモートワークをせざるを得ない状況となりました。
実際にリモートワークをした人からは「自律的に仕事しやすくなる」「家族と過ごす時間が増えて生活を大事にできる」「会社組織に所属しながらも副業や社外とのコラボに挑戦できる」といった評価する声がある一方で、組織の体制やルールなど解消できていなかった課題や、働く人一人ひとりに次のような責任が生まれています。
マネジャーはメンバーができる範囲で自律的に動けるような状況を作りつつ、こうした働き方の変化に対処することが求められています。
リモートワークで組織内のメンバーが陥りがちな課題として、武藤さんは次の3点を挙げています。
新入社員、中途入社者、異動者などが新しく来たばかりで、マネジャーや同僚が「ずっと見守っていなくてもきちんと成果を出し、適宜報告してくれるだろう」と仕事を任せられる状況にない場合、リモートワーク下での自律的に働くことが難しくなります。メンバーが自律的に働けないとマネジャーの負担も増すことになります。
武藤さんは「リモートワークは本来ソロワークではありません」と言います。しかし、リモートワークでは、メンバーが1人で完結できる業務をずっと回していたり、直接業務に関係のあるごく限られた人とだけやりとりしていたりする状態が固定化することがあります。
「最近同じ人としか話していない」「学びが少ない」と感じていつつも慣れた環境が楽なので、対応が後回しになりがちです。こうなると組織の成長スピードが鈍化します。マネジャーのことも遠くに感じられ、相談をためらいやすくなります。
メンバーがリモートワークに伴う責任を果たせるようになると、自律的に職務に取り組めるようになります。これ自体はリモートワークで目指したい姿なのですが、一方でいまの会社や組織にいる意味を感じにくくなり、「自分だけの力で働いている」と考えてしまったり、他社が魅力的に映ったりします。
こうした課題を解決するため、リモートワーク下のメンバーの理想的な状態として、武藤さんは3つの「こ」にまつわるポイントを挙げています。
武藤さんは、リモートワーク下での3つの理想状態に向けて実践したいマネジメントの10のポイントを挙げました。それぞれについて、まず始めるべきことを紹介します。
リモートワーク下で、メンバーが「周囲を安心させる責任」を果たすためにわかりやすい方法が成果を上げ続けることです。そのため、初期の段階ですべきことをすりあわせることが大切です。
メンバーが自走できるようなゴールを置く上で、まず取り組むべきこととして組織が短、長期的に実現したいことにつながっているか、目標達成で顧客からどう評価されるか、目標達成にどれぐらい投資して良いか、期日はいつか、つまり、VQCD(Vision、Quality、Cost、Delivery)をすり合わせることから始めるよう勧めています。
リモートワークでは、自律的に仕事を進めることが基本ですが、メンバーによってマネジャーの関わり方や頻度を変える必要があります。この「メンバーの自律度の見積もり」に加え、マネジャーはどのタイミングで進捗を確認するかもあらかじめ決めておいた方が良いでしょう。
投資が必要であったり、別の部署を動かす必要があったり、ルールの変更が必要であったりと成果を出す上で阻害要因があると、メンバー1人だけでは解決が難しいことがあります。そこで、マネジャーに求められるのは、メンバーの支援です。
ただし、先回りして解決する必要はなく、メンバーの自律を促すことも大切です。
メンバーが困っているときに支援しようとしても、いつ関与すれば良いかを見極めるのは簡単ではありません。悩みがあるときに発信できるような環境を整える必要があります。メンバーが発信できるようにするためには、まずマネジャーから実践してみましょう。
武藤さんは、発信するときにこだわって欲しいのは「配慮と感謝をきちんと伝える」ことと、発信した内容を起点にメンバー間でどのようなコミュニケーションが生まれるかや、大事な情報だと受け取ってもらえるかを想像することだと説明しています。
メンバーが成果を上げ続けることで周囲からは信頼が得られます。何ができて、何が得意なのかを周囲がわかることが「セルフブランディング」につながります。ブランディングによって、新たな成長や挑戦の機会をつくることができれば、メンバーはますます仕事で自走できるようになります。
そのためには、リモートワークではプロセスは軽視されやすいのですが、成果だけでなく、プロセスも評価することが大切です。従来の業務の繰り返しで小さくまとまらず、組織の将来をつくっていくような新しい挑戦を後押しすることが大切だからです。
リモートワークでは、メンバーに「あなたのことを気にかけている」というメッセージが大切です。しかし、リモートワークでは偶然やついでの機会を生かした指導はできません。そこで、メンバーの情報を自ら取りに行くことが必要です。
そのためには、定期的な1on1ミーティングや、週1~2回程度メンバーのために時間を空けておくと良いでしょう。
縦をつなぐとは、マネジャーとメンバーをつなぐこと、そして会社が大事にしている考え方や方向性とメンバーをつなぐことの2つを指します。そのためにできることの1つが、会社や他部署の情報をシェアすることです。
シェアすることで無駄な動きを減らせるだけでなく、メンバーも情報を出しやすくなります。
横をつなぐとは、メンバー同士をつなぐ活動です。リモートワークをしているとこんなことでもやもやしたことありませんか?
そこで、メンバー同士がお互いに気持ち良く働けるよう、全員が集まる場の設定の有無と開催方法やオンラインミーティングの作法、チャットの活用方法など最低限のルールを決めておきましょう。
メンバーが「この会社がいい」「この組織がいい」と思えるには、メンバーが仕事や会社を通じて得たいことを把握して届けることが必要です。その実現のためには、まずメンバーのエネルギーを奪う出来事を減らすことから始めましょう。
もちろん個別のニーズにすべて応えることは難しいのですが、応えられない理由を伝えることを怠るのではなく、丁寧に説明したり、できるようにするための方法を考えたりすることはできます。リモートワークにより会社は従業員を選ぶ側から選ばれる側になるという流れが加速していることは把握しておきましょう。
リモートワークで仕事が生活環境に取り込まれるようになりました。メンバーは仕事と生活の折り合いをつけながら、仕事ができる生活空間の整備が求められています。そのため、マネジャーは自宅で働いている状況に配慮する必要があります。
また、仕事以外で、知見を広げることを奨励しましょう。そのためには、仕事を済ませて早く切り上げる人を尊重し、仕事以外の取り組みをどんどんやっていいと明言することなどが挙げられます。
リクルートマネジメントソリューションズ シニアコンサルタント
「個と組織を生かす」組織・人事のコンサルタントとして、これまで150社以上を担当。近著に『個と組織を生かす リモートマネジメントの教科書』(クロスメディア・パブリッシング)
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