経営改善に役立つ損益計算書の見方 各項目の内容や分析方法も解説
自社の経営状態を把握するには、損益計算書の理解が必要です。年間の売上高や経費、利益が一目で分かる損益計算書の項目の見方や、チェックするべき項目、経営改善に役立てるための分析方法について、参考事例を交えながら解説します。
自社の経営状態を把握するには、損益計算書の理解が必要です。年間の売上高や経費、利益が一目で分かる損益計算書の項目の見方や、チェックするべき項目、経営改善に役立てるための分析方法について、参考事例を交えながら解説します。
目次
決算書を読み解くシリーズの1回目と2回目でも触れましたが、決算書の中で特に重要なのが、貸借対照表と損益計算書、キャッシュフロー計算書の3つです。今回は「損益計算書」について取り上げたいと思います。
経営者の方から相談を受ける中で、損益計算書の話題は毎回寄せられます。
主な理由は以下の通りです。
・利益が出ているかなど、自社の業績の状況を知りたい
・申告の時にどのくらい税金を払うのかが不安
損益計算書を使いこなすことができれば、以下の効果が期待できます。
・今後の経営を考えるのに役立つ
・自社の改善点を見つけて実行できる
経営者の皆さんが専門家に相談する前に、経営状態をある程度セルフチェックできるように、損益計算書の読み方を説明します。
皆さんの会社の決算書をご覧いただくと、損益計算書の上部に「令和○○年○○月○○日から令和○○年○○月○○日」と書いてあるはずです。このように、損益計算書とは、ある1年間の会社の利益を見るための書類です。
貸借対照表と損益計算書の違いについて説明します。貸借対照表は「令和○○年○○月○○日現在」と記載があるように、ある一時点での財政状況を表しています。これに対し、損益計算書は前述の通り、「令和○○年○○月○○日から令和○○年○○月○○日」という、ある1年間の利益の状況を見るという違いがあります。
損益計算書は、一般的に以下のような表で示されます。それぞれの項目について、架空のパン屋の事例をモデルに解説していきます。
会社が提供している商品やサービスを販売して得られた収入のことです。例えばパン屋であれば、パンを販売したことによる収入が該当します。
商品やサービスを販売するための材料費や製造費用などを指します。パン屋であれば、小麦粉やバターなどの原材料費や、パンを作るための水道光熱費などが該当します。
商品やサービスを販売してどのくらいの利益が発生したかを表したもので、「粗利」とも呼ばれています。①売上高から②売上原価を引いた数字です。パン屋であれば、パンの売上高からパンを作るために使った売上原価を引いて求められます。
ちなみに経営者の方と話す際には、売上総利益がよく話題になります。商品やサービスを販売するのに、原価がかかりすぎていないか、業界平均と比べてどうなのかなどを意識していることが多いです。
店の経営に必要な経費のことです。例えばパン屋の販売費であれば、パンを売るためのチラシなどの広告費が該当します。また一般管理費なら、人件費や店舗の家賃、電話代などが該当します。
本業でどのくらい儲かっているかを表す数字です。③売上総利益から、④販売費及び一般管理費を引いて求めます。パン屋であれば、売上総利益から、広告費や店舗の家賃、給与、電話代などを引いたものが営業利益です。
本業以外で会社に収入があった場合に計上されます。例えば、銀行の普通預金の利息や、新型コロナウイルス感染症の影響で営業ができなくなったために適用された、給付金や利子補給などが該当します。
本業以外で会社に経費が掛かった場合に計上されます。パン屋であれば、開業するのに銀行から資金を借りていた場合や、新型コロナウイルス感染症の緊急融資を返済するときの支払利息が該当します。
1年間の経営活動の結果、得られた利益のことです。⑤営業利益から⑥営業外収益を足して、⑦営業外費用を引いた数字になります。パン屋であれば、営業利益から、利息や給付金などの営業外収益を足して、銀行への支払利息などの営業外費用を引いたものが、経常利益です。
通常業務以外の取引で発生した利益や損失のことです。パン屋であれば、パンを焼く機械が壊れて廃棄した場合などが当てはまります。
税金を計算する前の利益額のことです。⑧経常利益から、⑨特別利益(損失)を計算して求めます。
⑩税引前当期純利益をもとに、法人税や法人住民税、法人事業税を計算して求めます。例えば、パン屋の税引前当期純利益が100万円であれば、100万円に対する法人税、法人住民税、法人事業税を計算します。
会社の最終的な利益のことです。⑩税引前当期純利益から、⑪法人税等を引いて求めます。パン屋の税引前当期純利益が100万円であれば、100万円から法人税等の額を差し引いた残りの金額が、当期純利益になります。
それでは、損益計算書の項目から、経営者は何を読み解くべきなのでしょうか。分析の仕方や経営改善につなげるためのポイントを解説します。
損益計算書を見れば、自社の売上や利益の額が把握できます。経営者の皆さんに考えていただきたいのは、なぜその数字になったのか、という背景です。損益計算書の数字に一喜一憂するのではなく、その数字が導き出された原因を考えることで、今後の経営のヒントにつなげることができます。
損益計算書の分析は、以下のような手順で進めると良いでしょう。
1:現状把握
自社の状況はどうなっているか。売上は上がっているか。利益は出ているか。
2:数値計画
当初計画を立てていた数字は達成できたか。
3:課題の発見
計画と現実の数字が違っているとすれば原因を探る。
4:改善に向けた実行
計画の数字に近づけるための行動をする。
損益計算書を分析する際には、比較対象を置いて見比べると、見えてくるものが多いです。例えば、前期と今期、2019年12月と2020年12月の数字を比べてみると、気づきが生まれます。
では、実際に損益計算書の分析方法を解説します。以下のサンプルを参照して下さい。
2期分の損益計算書を並べて、それぞれの数字を比較したときに、どんなことに気づきますか。
おそらく真っ先に目に入ったのは、売上高と営業利益かと思います。売上高は、2020年12月期の方が2019年12月期より500万増えているにもかかわらず、営業利益は100万円の赤字になっています。
業種や会社によって様々な原因が考えられます。ここからは、各項目から数字の意味を読み解くためのヒントを説明します。
売上高は以下の数式で求めることができます。
売上高=単価×数量
この数式をもう少し分解してみましょう。まず単価を考えるには、自社の商品やサービス、それぞれの単価を考える必要があります。
自社の商品やサービスが現状のものでよいか、改良する必要があるのか。その際には、ターゲットとするお客様や競合相手などを、考慮しなければいけません。ターゲットにあった単価になっていなければ、商品を販売するのにかかった原価を見直す必要があります。
数量については、販売促進の方法や販売場所を考える必要があります。例えば、販売促進なら、初めてお店に来てもらうためにどんな宣伝をするのか、来店客に再度買ってもらうために、どんな仕掛けをするべきか考えます。販売場所は、店舗だけではなくネット通販を展開するなども考えられます。
これらを行動計画に落とし込み、実行することで売上に結びつきます。
原材料の仕入れや、商品やサービスを作るのにかかる原価を一つひとつ精査し、昨年より値上がりしているものがないかを確認する必要があります。もし原価が値上がりしているなら、同じ品質のものをより安く仕入れるための可能性を探ります。
例えば原価がかさむ要因としては、原材料(パン屋であれば、小麦など)や、原材料を輸送する燃料の値上がりが例として挙げられます。
販売費及び一般管理費は、広告費や人件費、家賃など、会社を経営するのに必要な経費のことです。販売費及び一般管理費の勘定科目一つひとつを比較して、極端に経費が上がっていないかを確認します。
販売費及び一般管理費を見るポイントは、以下の3点です。
1:何にいくら使っているのか
2:使っているものに無駄なものはないか
3:改善できることはないか。
例えば、水道光熱費や通信費であれば、より安い会社に切り替えることができるのか、振り込みをネットバンキングに切り替えることで振込手数料を削減できるのかなどが考えられます。
店舗の家賃や人件費は減らしづらいと思いますが、経費を一つひとつ見つめなおすことで、無駄を減らすことができます。
損益計算書から、自社の現状がある程度把握できたら、今度は将来に目を向けて計画を立てます。分析したことをヒントに、数字を組み立てていくことで、現実的な数値計画を立てることができます。
今回は売上高の計画立案のポイントを解説します。
前述したように、売上高は「単価×数量」で求められます。では、毎月どのくらいの売上を上げればよいのでしょうか。考え方を2つ紹介します。
例えばパン屋の場合、商品が何種類もあります。
それぞれの商品の単価について、原価を考慮して利益が出せるか、そしてターゲットとしている顧客が買いたいと思う金額かを考えます。そのためには、顧客のニーズを探り、場合によっては新商品を開発する必要もあるでしょう。
商品や単価を考えたら、次はどのくらいの数を売るのか考えます。それぞれの商品が普段どのくらいの量を売っていて、顧客の来店頻度や客単価を高めるにはどうしたらいいかを考えます。
利益がゼロ円の時の売上高のことを「損益分岐点売上高」といいます。損益分岐点売上高を考えるうえで、必要なのが「固定費」と「変動費」です。
固定費とは、売上がゼロであったとしても一定額かかる経費のことです。例えば店舗の家賃や給料などがこれに当たります。
一方、変動費とは、売上が上がると増加し、売上が下がると減少する費用のことです。例えばパンを作るための原材料費が、これに当たります。
以下、パン屋をもとに例を示します。
<売上高と経費(月額)>
売上高:130万円
固定費:給料80万円(3人)、店舗の家賃20万円、水道光熱費10万円
変動費:原材料費50万円
<損益分岐点の計算>
まず、「固定費の金額」と「変動費の金額」を求めます。この場合、固定費は110万円(給料+家賃+水道光熱費)、変動費は50万円(原材料費)となります。
次に、固定費と変動費の合計を求めます。この場合は160万円(110万円+50万円)です。この金額が、利益がゼロ円の時の売上高(損益分岐点売上高)になります。
このパン屋の場合、損益分岐点売上高が160万円、実際の売上高が130万円なので、30万円の赤字です。最低限、160万円の売上高を達成するために、売上を上げるか、それとも経費を削減するための方法を考えるか、またはその双方を行うのかを考えて、手を打つことになります。
今回の損益計算書を通じて、主に会社の収益性を読み取ることができました。自社が利益を上げている、もしくは上げていない原因が何なのかを知り、改善することで、収益性は向上します。
ただし、損益計算書でも読み解けないのが、「資金繰り」です。会社は黒字なのに、経営者が頻繁に銀行に融資の相談に行くような場合、その原因の一つは資金繰りにあります。
次回はキャッシュフロー計算書や資金繰り表について、詳しく触れていきたいと思います。
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