貸借対照表の基本や見方を覚える 経営の健全性を測るポイントを解説
貸借対照表(バランスシート)は経営の健全性を測る重要な指標ですが、見方がよく分からないという経営者や後継ぎの方が、少なくないかもしれません。決算書の基礎知識を伝えるシリーズ2回目は、貸借対照表の見方や、どうやって経営に生かすかを解説します。
貸借対照表(バランスシート)は経営の健全性を測る重要な指標ですが、見方がよく分からないという経営者や後継ぎの方が、少なくないかもしれません。決算書の基礎知識を伝えるシリーズ2回目は、貸借対照表の見方や、どうやって経営に生かすかを解説します。
目次
シリーズ1回目では、経営において特に重要なのは、貸借対照表と損益計算書、キャッシュフロー計算書の3つと伝えました。今回はその中から、貸借対照表について取り上げます。
仕事柄、様々な経営者の財務相談を受ける中で、資金繰りが苦しい会社ほど貸借対照表への意識が低いと感じています。
貸借対照表が読めないことで、以下のような影響が考えられます。
もし貸借対照表が読めるようになったら、以下の効果が期待できます。
以上を達成するために、貸借対照表とは何かを基本から説明します。
貸借対照表とは、ある一時点での財政状態を表したものです。決算書の中で、貸借対照表を見てみると「○○年○○月○○日現在」と記載されているはずです。貸借対照表は一般的に以下のような表で示されます。
まずは貸借対照表を真ん中で分けます(AとB・Cに分ける)。表の右側(BとC)は、どこから資金を調達したかを表しています。
負債の部(B)は、自分以外の第三者から資金調達をした金額のうち、返済する必要のある借入金のことです。例えば、銀行や親族からお金を借りた場合が該当します。
純資産の部(C)は、自分や第三者が出資したもののうち、原則として返済する必要のないお金や今まで蓄積された会社の利益の合計額です。例えば、資本金や会社の利益がこちらに計上されます。
これに対し、表の左側の資産の部(A)は、現在会社にどんな財産があるかを表します。現金や預金、会社の建物や機械などが該当します。
貸借対照表の右側合計金額(BとC)と左側の合計金額(A)が必ず一致するように作られています(すなわちA=B+C)。貸借対照表は左右の合計額が一致することから、バランスシート(Balance Sheet、略してB/S)とも呼ばれています。
資産の部はさらに、「流動性=お金に換えやすい順」に流動資産、固定資産、繰延資産の3つに分けられます。
流動資産とは、1年以内に現金化、費用化できる資産のことです。例えば以下の科目が該当します。前回の記事と同じように、今回もパン屋の事例で話を進めます。
パン屋の経営で発生しそうな流動資産の項目は、以下になります。
固定資産とは、1年超の期間をかけて現金化、費用化できる資産のことで、有形固定資産と無形固定資産に分けられます。有形固定資産は実体を伴っている資産のことです。例えば、会社が保有する土地や建物、機械、備品、車両運搬具などが対象です。
これに対し、無形固定資産は、営業権や特許権などのように実態を持たない資産のことです。
上記の資産は、年月が経過することで少しずつ性能や価値が低下していきます。そこで税法では、一定の資産については、一定の期間を分割して費用計上することができます。これを減価償却と言います(こちらは次回の記事で詳しく触れる予定です)。
なお、土地や営業権、特許権など、時間が経過しても価値の減らない資産については、減価償却の対象外になります。
繰延資産とは、会社が支出している費用の中で、その効果が長期間にわたって続く資産のことです。例えば、開発費(新技術の開発のために使った費用)や開業費(会社設立から、実際の業務開始までにかかった費用)などが、これにあたります。
特に、資産の部で注意したいポイントが3つあります。
売上はあっても入金がない場合、売掛金に計上されます。もし売掛金が回収できなければ現金が入らなくなり、経営に大きな影響を及ぼします。このような事態を防ぐために、改めて確認したいのは、以下の項目です。
〈1〉締め日と入金日の再確認
それぞれの取引先とは、契約締結時に締め日と入金日を設定しているかと思います。各取引先について、締め日と入金日を一覧表にまとめます。
〈2〉取引先の状況を会話等で確認する
取引先と接する際に、現在の状況はどうなのか、今どんなことに取り組んでいるのかなどを探ることで、取引先が期日までに入金できるかどうか、状況を推測できます。
〈3〉期日までの入金がない取引先への対応
原則あまりないことと思いたいですが、もし取引先から期日までに入金がない場合、最初は取引先に確認の連絡をします。それでも入金がない、または入金があっても遅延が何回も続く場合には、取引条件の見直しも選択肢に入れる必要があります。例えば、末日締め翌月末入金(100%売掛金)だったものを、50%現金即日払いに変更するようなイメージです。
〈4〉キャッシュレス化に対応する取り組み
キャッシュレス化が進み、顧客は現金以外の様々な支払い手段が選べます。その結果、利便性が向上し、売上が増えたケースもあります。パン屋など小売店は、キャッシュレス化に対応するために、クレジットカード決済や電子マネー決済ができるように、機械を導入したケースも多いのではないでしょうか。その場合にチェックしていただきたい項目は次の通りです。
・締め日と入金日の確認
カード会社や決済システムによって、締め日と入金日が違います。
・手数料がどのくらい引かれているかを確認
決済会社によって手数料の割合が若干変わってきます。
・キャッシュレスサービス導入前と後を比べて、現金による売上の割合がどのように変化したか
この割合を意識することで、資金繰りを考えるうえで大きなヒントになります(この項目は次回以降で触れます)。
以上の4項目は、経営者または経理担当者が日頃から行っているかと思いますが、これを実践することで、期日までの入金がされ、自社の資金繰りを円滑にすることにつながります。
在庫管理は事業を展開する上で非常に大切です。多く仕入れすぎても、商品が残ってしまうと現金化できず、資金繰りに影響を及ぼします。また、仕入れを少なくして、商品が無い状態になってしまうと、せっかくの販売の機会を逃してしまいます。
常に、何の商品がどのくらい残っているのか、何が売れているのかをチェックすることで適切な在庫の状態を保つことができます。
貸付金とは、例えば自分の会社から経営難の取引先にお金を貸しているといったように、自社から他人へ資金を貸し付けた場合に計上されます。
また仮払金は、例えば従業員の出張の交通費を事前に会社が支払うといったように、経費を事前に支払う際に仮払金の項目を使います。これに対し、立替金は、従業員や取引先が本来負担すべき費用を会社が代わりに立て替えるときに使う科目です。
これらの科目はあくまでも一時的に使用する科目です。決算の時に残っている場合には、いつまでに解消できるかを確認する必要があります。
この2つの科目は、金融機関が審査において注意して見ている科目です。特に何に使ったか明確でない、もしくは明確であったとしても、経営者が個人で使ってしまったというケースがあります。その場合には、経営者が会社の資金を私的に使ったと判断し、融資審査の際に不利になるケースが多いです。
もしこれらの科目があった場合には、発生した原因を探り、少しでも早く解消することが大事です。
貸借対照表の右側にあたる、負債の部と純資産の部について、それぞれ解説します。
負債の部は、流動負債と固定負債の2つに分けられます。流動負債は、1年以内に支払う負債や収益に振り替える項目のことです。例えば、買掛金や未払金、未払費用、短期借入金などがこれに該当します。
固定負債は、1年を超えて支払うことになっている負債のことです。
純資産は、株主からの出資の額と、会社を始めてから今日までの利益を積み重ねた金額のことです。純資産は負債と違って、返済の必要がないお金なので、この金額がどれだけプラスになっているかで会社の健全性が判断できます。
最終章では、貸借対照表の例を見ながら、チェックするべきポイントをまとめます。
まず決算書を開いて、自社の貸借対照表を見てください。特に見ていただきたいのは「流動資産」と「流動負債」の合計額です。
「流動資産」>「流動負債」であれば、短期的な資金繰りは余裕があるとみることができます。もし「流動資産」<「流動負債」であれば、入ってくる資金が少ないか、または出ていく資金が多いので、原因を探って修正することが必要です。
仮に流動資産の額が多かったとしても、売掛金や商品が多い(例えば、1カ月で現金化できるはずなのに、3、4カ月も残っている)とすれば、現金化するための施策が必要です。例えば、売掛金の回収を徹底する、多くなりすぎている在庫を販売できるようにするなどの手段が考えられます。
貸借対照表の右下にある純資産の部の合計を見てください。純資産の部がプラスになっていれば、会社の健全性は高いといえます。逆にマイナスになら、健全性に不安があるといえます。
以上のように、貸借対照表から読み取れることは、主に会社の健全性です。資金の調達の状況や資金の使い方を一つひとつ見ていくことで、経営状態を改善するためのヒントが見えてきます。
次回は損益計算書を経営に生かすための読み方を解説します。
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