決算書を経営に生かすには 金融機関がチェックするポイントも解説
決算書を経営に生かすために、経営者や後継ぎはどんな行動を取ればいいのでしょうか。これまで紹介した決算書の読み方や作り方をベースに、自社の現状分析や事業計画をまとめるための注意点や、金融機関が決算書をチェックするポイントなどを解説します。
決算書を経営に生かすために、経営者や後継ぎはどんな行動を取ればいいのでしょうか。これまで紹介した決算書の読み方や作り方をベースに、自社の現状分析や事業計画をまとめるための注意点や、金融機関が決算書をチェックするポイントなどを解説します。
目次
今まで4回にわたり、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書を使って、自社の経営状況を把握する方法をお伝えしました。決算書の基礎知識を伝えるシリーズ最終回では、もう一度原点に返り、決算書をどのように経営に生かすべきかについて解説します。
まずは、1回目で掲載した図をもう一度ご覧ください。
今までは、数字をもとに社内で経営の意思決定をするために、決算書の読み方を説明してきました。今回は、社外に向けて自社の現状を話すことにフォーカスを当てます。
経営者や後継ぎが自社の決算状況を外部に話す時、金融機関が真っ先に思い浮かぶと思います。特に、自社の決算書を金融機関に持ちこんだ時のことをイメージしながら、話を進めます。
決算書を金融機関へ持っていく前に、準備していただきたいことがあります。
こちらは決まったフォーマットはありません。書いていただきたい項目は、以下の通りです。
例えば、新型コロナウイルスの影響で、直近の売り上げなどが軒並み下がる決算書となった会社もあると思います。ただ、その時に「コロナのせいで数字が下がった」と言っても、説得力がありません。
コロナ禍で事業への影響が出ているのは、どの会社も同じです。金融機関の担当者は、その状況下でどのような経営努力をしたのかを聞きたいのです。
経営者や後継ぎの皆さんから見て、コロナ禍でどんな事業活動をしたのか、その結果として決算書の数字にどのように結びついたのかを、客観的に振り返り、金融機関の担当者に伝えていただきたいのです。
同じ状況下でも、何らかの行動をした経営者と何もしない(できなかった)経営者とでは、金融機関の評価が違ってくるからです。
経済産業省が作成した、ローカルベンチマークの活用でも、自社の財務状況を把握できます。ローカルベンチマークは経営状態の「健康診断ツール」で、金融機関でも一部で、融資審査に活用されています。
こちらからエクセルをダウンロードし、自社の売上増加率や営業利益率などの決算データを入力することで、作成できます。
こちらも決まったフォーマットはありません。既存の事業計画書のフォーマットを活用しても、自分自身で項目を設けて書いても良いでしょう。ここでは、特に事業計画書に盛り込んだ方が良い項目について、パン屋の経営を例に解説します。
事業の目的や、事業を通じて何を成し遂げたいかを書きます。例えば、パン屋であれば、「パンを通じて世の中の人に満たされるひと時を提供したい」というようなことを記載します。
将来の自社の理想図を記載します。「5年後に来てもらうお客様に想像を超える感動を提供するのはもちろん、口コミでの評判が広がっている状況になる」といったイメージです。
サービス業だけでなく、パンの製造販売、特に食パンに力を入れているといったように、具体的に書いた方が良いでしょう。
自社の強みや弱み、外部の状況を分析して、自社が置かれている状況を把握します。
今後の事業展開を具体的に書いていきます。例えば、「今までは店頭での販売だけだったのが、車での移動販売を展開する」といったことを記載します。
定量的な目標と定性的な目標を設定します。「今期の売り上げは3千万円、経常利益は100万円。パンの店頭販売を通じて、お店から離れた場所でも存在を知ってもらい、店頭に来てもらうお客様を増やす」といったことを書きます。
今季の目標を達成するために、具体的にどんな行動をするか記載します。例えば、いつ、だれが、どこで、何を、どうするかを具体的に考えます。
行動計画に基づいて行動した結果、今期の数字がどのように推移するかを記載します。その際に、数字の根拠も併せて示します。例えば、「1カ月の売り上げ250万円、1日当たりの売り上げ2万5000円、人件費が3人で70万円、家賃が15万円」といったように、細部にわたって数字を考えます。金融機関の担当者には決算書を渡すだけでなく、自社の現状や、今後の目標、目標実現のための具体的な行動計画を自分の言葉で話すことで、適切なタイミングで支援を受けやすくなります。
本来、事業計画書は、経営者自身のために書いていくものです。創業時の想いから始まり、自社のなりたい姿、それを実現するための具体的な目標、それを達成するための具体的な行動計画、その結果として数字がどのように表れるかを詳細に書き記したものが事業計画になります。こちらについては、また別の機会に詳しく解説したいと思います。
前期の分析と今期の計画を作成したら、金融機関へ決算書を持っていきます。その際、前期の分析と今期の計画は書面にして、決算書と一緒に渡します。経営者自身の言葉で決算書や事業計画について話すことが大切です。
決算書をもらった後、金融機関では独自に分析をします。その時のポイントは次の通りです。
金融機関は、借り入れをスムーズに返すことができるかを見ています。安全性のポイントは、シリーズ2回目「貸借対照表」の「5.貸借対照表を見るべきポイント」や、同4回目「キャッシュフロー計算書」の資金繰り表に関する項目をご参照下さい。
その会社が収益を残せる構造になっているかを見ています。3回目「損益計算書」にポイントが記載されています。
金融機関は決算書の分析結果をもとに、格付けをしていきます。下の図は金融機関の格付けの一例です。原則として、金融機関の格付けが要注意先よりも上のランクであれば、融資がうけられます。また正常先でも、上のランクになるほど金利が低くなります。逆に要管理先以下については、原則融資は行われません。
5回にわたって決算書の読み方をお伝えしました。私が経営者の方に常に伝えていることは、数字はあくまでも結果であり、数字に至るまでのストーリーは経営者自身の行動で決まるということです。
最後に記事をご覧いただいている経営者の皆さんに、今後ぜひ取り組んでいただきたいことを記載します。
今回のシリーズが、経営者の皆様が描いている理想像に一歩でも近づくためのきっかけになれば、とてもうれしいです。
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