目次

  1. 化学肥料とは 化学肥料の作り方も紹介
  2. 化学肥料、2008年にも高騰
  3. ウクライナ侵攻で再び価格高騰
  4. 化学肥料の輸入調達先の切替 政府が支援
  5. 化学肥料の使用量 政府が減らす取り組みを支援
  6. すでに実施されている化学肥料を減らす支援策とは
    1. 有機物の循環利用
    2. 施肥の効率化やスマート化

 化学肥料とは、化石燃料や鉱物資源を化学的に合成してつくる肥料のことで、肥料の三要素である、窒素(N)、りん酸(P)、カリウム(K)のほとんどは化学肥料でまかなわれています。農林水産省の資料「肥料をめぐる情勢」(PDF方式)によると、原料には⼀般的に、原油や天然ガス、リン鉱⽯、カリ鉱⽯などが使われており、それぞれの原料のほぼ全量を輸⼊で調達しています。

化学肥料の主な製造工程(農林水産省「肥料をめぐる情勢」からhttps://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_hiryo/attach/pdf/index-7.pdf)

 世界における肥料の消費量は年々増加傾向にあるなか、国内の肥料消費量は世界全体の0.5%を占めます。ただし、経営費に占める肥料費の割合は、栽培する作物や方法によって差がありますが、約6〜13%とされています。

 肥料の原料はほぼ輸入に頼っているため、国際動向に影響を受けやすい製品です。2008年にも化学肥料が高騰しました。農研機構のサイトによると、2008年の高騰は、石油や原料の価格上昇、中国やインドなどの肥料需要の増大などが原因だったといいます。化学肥料の高騰について「リン酸の不足しやすい黒ボク土農地が多い日本への影響は大きい」と指摘しています。

 2008年の高騰はいったん収まりましたが、世界的に需要が伸びるなか、2021年から再び化学肥料の原料価格が上昇傾向にありました。そんななか、ロシアによるウクライナ侵攻により一気に高騰しました。

 全国農業協同組合連合会(JA全農)は、2022年6~10月に各都道府県組織に販売する肥料の価格について、前期(2021年11月~2022年5月)に比べ、輸入尿素で94%、塩化カリウムで80%値上げすることを発表しました。詳しくは、JA全農の「令和4肥料年度秋肥(6~10月)の肥料価格について」(PDF方式)へ。

 価格高騰の理由について、JA全農は「ベラルーシに対する経済制裁、中国の輸出規制、ロシアのウクライナ侵攻により、世界有数の肥料輸出国からの輸出が停滞し、限られた代替ソースに世界中から需要が集中したため」と説明しています。

 2020年度の財務省の貿易統計によると、化学肥料の主な原料輸入先は次の通りです。

尿素(約34万t) マレーシア(47%)、中国(37%)
りん鉱石(約14万t) 中国(27%)、ヨルダン(21%)、モロッコ(21%)
りん安(約51万t) 中国(90%)、アメリカ(10%)
塩化カリウム(約41万t) カナダ(59%)、ロシア(16%)、ベラルーシ(10%)

 また、肥料の3要素である窒素、リン酸、カリの国際市況は、すべてが史上最高値まで上昇し、今後も高い水準で推移すると見込んでいます。コロナ禍をきっかけとする海上運賃の上昇や円安の影響もあるため、対策をしなければ価格は当面高止まりしそうです。

化学肥料原料の輸入先を示したグラフ(農林水産省「肥料をめぐる情勢」から:https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_hiryo/attach/pdf/index-7.pdf)

 中国やロシア、ベラルーシなどからの調達が困難な状況に対応するため、農水省は2022年4月、緊急の調達支援策を公表しました。

肥料の流通構造。国内の化学肥料生産業者は原料を調達後、全農や商社などに販売している(農水省のサイトから)

 その一つに、国内の肥料製造事業者が、化学肥料原料の調達を代替国に切り替える際にかかるコストに対して補助金を交付する支援策があります(農水省「令和4年度化学肥料原料調達支援緊急対策事業の公募について」)。

 2022年4~5月に実施された公募資料によると、中国、ロシア、ベラルーシからの化学肥料原料調達を代替国に切り替える事業者を支援します。

 農水省は、中長期的な肥料供給の安定化に向けても、特定の輸入国への依存度を下げ、調達国の多角化を図ることを目指しています。

 政府は、化学肥料の使用量を減らした農家に対する支援策も検討しています。岸田文雄首相を本部長とする「物価・賃金・生活総合対策本部」で対応策が議論されています。

 対策本部に提出された農水省の資料によると、化学肥料の使用量を2割低減する農業者に対し、肥料コスト上昇分の7割を補填する新たな支援金の仕組みを創設する方針です。実施期間は、2022年6月(秋肥)から2023年春肥を対象とする方向です。詳しくは、農水省提出資料「農産物生産コスト1割減に向けて創設される新しい支援金等について」(PDF方式)へ。

 化学肥料の使用量低減とコスト上昇分の補填を組み合わせた対策により、農水省は、農産品の生産コスト全体の1割削減を目指すとしています。

政府が検討している肥料原料価格の高騰対策(「物価・賃金・生活総合対策本部(令和4年第2回)議事次第」から https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bukka/dai2/siryou1.pdf)

 対象となる農業者や要件についての詳細が検討されています。

 実は、農水省はこれまでも、化学肥料の使用量を減らす取り組みに対して支援策を講じてきました。持続可能な食料システムの構築を目指す「みどりの食料システム戦略」で、化学肥料の使用量を2030年までに20%、2050年までに30%低減する目標を掲げています。

 化石燃料を主な原料とする化学肥料の使用量を減らし、地球環境に配慮した持続可能な農業を実現すると掲げていますが、より国内資源を活用した資源循環的な農業への転換を図る目的もあります。

 「みどりの食料システム戦略推進交付金」事業は、地域の農業者らでつくる協議会が化学肥料の使用量を減らす取り組みをするときに支援します。

「グリーンな栽培体系への転換サポート」における化学肥料の使用量低減に向けた支援策(農水省の公式サイトから https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/jisedai_senryaku-50.pdf)

「みどりの食料システム戦略推進交付金」事業の「グリーンな栽培体系への転換サポート」の項目では、化学肥料の使用量低減に向け、次のような取り組み例を挙げて推奨しています。

 家畜排せつ物をはじめとした様々な有機性資源の循環利用により、地力や生産性の維持増進を図りつつ化学肥料の代替を進めることにより低減できます。

 作物の根圏部分に施肥する局所施肥のほか、ドローンによるセンシングに基づく可変施肥など土壌や作物の生育に応じた施肥の効率化を進めることにより低減できます。

 また、施肥効率化に関して、具体的に次のような事例を挙げています。

可変施肥田植機(ほ場内でどれだけの肥料を撒くかを変えられる田植機)の利用

 可変施肥田植機を活用し、圃場の作土深等に応じて施肥量を調整することで 、収量・品質の現行水準を維持しつつ、おおむね2割程度肥料コストを削減しました。

小麦における可変施肥

 秋まき小麦の起生期、幼穂形成期、止葉期における可変追肥を実施し、施肥量10.2%減(19.0kg/10a→17.1kg/10a)、製品収量8.7%増(580kg/10a→630kg/10a)を達成しました。