目次

  1. KSFとは
  2. KSFが事業において重要な理由
    1. 自社の事業構造が整理できる
    2. 事業の進捗管理がスマートになる
  3. KSFとKGI、KPIの関連性
  4. KSFを活用した事例2つ
    1. 人材採用のプロジェクト管理
    2. プラスチック部品製造・販売事業の経営管理
  5. KSFを設定する際のポイント5つ
    1. 因数分解の方法を見極める
    2. フレームワークを活用することを考慮する
    3. KFSとKPIは1つに絞る
    4. コントロール可能な先行指標を選ぶ
    5. KPIの計算はシンプルにする
  6. KSFの設定により事業構造を整理して進捗管理をスマートに

 KSF(ケーエスエフ:重要成功要因)とはKey Success Factorの頭文字を取った略称で、ビジネスの目標を達成できるか否かを決める重要な業務プロセスのことです。同じ意味で、Critical Success Factorを略したCSF(シーエスエフ)を使うこともあります。

 KSFの例として、モデルハウスでの個別接客を強みとしている住宅販売会社が挙げられます。これまでの経験から、モデルハウス案内の会話の際に顧客の好みや家族構成を聞き出して、その場でおおまかな間取りプランを提示した場合、提示しなかった場合と比べて、平均成約率が10%から、70%にまで高まると仮定します。

 この場合、住宅販売事業で成功する(多く販売する)ための重要な要因が、「モデルハウス訪問顧客への個別プランの提示」となります。

 このように、自社の事業やプロジェクトの成果を左右する業務プロセスがKSFです。

KSFの意味とKGI・KPIとの関連性(デザイン:吉田咲雪)

 さらに、KSFは、KGI(最終目標数値)やKPI(重要成果指標)とともに経営管理に活用されるツールです。

 そして、以下5つのステップがKSFを活用した経営管理の基本形になります。

  1. KGI(最終目標数値)を最終目標として共有
  2. KGI達成のために最も重要となる要素、KSFを特定
  3. KSFを客観的に測定できる数値指標KPI(重要成果指標)を設定
  4. KPIによって進捗状況をモニタリング
  5. KPIの進捗状況に応じて対策を考え、PDCAを回す

 KSFに加えてKGIとKPIを理解して使いこなすことができれば、経営管理をスマートに効率化し、経営を、今より一段レベルアップできるでしょう。

 KSFを経営に取り入れるメリットは、以下の2つが挙げられます。

  • 自社の事業構造が整理できる
  • 事業の進捗管理がスマートになる

 それぞれを詳しく解説します。

 KSFを通じて自社の事業構造を因数分解することで、事業プロセスの中で何が重要かを改めて整理できます。

 まず、自社のKSFを理解するためには、自社のビジネスモデルの理解が必要です。自社がどうやって利益を得ていて、そのためのボトルネックになっているのは、どのプロセスなのかを考えることで、自社のKSFが見つかります。

 例えば、先ほどの住宅販売会社の利益構造を因数分解すると、以下のように表せます。

利益=売上-費用
売上=受注案件数×住宅販売単価
受注案件数=広告リーチ数×モデルハウス来店率×個別プラン提示率×提示先との成約率

 このように、次々とブレイクダウンすることができます。

 広告リーチ数、モデルハウスの来店率、個別プランの提示率など、さまざまな要因のうち、最も最終的な成約数を左右する部分を探し、自社のビジネスの構造を因数分解していくことがKSFの特定につながります。

 自社のKSFを理解して、目標と問題が共有できていれば、事業の進捗を改善するためにどのようなことができるか、すぐに建設的な議論に入ることができます。KFSだけでなく、KPIを使いこなすと、事業の進捗管理がよりスマートになります。KSFを使った経営管理に必須になるのがKPIです。

 KPIとは、Key Performance Indicatorの略で、成果のカギとなる指標のことです。KSFの末尾であるFactor(要因)が、Indicator(指標)に変化しています。KSFはあくまで「要因」ですが、この要因の状況を測る客観的な「数値指標」がKPIです。

 先ほどの住宅販売の事例では、「モデルハウス訪問顧客への個別プランの提示」がKSFでしたが、以下のようにKPIを設定すれば、客観的な数字で計測できます。

  • 整数で計測したい場合:KPIを「モデルハウス訪問顧客へ提示した個別プラン数」に設定する
  • パーセントで計測したい場合:KPIを「モデルハウス訪問客に対する個別プラン提示割合」に設定する

 KSFとKPIを組み合わせて経営管理に使うことで、経営側と従業員が追いかけるべき数値を共有することができ、さらに、進捗状況の認識や問題意識まで共有することができます。

 ここで、KSFとKGI、KPIの意味と関連性を整理しましょう。

 KGIとは、Key Goal Indicatorの略で、最終目標数値のことです。通常の事業であれば、売上高や利益額が当てはまります。採用プロジェクトであれば、基準を満たす目標採用人数、新規事業開発であればSNSの登録会員数かもしれません。

 KGIは、事業やプロジェクト・部門の最終目標を共有するために必要です。チームや会社全体として、最終的にどの数字を目指すのかについて、最初に認識を共有しておく必要があります。

 KSFとは、Key Success Factorの略で、成功のカギとなる要因のことです。全員で共有したKGI達成のための最重要要因で、この要因に集中すれば、必ずKGIが達成できるという因果関係が大切です。

 KPIとは、Key Performance Indicatorの略で、カギとなる成果指標のことです。KSFを数値化して客観的に測定できるようにした指標です。KPIの目標値を達成できれば、KSFをしっかり押さえたことになり、その結果としてKGIが達成できます。

 以下の図のように、KSF=KPI⇒KGIをつなぐ因果関係が、KSFを使った経営管理の肝になります。

KSF・KGI・KPIの関係性
KSF・KGI・KPIの関係性・筆者作成

 KSFの使い方は、業種や部門によってさまざまです。ここでは、KSFを活用した事例を紹介します。

 新卒採用のプロジェクトでのKSF活用を考えてみましょう。

 まずはプロジェクトのKGI設定と因数分解から始めます。今期の目標として、一定の水準以上の専門知識を持った学生を4人採用したいと仮定します。

 これまでの新卒採用のデータとして、筆記試験通過率80%、一次面接通過率25%、二次面接通過率50%、内定辞退率20%としましょう。

 採用予定人数が4名であれば、エントリー人数は50名必要です。逆にいえば、過去と同様の採用プロセスであれば、エントリー数を50名集めておけば、採用基準を満たす新卒社員4名の採用という目標は達成可能です。

 この採用プロジェクトでは以下のように、KGI、KSF、KPIを設定できます。

  • KGI=4名の新卒社員の採用
  • KSF=多くの学生にエントリーしてもらうこと
  • KPI=エントリー数
KGI、KSF、KPIの設定例
KGI、KSF、KPIの設定例・筆者作成

 プロジェクトマネジャーは、筆記試験開催日までのエントリー目標数を最低50名とし、毎週の進捗会議で達成状況を報告させます。筆記試験1ヶ月前で10人不足していれば、「この状況はよくないから、急遽リクルーティングイベントに参加しよう」、「説明会を追加開催しよう」などの対策を議論し、KPIをモニタリング指標としたPDCAを回していきます。

 次に、来期目標利益を2,000万円に設定したプラスチック部品製造・販売事業の事例で考えてみましょう。

 目標利益に到達するためには、売上の増加と製造原価の削減の両方が必要になることがわかりました。売上を3,000万アップ、変動比率を2%低下させれば目標利益に到達します。

 そこで経営者は、営業部長に売上3,000万アップ、製造部長には変動費率2%ダウンを指示しました。

 営業部長の対応は、訪問提案回数が多いほど取引額が多い(平均300万/訪問提案)ことから、特に重要な取引先5社に対して、これまで各社に年2回、合計10提案持ち込んでいたものを、今年は倍増して計20提案持ち込むことにしました。

 製造部長の対応は、変動費のうち、原材料価格や人件費はこれ以上の削減が不可能だったため、製造工程の見直しにより、歩留まり率を75%から80%まで引き上げることで、全体の変動比率2%ダウンの達成を目指すことにしました。

 少し複雑ですが、以下の図のように整理してみます。

目標営業利益に対する全社・営業部門・製造部門のKGI
目標営業利益に対する全社・営業部門・製造部門のKGI・筆者作成

 そして、この事例のKGI、KSF、KPIをまとめると以下のようになります。

  • 全社のKGI=来期の利益2,000万円
  • 営業部門のKGI=売上高3,000万円アップ
  • 営業部門のKSF=重要取引先5社への訪問提案回数
  • 営業部門のKPI=重要取引先5社への訪問提案20提案(10提案増加)
  • 製造部門のKGI=変動比率2%ダウン
  • 製造部門のKSF=歩留まり率の引上げ
  • 製造部門のKPI=歩留まり率80%達成(5%アップ)

 全社の財務数値を最終的なKGIとして、事業部門のKGIに因数分解し、さらに、達成のためのKSFを特定して、数値化したKPIを進捗管理指標として採用しています。

 また、先進的な上場企業では、最終のKGIをROIC(return on invested capital)やROE(return on equity)などの経営指標に設定し、この目標数値を各部門のKGIに落とし込み、各部門でKSFを設定し、KPIを使って進捗管理し、一丸となって全社KGIの達成を目指すという運用がなされています。

 先ほどの事例のように、目標としてKGIに何を設定するか、また会社の戦略次第によって、KSFはさまざまですが、必要になる考え方が「因数分解」です。

 これまでの事例では、目標とするKGIを足し算や掛け算に分解してKSFを特定しています。

 売上や利益をKGIに設定する際に最もよく使うのは、以下の考え方です。

  • 利益=売上-コスト
  • 売上=客数×客単価×来店頻度
  • 売上=ランチ(フード+ドリンク)+ディナー(フード+ドリンク)
  • 売上=UU(Unique user)×CVR(Conversion rate)×平均単価×購入点数

 どれもよく知られているものばかりですが、改めて自社の事業構造を因数分解してみると、自社のビジネスの全体像がよくわかります。同じ利益額をKGIに設定する場合でも、コスト削減を重視するのか、客単価を重視するのか、客数を重視するのか、KSFとして重視すべき要因は、その会社の戦略によってさまざまです。

 また、上記の考え方を見てもわかるように、KGIの因数分解の方法は1つではありません。自社の事業を分析するときに、どうやってKGIを因数分解するのがよいか、いろいろ組み合わせて考えてみるのも、自社を理解するよい機会になります。

 そもそも、自社の特徴や戦略を考えたことがないという場合は、KSFを考える前に、外部環境分析や自社の強みの分析、それらに基づく戦略の策定が必要でしょう。「戦略」とは、勝ち方を設計することです。KSFやKPIは、戦略の実行段階が思い描いたとおりに進んでいるのか、進捗状況をモニタリングするツールです。

 KSFを特定しようとして、どれが重要な要因かわからない場合は、自社の特徴や戦略を考えていないケースが考えられます。3C分析を使って顧客・競合・自社の特徴について考え、自社ならではの勝ち方を設計するところから始めましょう。他にも、戦略策定の際の外部環境分析ツールである5フォース分析、外部環境と内部環境を1枚に整理できるSWOT分析など、さまざまなフレームワークがありますので、積極的に活用してみてください。

 KSFは、KGIを達成するために最も重要な要因です。KSFもKSFを数値化したKPIも、最も重要な1つに絞りましょう。KPIが複数あると、現場は何を目標にすればよいか混乱します。従業員1人に対し、設定するKPIは1つが鉄則です。

 プラスチック部品製造・販売事業の事例のように、社内に複数のKPIを設定しても、従業員1人に対して1つに絞られていれば問題ありません。

 KSFは経営管理ツールです。KPIの達成度合いを個人やチームの成果とするので、KPIは設定された従業員やチームが直接的にコントロール可能な数値にします。

 プラスチック部品製造・販売事業の事例で、営業部のKPIが「主要取引先5社からの受注額」であれば、これは結果であり、先方が決めることなので営業部員にはコントロールできません。

 KSFは、結果そのものではなく原因となる事柄で、チームがコントロール可能な要素とすることが、KSF活用で最も重要なポイントです。

 進捗状況が共有しやすいように、KPIはリアルタイムで一目瞭然の指標がベストです。例えば、計算に分子と分母が必要な比率よりも、単純に数えるだけの「提案数」、「訪問数」、「エントリー人数」などの数字がよいでしょう。毎日終業時に簡単に確認できて、チーム全員が進捗状況を把握できるような指標がおすすめです。

 自社のビジネスの因数分解にはKSFが必要です。企業やプロジェクトの目標も戦略も千差万別であり、KSFやKPIに一定のモデルというものはありません。KFSの活用をきっかけとして、自社の事業モデルを整理し、ボトルネックとなる重要プロセス(KSF)に気づき、その測定数値(KPI)を考えるプロセス自体が、マネジメントスキルをさらにレベルアップさせるよい機会になります。

 KFSに関してさまざまな書籍がありますが、私のおすすめは、中尾隆一郎氏の『最高の結果を出すKPIマネジメント』(2018年、フォレスト出版)です。実際に仕事でKPIによる経営管理を実践してきた著者による解説で、事例も多く、大変わかりやすいです。

 KSFを使いこなして、プロ経営者を目指しましょう。