目次

  1. グリーントランスフォーメーション(GX)とは
  2. なぜGXが注目されているのか 2つの方針決定
    1. 2050年カーボンニュートラル宣言
    2. GXが重点投資分野の一つに
  3. 政府の具体的な取り組み:GX推進会議・GXリーグ
    1. GX推進会議:2022年末に「GX戦略・成長戦略」を策定へ
    2. GXリーグとは 経産省が賛同企業を追加募集
  4. GXへの企業側の参加メリット
  5. 経団連・企業のGX取り組み事例
    1. 経団連
    2. 【電力】東京電力ホールディングス
    3. 【自動車】日産自動車
    4. 【金融】三井住友フィナンシャルグループ
  6. 自治体の取り組み事例:浜松市は中小企業に補助金も
  7. GXにおける原発の位置付けは

 グリーントランスフォーメーション(GX)とは、気候変動の主な要因となっている温室効果ガスの排出量を削減しようという世界の流れを経済成長の機会ととらえ、排出削減と産業競争力向上の両立を目指す取り組みのことです。

 温室効果ガスの排出削減が求められるのは、気候変動を抑制するためです。排出削減の対策を取らなかった場合、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書によると、海面上昇・高潮、洪水・豪雨、インフラ機能停止、熱中症、食糧・水不足、陸海上の生態系の損失、といったリスクが高まるといいます。

地球温暖化がもたらす日本への影響。環境省公式サイト「IPCC第5次評価報告書(第2作業部会)」から引用 https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_wg2_overview_presentation.pdf

 また、IPCCが2022年4月に公表した評価報告書では、2020年代末までに対策を強化しなければ、産業革命前から今世紀末までの気温上昇は3.2度に達するとの想定が示されました。参照:気象庁公式サイト「IPCC第6次評価報告書(第3作業部会)」の概要(PDF方式)

 こうした状況を受け、地球温暖化対策としての温室効果ガス削減は、世界の緊急課題となっているのです。

 日本でGXが注目される背景には、政府による次の二つの大きな方針決定がありました。

  1. 2050年カーボンニュートラル宣言
  2. GXが重点投資分野の一つに

 2020年10月、菅義偉首相(当時)が所信表明演説で、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルの実現を2050年までに目指すことを宣言しました。

 菅氏は「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではない」「積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながる」と述べました。

 政府は実行策の検討に本腰を入れ始めました。2020年12月、経済産業省は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」をまとめ、14の重点分野における実行計画を掲げました。

 経産省は2021年6月、さらに具体化した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表しています。

成長が期待できる14分野。経産省公式サイト「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」から引用 https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005.html

 2022年6月に岸田内閣が閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」は、GXを「重点投資分野」の一つに位置付けました。この中で、「今後10年間に官民協調で150兆円規模のGX投資を実現する」との方針を示しています。

 その呼び水とするため、十分な規模の政府資金を「GX経済移行債(仮称)」として調達することも掲げました。

 参照:首相官邸の公式サイト「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 ~人・技術・スタートアップへの投資の実現~(PDF方式)

 政府はGXの実現に向け、次の二つの具体的な取り組みを進めています。

  1. GX推進会議:2022年末に「GX戦略・成長戦略」を策定へ
  2. GXリーグ:経産省が賛同企業を追加募集

 2022年7月、岸田内閣は首相を議長とする「GX推進会議」を設置しました。

 GX実行推進担当相が会議に提出した資料で、GX推進会議は、「日本のエネルギーの安定供給の再構築に必要となる方策」「それを前提として、脱炭素に向けた経済・社会、産業構造変革への今後10年のロードマップ」の2点を大きな論点として議論していく方針を示しました。

 参照:内閣官房の公式サイト「GX実行会議(第1回)」資料(PDF方式)

 また、岸田首相は7月の第1回会合で、2022年末に「GX戦略・成長戦略」を取りまとめる方針を明らかにしました。

 経産省は2022年2月、「GXリーグ」の設立を発表しました。GXリーグとは、産官学がカーボンニュートラル時代の未来像やGX市場のルール形成について議論する場だと位置付けられています。GXリーグを通し、「企業の成長、生活者の幸福、そして地球環境への貢献が同時に実現されること」を目指すとしています。

GXリーグ基本構想概要版。事務局の公式サイトから引用 https://gx-league.go.jp/

 GXリーグは産業界に対し、以下の3つに賛同する企業を募りました。

  1. 企業自らの排出削減
  2. 自らに関連するバリューチェーンへの排出削減への行動
  3. 生活者が自ら能動的な選択できるようなGX市場の拡大

 その結果、2022年4月1日までに440社が集まったと公表しました。経産省は、全賛同企業の二酸化炭素排出量(平成30年度の公表数値)は、総計で約3億2千万トン、日本全体の排出量の約28%を占めるとの試算を公表しました。

 2022年9月1日には、賛同企業の追加募集を始めることを発表しています。募集は「2023年度の本格稼働開始まで」としており、参画を希望する企業に対して、GXリーグ設立準備事務局へ賛同フォームを提出するよう求めています。募集締切は、2022年12月28日です。

 企業にとっては、GXに向けた民間の取り組みを後押しする公的予算が増えることが期待されるほか、消費者に対するブランディング・イメージ向上、人材獲得がしやすくなる、といったメリットが想定されます。

 政府がGXを重視するようになったため、経済界でも取り組みが広がっています。経産省の2021年12月時点のまとめでは、国内200社以上の企業が「2050年までのカーボンニュートラル」を宣言しています。

 経団連と、GXリーグへの賛同企業440社のうち3社の取り組みを紹介します。

 経団連は2022年5月、GXの実現に向けた提言をまとめました。政府に対し、GX政策へのグランドデザインを早急に提示するよう求めているほか、エネルギーの供給側・需要側それぞれが取るべき対応についてもまとめています。

 エネルギー供給側においては、「自給率の向上、調達先の多角化などエネルギー安全保障の強化が急務」「特に、2030年といったトランジション期においては、原子力をはじめ、既存の技術の最大限活用が不可欠」と指摘しています。需要側では、省エネや電化の加速、自動車の電動化のためのイノベーション加速を掲げています。

 参照:経団連の公式サイト「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」(PDF方式)

 電力業界はエネルギーの供給側として、化石燃料を主体とした発電から、再生可能エネルギーの主力電源化を目指す取り組みが求められています。

 東京電力は2022年3月、GXリーグへの賛同を表明しました。この中で、発電時に二酸化炭素を排出しない「ゼロエミッション電源の開発」と「エネルギー需要の更なる電化促進」の両輪を加速させていく方針を掲げています。

 参照:東京電力ホールディングスの公式サイト「『GXリーグ基本構想』への賛同について」

 自動車業界は、ガソリンを燃料とする従来の自動車が温室効果ガスを大量に排出することから、電動自動車などエコカーの普及に向けた開発を進めることが求められています。

 日産自動車は、2050年までに「クルマのライフサイクル全体(原材料の採掘から、生産、クルマの使用、使用済み自動車のリサイクルや再利用までを含む)におけるカーボンニュートラル」を実現することを目標に掲げています。

 そのため「2030年代早期より主要市場に投入する新型車をすべて電動車両とする」との方針を示しています。電動化に向けた技術革新を進めるため、今後5年間で2兆円を投資するとも表明しています。

 参照:日産自動車公式サイト「経済産業省『GXリーグ基本構想』への賛同について」

 金融業界は環境問題に関わるNGOなどから、化石燃料の採掘や輸送、消費に携わる企業への投融資が問題視されてきました。

 三井住友フィナンシャルグループは、GXリーグへの賛同を表明した2022年2月の発表で、投融資ポートフォリオ全体において2050年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言しています。また、自社で排出する温室効果ガスを2030年にネットゼロとする方針も掲げています。

 参照:三井住友フィナンシャルグループ公式サイト「『GXリーグ基本構想』への賛同について」

 GXを推進する流れを受け、地方自治体でも独自の取り組みが始まりつつあります。

 浜松市は、2022年6月に発表した2022年度5月補正予算案に「中小事業者等グリーントランスフォーメーション支援事業」として9億5900万円を計上しました。財源は、5億円超を国の地方創生臨時交付金でまかない、残りは市の一般財源を充てる方針です。

 温室効果ガスの排出量を診断する「CO2 排出量等の見える化支援」、照明をLED化する「LED 等導入支援」、老朽化した空調機の更新する「設備更新・省エネ機器導入支援」といった項目で、市内の中小企業・個人事業主に補助する内容です。

 参照:浜松市の公式サイト「令和4年度5月補正予算案(第3号)」

 岸田首相は2022年8月のGX実行会議において、原発の新増設に向けた検討を加速するよう指示しました。東京電力福島第一原発事故以降、歴代政権は原子力への依存を低減する方針を基本とし、再稼働は進める一方で新増設や建て替え(リプレース)は「現時点で想定していない」との立場をとってきました。

 そのため「次世代革新炉の開発・建設」を含めた検討の指示は大きな政策転換となると報じられました。参照:朝日新聞デジタル「岸田首相、原発の新増設の検討を指示 正式決定なら国策の大転換」

 また、首相は「原子力はGXを進める上で不可欠な脱炭素エネルギー」だとした上で、「将来にわたる選択肢」として検討することにも言及しました。