グリーントランスフォーメーション(GX)とは 注目の理由と企業メリットを解説
グリーントランスフォーメーション(Green Transformation:GX)とは、化石燃料ではなくクリーンエネルギーを主軸とする産業構造、社会システムへと変革を図る取り組みのことです。日本政府は2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を掲げ、中小企業でも今後対応を求められるでしょう。そこで、政府がGXを推進する背景や経産省の戦略、企業の取り組み事例・補助金などについてわかりやすく解説します。
グリーントランスフォーメーション(Green Transformation:GX)とは、化石燃料ではなくクリーンエネルギーを主軸とする産業構造、社会システムへと変革を図る取り組みのことです。日本政府は2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を掲げ、中小企業でも今後対応を求められるでしょう。そこで、政府がGXを推進する背景や経産省の戦略、企業の取り組み事例・補助金などについてわかりやすく解説します。
目次
グリーントランスフォーメーション(GX)とは、気候変動の主な要因となっている温室効果ガスの排出量を削減しようという世界の流れを経済成長の機会ととらえ、排出削減と産業競争力向上の両立を目指す取り組みのことです。
温室効果ガスの排出削減が求められるのは、気候変動を抑制するためです。排出削減の対策を取らなかった場合、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書によると、海面上昇・高潮、洪水・豪雨、インフラ機能停止、熱中症、食糧・水不足、陸海上の生態系の損失、といったリスクが高まるといいます。
また、IPCCが2022年4月に公表した評価報告書では、2020年代末までに対策を強化しなければ、産業革命前から今世紀末までの気温上昇は3.2度に達するとの想定が示されました。参照:気象庁公式サイト「IPCC第6次評価報告書(第3作業部会)」の概要(PDF方式)
こうした状況を受け、地球温暖化対策としての温室効果ガス削減は、世界の緊急課題となっているのです。
日本でGXが注目される背景には、政府による次の二つの大きな方針決定がありました。
2020年10月、菅義偉首相(当時)が所信表明演説で、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルの実現を2050年までに目指すことを宣言しました。
菅氏は「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではない」「積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながる」と述べました。
政府は実行策の検討に本腰を入れ始めました。2020年12月、経済産業省は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」をまとめ、14の重点分野における実行計画を掲げました。
経産省は2021年6月、さらに具体化した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表しています。
2022年6月に岸田内閣が閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」は、GXを「重点投資分野」の一つに位置付けました。この中で、「今後10年間に官民協調で150兆円規模のGX投資を実現する」との方針を示しています。
その呼び水とするため、十分な規模の政府資金を「GX経済移行債(仮称)」として調達することも掲げました。
参照:首相官邸の公式サイト「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 ~人・技術・スタートアップへの投資の実現~(PDF方式)
岸田首相は10月3日の臨時国会の所信表明演説で、GXについても次のように言及しています。
第三に、グリーン・トランスフォーメーション、GXへの投資です。
年末に向け、経済・社会・産業の大変革である、GX推進のためのロードマップの検討を加速します。
その中で、成長志向型カーボンプライシング、規制制度一体型の大胆な資金支援、トランジション・ファイナンス、アジア・ゼロエミッション共同体。これまで申し上げてきた政策イニシアティブを具体化していきます。
同時に、GXの前提となる、エネルギー安定供給の確保については、ロシアの暴挙が引き起こしたエネルギー危機を踏まえ、原子力発電の問題に正面から取り組みます。
そのために、十数基の原発の再稼働、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設などについて、年末に向け、専門家による議論の加速を指示いたしました。
第二百十回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説(首相官邸公式サイト)
政府はGXの実現に向け、次の二つの具体的な取り組みを進めています。
2022年7月、岸田内閣は首相を議長とする「GX推進会議」を設置しました。
GX実行推進担当相が会議に提出した資料で、GX推進会議は、「日本のエネルギーの安定供給の再構築に必要となる方策」「それを前提として、脱炭素に向けた経済・社会、産業構造変革への今後10年のロードマップ」の2点を大きな論点として議論していく方針を示しました。
参照:内閣官房の公式サイト「GX実行会議(第1回)」資料(PDF方式)
2022年2月のロシアによるウクライナ侵略以降、エネルギー安定供給の確保が世界的に大きな課題となる中、GX(グリーントランスフォーメーション)を通じて脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の3つを同時に実現するため、GX推進会議は「GX実現に向けた基本方針」をとりまとめ、岸田内閣が2023年2月に閣議決定しました。おもに次の2つがポイントです。
経産省は2022年2月、「GXリーグ」の設立を発表しました。GXリーグとは、産官学がカーボンニュートラル時代の未来像やGX市場のルール形成について議論する場だと位置付けられています。GXリーグを通し、「企業の成長、生活者の幸福、そして地球環境への貢献が同時に実現されること」を目指すとしています。
GXリーグは産業界に対し、以下の3つに賛同する企業を募りました。
その結果、2022年4月1日までに440社が集まったと公表しました。経産省は、全賛同企業の二酸化炭素排出量(平成30年度の公表数値)は、総計で約3億2千万トン、日本全体の排出量の約28%を占めるとの試算を公表しました。
2022年9月1日には、賛同企業の追加募集を始めることを発表しています。募集は「2023年度の本格稼働開始まで」としており、参画を希望する企業に対して、GXリーグ設立準備事務局へ賛同フォームを提出するよう求めています。募集締切は、2022年12月28日です。
企業にとっては、GXに向けた民間の取り組みを後押しする公的予算が増えることが期待されるほか、消費者に対するブランディング・イメージ向上、人材獲得がしやすくなる、といったメリットが想定されます。
中小企業がGXを推進するうえで活用できる補助金を紹介します。
たとえば、2023年のものづくり補助金にはグリーン枠が設けられ、温室効果ガスの排出削減に資する取組に応じ、革新的な製品・サービス開発または炭素⽣産性向上を伴う⽣産プロセス・サービス提供方法の改善による⽣産性向上に必要な設備・システム投資等を支援する予定です。
事業再構築補助金のグリーン成長枠は、研究開発等の要件を2年から1年に短縮した「エントリークラス」を新設するなど要件を一部緩和するなど使いやすくなる見込みです。
このほかにも、中小企業向けに、省エネ設備投資補助金に複数年の投資計画に切れ目なく対応できる「省エネ補助金」や、導入初期段階にある電気自動車や燃料電池自動車等について、購入費用の一
部補助する「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」、カーボンニュートラルを経営課題として取り組む企業に対して、最大10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援する「グリーンイノベーション基金事業」も予定されています。
政府がGXを重視するようになったため、経済界でも取り組みが広がっています。経産省の2021年12月時点のまとめでは、国内200社以上の企業が「2050年までのカーボンニュートラル」を宣言しています。
経団連と、GXリーグへの賛同企業440社のうち3社の取り組みを紹介します。
経団連は2022年5月、GXの実現に向けた提言をまとめました。政府に対し、GX政策へのグランドデザインを早急に提示するよう求めているほか、エネルギーの供給側・需要側それぞれが取るべき対応についてもまとめています。
エネルギー供給側においては、「自給率の向上、調達先の多角化などエネルギー安全保障の強化が急務」「特に、2030年といったトランジション期においては、原子力をはじめ、既存の技術の最大限活用が不可欠」と指摘しています。需要側では、省エネや電化の加速、自動車の電動化のためのイノベーション加速を掲げています。
参照:経団連の公式サイト「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」(PDF方式)
電力業界はエネルギーの供給側として、化石燃料を主体とした発電から、再生可能エネルギーの主力電源化を目指す取り組みが求められています。
東京電力は2022年3月、GXリーグへの賛同を表明しました。この中で、発電時に二酸化炭素を排出しない「ゼロエミッション電源の開発」と「エネルギー需要の更なる電化促進」の両輪を加速させていく方針を掲げています。
参照:東京電力ホールディングスの公式サイト「『GXリーグ基本構想』への賛同について」
自動車業界は、ガソリンを燃料とする従来の自動車が温室効果ガスを大量に排出することから、電動自動車などエコカーの普及に向けた開発を進めることが求められています。
日産自動車は、2050年までに「クルマのライフサイクル全体(原材料の採掘から、生産、クルマの使用、使用済み自動車のリサイクルや再利用までを含む)におけるカーボンニュートラル」を実現することを目標に掲げています。
そのため「2030年代早期より主要市場に投入する新型車をすべて電動車両とする」との方針を示しています。電動化に向けた技術革新を進めるため、今後5年間で2兆円を投資するとも表明しています。
参照:日産自動車公式サイト「経済産業省『GXリーグ基本構想』への賛同について」
金融業界は環境問題に関わるNGOなどから、化石燃料の採掘や輸送、消費に携わる企業への投融資が問題視されてきました。
三井住友フィナンシャルグループは、GXリーグへの賛同を表明した2022年2月の発表で、投融資ポートフォリオ全体において2050年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言しています。また、自社で排出する温室効果ガスを2030年にネットゼロとする方針も掲げています。
参照:三井住友フィナンシャルグループ公式サイト「『GXリーグ基本構想』への賛同について」
GXを推進する流れを受け、地方自治体でも独自の取り組みが始まりつつあります。
浜松市は、2022年6月に発表した2022年度5月補正予算案に「中小事業者等グリーントランスフォーメーション支援事業」として9億5900万円を計上しました。財源は、5億円超を国の地方創生臨時交付金でまかない、残りは市の一般財源を充てる方針です。
温室効果ガスの排出量を診断する「CO2 排出量等の見える化支援」、照明をLED化する「LED 等導入支援」、老朽化した空調機の更新する「設備更新・省エネ機器導入支援」といった項目で、市内の中小企業・個人事業主に補助する内容です。
参照:浜松市の公式サイト「令和4年度5月補正予算案(第3号)」
2050年カーボンニュートラルの実現のため、日本では今後10年間で官民で合計150兆円の投資が必要と試算されています。企業の資金、民間金融、個人金融、政府資金を組み合わせて、どのように引き出していくかが大きな課題となっています。
経済産業省、金融庁、環境省は2022年8月に「産業のGXに向けた資金供給の在り方に関する研究会」を設置し、議論を進め、12月に施策パッケージとして取りまとめました。
経産省の公式サイトで公表された施策パッケージの一つが、地域・中小企業のGX投資促進にむけた資金供給です。具体的には次の通りです。
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