社長交代後に社員が辞める三つの理由 後を継いだら組織体制の確認を
先代の後を継いだ経営者は、自分より社歴の長い社員にどのような態度を取ればよいでしょうか。コンサルティング会社「識学」の講師陣による事業承継と組織づくりを考えるシリーズ3回目は、後継ぎ経営者が犯しやすい過ちと、それを回避するためのマネジメントの方法を掘り下げます。
先代の後を継いだ経営者は、自分より社歴の長い社員にどのような態度を取ればよいでしょうか。コンサルティング会社「識学」の講師陣による事業承継と組織づくりを考えるシリーズ3回目は、後継ぎ経営者が犯しやすい過ちと、それを回避するためのマネジメントの方法を掘り下げます。
目次
先代の後を継いだ経営者が自分なりの経営スタイルを進めようとすると、社歴が長い社員たちから不満の目を向けられることがあります。こういうときに「社員に辞められたら困る」と考えてしまい、強硬姿勢が取れない経営者は少なくありません。
しかし、経営者の指示が部下に伝わらないような組織でいいはずがありません。この問題に対し、どのような解決策が考えられるでしょうか。
まず、後継ぎ経営者は社員の辞職を過度に恐れないでください。社長の交代後に社員が辞職したとしても、「前社長が大好きだったので辞めます」という人を除けば、承継との間に直接の因果関係はないのです。
ただし、社長の交代後に社員が辞めやすい理由として、次の三つが考えられます。
一つ目の理由は、会社が社員に求める役割が明確になっていないことです。特に古株の社員たちは小さくない愛社精神を持っていますから、社長が代わろうが最初は会社のためによかれと思って仕事をします。素晴らしい行いですから、決して否定してはなりません。
ただ、会社を思う古参社員の行動が全て正しいかどうかは別問題です。明らかに間違った方向へ進んでしまうこともあります。ただ、後継ぎ経営者から「改めてほしい」と指摘されたら、古参社員は「会社のためにやったのに新社長は認めてくれない」と思うでしょう。
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こういうことが何度か続いた後、後継ぎ経営者がルールを設定して対策を講じようとすると、古参社員は今まで自分の裁量で自由に働けていたのに、突然不可となることで「自分たちにルールを合わせるべきだ」と考え始めます。
それは経営者からは利己的な態度に見えてしまいます。結局、そういう社員は「もうこの会社ではやっていけない」という結論に達し、辞職を決断するわけです。
二つ目の理由は評価制度が定まっていないことです。後継ぎ経営者は「いつまでに何をしたら給料はいくらになるか」がはっきり分かる評価制度を作ることが必要になります。
その際、評価に主観的な尺度を用いてはいけません。例えば「コミュニケーション能力の高さ」や「課題解決能力」、「リーダーシップを発揮したか」といった項目で社員を評価していませんか。
自分では「コミュニケーション能力がある」と思っていた部下が、上司に「君はまだまだだ」と一蹴されるだけで相手にしてもらえなかったら、何をどう改善したらよいかが分かりません。
こうした定性評価で給料が決まるとなれば、社員からクレームが出ても仕方ありません。そんな会社に長くいたいと思う社員もいないでしょう。
三つ目は、目標に区切りを設けていないことです。筆者がコンサルティングを担当したある会社では、月に1度総会を開催して、目標の振り返りやMVPの表彰を大々的に行っていました。頻度は多いものの、総会は社員にとって気持ちを切り替えるよい機会になっていたのです。
しかし、後継ぎ経営者はこの総会制度を廃止しました。その結果、社員が次々に辞めてしまったのです。経営者が退職を申し出た社員に話を聞いたところ、「今までのように集中して仕事に取り組むことができなくなりました」と答えたといいます。
一つのことに集中して取り組める期間は3カ月が限界でしょう。3カ月ごとに仕事の出来をジャッジして、良ければ次の目標に向かわせ、できていなければスケジュール変更してまた仕事に向かわせる。
そのタイミングで「もう過去のことは忘れていいよ」と言ってあげると、社員も楽なのです。社員が未来に向かっていくためには、区切りを設けることが有効だと言えます。
三つの理由を振り返ると、後継ぎ経営者の人間性ではなく、打ち出す仕組みによって社員が辞めてしまうわけです。
中には「社員を幸せにすることこそがこの会社の存在意義です」と語る内向き志向の経営者がいます。社員の成長を望まない社長がいてはいけませんが、それを経営理念に入れるべきではありません。
経営理念とはその会社の存在意義です。従って会社が提供しているサービスや商品が、世の中に対してどのように貢献できるのかを示すものでなければならないでしょう。そうでなければ社員が迷ってしまうからです。
仮に「社員第一」を掲げる会社の社員が「私が一番優先したいのは仕事ではなく家族です。仕事の時間を減らして、家族と過ごせる時間を増やしてください」などと要望してくることだってあり得るわけです。
だからといって、その対極の「顧客第一」を掲げる顧客志向が常に正しいわけではありません。顧客のためを思うがゆえに、過剰なサービスや値引きをしてしまう社員が生まれる恐れがあります。
また、夜中の3時や4時に対応を求められても、過度に顧客志向を表明しているのであれば応じないわけにはいかなくなります。
当然、これは間違っています。事前に「営業時間外の問い合わせは、営業開始から2時間以内に対応する」などとルールを決めておくべきです。
後継ぎ経営者が先代からバトンを受けたら、まずは社内組織の運営状況を確認しましょう。以下にチェックポイントをまとめました。
上記のような運営になっていなくても、売り上げや利益が毎年横ばいもしくは右肩上がりの会社があるとします。
そんな会社を率いることになった後継ぎ経営者であれば、変化の必要性を感じにくいでしょう。「どうして業績はいいのに、わざわざ組織改革をしなければいけないのか」と思うわけです。
しかし、これは現状維持思考にほかなりません。社長は社内で誰よりも遠い未来に目線を向けていなければならず、いついかなるときも「これで十分」と満足してはいけないのです。
今までが大丈夫だったからといって、この先も問題なく経営を続けていける保証はどこにもありません。
もし、優秀なプレーヤーが一人いるおかげで業績が堅調なだけだったとしたら、その社員が退職した途端に会社は立ち行かなくなります。人の能力に関係なく結果を残せる状態が正しい組織の姿です。
後継ぎ経営者にとってルールの運用は特に重要です。ルールは社員に徹底して守らせてください。「守らなくても大丈夫」などと思わせることがあってはなりません。
例えば「毎週金曜日の17時30分までに週報を提出する」というルールを設けたとします。もし17時31分に出してきた部下がいたら、その瞬間に始末書を書かせるのです。
厳しいと思うかもしれませんが、一度そうすることによって、本人はもちろん他の社員にも「ルールは守らないといけないもの」という意識を植え付けることができるのです。
後継ぎ経営者が改革を進めるにつれて、反発する社員が現れてくるでしょう。実はこれは組織にとってよい反応です。既得権益を得てきた人たちがあぶり出されたわけですから、気にせず組織改革を続けてください。
たとえ、エース社員に大きく依存している状態でその社員が規律を乱す行動をしていたとしても、後継ぎ経営者は勇気を持って改革を断行しなければなりません。
ただ、マネジメントの経験が浅い経営者だとなかなか割り切れる人は少ないかもしれません。筆者なら「その優秀なプレーヤーを管理職にしましょう」と提言します。
つまり、部下を管理させ、個人成績ではなくチーム全体の成績を評価するのです。規律を乱す人が部下の面倒を見ることができるわけがありません。うまくいかないはずですから、そうなってから、その社員に変化を促してみましょう。
マネジメントは学ぼうとしなければ身に付きません。通常、事業会社の経営者はある程度部下を率いた経験がなければ務まりませんが、後継ぎ経営者はこれに乏しい人が少なくありません。それゆえ、間違ったやり方を貫いてしまい、頭を抱えることになります。
平らな道ではありませんが、マネジメントを学ぶことによって、後継ぎ経営者の負担は確実に軽減されるはずです。
株式会社識学 営業2部 東京3課 課長/シニアコンサルタント
ニューヨーク州立大学サリバンカウンティ校のスポーツマネジメント学部を卒業後、1年ほどスポーツ関係の仕事に従事。水戸ホーリーホックに転職し、トップチームのマネージャーを経験。その後、川崎フロンターレに転職し、集客プロモーションやファンクラブの責任者などを担当する。識学に入社後はこれまで40社、140名のトレーニングに携わる。
(※構成・平沢元嗣)
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