目次

  1. 労働保険料とは
    1. 労働保険料の労災保険料
    2. 労働保険料の雇用保険料率表
    3. 一般拠出金
    4. その他の保険料・印紙保険料
    5. その他の保険料・特別加入の特別加入保険料
  2. 労働保険料の計算方法
    1. 賃金に含まれるもの
    2. 賃金に含まれないもの
    3. 労働保険の年度更新
    4. 労災保険料の計算方法
    5. 雇用保険料の計算方法
    6. 労働保険料計算の具体例
  3. 労働保険料に関する手続き・納付方法
    1. 賃金集計表を作成
    2. 申告書へ記入
    3. 金融機関・管轄労働局・管轄労基署などへ提出
    4. 金融機関持ち込み・口座振替・電子納付のいずれかで納付
  4. 労働保険料の注意点
    1. 2022(令和4)年10月からの天引き雇用保険料に注意
    2. 保険年度中に賃金総額見込みが大幅に変更となる場合
  5. 賃金の集計はこまめにしておきましょう

 労働保険料とは、労働者へ賃金を支払った場合に発生する保険料のことで、管轄の労働局へ納めます。1人法人や労働者のいない個人事業主は払う必要がありませんが、1人でも労働者がいる場合は労働保険料を収めなければなりません。

 労働保険料は、保険年度である前年4月から本年3月末までに支払った賃金に、労災保険料率・雇用保険料率をそれぞれ乗じた金額となります。

 労災保険は、就業中や通勤中の労働災害による傷病・障害・死亡に対して保障を行います。労災保険は仕事に起因する死傷病に対する保険のため、正社員・アルバイト関係なく適用され、保険料は全額事業主が負担することとなります。

 雇用保険は、育児介護休業をする労働者や失業者への給付、事業主への助成金などに使用されます。雇用保険料は、事業主と雇用保険加入者でそれぞれ負担します。

 雇用保険料率は、事業の種類により以下の表のように、9.5/1000・11.5/1000・12.5/1000と3つに分かれています。

2022(令和4)年4月~9月30日までの雇用保険料率表
労働者負担 事業主負担 雇用保険料率
一般の事業 3/1000 6.5/1000 9.5/1000
農林水産・清酒製造の事業 4/1000 7.5/1000 11.5/1000
建設の事業 4/1000 8.5/1000 12.5/1000

 なお、2022(令和4)年10月より雇用保険料率が変更となります。変更の詳細は「雇用保険料の計算方法」で後述します。

 一般拠出金は、労働保険料ではありませんが、労働保険料の納付と併せて申告・納付します。金額は、保険年度中のすべての労働者に支払った賃金に対し、業種を問わず0.02/1000を乗じて算出します。

 一般拠出金は石綿(アスベスト)健康被害者の救済費用に充てられるもので、全額事業主が負担します。

 雇用保険に加入する日雇い労働者についての雇用保険料は、印紙保険料として納付します。賃金に応じた3種類の雇用保険印紙があります。

 納付方法は以下の2つです。

  • 郵便局で雇用保険印紙を購入しておき、日雇労働被保険者手帳に印紙を貼り消印する
  • 印紙税納付計器を用意・印紙税をチャージしておき、日雇労働被保険者手帳にスタンプする

 労働者と同じ業務に従事する中小企業の事業主・1人親方・ITフリーランスなどの特定作業従事者は通常、労災保険の対象となりませんが、労働保険事務組合や特別加入団体を通して労災保険に特別に加入することができます。

 特別加入保険料は、加入の際に自身で選択した給付基礎日額に業務別に設定された保険料率を乗じて算出します。

労働保険料の計算方法と納付方法(デザイン:増渕舞)

 労働保険料は、前年4月から本年3月末の保険年度中に確定した賃金に対して、業種に応じた労災保険料率・雇用保険料率を乗じて計算します。

 「賃金」に含まれるもの・含まないものと、労働保険料を確定する作業「労働保険の年度更新」、保険料の計算方法について紹介します。

  • 基本給
  • 賞与
  • 通勤手当(定期券など現物含む)
  • 時間外・深夜手当
  • 扶養・子供・家族手当
  • 技能・特殊作業・教育手当
  • 在宅勤務手当
  • 地域手当
  • 調整手当
  • 住宅手当
  • 奨励手当
  • 休業手当
  • 宿直・日直手当
  • その他、就業規則などによってあらかじめ支給条件が明確にされたもの

 基本的には手当名称に左右されず、労働の対償として支払うすべてが賃金に含まれます。

  • 役員報酬
  • 慶弔見舞金
  • 実費弁償と考えられる出張旅費・宿泊費・赴任手当
  • 財形貯蓄奨励金・持株奨励金
  • 会社が全額負担する生命保険の掛け金
  • 解雇予告手当
    など

(参考:労働保険対象賃金の範囲 p.14|厚生労働省

 保険年度中の賃金に料率を乗じて労働保険料を確定し、来年度の概算保険料を計算して申告・納付することを労働保険の年度更新といいます。 

労働保険の年度更新の仕組み
労働保険の年度更新の仕組み・筆者作成

 従業員がいる事業を継続していると、毎年5月にA4サイズの封筒が事業所に届きます。この中には、労働保険番号、事業所在地、名称、保険料率が印字された「労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書」と、記入方法のリーフレットが入っています。

 申告・納付は6月1日から7月10日までの間に行います。手続きが遅れると政府が保険料・拠出金の額を決定し、さらに追徴金を課す場合がありますので封筒が届いたらすぐに中身を確認し、届け出ましょう。

 概算保険料は、基本的に前保険年度の賃金総額を用いて計算しますが、次の場合は見込みの賃金総額を用いて計算します。

  • 賃金総額が前保険年度の2倍を超える場合
  • 賃金総額が前保険年度の1/2未満となる場合

 労災保険料は、保険年度中のすべての労働者に支払った賃金に対し、業種に応じた労災保険料率を乗じて算出します。

 労災保険料率は、事業の種類により2.5/1000〜88/1000と危険度に応じて細分化されています。2018(平成30)年より変更はありません(参考:令和4年度の労災保険料について~令和3年度から変更ありません~|厚生労働省)。

 雇用保険料は、保険年度中の雇用保険加入者へ支払った賃金に対し、雇用保険料率を乗じて算出します。

 2022(令和4)年10月より雇用保険料率が変更となります。

2022(令和4)年4月~9月30日の雇用保険料率表
労働者負担 事業主負担 雇用保険料率
一般の事業 3/1000 6.5/1000 9.5/1000
農林水産・清酒製造の事業 4/1000 7.5/1000 11.5/1000
建設の事業 4/1000 8.5/1000 12.5/1000
2022(令和4)年10月1日~2023(令和5)年3月31日の雇用保険料率表
労働者負担 事業主負担 雇用保険料率
一般の事業 5/1000 8.5/1000 13.5/1000
農林水産・清酒製造の事業 6/1000 9.5/1000 15.5/1000
建設の事業 6/1000 10.5/1000 16.5/1000

(参考:令和4年度雇用保険料率のご案内|厚生労働省

 概算保険料はすでに申告済みと思いますので、雇用保険に加入している従業員給与の天引きに注意しましょう。この計算については「労働保険料の注意点」で後述します。

 次の条件で確定・概算の労働保険料を計算してみます。

  • 2021年度の概算保険料として4万円を納付済み
  • 2021年度中にアルバイト5名に200万円、雇用保険加入従業員1名に300万円の賃金を支給
  • 2022年度はアルバイトを1名増やし賃金総額が40万円増加の見込み
  • 2022年4月~9月分の雇用保険加入従業員の賃金が150万円の見込み
  • 2022年10月~2023年3月分の雇用保険加入従業員の賃金が150万円の見込み
  • 飲食店
確定の労災保険料:(200万円+300万円)×3/1000=15,000円
確定の雇用保険料:300万円×9/1000=27,000円
(2021《令和3》年度の雇用保険料率は一般事業9/1000)
確定労働保険料:15,000+27,000=42,000円
一般拠出金:(200万円+300万円)×0.02/1000=100円

 条件から2022年度の賃金総額見込みは540万円となり、2倍越え・1/2未満の条件に当てはまらないので、概算保険料の計算には2021年度の賃金総額を使用します。

概算の労災保険料:(200万円+300万円)×3/1000=15,000円
概算の雇用保険料:4月~9月分:150万円×9.5/1000=14,250円
10月~3月分:150万円×13.5/1000=20,250円
概算労働保険料:15,000+14,250+20,250=49,500円
※一般拠出金の概算計算は必要ありません

 よって納付する労働保険料・拠出金 の金額は以下となります。

42,000(確定労働保険料)−40,000(納付済み概算保険料)+49,500(概算労働保険料)+100(一般拠出金)=51,600円

 これまでの内容をおさらいしつつ労働保険料に関する手続きを見てみます。目安としては、3月分の給与が確定してすぐ集計表の作成を開始するとよいでしょう。

 手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 賃金集計表を作成
  2. 申告書へ記入
  3. 金融機関・管轄労働局・管轄労基署などへ提出
  4. 金融機関持ち込み・口座振替・電子納付のいずれかで納付

 それぞれを解説していきます。

 保険年度中の確定保険料を計算するために「確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表」を作成します。集計表は年度更新の封筒に同封されていますが、厚生労働省サイトでも公開されています(参考:労働保険関係各種様式|厚生労働省)。

 年度更新の封筒が届いたらすぐに中身を確認し、賃金集計表を見ながら申告書へ記入しましょう。

 年度更新時期には労働局に臨時の相談窓口が設けられますので、受付方法などを事前に確認して、相談しながら記入してもよいでしょう。

 記入した申告書を提出します。提出は郵送も可能です。労働局・労基署へ提出した場合は、申告書下部の納付書が切り取られて戻されます。金融機関へ提出した場合は、提出と同時に保険料の納付ができます(参考:取扱金融機関について|厚生労働省)。

 口座振替を希望する場合は、事前に引き落とし口座のある金融機関へ口座振替依頼書を提出します。年度更新の締切である7月10日に間に合わせるためには2月25日までに口座振込の申込が必要です(参考:労働保険料等の口座振替納付|厚生労働省)。

 口座振替の場合には、納付書を利用して窓口で納付する必要はありません。

 納付書で納付する場合は、金融機関へ現金と併せて持ち込みます。電子納付の場合にはe-govからPay-easy(ペイジー:税金・各種料金払込みサービス)を利用して納付します。

 また、概算保険料が40万円以上(労災・雇用保険どちらか片方成立の場合は20万円)の場合は保険料の納付回数を3回に分割できます。分割する場合は、申告書の納付回数部分に回数を記入して申告しましょう。

 最後に労働保険料に関する注意点を解説します。

 2022(令和4)年10月に雇用保険料が変更となります。料率については「雇用保険料の計算方法」の表をご確認ください。

 実務としては雇用保険料の天引き料率に注意しなくてはなりません。雇用保険料率は給与(賃金)が確定した月のものが適用されます。

 例えば、「一般の事業、月給25万円、月末締め翌月15日払い」の雇用保険加入従業員については、11月15日払い給与から料率を3/1000から5/1000で計算します。

  • 10月15日払い給与までの雇用保険料 25万円×3/1000=750円
  • 11月15日払い給与からの雇用保険料 25万円×5/1000=1,250円

 5日締め当月20日払いの場合には、10月20日払い給与から変更後の5/1000で雇用保険料を計算します。

 事業拡大による従業員増などで賃金総額の見込みが2倍以上になる場合や、申告済みの概算保険料と13万円以上の差額が発生する場合には増加概算保険料の申告と納付が必要です。

 申告・納付を忘れた場合、次の年度更新で確定保険料の増加に影響を受けるので、大幅な保険料増が見込まれたときには申告・納付することをおすすめします。

 労働保険の年度更新締切は毎年7月10日(土日祝の場合は翌日)です。年度更新の封筒が届いて保険年度中の賃金集計に焦らないよう、こまめに月毎の賃金総額・雇用保険加入者の賃金総額を集計しておくとよいでしょう。