貸倒引当金はどんな勘定科目?仕訳例や正しく使うための基本知識を紹介
貸倒引当金という勘定科目は、所得税や法人税など計上前に理解しておくべきことが多く、扱うときは注意が必要です。この記事では貸倒引当金の仕訳方法や税法上・会計上の取り扱いについてわかりやすく解説しています。仕訳を起票する際に参考にしてください。
貸倒引当金という勘定科目は、所得税や法人税など計上前に理解しておくべきことが多く、扱うときは注意が必要です。この記事では貸倒引当金の仕訳方法や税法上・会計上の取り扱いについてわかりやすく解説しています。仕訳を起票する際に参考にしてください。
目次
貸倒引当金がどのような勘定科目か、そもそもの定義と関連付く勘定科目について解説します。
貸倒引当金とは、将来、発生が予想される貸倒れを事前に見込んで、先に処理するときに使われる勘定科目です。貸倒れとは、会社に将来入金を予定している債権に対して入金されないという事態のことを指します。
なお、この将来を予測して計算することを会計では「見積り」と言います。
貸倒引当金を計上すると、貸借対照表の債権額から貸倒引当金分が差し引かれます。それによって、会社が有している債権のうち、貸倒れにならずにきちんと入金される額を貸借対照表から予想できるようになります。
貸倒引当金は貸借対照表に計上する勘定科目ですが、計上する際に関連する勘定科目が3つあります。以下で紹介します。
貸倒引当金繰入額とは、貸倒引当金を計上する際に、あわせて使われる損益計算書上の勘定科目です。
貸倒引当金繰入額は、売掛金や未収金など、営業に関する債権に対して貸倒引当金を計上する際には、販売費及び一般管理費に計上されます。一方、貸付金など営業とは関係ない債権に対して貸倒引当金を計上する際には、営業外費用に計上されます。
なお、大型取引先の急な業績悪化などで多額で臨時的に貸倒引当金を計上する場合があります。その場合には、特別損失に計上されることもあります。
このように発生の仕方によって計上される場所が変わるのが、貸倒引当金繰入額という勘定科目の特徴です。
貸倒引当金戻入額とは、貸倒引当金を減額する際に使用する損益計算書上の勘定科目です。
貸倒引当金は、将来の貸倒を予想して計上する科目です。幸運にも予想が外れて貸倒れが発生せず、全額入金されることがあった場合、貸倒引当金を減らすことができます。貸倒引当金戻入額は、その際に使われる勘定科目です。なお、損益計算書上では利益側の勘定科目になります。
貸倒損失とは、予想していなかった貸倒れで貸倒引当金を計上していない際に計上される損益計算書の勘定科目です。貸倒損失が発生する場合は、多額で臨時的に発生することが多く、その場合は特別損失で計上されます。
貸倒の金額が大きくない場合は、発生した債権の性質に応じて計上することになります。
貸倒引当金を使う主なシーンと仕訳例を紹介します。
貸倒引当金を使うのは基本的に決算のタイミングです。決算時の債権に対して、予想貸倒率を用いて計算します。予想貸倒率の算出方法は後ほど紹介します。
【例】決算に際し、1,000,000円の債権があり、貸倒率が1%と見積もられた。貸倒引当金10,000円を計上する。なお、前期以前に貸倒引当金は計上していない
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入額 | 10,000円 | 貸倒引当金 | 10,000円 |
貸倒引当金は毎期末の債権額に貸倒率を乗じて算出します。毎期末の債権額は営業していれば異なってくるものです。貸倒率も実際に貸倒れが発生すると悪化、貸倒れが発生しなければ良化と変化します。そのため、毎期末に貸倒引当金の金額を見直し、その際は会計処理を行います。
なお、処理の方法には差額補充法と洗替法という2つの方法があります。
差額補充法とは、決算日時点で残っていた過去に計上した貸倒引当金に対し、今回計上する貸倒引当金になるよう、差額分を補充する方法です。
ただ、差額補充法は、後述するとおり、法人税の申告書など決算関係書の書類が作りづらくなってしまうことから、実務ではあまり採用されていません。
【例】前期末に計上した貸倒引当金が8,000円残っていた。当期末の貸倒引当金は10,000円と見込まれている。自社では、差額補充法を用いて計上している
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入額 | 2,000円 | 貸倒引当金 | 2,000円 |
洗替法とは、期末において残っている貸倒引当金を戻入額でゼロにしてから、今期末に計上すべき貸倒引当金を計上することです。
なお、法人税の申告書を作成する際は、洗替法にて記入するのが一般的です。そのため、実務上は、洗替法を採用して会計処理を行うことが多いです。
【例】前期末に計上した貸倒引当金が8,000円残っていた。当期末の貸倒引当金は10,000円と見込まれている。自社では、洗替法を用いて計上している
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金 | 8,000円 | 貸倒引当金戻入額 | 8,000円 |
貸倒引当金繰入額 | 10,000円 | 貸倒引当金 | 10,000円 |
実際に貸倒れが発生した場合はいくつかのパターンがあります。
①当期に発生した売掛金について貸倒れが発生して、貸倒引当金を計上していないケース
②前期末以前の売掛金が貸倒れになり貸倒引当金を計上していたケース
なお、法人税法などでは、貸倒れとするには、後述しますが形式要件が定められています。貸倒損失を計上するまでは複数年かかることがほとんどです。貸倒損失は慎重に計上しましょう。
【例】前期から引き続いていた売掛金5,000円が貸倒れになった。当該債権に対しては貸倒引当金を4,000円計上していた
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒損失 | 5,000円 | 売掛金 | 5,000円 |
貸倒引当金 | 4,000円 | 貸倒損失 | 4,000円 |
貸倒引当金は法人税や所得税の計算にも大きな影響を与えるため、貸倒引当金という勘定科目を使うときには、あわせて知っておくべきことが多くあります。順番に紹介します。
貸倒引当金は、債権に対して計上されることは前述した通りです。ただ、法人税法では、貸倒引当金の計算において、対象となる債権・ならない債権を定めています(法人税法52条の2、法人税法施行令96条)。一部を紹介します。
【対象となるもの】
売掛金、貸付金、受取手形、資産の譲渡対価の未収入金、役務提供の対価の未収入金など
【対象とならないもの】
保証金、敷金、預け金、手付金、預貯金の未収入金、未収配当金など
その他のものに関しては、対象となる資産は法人税法基本通達11-2-16、対象とならない資産は法人税法基本通達11-2-18に規定がされています。詳しくは、国税庁の法令解釈通達「第3款 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金」をご覧ください。
貸倒引当金は、貸借対照表において貸方に計上されず、資産の部にマイナスを付して計上されます。
これは、貸倒引当金が、会計上の言葉として「評価勘定」という性質を持つからです。評価勘定と呼ばれるものは、他に減価償却累計額などがあり、資産の下にマイナスを付すことで、貸借対照表上の資産の実際の評価額を判明させます。
誤って負債の部に計上しないようにしましょう。
貸倒引当金は、法人税法や所得税法で損金や経費にできる金額の算定方法が決まっています。
算定方法はいくつかあり、法人の規模などで適用できるものも異なります。例えば、期末資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人であれば、以下の法定繰入額率を用いて正常先の債権に対して貸倒引当金の計算をすることができます。
主たる事業の区分 | 法定繰入額率 |
---|---|
製造業(電気業、ガス業、熱供給業、水道業および修理業を含む) | 1.0% |
製造業 | 0.8% |
金融・保険業 | 0.3% |
割賦販売小売業者 | 0.7% |
上記以外の事業 | 0.6% |
タックスアンサー/No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定丨国税庁をもとに筆者作成
他にも、過去3年の貸倒実績率を算定して、計上する方法があります。また、債務者の財務状況が悪化し弁済猶予などがあると、個別に評価します。
これらの計算方法は複雑ですので、実際に計算する際には、税理士に問い合わせすることをおすすめします。
貸倒引当金は、貸倒れに備えて計上するもので、実際に貸倒れとなる債権もあります。
しかし、貸倒損失を計上すると、法人税、所得税ともに所得が減少します。そのため、法人税法、所得税法ともに貸倒損失を計上するためには、客観的に見ても貸倒れしていると認められる状況にないと貸倒損失をすることができません。例えば、更生計画認可の決定による債権額の切り捨てが行われた場合など、法人税法上で決まっています(参照:法令解釈通達/第1款 金銭債権の貸倒れ/法人税基本通達9-6-1丨国税庁など)。
この要件に関しても、判断が難しいものになりますので、会計処理を行う際には税理士に問い合わせることをおすすめします。
貸倒引当金または貸倒損失に関しては、法人税法などに非常に複雑で細かく決められています。これに則って処理を行わないと、税務上、大きく不利になってしまい、法人税や所得税が増加してしまう可能性のある怖い勘定科目です。
そのため、処理を行う際には慎重に実施しましょう。税理士にもぜひ頼ってもらいたい勘定科目です。
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