目次

  1. 平家キャビアとは
  2. 10年かけて実現した新規事業
  3. 台風14号で壊滅的被害
  4. 振り返ると チョウザメに生かされてきた
  5. 復興への道のり、支援者に公開

 平家キャビアとは、日本三大秘境の一つ、平家の落人が逃げ延びてきたという伝説の残る椎葉村で養殖されたチョウザメからとれる卵のブランドです。

平家キャビア(以降の写真はキャビア王国提供)

 キャビアは生臭さで敬遠する人もいるなか、平家キャビアは養殖場をきれいな環境に保つことを心がけ、さらに餌は大豆タンパクを使用して臭みの少ない「日本人の舌に合うキャビア」に仕上げたと、鈴木さんは言います。

 世界では、キャビアの需要が伸びていますが、親であるチョウザメの多くは深刻な絶滅の危機にあります。平家キャビアは、欧州でも養殖が盛んなシベリアチョウザメの卵です。

 鈴木さんは2008年に事業を開始し「養殖が一般的になれば、チョウザメを乱獲から救える」という目標を掲げています。

 毎年のように台風被害に遭い、2015年には育てていたチョウザメがいたずらで大量死。それでも事業をあきらめず、10年近くかけて販売にこぎ着け、2021年には600キロのキャビアを生産できるまでになりました。

チョウザメの養殖に取り組んできた「キャビア王国」代表取締役の鈴木宏明さん

 そんな鈴木さんを襲ったのが2022年9月の台風14号でした。九州を中心に西日本で記録的な大雨や暴風となり、政府は台風14号の被害を「激甚災害」に指定しました。

 これまでの台風の教訓で入念な対策をしてきたはずの養殖場にも大きな被害が出ました。いつもならチョウザメを心配して養殖場に張り付く鈴木さんも、台風14号は「今までとは規模が違う」と身の危険を感じて近づけなかったといいます。

 台風が過ぎ去ってから養殖場に向かおうにも途中の道路は崖崩れですっかり削り取られていました。崖を上り下りしてようやくたどり着くと、養殖場の周りにたくさんのカラスが群がっているのが目に入りました。

チョウザメを養殖していたプール。台風14号で半分以上が土砂で埋まってしまった

 嫌な予感がして駆け寄ると、池が土砂で埋まり、チョウザメたちが外に押し出されて死んでいました。ほかの池も泥で水が濁り、息も絶え絶えという様子で仰向けになったチョウザメが浮かんでいました。

 毎年、台風がやってくる地域でも過去にないくらいの被害。壊れた設備も多く、鈴木さんは「絶望でした……」と言葉少なに振り返りました。

 生きているチョウザメだけをどうにか、救い出しましたが、その後は何も手に付かず1週間ぐらいが過ぎました。

 「正直、続けるのはもう無理だろう」「ビジネスとして終わった」。

 そんな考えもよぎるなか、改めて「なぜキャビア事業をやっているのか」と自分に問い直しました。

 チョウザメの養殖は、事業化する前から、鈴木さんの父親が取り組んでいたことでした。しかし、事業化には至らず、10年ずっと赤字状態。

 地元・椎葉村にUターンした鈴木さんは「もうやめた方がよい」と進言し、それでも続けようとする父親の姿に「水を止めてチョウザメたちが死んだらあきらめられるかもしれない」と何回も思ったこともあったそうです。

 しかし、毎日チョウザメの世話をするうちに、愛着がわき、キャビアをつくれるようになると楽しくなり、事業にのめり込むようになりました。

 気がつけば人生の3分の1をチョウザメの養殖に捧げていました。キャビアを通じていろんな人との出会いが生まれ、Uターン直後は地元で居場所のなかった自分を救ってくれたのはチョウザメだった、という思いがよみがえりました。

 「これまでの自分の人生を否定したくない。チョウザメに恩返しがしたい。養殖が当たり前の世の中にして乱獲から救いたい」

 道路の整備、給水口の整備、壊れた池の再建費用、埋まった池の土の除去、死んでしまった魚達の処理、土砂で流された倉庫の整備、再度土砂崩れが起きないための予防整備、3〜4歳の魚の買い付け……。

 1億円を資金調達しないと再建は難しい状況でした。

 養殖事業で得た利益をすべてつぎ込み、会社の株を放出して4000万円の出資を取り付け、そしてMakuakeのクラウドファンディングでも支援を募ることにしました。記事「台風被害からの復活!平家キャビアを未来につなげていくためのキャビア王国民を募集!」で12月2日から支援を募っています。

 「少しでも復興に役立ててほしいとキャビアのリターンを固辞される支援者もいますが、僕はぜひ食べてもらって、平家キャビアのファンになってほしいんです」

 9日時点で580万円が集まっています。支援者に向けては今後、Facebookグループを作り、復興までの道のりを伝えていく予定です。