目次

  1. 認知度が1年で大幅アップ
  2. サステナビリティ経営の伸びしろ
  3. サステナビリティ経営のメリット
  4. 「人材不足」を解決するには
  5. 金融機関や税理士がカギに
  6. 「太陽政策」で中小企業に広める

 サステナビリティ経営をテーマにした大同生命サーベイは22年9月に実施し、全国8033社(うち6割が大同生命契約企業)が対象になりました。

家森信善(やもり・のぶよし) 1963年、滋賀県生まれ。姫路獨協大学助教授、名古屋大学大学院経済学研究科教授、名古屋大学総長補佐などを経て、2014年から神戸大学経済経営研究所教授。専門は金融論。

 家森教授はサステナビリティ経営について「明確な定義はありませんが、一般的に環境や社会への配慮と事業の持続的成長を長期的に両立する経営を指します」と語ります。

 調査によると、サステナビリティ経営について「名称・内容ともに知っている」と答えた経営者は43%にのぼり、21年10月調査の回答から27ポイントも上昇していました。

図表はすべて「大同生命サーベイ」(2022年9月度)から引用

 家森教授はその要因について、SDGs(持続可能な開発目標)の浸透を挙げます。「SDGsはサステナビリティ経営の概念の一部を具体化したものです。世界的課題として気候変動や環境保全、ダイバーシティー、働き方などへの関心が高まり、SDGs達成への機運が盛り上がっています。その結果、サステナビリティ経営を自分事化する経営者が増えた結果だと思います」

 また、回答を従業員規模別に分類すると、従業員21人以上の企業では「名称・内容ともに知っている」という回答が60%でしたが、5人以下では34%にとどまり、規模が小さくなるほど認知度が下がる結果になりました。

 家森教授は「CO₂削減など環境面を中心に、欧州でサステナビリティ経営が進んでいます。欧州でビジネスをする企業は、そうしたスタンダードに対応しないといけないというのも大きいでしょう。中小企業は欧米と直接取引しているケースは少なく、直接的な影響は今のところ薄いのでしょう」。

 ただ、製造業のようにサプライチェーンが数多く連なれば、上流の大手企業が「サステナビリティ経営」にシフトすることで川下の中小企業も追随を求められる可能性が高まっています。

 「欧米と取引するグローバル企業が、CO₂の排出量をしっかり測っている中小企業としか取引ができなくなる可能性があります。少しずつ準備しておかないと、ある日はしごを外されるかもという心配が広がっており、中小企業でもサステナビリティ経営への意識は高まっていると思います」

 では、サステナビリティ経営を本格的に取り入れている中小企業はどのくらいあるのでしょうか。取り組み状況を複数回答で尋ねると、「本業に取り入れている」(7%)、「間接的に取り入れている」(21%)、「新たな商品・サービス開発を実施している」(4%)という回答があった一方、「今後も取り組む予定がない」という答えも31%にのぼりました。

 しかし、家森教授はこの結果を「伸びしろがある」とポジティブに捉えています。

 「残りの約7割は何らかのアクションを起こしたり、関心を持ったりしているということです。サステナビリティ経営を担う人材の育成といった壁を乗り越える方法さえ見つけられれば、中小企業でも一気になだれを打つのではないでしょうか」

 一方、「取り組む予定がない」と答えた企業にその理由を聞くと、39%が「取り組むメリットが見いだせない」と回答しています。しかし、この結果について家森教授は「本当はメリットがあるはずなのに、気がついていないということではないでしょうか」と言います。

 「包装素材メーカーが豚肉専用の真空包装機を開発し、長期間品質を維持できるようにしたことで、フードロス解消に寄与し、新しいマーケットの創出に成功した例もあります。従来のことだけやってたら、規模の大きいところに勝てません。今はサステナビリティ経営で違うものを作れるチャンスかなと思います」

 調査では、サステナビリティ経営に前向きな企業に具体的な取り組みを尋ねたところ、従業員の安全・健康への配慮(67%)、従業員の働きやすさ・働きがいの両立(61%)が上位を占めました。

 「働き方改革は気候変動などほかの施策に比べて取り組みやすい面があります。加えて、中小企業の最大の経営課題である従業員確保に直結しています。昨今はウェルビーイングという言葉もよく聞かれるようになりました。働き方改革を進めないと、会社が持続できないと思う経営者が増えているということだと思います」

 また、サステナビリティ経営で得られたメリットでは「コスト削減」(52%)という定量的なものがトップになった一方、「従業員の意識変化」(32%)、「環境や社会への配慮による他社との差別化」(同)という数字では測りにくいメリットも上位に入りました。

 調査の自由回答ではサステナビリティ経営の具体的な実践例として、「木育」や廃棄される米ぬかや酒かすなどで作った肥料の再利用などが挙がりました。

 家森教授は「今までごみと思ってたものが価値を生む、あるいはごみそのものを出さないようにする仕組みなど、中小企業にとってチャレンジしがいのある局面になっています。子どもたちに胸を張って取り組める仕事は、従業員のやりがいにつながります」と語ります。

 一方で、サステナビリティ経営に前向きな企業も、進めるにあたっての課題を感じています。調査によると、最も多かった回答は「人材不足」で40%を占めました。「資金不足」(17%)や「相談・提携先が見つからない」(16%)という回答を大幅に上回っています。

 サステナビリティ経営に欠かせない人材育成をどのように進めればいいのでしょうか。家森教授は「企業理念の共有」と「経営者のリーダーシップ」が重要といいます。

 「何かやりたいことを実現するためにビジネスという手段を使う。そうした長期目標を掲げる企業理念は、サステナビリティ経営やSDGsとも整合性があります。短期的な金もうけではなく、理念に共感してもらうようにしないと、会社が迷走する可能性があります」

 「中小企業で社長のリーダーシップは圧倒的です。トップがサステナビリティ経営を進めるとなれば従業員も動きます。日本の経営層は高齢化が進んでいますが、一般的に事業承継されると再成長する会社は少なくありません。視野が広く新しい感覚を持った若い経営者にうまくバトンタッチすることで、サステナビリティ経営のような新しいことを進めるチャンスになると思います」

 サステナビリティ経営を浸透させるには、関心があるけれどハードルを超えられず、尻込みする企業へのサポートが必要です。

 調査で「実際に役立った(希望する)支援」を聞いたところ、「融資や補助金等による支援」(26%)と「顧問税理士・会計士への相談」(22%)が上位にあがりました。

 ただ、CO₂の排出削減などサステナビリティ経営に絡む融資制度や補助金は少なくありませんが、中小企業は実際にどのメニューを選べばいいかわからないというのが切実な悩みです。専門のコンサルタントと契約できる中小企業も限られます。

 家森教授がキーパーソンに挙げるのは、地域金融機関と顧問税理士です。

 「金融機関の職員は中小企業の社長に近く、すぐに会える関係です。年間12回訪問するうち1回分でもサステナビリティ経営に関する話をすれば、意識を高められるのではないでしょうか」

 「コンサルタントや顧問弁護士がいない中小企業にとって、広い意味での専門家が顧問税理士になります。熱心に経営指導に取り組む税理士も少なくありません。サステナビリティ経営に役立つ補助金を教えてもらい、公的機関につないでもらうことなどが考えられます」

 サステナビリティ経営はこれまで「CO₂排出量を見える化しなければサプライチェーンに残れない」といったリスクを訴える「北風政策」が目立っていました。しかし、家森教授はメリットを伝える「太陽政策」も推進に欠かせないと強調します。

 「リスクを強調するばかりだと、体がすくんでしまいますよね。しかし、みんなが前向きな気持ちにならないとビジネスは変わりません。サステナビリティ経営で成功していたり、チャレンジして前に進んでいたりする事例をどんどん出し、経営者にコートを脱いでもらうようにするのがいいのではないでしょうか」

 SDGsが世の中に大きく浸透し、サステナビリティ経営という言葉は経営者にも浸透しつつあります。もう一歩踏み出せば、下降線をたどる日本経済をもう一度押し上げる原動力になるかもしれません。

 家森教授はこう話します。

 「様々な努力を重ねたことで、中小企業経営者は観客として劇場の席に座るようになりました。次はサステナビリティ経営の舞台に上がるフェーズに入るでしょう」