目次

  1. ITエンジニア歴23年から家業へ
  2. AIが助言「広告や営業に力をいれましょう」
  3. 数千のデータもすぐに分析 営業先を提案
  4. 「スタッフが繰り返しの作業から解放されるように」

 日本木材は、長谷部さんの父、溝口正さんが商社の木材部に所属していたころ、駐在先のインドネシアに惚れ込み、現地で独立開業したのがルーツです。当初は、現地で合弁会社を立ち上げ、製材に取り組んでいましたが、その後、日本に戻り、木材加工品等の輸入販売を手がけています。

インドネシアでの人脈と専門的な知識をもつ日本木材の溝口正会長
インドネシアでの人脈と専門的な知識をもつ日本木材の溝口正会長

 父が単身赴任だったため、長谷部さんはインドネシアの木材と深くかかわることなく育ちました。大学卒業後は、NTTに入社。23年間エンジニアとして勤めました。

 企業のLANネットワークを構築したり、手挙げ出向して社内研修などのEdtechサービスの立ち上げ、開発、運用、プロジェクトマネージャに従事したりと「ハードからアプリ開発まで一通り経験することができました」

インドネシアの現場の様子

 その後、父と話す機会が増えるなかで、インドネシアでの人脈と専門的な知識は唯一無二だと気づき日本木材へ入社。取引データを電子化したり、会計ソフトを導入したりするなどIT化を進めるなかで、在庫管理も適正化できるようになり、財務状況は改善していったといいます。

 そして、2024年4月に事業承継し、長谷部さんが代表取締役に、父が会長に就きました。

 そんなときにやってきたのが、AIブーム。「新しもの好き」という長谷部さんはさっそくあれこれと触ってみます。

NotebookLMの利用イメージ

 まず手ごたえを感じたのが、財務分析です。会計ソフトにため込んでいた財務データを、GoogleのAIツールの一つ、NotebookLMに読み込ませて分析しました。NotebookLMは、読み込ませた資料の分析、情報整理などを得意としています。NotebookLMには次のように指示を出しました。

アップしたファイルは弊社の決算資料です。以下の経営指標について過去3年分を求めた上で評価し、木材専門商社として今の企業規模を踏まえた具体的な改善案を提示してください。
なお、売上利益は、緩やかに伸ばしていきたいと考えています。
◆主な経営指標
#成長性
売上高増加率
営業利益増加率
#収益性
売上総利益率
営業利益率
経常利益率
税引前利益率
売上原価率
売上高販売管理費率
#流動性
流動比率
#効率性
棚卸資産回転率
棚卸資産回転期間
#安全性
株主資本比率

 すると、NotebookLMは財務分析をしたうえで「もっと広告や営業に力を入れましょう」というアドバイスを返してきました。

 日本木材が輸入している木材は、店舗や公園などで使われているウッドデッキの材料や、家の建材や内装に使われており、多くの取引先は卸売会社です。新たな販路開拓に向けて、アドバイスにあった展示会に出展することにしました。

 実際に展示会に出てみると、新しい企業から引き合いが来るなど、少しずつチャンスが広がり始めたといいます。

展示会に出展した日本木材のブース
展示会に出展した日本木材のブース

 木材を扱うなかで大変なのが、在庫や過去取引の分析です。同じ種類の木材でも長さや幅、厚みが違うと、それは別の項目で扱います。そのため、取引や在庫データ数は数千あり、管理も分析も大変になります。

 入社後、在庫をGoogleスプレッドシートで管理していた長谷部さん。このデータをスプレッドシートとの連携が簡単な生成AI「Gemini」に分析させます。

受注日が空欄の場合、その商品は在庫として存在していることになります。
縦、横、長さの各サイズごとに現在の在庫を集計し、グラフ化して表示してください。

 最初に見えてきたのは、なかなか売れずに滞留している在庫品です。これまでは受注日付別、サイズ別に需要予測しなければならず、分析に半日かかっていました。しかし、Geminiは5分で回答してきました。

インドネシアからの輸入木材
インドネシアからの輸入木材

 特定のサイズの在庫が多いことが見えてきました。そこで、在庫が増えているサイズの木材を仕入リストから外すことができました。

 次に提示してきたのが、営業当たり先です。これまでは、販売実績をもとに1日かけて売れ筋を分析してきました。一方のGeminiは、データの中から特殊なサイズの木材を2年に一度だけ購入している卸先を5分で特定。最近、このサイズでの注文がなかったことも見えてきました。

 「なんとなく感覚的にとらえていたことを具体的なデータで示してくることに感動しました」

 これまで、メールのレスポンス向上のための文章提案や、今週のスケジュール確認、スケジュール調整、顧客からもらった紙データのデジタル化、多言語音声から議事録作成など様々な使い方を試してきました。

 長谷部さんの次の目標は、スタッフにも使いこなしてもらうことです。

 「取引先によっては紙ベースでのやりとりも一部続いています。データの転記や、請求書・納品書の読み込み、営業資料の作成など繰り返しのある作業も少なくありません。そんな作業をお願いしているスタッフの負担を軽くできないか。そして新しいことにチャレンジする時間を作れないか。そんな使い方ができるようにオススメしてみようと思います」