目次

  1. 雇用契約とは わかりやすく図解
    1. 雇用契約とは労働者との関係を結ぶ契約
    2. 雇用契約の種類
    3. 雇用契約と労働契約の違い
    4. 雇用契約と業務委託契約の違い
  2. 雇用契約に必要な2つの書類
    1. 労働条件通知書
    2. 雇用契約書
  3. 雇用契約を結ぶ3つの手順
  4. 雇用契約で実際にあったトラブル3選
    1. 雇用契約の解除・終了に関するトラブル
    2. 給与額に関するトラブル
    3. 退職の申し出、引き継ぎに関するトラブル
  5. 雇用契約のトラブルを回避するためのポイント3選
    1. 必要記載事項を漏らさず正確に記載する
    2. 不利益変更や契約更新する場合は契約を再締結する
    3. 雇用契約書は5年間保管する
  6. 雇用契約の内容は双方明確に合意しましょう

 雇用契約の概要や種類を解説します。あわせて、労働契約や業務委託契約との違いについて紹介します。

雇用契約の概要とトラブルの回避方法
雇用契約の概要とトラブルの回避方法(デザイン:増渕舞)

 雇用契約とは、会社が従業員を雇用する際に結ぶ契約です。雇用契約は、従業員は「会社の業務に従事すること」を、会社は「対価として報酬を支払うこと」を、双方が合意することによって成立します。会社ではなく個人事業主と従業員の間で交わされるときもありますが、この記事ではわかりやすいように、会社とまとめて表現します。

 法律上、契約書の締結は雇用契約成立の条件となっていないため、口頭での合意であっても、会社と従業員が合意すれば雇用契約は成立します。

 一方で、会社と従業員との関係は必ずしも対等ではなく、通常は会社の方が強い立場にあります。そこで、従業員を保護するために、雇用契約には労働基準法が適用されています。

 雇用契約には、正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイト、などいくつかの種類があります。これらは法律上の定義があるわけではありませんが、通常は以下の特徴により分類されています。

  • 正社員……雇用期間の定めがなく、フルタイムで働く社員。
  • 契約社員……雇用期間の定めがある社員。フルタイムで働く場合とパートタイム(フルタイムではない時間数)で働く場合がある。
  • パートタイマー……パートタイムで働く社員。雇用期間の定めがあるケースが多い。
  • アルバイト……パートタイマーとほぼ同義で用いられている。

 つまり、①雇用期間(有期雇用か、無期雇用か)と、②勤務時間の大きく2つの観点で、雇用契約は分類されています。いずれも、雇用契約を結ぶうえで決めなければならない要素です。

 雇用契約と似たような言葉に、労働契約があります。

 雇用契約は民法に従った表現であり、労働契約は労働基準法に従った表現です。あくまで表現の違いであり、雇用契約を結ぶうえで両者を厳密に区別する必要性は少ないため、本記事で説明している雇用契約は労働契約のことと捉えてもほとんど問題ありません。

 そのため、本記事では「雇用契約」という表現を用いています。一方で、次にご説明する雇用契約と業務委託契約の違いは非常に重要です。

 雇用契約と業務委託契約の違いは、労働基準法の適用を受けるかどうかです。業務委託契約とは、雇用契約と同じく会社が個人に対して対価を支払って業務を依頼する契約です。なお、業務委託契約は法律上の呼称ではなく、請負契約や委任契約の総称を指しています。

 雇用契約と業務委託契約の区別は、「会社の指揮監督のもとで業務が行われているか」という点を中心に、実態に照らして総合的に判断されます。例えば、会社から出退勤時刻が決められており、会社から業務指示や、業務の進め方の指示を受けるという場合は、会社の指揮監督のもとで業務が行われているとされ労働基準法の適用を受ける雇用契約として扱われます。

 なお、雇用契約には労働基準法が適用されますが、業務委託契約は労働基準法の適用を受けません。

 会社と従業員の間には、「雇う側」と「雇われる側」という上下関係が生じやすいため、従業員保護の観点から労働基準法においてさまざまな規定があります。

 そのなかで、契約締結時には労働条件通知書の交付が定められています。また、後述しております雇用契約書の作成も重要です。各書類の内容と用意の仕方について解説します。 

 雇用契約を結ぶ際には、雇用条件が記載された労働条件通知書を交付する必要があります。労働条件通知書には、法律で定められた項目を記載して書面で従業員に交付しなければいけません。なお、従業員が希望する場合には、FAXやメールでの送付も認められています。

 従業員への明示が義務付けられている、労働条件通知書の記載項目は以下の通りです。

 1)契約期間(期間の定めがある場合は、契約更新の有無と更新の判断基準)
 2)就業の場所、従事すべき業務の内容
 3)始業・就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇、交代勤務に関すること
 4)賃金の決定方法、計算方法、支払方法、締日及び支払日に関すること
 5)退職に関すること(解雇の事由を含む)

 加えて、契約期間の定めがある場合またはパートタイマーの場合には、次の項目も明示が必要です。

 6)昇給の有無
 7)賞与の有無
 8)退職金の有無
 9)雇用管理の改善に関する事項に係る相談窓口

 厚生労働省のHPにて雛形が掲載されています。作成にあたって参考にしてください(参照:主要様式ダウンロードコーナー丨厚生労働省)。

 雇用契約書は2通作成し、会社と従業員が押印をしたうえで1通ずつ保管しましょう。

 最初にご説明した通り、雇用契約は口頭でも成立するので、書面での雇用契約書の締結は法律上の義務ではありません。電子契約による締結も認められています。

 一方で、労働条件を会社と従業員が合意した履歴を残しておくことは、トラブル回避のために必要不可欠です。なぜなら、書面で通知しただけでは従業員の合意があったかどうか判断できないためです。

 さらに、書面での明示が義務付けられておらず、口頭での明示で良い項目であっても、 雇用契約の内容として書面上合意しておいた方が良い項目もあります。例えば、賞与や退職金などの定めのほか、職務専念義務や健康管理に関することなどです。

 なお、労働条件の通知と雇用契約書の締結を労働条件通知書兼雇用契約書として1つの書面で兼ねることもあります。

 雇用契約は、以下の3つのステップで締結します。

 ステップ① 採用時に雇用契約の内容(=労働条件)を決定する
 ステップ② 入社前に労働条件通知書と雇用契約書を作成する
 ステップ③ 入社後、従業員と雇用契約書を締結する

 事前に雇用契約の内容を決定し、労働条件通知書を提示して従業員に説明します。双方が契約内容に同意すれば雇用契約書を取り交わし、会社控えの雇用契約書は5年間保管する必要があります。なお、その場ですぐに署名するのではなく、内容を理解し納得してもらうために、時間をあけて締結することが望ましいです。

 雇用契約で実際にあったトラブルを3つご紹介します。

 実例①雇用契約の解除・終了に関するトラブル
 実例②給与額に関するトラブル
 実例③退職の申し出、引き継ぎに関するトラブル

 雇用契約で、最も理解のギャップが大きくトラブルが発生しやすいのは、雇用契約の終了に関することです。

 例えば、試用期間中に期待するほどのパフォーマンスが出ない社員に対しては、「本採用を拒否して雇用契約を終了することができる」と考えている経営者は多くいます。しかし、試用期間はあくまでも採用後の適正評価や指導期間です。

 そのため、試用期間で成果が出せなかったからといって、すぐに給与を下げることや、雇用契約を終了できるというものではありません。

 雇用契約の終了に関するトラブルを避けるためには、雇用契約を開始する際に業務内容や、期待するパフォーマンスの管理方法などの評価に係る部分を極力明確にしておくことです。

 また、雇用契約の期間についても、無期雇用か有期雇用か説明しておくことが大切です。

 経験上、給与額に関するトラブルも発生しやすいです。例えば、残業代が適切に支払われておらず、退職後に訴訟を起こされることや、労基署の調査を受けて指摘が入るなどがトラブルとして挙げられます。

 残業代の未払いが起きる多くの理由は、勤怠管理を適切に行っていないか、不適切な労働時間制度を適用してしまっているかのいずれかです。例えば、「管理監督者」「裁量労働制」「年俸制」の社員は残業代の支払いは不要と規定していたが、要件を満たしておらず、残業代が未払いになっていたケースです。

 また、「固定残業代」「みなし残業代」を導入しているので残業代の支払いは不要と規定している場合も要注意です。固定残業などを導入している場合、労働条件通知書には何時間相当の残業代が支払われているかを明示しなければいけません。

 もし、自社の労働条件通知書に記載がない場合は、賃金の決定方法の欄に追記してください。そのほかにもみなし時間を含めて計算した時給単価が最低賃金を下回っていたというケースもよくあります。

 従業員からの退職の申し出や、引き継ぎに関するトラブルも多く発生します。民法上、従業員は退職する2週間前までに会社に退職を申し出れば雇用契約を終了できます。

 また、明日から有給消化のため出社しませんと申し出られてしまい、引き継ぎが十分に行われないまま退職してしまったというトラブルも起きやすいです。

 雇用契約では、いま紹介した以外にも、さまざまなトラブルが発生しています。これら雇用契約のトラブルを回避するためのポイントは以下の3つです。

 ポイント①必要記載事項を漏らさず正確に記載する
 ポイント②不利益変更や契約更新する場合は契約を再締結する
 ポイント③雇用契約書は、5年間保管する

 順に解説します。

 トラブルを回避するために大切なことは、「必要記載事項を漏らさず正確に記載すること」です。労働条件通知書は、本記事でご紹介した項目を記載していれば問題はありません。また、自己都合退職の場合、1カ月以上前に退職を申し出る必要があると記載しておくことで、引き継ぎされないなどのトラブルを抑えられます。

 しかし、なかには労働時間制度の当てはめなど、法律上の整理が必要なものもありますので、迷った際は社労士などの専門家にご相談ください。

 雇用契約を開始した後に、契約内容が従業員にとって不利益な条件となる場合には、従業員に変更内容を説明し、同意を得る必要があります。

 お互いが同意した記録を残すために、雇用契約書を再締結しなくても問題ありませんが、契約条件が変更するたびに別途合意書面を作成するより書面を統一した方がわかりやすいため、雇用契約書の再締結をおすすめします。再締結することで、他の雇用条件についても改めて目を通す機会にもなります。

 また、雇用契約の期間を定めている場合には、契約を更新するたびに雇用契約書を締結しましょう。

 従業員とトラブルがあったときに雇用契約書を提出できるように、5年間は保管しておくようにしましょう。会社と従業員が同意し締結した雇用契約書は、労働基準法上、退職日から3年間保管する必要があります。

 しかし、民法改正により、未払残業代の消滅時効が5年間に延長されたため、消滅時効と併せて5年間保管しておくべきでしょう(当面の間、消滅時効は3年間)。また、雇用契約書を保管する際は労働条件通知書と併せて保管することをおすすめします。

 紙の原本で保管場所に困る場合は、雇用契約書をPDF化して電子保管でも問題ありません。雇用契約自体を電子契約で締結することも可能です。

 会社を守るためには法律で定められた記載事項を漏らさないことと、会社と従業員双方が合意したうえで、雇用契約を開始することが非常に重要です。

 雇用契約を開始する際、会社も従業員も前向きな気持ちがあり、細かいことを取り決めるよりも早く働こうという姿勢になりがちです。一方で、トラブルが起きた際には雇用契約書で合意した内容が重要になります。

 また、雇用契約の内容を明確に合意する行為自体が、従業員の会社に対する信頼を向上させることにつながるため、契約の締結時や更新時には、契約内容を丁寧にわかりやすく説明するように心がけましょう。