もうけはすぐ出なくても…新商品「肉の解凍板」、ミナミダ社員の表情変えた
コロナ禍に月の売上高が約4億円から2億円弱に減った自動車部品メーカー「ミナミダ」(大阪府八尾市)の4代目の南田剛志さんは、自社商品開発に取り組みます。そこで生まれたのが、ヒートシンク(放熱)の技術を生かした肉の解凍プレートです。販路拡大はまだ途上ですが、早くも新規の問い合わせや採用で成果を出しています。何より手応えを感じているのが「今をもっとおもろく」を体現した社員の表情です。
コロナ禍に月の売上高が約4億円から2億円弱に減った自動車部品メーカー「ミナミダ」(大阪府八尾市)の4代目の南田剛志さんは、自社商品開発に取り組みます。そこで生まれたのが、ヒートシンク(放熱)の技術を生かした肉の解凍プレートです。販路拡大はまだ途上ですが、早くも新規の問い合わせや採用で成果を出しています。何より手応えを感じているのが「今をもっとおもろく」を体現した社員の表情です。
目次
ミナミダは1933年、釘を扱う製鋲所として設立します。2代目の南田義治さんになるとボルトの製造に注力、南田さんの父親である3代目の南田豊司さんになると、自動車業界に積極的に進出し、一気に事業を拡大。特に、長いボルトを得意としています。
現在は売上約70億円のおよそ9割を、自動車向けのシャフト、ボルト・ナット類で占め、国内すべての自動車メーカーに加え、輸入車でも使われています。従業員は国内外合わせ約3670名、大分県、タイ、メキシコにも拠点を構えます。
かつては3Kの職場だと思っていたこと 、高校時代に倒産の危機にあったこと、家業継承の話が特に出なかったことなどの理由から、学生時代、家業を継ぐことはまったく考えていなかったと、南田さんは言います。
しかし、大学3年生となり、父親と進路について話し合うと、父親の本心は南田さんに継いでもらいたかったことを知り、考え直します。
「中高と私立に通わせてもらったのに、中退して迷惑をかけてしまったこと。結果として、大学まで進学できたこと。父親のサポート、家業があったから。ひいては働いてくれている従業員のおかげだと考え、家業に入り恩返ししようと思いました」
卒業後は取引先であった鉄鋼製品を扱う商社に入社。営業職としてインドでの海外赴任約4年も含め7年ほど修行を積んだ後、家業に入ります。
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ミナミダは父の代で急成長したこともあり、ワンマン経営状態でした。15人ほどいる部課長は責任感が薄く、不良品の発生を防げていませんでした。南田さんは「工場が整理整頓されていないことも大きかった」と振り返ります。
当時は、不良品を減らすよりも、クレームがあったら対応すればいいという雰囲気で、0.01m精度が外れている製品を見逃してしまうことがありました。「グレーの部品をシロにしてしまう感覚でした」と、続けます。
南田さん全社員を対象に、品質に対する考えや会社の理念についての理解度などを調べるテストを行いました。すると、理念について全問正解したのはわずか1人だけでした。
品質保証は以前から理念にも掲げており、冊子やカードにして朝礼で唱和し、ISO9001も取得していました。しかし現実には取り組みは表面的なものであり、考えや姿勢は浸透していなかったのです。
そこで南田さんは理念など「社員がもっと分かりやすい内容にしないとあかん」と感じ、実行に移します。業務改善においては「Hirame-ku」というITツールを活用することで、改善が上手な社員のアイデア、実例を全社員が共有できるようにしました。
トップダウンではなく、社員が自発的に行うことで不良品の減少はもちろん、業務効率化を目指したのです。良きアイデアや件数が多い社員には賞与や昇給を。さらに昨年からは正社員に対し発案の最低数を設け、満たない社員は賞与や昇給を下げる、といった取り組みも行いました。
このような取り組みを長く続けた結果、「30秒かかっていた作業が25秒に減った」「動線が5歩から4歩に減った」など、今では年間1000件近くのアイデアが出るように変わったと、成果を口にします。
部課長クラスの個々の目標設定においても、四半期に一度南田さんと1on1を行うことで、明確化。1on1では責任感の醸成はもちろん、グレーはクロだとしつこく言い続けることで、幹部の意識変革を促していきました。
そして目標を達成した幹部ならびに、結果につながる業務改善案を出した従業員には、賞与で還元する仕組みもつくりました。
ただ、これらの取り組みを行う以前にも、意識したことがあるそうです。
「いきなり改革を叫んでも、4代目のボンボンが何を言うとるんや。そう思われますよね。ですから入社直後は徹底して営業を行い、実績を出すことで認められるよう、努力を重ねました」
実際、既存の顧客に対してはもちろん、メキシコに新規拠点を開拓するなどの成果を出します。
整理整頓も週に一度、1時間ほど清掃する時間を設けました。その結果、不良品は減り、業務効率化も進み、利益率は高まっていきました。そんな矢先、新型コロナウイルスが襲います。
コロナ禍で受注は減り、海外工場は月の売上がゼロとなるどん底状態にまで激減。4億円ほどで推移していた月の売上は、2億円弱にまで減少します。
「売上の減少も厳しかったですが、工場、従業員のモチベーションの低下、停滞感を強く感じ、危機感を覚えました。このままではまずい、なんかやらなあかんと思いました」
自動車部品以外のマーケットで、かつ、これまでの経験のなかった自社開発、BtoC事業へのチャレンジを決めます。
まずは、大阪府がものづくり企業に対し行っている支援事業「大阪商品計画」の門を叩き、自社商品開発の考え方を学びました。
自分1人ではアイデアが出ないことを知ると、社員に募ります。すると3分の1ほどの社員から、100件ほどのアイデアが集まりました。その中のひとつ、スピーカーの振動を抑える部品「インシュレーター」を開発することに決めます 。
ニッチな市場をあえて狙ったこと。金型の廃材や製造部品の調整品などが流用できることが採用理由でした。試作品という位置づけで試験販売 には至りましたが、まったく売れませんでした。
「これまでBtoC事業を手がけていないので、ペルソナの設定が特に難しいと感じました。また、最初に失敗した製品は、自社の技術を活かしたものでもありませんでした」
どのような製品を作ればよいのか。なぜBtoC事業に取り組んでいるか、南田さんは改めて考えます。その結果、BtoC事業が本業の売上に直接的に貢献することはないだろう、との考えに至ります。
売上高ではなく、間接的に本業に良き影響を与えればいい。このような考えにまとまっていくと、同じく新型コロナウイルスの影響で着手した、開発事業とつながっていきます。
今後のEV普及を見据え、モーターやバッテリーの熱を冷ます、ヒートシンク(放熱)の技術ならびに部品を開発していたのです。加えて、キャンプ好きの工場長がパソコン用のヒートシンクで凍ったお肉を解凍していることを知ります。
このような要素が重なり、ヒートシンクの技術を活用した解凍プレートを、改めて初の自社製品 として開発することにしました。
製品やロゴのデザインは、大阪商品計画をきっかけに知り合ったデザイン会社、CEMENT PRODUCE DESIGNにお願いし、ブランド名「OMRIQ」 はクラウドワークスで公募することにしました。
資金は八尾市の制度「意欲ある事業者経営・技術支援補助金」を活用することで、極力抑えました。
技術的な苦労、壁も大きかったと言います。冒頭で紹介したミナミダが手がける製品は、冷間鍛造という加工方法で作られており、新商品でもこれまでの加工技術を活かすつもりでした。
しかし、今回の開発ではふだん使っている線材ではなく、板材から加工する、とのチャレンジが加わっていたからです。そのため設計、理論どおりの形状に作ることが難しく、失敗と挑戦を重ねること約1年。ようやく、思い描く形状のプレートを作ることに成功します。
値段設定も商品計画で教わった計算式を参考に、算出します。販路はこちらも八尾市が展開するものづくりプロジェクト「みせるばやお」経由で知った、Makuakeというクラウドファンディング を利用しました。
町工場の活性化を目的とするコミュニティー「町工場プロダクツ」にも協力を仰ぎ、同コミュニティーが町工場を一同に集め出展しているギフト・ショーや、大手チェーンストア、ロフトのイベントなどに出展することで、開拓しようとしました。
しかし現状、クラウドファンディング以外では販路が拡大していない状況だと、南田さんは苦悩を吐露します。
「マーケティングも大阪商品計画での学びを参考に、熟考した上にクラウドファンディングではキッチン用品として販売しました。しかし今ではキャンプ用品の方がよかったのではないかと思うなど、まだまだ課題だらけです」
一方で、狙いどおりの効果も出ています。ヒートシンクプレートに着目した企業から、自動車のヒートシンク部品に関する問い合わせが数件寄せられました。
開発型企業と周知されたことで、以前から獲得を熱望していた理工系大学卒の人材が応募してくれるようにもなりました。大分工場では5年振りに、入社する成果も出ています。
社員の意識変化も大きかったと南田さんは言います。理念を改定する際、「今をもっとおもろく」と分かりやすい言葉に改定しました。新理念に込めた思いを、次のように話します。
「おもろいはシンプルに楽しいという意味だけではありません。おもろいからこそ夢中になることで、業務改善や個人の成長が実現すると考えていますし、そのような会社になれば、との思いを込めました」
南田さんの理念も、まさにこの言葉に集約されています。社員全員が生き生きと楽しそうに働き、毎日を幸せに過ごしている姿を見ることが望みであり、やりがいだからです。今回の新商品開発を通じて、このような理念が浸透したことが、一番の成果だとも言います。
たとえば、社員がブランド名であるOMRIQがデザインされた帽子を自費で作ったり、ステッカーが欲しいとの要望が出て、実際にみんなで楽しそうに作ったりしています。
今後はTシャツも含め、新しいユニフォームに採用するといったアイデアも出てきていると、南田さんはうれしそうに話します。
「私が入社したときに感じた責任感のなさは、組織間の壁があったことも起因していると思います。言い方を変えると、コミュニケーション不足によるものでもあると。OMRIQのプロジェクトを通じて社員同士が以前、いまよりもっとおもろく、仲良くなる。その結果、本業の業務効率化はもちろん、さらなる成果が出ると期待しています」
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