三和交通は、神奈川県を中心にタクシー・ハイヤー事業を展開しています。従業員は約1400人、保有車両は約600台と全国7位の規模。乗務員の年齢層が高くなってきたことを背景に、若年層の採用増加に向けたプロモーションの手段として、19年からTikTokを始めました。
「それまで(会社の)FacebookやYouTubeでは、再生回数があまり伸びませんでした。そんなとき、お笑い芸人・野性爆弾のくっきーさんが出ているTikTokのCMをたまたま見て、『15秒の短い動画だし、これなら私にもできるんじゃないか』と思ったんです。まずは自分の個人アカウントで、自分で踊っている動画を投稿してみました。一晩たって目が覚めたら動画の再生回数がはねていて、コメントでも若い人からの反応が多くあったんです。これは採用活動でもいけるんじゃないかと社長に打診したところ、OKが出たので、会社のアカウントで発信を始めました」
投稿される動画は、ぽっこりおなかを強調したワイシャツ姿の溝口さんが、K-POPなどのヒット曲に合わせてコミカルに踊るというもの。おじさんが軽快に踊るという意外性やインパクトが反響を呼び、ヒット動画が多数生まれました。
平均年齢が10歳以上若返った
本来の狙いである採用戦略にも、効果が表れました。
三和交通の21年の新卒採用人数は24人と、新卒採用を始めた05年から8倍に増えました。ここ数年の新卒採用の増加で、乗務員の平均年齢も、58歳から41歳へと大幅に若返ったそうです。
「自分で面接官をしていても、『TikTok見てます。面白いですよね』みたいに言われることがあります。TikTokは若い人の生活に深く浸透していて、注目されて認知されることが採用にもつながると実感しました。『こんな楽しい会社で働いてみたい』と思ってもらえるよう、発信を続けていきたいです」
職人の素朴な語りをTikTokに
ロルバーンは21年6月に設立され、東海エリアを中心にTikTokの運用代行やSNSコンサルティングを手掛けています。学生時代にロルバーンを立ち上げた代表の築山さんは01年生まれで、TikTokになじみが深いとされるZ世代の当事者でもあります。
ロルバーンでは22年12月から、日本家屋の注文住宅を手掛ける工務店「建築の匠」(愛知県大府市)の集客のため、TikTokの運用代行を始めました。
73歳(当時)の棟梁の動画を次々と投稿し、開始から4か月で総再生回数1千万回を突破。動画の多くは、棟梁が作業をしながらとつとつと語るもので派手さはありませんが、職人としてのこだわりや人柄が伝わることでファンが増えていきました。大々的に募集をしていないにもかかわらず、弟子入りを志願する人が4人も出てきたそうです。
「73歳の棟梁のキャラクターを生かし、人間性が出るような動画を心がけました。普段は見えない仕事内容や技術、さらに弱点など、会社のリアルをいかに発信できるかがポイントになります」
Z世代は「社内の雰囲気」を重視
築山さんによるとZ世代の就職活動では、「社内の雰囲気など、働く人の人間性、人間関係といったところが重視されている」といいます。TikTokを採用につなげ、入社後のミスマッチを減らすためにも、「どんな人とどんな仕事ができるのか、人柄や社風が伝わるよう動画を構成する必要がある」そうです。
建築の匠でも、フォロワー数が特に伸びたのは「棟梁の弟子の育て方」という動画を投稿した後でした。棟梁が「(弟子を)下に見ない」「失敗してもいいから」など自身の教育方針を語る内容で、コメント欄にも「こんな師匠のもとで学びたい」といった好意的なものが多くつきました。
「この動画も、教育の仕方や入社後のイメージがわくよう意識しました。ある程度認知をとったうえで、人柄や想いで共感を得ることができると、採用応募という自発的なアクションにつなげることができます」
採用につなげるための注意点は
セッション後半では、視聴者らの質問に二人が答えていきました。
溝口さんには「動画の企画や撮影・編集をどのようにやっているのか?」という質問がきました。
企画については「休みの時はほとんどTikTokを見て流行を研究しています。はやっているものを先取りしたうえで、私のキャラクターとかけあわせられるかを考えて、企画を作っています」と溝口さん。撮影は事務所の社員が担当し、編集はすべて自分で手がけているそうです。「編集の時間は、15秒の動画で2、3分ほど。YouTubeに比べて、編集の負担がだいぶ少なくすむのがTikTokのよいところです」と話しました。
また、動画を採用につなげるための注意点をたずねられると、「毎日夕方に1本動画を出していますけれど、採用募集のお知らせはたまにしか出さないようにしています。毎日募集をアピールしすぎると逆にマイナスというか、コメントが荒れたりといったリスクがあると思います」と回答しました。
築山さんには、「就職活動中のZ世代は実際どのようなタイミングで企業のTikTokを見るのか?」という質問がありました。
築山さんは「誤解されがちですが、就職しようというタイミングになってから企業のTikTokを見る、というものではありません。日頃からTikTokをスクロールして見ていて、たまたま潜在的に覚えていた企業を、就職の場面で『あんな企業あったな』とふと思いだす、みたいなイメージが一番近いかなと思います」と答えました。そのため、常日頃からの認知拡大が重要になるといいます。この点には、三和交通の溝口さんも、採用面接での経験から深く同意していました。
最後には、TikTok採用を検討している中小企業へのメッセージをもらいました。溝口さんからは「とりあえずやってみて!トライ&エラーで、ダメだったらそのとき次のことを考えればいいかなというのが、経験上の答えです」、築山さんからは「論理的に考えるよりはまずやってみて、あとはひたすらABテストを繰り返していく。考えている時間があるなら、まずはやってしまったほうが早いんじゃないかと思います」と、それぞれエールが送られました。
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