目次

  1. 東京の老舗企業が生かした伝統の強み
  2. アイテム数を絞って整理
  3. 海苔の産地と等級をオープンに
  4. 「ソースの自販機」で販売促進
  5. 視覚的にも魅力ある店舗づくり
  6. 商品開発やプロモーション戦略を事業成長に

 1923(大正12)年に創業したトキハソースは、ウスターソース類の開発・製造などを手掛けています。現在の売り上げは9割が業務用で、1割が市販の家庭用です。看板商品は、「特選」と「生ソース」の2品になります。3代目となる田口さんは、大学卒業後に入社し、品質管理部などで経験を積みました。

 ぬま田海苔は、1937年(昭和12年)創業。有明海の初摘み海苔だけを扱い、オンライン販売のほか、食のプロが集う町である東京・合羽橋にリアル店舗も構えています。4代目当主を務める沼田さんの前職はアパレルブランドのGapで、その経験を生かしながら、VMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)を意識した、視覚的にも魅力的な店舗経営を目指しています。

 トキハソースの田口さんが後継ぎとなり経営に携わってみると、ソースの販売数は多いものの、全体の利益率が低いことに気づきます。そこで田口さんはまず、130~150ほどあったアイテムの中から、利益率が低いものをピックアップして整理していきました。

 「アイテム数を絞ることは、とても勇気が必要でした。さらに利益率を考え、問屋に卸さず、自社のサイトと店頭、あるいは自動販売機で購入していただく形に変更したんです」

 アイテム数を絞っても、商品の中身は変えず、同じ味を保つことにこだわったといいます。

  「弊社のソースは、主原料に生野菜を使用しています。現在野菜の価格が高騰していることもあり、社内では、粉末を使ってもいいのではないかという意見も出ました。しかしトキハソースは、創業以来の味を保ち続けることにこだわり、現在も主原料に生野菜を使用し続けています」

 沼田さんが家業を継ぐ前、ぬま田海苔の3代目を務めていたのは沼田さんの母でした。母は店舗を持たず、1人で電話とFAXで注文を受け付けて発送し、細々と事業を続けていたといいます。

 「しかし、売り上げはどんどん縮小していっていました。日本の食卓も和食から洋食へと移り変わり、海苔離れが起きている状況で、海苔のシェアをどう上げていくかが課題でした」

 沼田さんは、海苔には「漁場名」と「等級」があり、それぞれおいしさや個性が異なることに注目します。そこで、産地と等級をオープンにし、商品のネーミングとすることで「海苔のシングルオリジン」として販売するリブランディングを行いました。

 「手巻き寿司に合う海苔や、海苔のおいしい食べ方などを提案し、お客様にひと手間を楽しんでもらえるような販売方法を考えました」

 両社とも、伝統の強みを生かし商品をアップデートしていました。

 問屋に卸さず自社で販売する方法へ変えたトキハソースには、「どこで商品を買えますか」という問い合わせが多く寄せられるようになったといいます。

 「ソースを購入するにはお店に来ていただくのがいちばんですが、土日や営業時間外に購入したいという声もありました。そこで、従業員から出た『自動販売機で販売する』というアイデアを採用し、本社や工場など複数の場所にソースの自販機を設置したんです。これが、面白い取り組みだということで認知拡大につながりました」

 さらに、トキハソースは100周年を記念して、1万円の高級ソース「THE SAUCE(ザ・ソース)」を発売。ウィスキーの瓶に入っているかのような高級感のある見た目も話題となり、限定300本が完売しました。

 「ハイラインの商品をラインアップに加えることの重要性を実感しました。本当にクオリティが高くおいしいものを作り、大事に販売すると、それが話題になるんです」

 ぬまた海苔は、VMDの考えを取り入れながら、視覚的にも魅力のある店舗運営を目指しています。

 

 「海苔は多くの場合、必要だから買うものであって、海苔自体をおいしそう・食べたいと思う機会はそれほどないですよね。だからこそ、店舗では海苔のおいしそうな画像を一枚置いてみるなど、壁を上まで使って視覚に訴えながらおいしさをアピールしています」

 Instagramにも力を入れ、女性スタッフが監修に入りながら、アルバイトの学生さんがインターンのような働き方で投稿案を考えているといいます。

 実際の売り上げや事業成長にはどのようにつながったのでしょうか。

 トキハソースの田口さんは、アイテム数を絞って整理した直後は、売り上げが25%下がったといいます。しかし自社での販売に切り替えてからは、利益率が上がっており、「以前は商品を作れば作るほど利益が出ると思っていましたが、それは違うと気づくことができました」と話しました。

 また、ぬま田海苔の沼田さんは「リブランディングしてもう6~7年になりますが、売り上げは10倍になりました」といいます。コロナ禍の時期も乗り越え、「利益率も上がったほか、ぬま田海苔のファンになってくれる方が着実に増えていると感じます」と話しました。