目次

  1. 製造原価とは
    1. 製造原価に含まれる費用
    2. 製造原価の把握が大切な理由
    3. 製造原価と売上原価との違い
  2. 製造原価の内訳と分類方法
    1. 費用の発生形態で分類する
    2. 製品との関係性で分類する
  3. 製造原価の計算方法
  4. 製造原価を計算・管理する方法
    1. エクセル
    2. 会計ソフト
    3. 原価管理システム
  5. 製造原価を把握して競争優位性を高める基盤をつくろう

 製造原価とは、製品を製造するために必要となる費用の合計額のことです。製造原価は、製品のコスト構造を理解し、価格設定や利益分析を行ううえで重要な指標となります。

 製品を市場に安定的に供給し続けて自社が成長するためには、製造原価を含めたコストに利益を上乗せした価格で販売する必要があります。また、製造原価を正確に把握することで、企業はコスト削減の機会を見出し、競争力を高めることができます。

 製造原価に含まれる費用には、以下のようなものがあります。

製造原価に含まれる費用

・製品の製造に必要な原材料や部品を仕入れる際にかかる原料費

・製造ラインの作業員など、製品の製造に直接的に関係する業務従事者に支払う賃金

・設備の運転にかかる燃料費や水道光熱費、製造設備の減価償却費

 なお、以下のような費用は直接的に製造に必要な費用ではないため、製造原価には含まれません。

製造原価に含まれない費用

・製品を販売するためのキャンペーン実施などに用いられる販売費

・企業の一般的な管理に関わる経理費、人事費などといった一般管理

・新しい製品の開発や既存製品の改良にかかる研究開発費

 詳しい内訳は、下記の「製造原価の内訳と分類方法」で解説しています。

 製造原価の把握はコスト管理と生産効率化を実現し、企業の収益性を高めるために不可欠です。

 製造原価を正確に把握することで、製品の適正な販売価格を設定でき、利益の最大化につなげられます。また、価格交渉時に具体的な数字を根拠として提示できるため、より有利な条件で取引できます。

 さらに、製造原価の分析を通じて生産プロセス上の無駄や改善点を抽出でき、コストダウンや工程改善に取り組めるのもメリットです。これにより、競争力のある製品価格設定が可能となり、市場での競争優位性を確保できます。

 製造原価は製品製造するために直接かかる費用なのに対し、売上原価は販売された製品にかかった費用を指します。つまり、含まれる費用と計上のタイミングが異なります。具体的な違いを、以下の表で見てみましょう。

製造原価 売上原価
定義 製品を製造するために直接かかる費用の合計 販売された製品の製造にかかった費用
目的

製造に必要なコスト構造を明らかにし、コスト管理や販売価格設定の基準に利用する

実際に売上に貢献した製品のコストを計上し、精度の高い利益計算に利用する

含まれる費用

原料費、直接労働費、製造間接費(燃料費、水道光熱費、減価償却費など)

売上に直結する販売された分の製品の製造原価

計上タイミング

製品が製造された時点で計上

製品が販売され、売上が発生した時点で計上

 製造原価は製造プロセスのコストを把握するために、売上原価は実際の売上に対するコストを把握するために用いられます。これらの情報を正確に管理することで、企業はより効果的な財務戦略を立てられるようになります。

 製造原価は、製品のコスト構造を正確に理解し、コスト管理や価格設定を適切に行うために分類する必要があります。

 費用を明確に分類することで、どの部分にコストがかかっているのか特定でき、無駄を削減して効率化が図れます。また、費用の管理と分析を通じた生産プロセスの改善や予算計画の精度向上にもつながります。

 ここでは、製造原価の分類方法と内訳を紹介します。

 費用の発生形態に着目した方法では、材料費、労務費、経費の三つに分類できます。

①材料費

 材料費は、製品を製造する際に必要な原材料や部品など、直接製品の一部となる資源の購入にかかる費用です。製品の主要な構成要素となる原材料だけでなく、製造過程で消耗する補助材料のコストも含まれます。

 材料費は製品の直接的なコストであり、製造される製品の数量に比例して増減するため、製品原価計算では特に重要な要素です。

②労務費

 労務費は、製品の製造に直接従事する従業員に支払われる賃金(給与・賞与・福利厚生費)など、人的資源の役務提供に対して発生する費用を指します。人件費と混同されがちですが、労務費は「製品を作るための具体的な作業に関連する賃金」であり、製造ラインで働く労働者に支払う費用に限定されます。

 労務費は製品の製造コストの重要な構成要素であり、効率的な人員配置や労働生産性の向上を目指すうえでの指標となります。

③経費

 経費は、製品の製造や企業の運営に必要な間接的な費用の総称であり、材料費や労務費に分類されないものです。これには、外注を利用した場合の外注加工賃、工場の維持管理費や設備の減価償却費などがあります。

 経費は直接製品の製造に関連しないものの、企業活動全体を支えるためには不可欠なものです。

 製品との関係性に着目する際には、製造直接費と製造間接費に分類されます。

①製造直接費

 製造直接費は製品を直接製造する過程で発生する費用で、直接材料費、直接労務費などが含まれます。例えば、製品を構成する原材料の購入費や、製品製造に直接関わる従業員の賃金が該当します。

 製造直接費は特定の製品やサービスに直接帰属し、製造量に応じて変動するため、製品のコスト計算と価格設定に不可欠です。

製造直接費
直接材料費

製品の製造に直接使われる材料の費用

例:家具製造で使用される木材、電子機器製造で使用される半導体など

直接労務費

製品の製造に直接従事する労働者の賃金

例:組み立てラインの作業員の時給など

直接経費

製品の製造に直接必要な特定の経費

例:特許権使用料、外注加工賃など

②製造間接費

 製造間接費は、製品の製造には必要なものの個別の製品や製造工程に直接割り当てられない費用です。製品全体のコストを構成する重要な要素であり、一般的に全製品に対して按分して計上されます。

 間接費の適切な管理は、全体の製造コストを把握して生産効率の向上を図るうえで重要です。

製造間接費
間接材料費

製品製造に間接的に必要な材料の費用

例:製造ラインの清掃用品や小さな工具など

間接労務費

製造プロセスを支えるが、直接製品製造には関与しない従業員の賃金

例:工場の管理スタッフや保守スタッフの給与など

間接経費

製造活動全般を支えるための費用

例:工場の減価償却費、通信費、水道光熱費など

 製造原価は、基本的に製品の製造に必要な材料費、労務、経費の総和で算出できます。

 ただし、実際の製造現場では製品が全て完成しているわけではないため、当期の総製造費用、期首・期末の仕掛品の棚卸高を考慮した以下の計算式を用います。

当期製品製造原価 = 期首仕掛品棚卸高 + 当期総製造費用 - 期末仕掛品棚卸高

期首仕掛品棚卸高:期の始めに製造途中だった製品の在庫高
当期総製造費用:当期の製造にかかった費用の総和(材料費 + 労務費 + 経費)
期末仕掛品棚卸高:期末時点で製造途中の製品の在庫高

 なお、当期総製造費用のうち材料費は、期首と期末の在庫を考慮して以下の計算式で算出する必要があります。

当期材料費 = 期首材料棚卸高 + 当期材料仕入高 - 期末材料棚卸高

 製造原価の計算と管理は、製品のコスト構造を明確にし、効率的な価格設定やコスト削減のために重要です。ここでは、代表的な製造原価の計算・管理方法を、メリット・デメリットを踏まえて紹介します。

 エクセルには表計算機能があり、数式や関数を用いて製造原価を計算できます。ユーザーは、自社の状況にあわせてテンプレートの作成や管理ができ、必要に応じて調整することもできます。

メリット デメリット

 ・カスタマイズ性が高い

・低コストで導入できる

・ビジネスパーソンの多くが使用方法を把握している

・複雑な計算や大量のデータ管理には向かない

・エラーが発生しやすく修正が必要な場合がある

・データの共有や同時編集が難しい

 エクセルは低コストで導入できるため、小規模事業者にとっては最も運用・管理しやすいツールです。

 会計ソフトは、財務会計や管理会計のために特化されたソフトウェアで、製造原価の計算や管理にも役立ちます。

メリット デメリット

・自動計算機能があるため時間と労力を節約できる

・財務報告の作成が容易になる

・法規制に準拠した管理が可能

・導入コストが比較的高め

・ソフトウェアの使い方に慣れるまでの学習コストが必要

・基本的に自社でのカスタマイズができない

 会計ソフトは、自動での帳簿更新や費用の計上、コスト分析なども行えますが、市販品は基本的に自社向けのカスタマイズができません。

 原価管理システムは、製造原価の詳細な追跡と分析を目的として自社向けに設計された専門的なソフトウェアです。生産管理、在庫管理、原価計算を統合して行い、精度の高いコスト管理を実現します。

メリット デメリット

・製造プロセス全体のコストを詳細に追跡・分析できる

・生産効率の向上とコスト削減に活用しやすい

・在庫管理や生産計画と連携しやすい

・導入とカスタマイズに高いコストがかかる

・システム導入に伴う組織間での運用調整が必要

・メンテナンスやシステムアップデートに継続的な投資が必要

 製造品種が多く、製造ラインが多い大規模な製造工場などで一般的に利用され、販売・購買・財務・人事などと連携したERPという総合情報システムを導入する企業もあります。

 製造原価は自社で製造する製品に必要な費用の合計額であり、正確に把握することでコスト削減や工程改善による収益アップにつながります。

 製造原価の計算や管理は煩雑になりやすいですが、市場での競争優位性を高めるためにも、経営者はもちろん社員も計算方法を理解しておく必要があります。

 企業の規模、業種、管理の複雑さ、予算など、さまざまな要因を考慮したうえで、エクセルによる自社テンプレートを制作したり会計ソフトを使用したりして、自社に適した計算・管理方法を確立しましょう。