目次

  1. フェーズフリーとは
    1. フェーズフリーの意味
    2. フェーズフリーが注目されている背景
    3. フェーズフリーの5原則
  2. フェーズフリー製品の具体例
    1. 【食品】森永絹とうふ
    2. 【筆記用具】パワータンク
    3. 【雑貨】コーワライティングシート
    4. 【アプリ】クロスゼロ for ビジネス
    5. 【サービス】QR Translator
  3. フェーズフリー製品の開発プロセス
    1. ハザード・被害レベルの想定
    2. フェーズフリーを使用・利用するタイミングの検討
    3. ターゲットのニーズの把握
    4. 要件定義
    5. 試作品開発・検証
  4. フェーズフリー製品を開発するときの注意点
    1. フェーズフリー5原則の遵守
    2. 安定性の確保
  5. フェーズフリーはイノベーション

 フェーズフリーとは、日常時(平常時)と非常時(災害時)という二つのフェーズを分けず、いつでも利用・使用できるモノ・サービス・アイデアをデザインしようという考えです。

 フェーズフリーの概念で提唱されるフェーズは「局面(社会の状態)」を指しています。つまり、日常時と非常時の垣根を取り払う(フリーにする)考えがフェーズフリーといえます。

 フェーズフリーという概念は、防災の専門家である佐藤唯行氏により2014年に提唱されました。いつもの「平常時」と緊急事態の「災害時」を二つのフェーズとすることをやめ、ひとつの連続とする事象として捉えた、発想の転換です。

 災害大国である日本では、その過去の経験から非常時(災害時)に対応した、さまざまな防災用品が多く提供されています。しかし、その多くは、普段は災害用としてしまっておき、非常時(災害時)に取り出し使用・利用されることを前提に設計・開発されています。

 一方、フェーズフリーとは、普段生活している日常の環境と、非常時(災害時)の環境を二つのフェーズ(社会の状態)とし、そのフェーズを切り分けずに、日常時も非常時もフェーズを超えて快適に使用・利用できるモノ・サービス・アイデアです。

 フェーズフリーなモノ・サービス・アイデアは、日常時でも非常時でも快適に使用・利用できることを目的に提供されるため、非常時に備える必要がありません。

 この新しい防災への考え方「フェーズフリー」の提唱は、「災害に備える」という概念を超越し、イノベーションを彷彿させる要素になります。

 これまで以上に人々の防災意識を高める契機となったのが、2011年に発生した東日本大震災です。以降、防災に関する商品・サービスが注目され、さまざまな企業や団体から防災に関する商品やサービスが開発・提供されるようになりました。

 しかし、災害の記憶は、いつしか風化し忘れ去られるという性質をもっています。日ごろから災害に備える習慣が求められていますが、防災意識の定着はとても難しいため、社会的な課題となっています。

 そこで「備えずに防災」という考え方のフェーズフリーが注目されているのです。平常時や災害時の制約を受けず快適に生活ができること、どのような状況下でも命や生活が守られることのどちらも備える性質を持つフェーズフリーは、製品開発においても今後ますます重要視される要素となるでしょう。

 フェーズフリーは五つの原則からなりたっています。

フェーズフリーの5原則
常活性(どのような状況においても利用できること) 日常はもちろん、非常時(災害時)にも制限なく使用・利用することができますか?
日常性(日常から使えること、日常の感性に合っていること) 普段使い・利用ができるよう、ユーザのニーズを捉えた満足度の高いものですか?
直感性(使い方、使用限界、利用限界がわかりやすいこと) ユーザビリティーを高め、誰もが簡単・簡便に使用・利用できますか?
触発性(気付き、意識、災害に対するイメージを生むこと) ユーザインターフェースから、安全・安心に関わるイメージが彷彿とさせられますか?
普及性(参加できたり、広めたりできること)

利用方法に新しさ、面白さを感じながら、簡単・簡便に利用でき、まわりに広めたくなるようになっていますか?

 製品開発を行うときは、この原則を押さえたモノ・サービス・アイデアの開発が求められます。

 フェーズフリーとはどのようなものなのか、具体的な製品を挙げてみましょう。ここでは、「フェーズフリー認証マーク」を取得している製品と「フェーズフリーデザイン事例集」から、五つ具体例を紹介します。

フェーズフリー認証マーク

一般社団法人フェーズフリー協会から認証を受けたプロダクト・サービスとして、フェーズフリーの機能をもっていることを証明するためのマークです。フェーズフリーの5原則に基づいた審査基準に従い、フェーズフリー協会にて審査され認められれば認定を受けることができます

 森永絹とうふは1丁(250g)で14.25gのたんぱく質が摂取できると謳われており、ヘルシーで手軽に、効率よく栄養成分を摂取できます。また、常温で最長216日もの長期保存が可能なため、ローリングストックにも適しています。

 もともと豆富は日本食との馴染みが深く、料理のバリエーションが広がる食品です。日本人が食べなれており、あらゆる食べ方ができる「豆腐」を長期保存可能にしたことで、日常時でも災害時でも快適に利用できる食品にした点がフェーズフリーとして優れています。

 従来のボールペンはインクが重力により出るため、横向きや上向きで使用するとペン先から空気が入り、筆記できなくなります。

 パワータンクは重力によるインク出しから、圧縮空気によるインクの押し出しに切り替えたことで、横向き・上向き方向への筆記ができるようになり、途切れやかすれの少ない安定した筆記が可能となりました。

 加圧によりペン先からインクへの浸水が防げるため、雨や水で濡れた紙や氷点下環境でも筆記ができ、日常時の利便性が向上するとともに、非常時での筆記の対応性を高めています。

 しかも、インクの残量が分かるようリフィルの視認性は確保されています。数百円という価格ながら、高度な技術が採用されていて楽しくなる筆記用具です。

 コーワライティングシートは静電気で壁面に貼り付け、自由に書き消しができる軽量なロール状のシートです。ホワイトボードのように書いたり消したりできる機能を備えながら、ガラス・木・鉄・ふすま・壁紙・パーティションなどの多様な素材へそのまま貼り付けることができます。

 日常ではホワイトボードのように使用し、災害時は壁やガラスに貼ることにより、ホワイトボードがない場所や屋外での情報の共有に利用できます。

 何度も書き消しができたり、白色タイプは避難所でのカーテンの代用としても利用できたりするところも優れた点でしょう。シンプルでも多機能で、利用用途がわかりやすい商品です。

 クロスゼロ for ビジネスは、災害時の社員の安否確認、避難行動・情報伝達機能などの「命を守るための行動をサポートする機能」を有する総合防災アプリです。

 本サービスは、スマホの機能を最大限に生かし、日常でも利用できるよう工夫しています。例えば、日常で利用する機能として、ハザードマップ・避難所情報、備蓄管理、災害情報を学べる防災トリセツ、社内防災対応マニュアルの共有、防災訓練があります。

 グループウエアとしての機能を持たせることにより、より日常での利用用途の機会を高めているところがユニークです。

 QR Translatorは、外国人や障がい者などの災害時要援護者に対して、QRコードから多言語かつユニバーサルな情報を収集・提供する情報インフラサービスです。

 日常時には、観光地やイベント会場、駅や公共施設等においてインバウンドがステッカーやポスターなどのQRコードを読み取ることで、さまざまな情報を任意の言語で自在に受け取ることができます。

 インバウンド需要に向けた普及的なサービスです。QRコードから読み取るので、特別なアプリを必要とせずに利用でき、パンフレットやデジタルサイネージ対応よりも簡便性が高く、情報の発信者・受信者とも利便性に優れています。

 

 ここからは、実際にフェーズフリー製品やサービスを開発するときのプロセスについて紹介します。開発時には、フェーズフリー協会が提唱する「フェーズフリーを考える四つの視点」が重要になります。

フェーズフリーを考える四つの視点

・災害の要因となるハザードの種類

・フェーズフリーを享受する対象

・日常時と非常時の被害のレベル

・フェーズフリーを活用するタイミング

 上記を踏まえながら、フェーズフリー製品の開発プロセスを見ていきましょう。

 災害や被害の要因となるハザード(危機)を想定しましょう。

ハザードの要因例

地震、津波・洪水、台風・竜巻、雷、熱波・寒波、病原体、交通、エネルギー、武器・兵器、情報

 フェーズフリーは必ずしも「大規模災害」を想定しなければならないわけではありません。例えば、雨具を忘れて雨に濡れる程度の「出来事」を非常時と捉えることもできます。

 被害の規模には大きな違いがあることを理解し、ターゲットとするハザードを想定しましょう。

 「非常時」は、日常時から災害が起こることで突然訪れます。

フェーズフリーを使用・利用するタイミング

日常時 → 災害予知・早期警報 → 災害発生 → 被害評価 → 災害対応 → 復旧・復興

 「非常時のいつ・どのような価値を発揮するのか」「日常ではどのように役立てられるのか」といった、フェーズフリーを使用・利用するタイミングについても検討しましょう。

 使用・利用する対象者の年齢・性別・国籍や対象者の状況などを想定しましょう。ターゲットが絞られたら、ニーズを把握し、開発へ反映させます。

 自分のアイデアを、ターゲットにヒアリングして明確なニーズを把握し、商品・サービスの完成度を高めていきます。

 ターゲットのニーズを実現するための、機能や要求をまとめましょう。定義された機能、要求が実現されているか、確認ができる方法も検証しておきます。

 ここまでできたら、試作品の開発を進めます。具現化でき始めたら、定義された機能、要求が実現されているか確認をしましょう。必要性があれば、ターゲットや公的試験機関に評価を依頼します。

 フェーズフリー製品を開発するときは、以下の点に注意しましょう。

フェーズフリー5原則の遵守 客観的な視点から開発を進める
安全性の確保 不具合や故障発生の要因を把握しておき、対策を講じておく

 フェーズフリー認定には、日常時と非常時における「汎用性」と「有効性」の指標に基づき評価されますが、その評価基盤としてフェーズフリー5原則が用いられます。

 そのため、製品開発時にはフェーズフリー5原則を網羅しているか、客観的な視点から開発を進めないといけません。繰り返しになりますが、ターゲットや公的試験機関に評価を依頼するのも有効な手段です。

 いざというときのためのフェーズフリー、非常時に使用・利用できないのでは元も子もありません。日常でしたら不良箇所がわかったり、故障が発生したら修理や交換というプロセスが得られたりしますが、非常時には困難な状況になります。

 予め、不具合や故障発生の要因を把握しておき、対策を講じておくことが重要です。例えば、消耗する部品があれば予備部品を付属しておく、故障が発生するメカニカル的な要素を除外した設計をすることなどが挙げられます。

 フェーズフリーなモノ・サービス・アイデアは、新しい価値を生み出し、社会に大きな変革を与える可能性に満ち溢れています。

 新規事業、製品開発を考える際に、フェーズフリーの概念を取り込んでみてはいかがでしょうか?フェーズフリーは、今までにない価値の創出や、新たな市場の創造につながるイノベーションの宝庫です。