目次

  1. 申し送り事項とは
    1. 申し送りの目的
    2. 申し送りと引き継ぎの違い
  2. 申し送り事項が使われる業種・職種と具体例
    1. 介護・看護業界
    2. 警備業
    3. フロント業務
  3. 申し送り事項を書くときのポイント
    1. 発信者は誰か・誰に伝えたいのかなどの基本情報を書く
    2. 申し送りの目的を明確にする
    3. 申し送り内容のポイントを整理する
    4. 申し送りパターンをテンプレート化する
  4. 【例文】申し送り事項の書き方
    1. 宿泊客の場合
    2. 介護施設利用者の新規入所の場合
  5. 申し送り事項はテンプレートを活用して簡潔に

 「申し送り」とは、前任者から後任者へ、業務をおこなううえで必要な情報を伝えることです。つまり、ビジネスにおける申し送り事項とは、業務を担当している人からそのあとに業務を行う人に向けて、共有しておくべき事柄・情報をまとめたものを指します。

 申し送りの目的は、業務に必要な対応を組織として途切れさせずに適切に行うことです。適切に申し送りができれば、業務担当者のシフトや不在時などに左右されず、スムーズに業務を進行できるようになります。

 特に、24時間体制のシフト勤務で複数のスタッフが同じ業務を担当するようなビジネスの場合は、申し送り事項が役立ちます。適切な申し送りをすることで、顧客や取引先への対応を翌日に同じスタッフが出勤するまで待たずに、どのシフトでもスムーズに対処できるようになるためです。

 申し送りとは、担当者が変わってもその後の業務が滞りなく進むように行う担当者同士の「情報共有」です。一方、引き継ぎとは、ある担当者の一定の業務範囲を別の担当者に移行することをいいます。

 実際には、会社や部署によって「申し送り」をすることを慣習的に「引き継ぎ」と呼ぶ現場もみられます。しかし、同じことを指しているのに呼び方が複数混在する状況を放置しておくと、組織のなかで混乱が生じて業務がスムーズに進まず、結果的に顧客や取引先に迷惑をかける危険性があるため注意が必要です。

 現場で働くスタッフが前述の「申し送り」を実際に何と呼び、どのような内容と方法で実践しているか、またはこれから実践していくかについて、社内での認識を共通にすることがサービスレベルの確保には非常に重要です。

 申し送り事項が使われる業種や職種には、事業のサービス提供の対象である顧客(法人・個人)に対して継続的な関わりが必要という特徴があります。

 ここでは、そのような業種や職種の例を紹介します。

 介護・看護業界は、介護施設や病院の利用者や患者に関する申し送り事項の共有が、日常的かつ徹底して行われている業界の典型例です。申し送り事項の例は、以下のとおりです。

介護・看護における申し送り事項の例
利用者・患者の体調の変化やそれに伴い行った処置と今後必要な処置
利用者・患者の要望とそれに対する状況
新しく施設に入った利用者・患者の情報
利用者・患者の家族からの連絡や要望事項
医師や施設長からの指示
施設内の重要事項
シフトの変更などスタッフ間の連絡事項

 警備業界では、申し送り事項を共有して警備のシフト体制が取られています。警備対象のビルや施設の規模にもよりますが、主に以下のような申し送り事項の例があります。

警備職における申し送り事項の例
警備中に発生した対応案件
警備中の普段と異なる訪問者や入室者
警備中の見回り時に確認した普段と異なる事象
施設利用者からの問い合わせや依頼内容とその対処状況
その他警備中に気になった件とその対応状況
施設管理者からの指示・通達
シフトの変更など警備員間の連絡事項

 ホテルや旅館などの宿泊業界でお客様対応を行うフロント業務職も、申し送り事項を共有することで24時間体制で対応できるシフト体制が組まれています。主な申し送り事項は、以下のとおりです。

フロント業務における申し送り事項の例
チェックイン・チェックアウト客の予定変更情報
勤務中に通常と異なる対応をした宿泊客または訪問客
宿泊客または訪問客の問い合わせや要望とその対応状況
上司や施設の管理部門または他部門からの指示や共有事項
施設内の設備に関する重要事項
施設周辺の店舗や交通手段に関する変更情報
シフトの変更などスタッフ間の連絡事項

 申し送り事項は、受けた側が理解しやすい形で書くことが最も重要です。申し送り事項を効果的にまとめる方法と注意点を紹介します。

 申し送り事項は、いつの時点の誰から誰への申し送りかを明確にしておく必要があります。

 特に、シフト制で複数のスタッフが入れ替わり立ち替わり勤務を行う職場では、申し送り事項を共有すべき対象スタッフとそれ以外のスタッフが「自分に対する申し送りかどうか」の判断を瞬時にできるよう、基本情報を書いておくことが求められます。

 申し送り事項は、次の勤務者に確実に対応してもらう必要のある重要度や緊急性の高い事項から、緊急性はないが情報として共有しておいた方が良いと判断される比較的重要度の低い事項までさまざまです。

 申し送りの目的を最初に明確にすることで、申し送りを受けた側に自分の行動が求められているのか、情報を頭に入れておくことだけで具体的な行動までは求められていないのかをすぐに理解でき、対応への準備がしやすくなります。

 申し送り内容を考えるときは、事実情報のほか、申し送る側の考えや意見、想いといったポイントも整理してましょう。

 事実情報を伝えるときは、5W1Hに当てはまる場合はそれを意識して書くと、わかりやすく伝えることができます。5W1Hとは「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(だれが)」「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」の頭文字をとった言葉で、情報整理をするときに役立つフレームワークです。

 また、申し送り内容が何らかの行動を求める場合は、予定されていた状況が発生せずに対応自体が行えない状況が発生したときに備えて、別の対応が必要かどうかについても言及しておくと役立ちます。

 業界、業種によって、よく発生する申し送りの内容というものが必ずあります。発生頻度の高い申し送りのパターンで、必要な申し送り項目をあらかじめテンプレート化し、組織内で共有しておくことは、効率よくかつ効果的に申し送り事項を共有するために有効です。

 テンプレートには、日付や記入者、申し送り先など、申し送りをする際に毎回書くような項目やフレーズをあらかじめ記載しておくと便利です。また、申し送りの内容が具体的な行動を求めるのか、それとも情報共有のみなのか、申し送りの目的が端的にわかるチェックボックス形式の選択肢をあらかじめテンプレート化しておくと、記入者は最小限の労力で申し送りの内容を作成できます。

 テンプレート化しておくことで、人によって書いたり書かなかったりという申し送りのばらつき回避にもつながります。

 ここでは、ホテルのフロント業務と介護施設のスタッフの書き方例を紹介します。

日付:3月26日

記録者:フロント担当Aからフロント担当Bへ

要対応案件:

本日(3月25日)午後2時頃、703号室のお客様の外出時にお部屋の空調の不具合を報告してこられました。現在メンテナンスの手配中です。お客様のお戻り予定は21時頃とのことです。念のため、予備部屋733号室を確保してあります。お客様帰宅時に修理が完了できない場合は、お部屋の変更対応をお願いします。その旨、お客様にもご説明およびご了解済みです。

日付:3月26日

記録者:スタッフCからスタッフDへ

要対応案件:

昨日(3月25日)午後3時、新規で71歳男性のお客様の〇〇さんが入所されました。入所手続きは完了していますが、お疲れのご様子だったため、所内の案内は簡単に済ませてすぐに部屋でお休みになられました。夕食はお部屋で取られました。本日26日に体調が回復しているようであれば、改めて所内の案内をお願いします。

 申し送りを行う職種では、その業務を毎日繰り返し行っています。毎日行う業務だからこそ、申し送り業務は簡潔かつ必要な情報を適切に網羅している必要があります。

 チーム全体の生産性向上と円滑なコミュニケーションの実現のために、申し送り事項を適切な項目の構成でテンプレート化するとよいでしょう。毎日の申し送り事項を効率的に準備するためのツールになるよう、現場のスタッフ同士でこれまでの経験を生かして意見を出し合い、使用するスタッフ全員が利用しやすいものにすることが大切です。

 この記事を参考に、貴社の現場チームに適した申し送り事項のポイントとテンプレート化を検討してみてはいかがでしょうか。