ラポール形成とは 3原則やテクニック、成功のために必要なポイント
人も価値観も多様化している時代で、どのようにコミュニケーションを取ればよいのか、どのように信頼関係を構築すればよいのか、悩んでいる人もいらっしゃるでしょう。この記事では、組織コンサルティングが専門の中小企業診断士が、ラポール形成とは何か、テクニックや必要なポイントを解説します。
人も価値観も多様化している時代で、どのようにコミュニケーションを取ればよいのか、どのように信頼関係を構築すればよいのか、悩んでいる人もいらっしゃるでしょう。この記事では、組織コンサルティングが専門の中小企業診断士が、ラポール形成とは何か、テクニックや必要なポイントを解説します。
目次
ラポール形成とは、相手と自分との間に橋が架かっている状態(心が通じ合い、互いに信頼し、相手を受け入れている状態)を築くことを指します。
ラポールとはフランス語で「架け橋(rapport)」を意味します。もともとは心理学の分野で使われていた専門用語で、親密な関係や信頼関係を表す言葉です。
ただし、ラポール形成で築く信頼関係と通常の信頼関係では、やや意味あいが異なります。ラポールの本来の意味は、精神的・生理的なものであり、意識しなくても心が通じ合っていたり、一緒にいて心地良かったり、不思議と気が合ったりすることを指しています。
「信頼関係を築く」だけを捉えてしまうと「約束を守る」や「納期を守る」などのビジネスマナーに終わってしまいますが、ラポール形成は、もっと生理的な感覚に近いものだと理解すると良いでしょう。
相手との親密な関係や信頼関係を構築するラポール形成は、ビジネスや福祉、恋愛などさまざまなシーンで活用されています。
以下に、それぞれの具体的な内容をご紹介します。
ラポールが形成されることで、取引先、顧客などの社外の関係者だけでなく、部下や同僚など社内の関係者とも円滑なコミュニケーションを取りやすくなります。
その結果、信頼感や説得力が増し、良好な人間関係が構築されたり、気持ちのよい仕事ができたりするなどの効果を生み出します。社内外での信頼関係が築かれると、ビジネスの成約率やリピート率、売上アップなどの成果が期待できるのもメリットです。
また、心理的安全性が高まる効果も期待できます。心理的安全性とは、自分の考えや感情を安心して発言できる状態のことです。心理的安全性が高いと、新しいアイディアが生まれたり、社員同士のコミュニケーションが活発になったりするなど、さまざまな効果を得られます。
福祉の現場でカウンセリングを行う場合においても、ラポールが役立ちます。カウンセリングがうまくいくかどうかの大部分は、ラポール形成にかかっているといっても過言ではありません。しっかりとしたラポールを構築できると、相手はカウンセリングのなかで安心して自由に振る舞ったり、素直な感情を表現できたりするようになります。
ただし、福祉の現場は個人情報保護や守秘義務が徹底されており、カウンセラー自身や他のスタッフの個人情報を教えることはできません。そのため、より高度なラポール形成テクニックが求められます。
ラポール形成は、恋愛関係の構築においても重要です。ラポール形成を意識したコミュニケーションで、相手との親密度が大きく変わってきます。
相手をしっかりと観察すると「何を考えているのか」「どんな気持ちでいるのか」「どんな世界観を大切にしているのか」といった点が見えてきます。ラポール形成のテクニックを用いることで、会話が自然と弾み、恋愛関係の構築に作用する効果も期待できます。
ラポール形成の大前提は、相手に対して誠実な興味や関心を持つことです。そのうえで大切なのが「尊重と肯定」「行動の類似性と同調」「ペーシングとリーディング」という3原則の遵守です。
これらの原則を十分に意識して行動することで、ラポール形成を効果的に行えるようになります。
相手のことを無理にコントロールしようとするのではなく、相手の持っている価値観や感情を肯定し、尊重する姿勢を持つことが大切です。具体的には、相手の話に相槌を打ったり、質問を返したり、相手の感情に共感したりしながら熱心に聞く「傾聴」が必要となります。
ただし、その際に自分が大切だと思っていることを捻じ曲げて相手に合わせるのではなく、自分の価値観と同様に相手の価値観も尊重するという姿勢が重要です。これにより相手の共感を得ることが可能となり、ラポール形成につながりやすくなります。
人は、自分と類似性がある相手に安心感や好感を抱きやすいといわれています。例えば、出身地や年齢、特技、趣味などが類似していることで、相手に対して安心感や好感を抱いた経験はないでしょうか。
共通の趣味や話題を見つけ会話を進めることで、ラポール形成がスムーズに進みやすくなるのもこの効果です。また、行動が似ている場合も好感度が上がる可能性が高まるため、相手の身振りや手振り、話すペースなどを真似するのも効果的です。
ただし、相手との類似性を探すあまりに会話が不自然になったり、行動に同調しようと相手を見つめすぎて不快感を与えたりしないように注意が必要です。
ペーシングとは、呼吸や話し方、視線などを相手に合わせることです。相手の話すスピードや声のトーン、仕草などを合わせることで、相手は「話しやすい」「自分のことを理解してくれている」と感じ、信頼感を寄せやすくなります。
一方、リーディングとは、目的に合わせて相手をリードすることです。ラポールが形成できた相手は、こちらの言葉を信頼して実行してくれる可能性が高くなるため、適切なタイミングでリーディングを行うことも話を進めるうえでは重要となります。
例えば、生命保険は必要ないと思っている人とラポールを形成し、メリットや事例などを紹介しながら生命保険が必要だと感じてもらうようにリードするのがリーディングです。ただし、ラポール形成ができていない状態でリーディングをすると信頼関係が壊れる原因になりかねないので、注意が必要です。
ラポールを形成するテクニックのうち、代表的な四つのテクニック(キャリブレーション・バックトラッキング・ミラーリング・マッチング)を紹介します。
心理学から読み解くラポール形成のテクニック | |
---|---|
キャリブレーション | 相手の仕草や表情、雰囲気、姿勢などを細かく観察する |
バックトラッキング | 相手が使った言葉をそのまま返す(オウム返し) |
ミラーリング | 相手の仕草や姿勢、動きを鏡に映すように真似する |
マッチング | 相手の声の大きさや話すテンポ、声のトーンなどを合わせる |
キャリブレーションは、仕草や表情、雰囲気、姿勢などを細かく観察し、相手の心理状態を探るテクニックです。
例えば、生命保険の商品提案をしている際に、相手が「わかりました」と言いながらも困惑した表情だった場合は、内容を理解しきれていないことが考えられます。
そのまま契約をしようとしたり、次の説明に進んだりすると、ラポール形成ができず成果につながらない可能性が高くなります。
バックトラッキングは、相手が会話の中で使った言葉をそのまま返すテクニックで、一般的に「オウム返し」といわれます。
例えば、相手が「楽しかった」といった際には「楽しかったんですね」と相手の言葉を返します。相手が発した言葉をさりげなく繰り返すことで、「この人は自分の言ったことを理解してくれている」という安心感を与えられます。
注意点は、相手の言葉を自分の言葉にしないことです。「楽しかった」を「最高ですよね」と自分の言葉に変えてしまうと、相手の気持ちと合わずに不信感を抱かれる恐れがあります。
ミラーリングとは、相手の動作を鏡のように真似して、親近感を抱いてもらうテクニックです。例えば、相手が髪を触ったら自分も髪を触ったり、飲み物を飲んだら自分も飲んだりします。
好感を抱く相手と一緒にいると無意識で行動を合わせてしまう、といった経験がある人もいるのではないでしょうか。ミラーリングはこの現象を応用したテクニックで、似た行動をすることで相手に好印象を持ってもらえるようになります。
ただし、真似していることが相手に知られると逆効果となってしまうため注意が必要です。
マッチングは、相手の声の大きさや話すテンポ、声のトーンなどを合わせるテクニックです。相手が話やすい環境を作ることでコミュニケーションが活性化し、ラポールの形成につながります。
その際に、コミュニケーションの主導権を自分が取ろうとするのではなく、相手に合わせて変えることが大切です。
これまで、ラポール形成の3原則やテクニックなどを紹介しましたが、それだけではラポールを形成するのが難しい場面もあります。相手と円滑にラポールを形成するために、技術面だけでなく、以下のポイントを意識することが大事です。
コミュニケーションの基本は、まず相手の人となりや状況などに興味や関心を持つことです。相手に興味を持っていなければ、いくらテクニックを駆使したとしても見透かされてしまい、逆に不信感を持たれてしまいかねません。
相手に偏見や苦手意識を持っていると、どうしても言葉や態度に出てしまい、ラポールを形成ができなくなってしまいます。自分とは考え方が違っていたとしても、それを当たり前として受け入れて関心を持つことが大事です。
相手の意見や考えに完全に同意する必要はありませんが、相手の価値観や考え方などに寄り添う姿勢は大切です。そのためには、一人ひとりの価値観には違いがある点を理解し、一定の理解を示すことが重要です。
相手の人格や価値観を尊重することは、ラポール形成以前にコミュニケーションの基本でもあります。
人間は五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)を使って情報を収集しますが、人によって感覚器官の鋭さには違いがあります。相対的に優位にある器官は変わってくるので、相手がどのタイプなのかを観察したうえで、相手の五感に合わせてコミュニケーションを取ると効果的です。
例えば、視覚タイプにはイメージに訴えるような説明をしたり、聴覚タイプには論理的な説明を心掛けたりするなど、タイプによって話し方を変えるとよいでしょう。
ラポール形成は、信頼関係を構築し、コミュニケーションを円滑化させるテクニックです。ビジネスでもプライベートでも、相手と気持ちよくコミュニケーションが取れることは、自分にとっても相手にとってもメリットがたくさんあります。
また、相手を尊重してコミュニケーションを取ることは、自分自身の価値観や考え方と向き合うきっかけにもなり、より自己理解を深めるきっかけにもなるでしょう。ぜひ、日頃のコミュニケーションで生かしてみましょう。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。