目次

  1. 戦略と戦術の違いとは
    1. 戦略とは
    2. 戦術とは
    3. 戦略と戦術の関係性
  2. ビジネスにおける「戦略」を立てるときの手順とポイント
    1. 目標を設定する
    2. 現状を分析する
    3. 戦略を決定する
  3. 戦略を実現するための「戦術」を遂行する方法
    1. 戦略に沿った戦術を選択する
    2. 効果を数値で検証する
    3. 適切にPDCAを回す
  4. 戦略と戦術の具体的な成功事例
    1. V字回復させた岩下の新生姜
    2. 広告出版で絵本事業を拡大した三恵社
  5. 戦略と戦術の違いよりも重要なこと

 ビジネスにおいては戦略と戦術がしばしば同じ意味で使われがちですが、これらの用語には異なる意味があります。簡単にいうと、戦略とは「方向性」を、戦術とは「具体的な行動計画」を指します。

 戦略や戦術は、日々のニュースでも見かけます。例えば、2024年3月某日、アマゾンがふるさと納税仲介事業へ参入することが発表されました。これは「戦略」であり、その結果どのように訴求するかは「戦術」です。

 戦略や戦術という言葉は、もともと軍事の分野で用いられていました。軍事では、戦略は全体的な勝利を目指す長期計画や方向性を、戦術は具体的な戦闘や小規模作戦での方法や手段を意味します。これが現代のビジネスにおいても応用されています。

 戦略とは、組織の長期的な目標を達成するための方向性のことです。具体的には、新しい市場への進出や特定の市場セグメントへの集中といった、大きな方向性を設定することが戦略にあたります。

 例えば、パン屋を開業したい場合、その地域の住民構成や、自社のパンの特徴、競合店の特性などを調査・検討し、どの立地で開業し、どのような顧客層に販売するかを決定します。

 このように、市場の状況、自社の強み、競合の特徴などの分析に基づいて全体的な方針を定めることが戦略です。

 戦術とは、戦略によって定められた目標を具体的に実現するための手段や行動です。どのようなメッセージで訴求するか、商品の価格設定はどうするかなど、戦略を実現するための具体的な行動計画が戦術に含まれます。

 例えば、パン屋を開業する場合、店頭のポップで「柔らかくて食べやすい、当店一番人気のパン」と訴求したり、パンの陳列方法を決めたりすることが戦術の一例です。

 このように、詳細な行動や手段が戦術に相当します。

 戦略と戦略は、大きな方向性である戦略に沿って、具体的なアクションレベルである戦術が実行される関係にあります。従って、まず戦略を考え、その後で戦術を考慮する、という順番を踏むのが一般的です。

 さきほど挙げたパン屋の例で考えてみましょう。

戦略 戦術
市場分析の結果を踏まえ、高齢者をターゲットに設定する 戦略に基づき、近隣の高齢者施設に広告を配布し「柔らかくて食べやすい」というメッセージを前面に打ち出す

 このように、戦略に基づいて戦術を実施することにより、目標に向かって効率的かつ効果的に進めるようになります。

 ビジネスにおける「戦略」を立てる際の手順は、目標の設定、現状の分析、戦略の決定の三つの主要なステップに分けることができます。

戦略を立てるときの手順とポイント
1.目標を設定する 売上金額や市場でのシェア率など、明確で具体的な目標を設定する
2.現状を分析する 顧客のニーズや購買時の行動、競合の戦略や特徴、自社の強みや弱みなどを分析する
3.戦略を決定する 目標設定と現状分析の結果をもとに、どのような戦略を採用するかを検討する

 各ステップの具体的なポイントを下記に解説します。

 戦略を立てる第一歩は、ビジョンに基づき、明確で具体的な目標を設定することです。目標設定の際にはSMART(具体的、測定可能、達成可能、関連性があり、時間的に限定される)を活用すると効果的です。

 具体的な目標を設定することで、チーム全体が共通の理解を持ち、集中して取り組めるようになります。ここでの目標としては、たとえば売上金額や市場でのシェア率などが挙げられます。

 次に現状を把握するために分析を行います。想像や思い込みではなく、事実をもとに分析を行うことが重要です。なぜなら、この現状の分析をもとに戦略が決定されるからです。具体的には、顧客のニーズや購買時の行動、競合の戦略や特徴、自社の強みや弱みなどを分析します。

 分析にはさまざまな方法がありますが、そのうちの一つである3C分析は戦略構築の際に良く使用される分析手法の一つです。3Cとは、顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)を意味しています。

 ただし、このような分析手法はあくまで事実の整理のみであり、「分析手法の活用 = 戦略の構築」ではない点は留意しておきましょう。

 最後に、目標達成に向けた具体的な戦略を決定します。このプロセスでは、先に行った目標設定と現状分析の結果をもとに、どのような戦略を採用するかを検討します。いくつかの戦略案を提示し、それぞれの選択肢の効果の大きさや実現可能性を考慮して、もっとも適切な戦略を選びましょう。

 先に挙げたパン屋の事例でいえば、近隣の住民に合わせて、高齢者をターゲットに柔らかく健康に良いパンを販売するなど、特定のセグメントにフォーカスした戦略が考えられます。

 また、別の戦略案としては店の立地を生かし、地元産の新鮮な食材を用いたパンを作ることで他店と差別化するといった戦略も考えられます。

 戦略を実現するためには、戦略に沿った戦術を選択し、その効果を数値で検証し、適切にPDCAサイクルを回すことが不可欠です。このプロセスを効果的に進めるためには、以下の三つのステップが重要です。

戦略を実現するための「戦術」を遂行する方法
戦略に沿った戦術を選択する 戦略に基づくターゲットに向けてアプローチするにはどうすればよいか考える
効果を数値で検証する 数値をもとに効果を検証し、その戦術が効果的なのか継続すべきなのかを判断する
適切にPDCAを回す 十分な成果が出ない場合は徹底的に原因を分析したうえで改善策を実施する

 それぞれ下記で詳しく解説します。

 戦術にはさまざまな選択肢がありますが、重要なのは戦略に沿った戦術を選択することです。戦術はアクションレベルであり、思いつきやすいものです。しかしながら、戦略がない戦術は効果が期待できません。

 例えば「SNSで情報を発信する」「広告チラシを配る」といったアクションを考えたとしましょう。しかし、SNSで情報を発信しても、ターゲットがSNSをあまり使用しない層だと効果は期待できません。また、広告チラシを配布する際にも、誰に対して何を訴求して、どこに配布するかは、すべて戦略に基づくターゲット設定に依存します。

 パン屋の例でいえば、高齢者がターゲットなら、柔らかく食べやすいパンを訴求し、老人ホームなどへチラシを配布するという戦術が効果的でしょう。一方、学生をターゲットにしている場合は、トレンドを訴求し、大学へチラシを配布するといった戦術が考えられます。

 このように、戦術は戦略に従って大きく変わります。

 戦術を実行する際には、可能な限り数値化し、その効果を検証することが重要です。数値をもとにその効果を検証しない限り、その戦術が効果的なのか、継続すべきかどうかの判断ができないためです。

 Web広告などデジタルメディアを使用する場合は、リーチした人数、クリックした人数、購入に至った人数などのデータが得られます。また、アナログの広告チラシの場合でも、可能な限り数値化する工夫が必要です。

 例えば、チラシを持参した人だけが割引を受けられる仕組みにすれば、チラシを見て来店した人数や、そのなかで新規顧客が何名であるかなどのデータを収集でき、チラシの効果を検証できます。

 どのような戦術でも、一度で成功することは稀です。何度もPDCAを回すことで改善されていきます。PDCAとは「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」の4段階で構成されており、これらのステップを継続的に実行することで、効果的に問題を解決できます。

 注意点としては、「Check(評価)」から「Act(改善)」へ移る際には、思い付きで改善策を実施するのではなく、原因を特定し、それに応じた改善策を講じることです。例えば、パン屋のチラシの作成を計画(Plan)し、実行(Do)した後に、その効果を検証(Check)します。

 成果が十分に出ない場合は、チラシが届いていないのか、メッセージが魅力的ではないのかなど原因を徹底的に分析し、それを踏まえたうえで改善策(Act)を実施することが重要です。

 戦略と戦術を活用している具体的な企業事例として「V字回復させた岩下の新生姜」と「広告出版で絵本事業を拡大した三恵社」を紹介します。両事例ともに、戦略と戦術が繋がっているからこそ大きな成果を挙げていることがわかります。

 岩下食品がCMを減らしても「岩下の新生姜」の売り上げをV字回復させた戦略と戦術の活用を解説します。

戦略 「岩下の新生姜」を料理の素材として使用する人を新しいターゲットに設定
戦術 Twitter(現:X)でのコミュニケーションを実行

 市場において、漬物の需要が減少傾向にあることは明らかでした。漬物は塩分が多いというネガティブなイメージと、デフレ時代に付着してしまった「市販の弁当に使われる漬物は安物でおいしくない」という印象が原因だと考えられます。

 そんななか、岩下の新生姜は、漬物とは異なる使い方として、さまざまな料理の素材として使用可能であることも認識されていました。この市場環境を踏まえて、漬物を購入する人だけではなく、料理の材料として使用する人々を新たなターゲット層とする戦略を立てたのです。そして、この戦略を実施するための手段として、Twitter(現在のX)が利用されました。

 結果として、多くのユーザーが新生姜を使用したさまざまなレシピを提供し、それらはレシピ本「We Love 岩下の新生姜 ツイッターから生まれたFANBOOK」として出版されるに至ります。

 成功のポイントとしては、分析、戦略、戦術が繋がっていることです。漬物市場が低調であるなかで、新生姜を料理の材料として使用するアプローチを見極め、それを目指してターゲット層を拡大する戦略を立てました。

 そして、ユーザー参加を促しやすいTwitter(現X)の利用により、数多くのレシピが集まり、さらに話題性を増すことに成功しました。表面的にはTwitterの利用が目立ち、それだけに焦点を当てがちですが、実際にはこの一部分を模倣するだけでは意味がありません。分析、戦略、戦術という全体の流れを理解することが重要です。

 名古屋市の三恵社は、少部数出版を得意とする出版社兼印刷会社です。少子化のなかでも売り上げが伸びている絵本事業の戦略と戦術を解説します。

戦略 広告絵本を使った広告出版市場への参入
戦術 絵本の届け方の提案、巻末にキャンペーンページの掲載

 三恵社は、大部数の雑誌印刷などに使われるオフセット印刷ではなく、少部数の印刷でコストを抑えられるオンデマンド印刷を活用しています。この方式により、数十冊からでも出版が可能となり、初期費用の負担も抑えられる仕組みを構築していました。しかし、印刷の受注が大幅に減少し、さらには電子書籍の普及による影響もあり、新たな事業を立ち上げることになりました。

 出版に関するノウハウを持っていたこと、そして部長が絵を得意とし、絵本出版の実績があったことから、広告絵本を利用した広告出版市場への参入を試みます。当初は成約を得ることが困難でしたが、絵本作家を目指す人たちの作品を無料で制作するなどして実績を積み重ね、企業からの受注を獲得するようになりました。

 広告絵本の制作だけでなく、企業への絵本の配布方法の提案や、巻末にキャンペーンページを設けるなどのアプローチにより、日々問い合わせがあり、月に70~80件の反響があったといいます。コロナ禍で印刷業界全体の売上が下がるなか、絵本のみが売上を伸ばしていました。

 成功のポイントは、強み(出版ノウハウ、絵本の出版実績がある部長)を生かして広告絵本を通じて広告出版市場へ参入するという戦略を選択したこと、その戦略をベースに戦術(絵本の届け方の提案、巻末にキャンペーンページの掲載など)を実行したことです。

 強みを生かした戦略があって、初めて戦術の効果が最大化されます。もし広告絵本を使って広告出版市場へ参入するという戦略がなければ、キャンペーンなどの戦術を実施しても同じような効果は期待できなかったでしょう。

 戦略と戦術の違いを理解することは大切ですが、それを上回る重要性を持つのは、戦略と戦術を結びつけることです。市場環境を分析し、「これならば勝てる」という戦略を描き出し、それを具体化するための戦術を立案することが重要です。

 日々中小企業へのコンサルティングを行うなかで、多くの企業が戦略を練る前に、広告やSNSといった戦術的な手法に目を向けがちであることに気づきます。しかし、戦略を欠いた戦術はただの行動の増加に過ぎず、望む効果をもたらすことは難しく、結果として従業員の疲弊にも繋がります。

 この記事を参考に、戦略と戦術を結びつけ、効果を最大化するように取り組んで頂ければと思います。