日本酒「獺祭」が2025年に宇宙へ 月での酒造りを目指して実験開始
広部憲太郎
(最終更新:)
日本酒の有名銘柄「獺祭」を製造する旭酒造(山口県岩国市)は、2025年後半に国際宇宙ステーション「きぼう」で、人類初となる宇宙での酒造りに挑戦します。製造した酒は「獺祭MOON – 宇宙醸造」(100ミリリットル)として1億円で販売し、全額を宇宙開発事業に寄付する予定です。旭酒造は3代目の桜井博志さん(現会長)が一代で「獺祭」をブランド銘柄に育て、2016年に4代目社長となった息子の一宏さんも、米ニューヨーク州に酒蔵を建てるなど挑戦を続けています。今回の試みは、人類が月で日本酒を楽しめる未来を目指す第一歩と位置づけています。
成長と挑戦を続ける「獺祭」
旭酒造は1948年に創業しました。3代目の博志さんが1984年、父の急逝で経営難だった酒蔵の後を継いでから、純米大吟醸酒「獺祭」を開発して立て直しを図ります。
醸造責任者の杜氏を置かず社員が通年で製造する体制をつくり、純米大吟醸酒の量産化と全国販売に成功。特に精米歩合を23%まで削り込んだ「獺祭磨き二割三分」は、海外でも人気となっています。
2016年に父の後を継いだ4代目の一宏さんも、米ニューヨーク州に酒蔵を開いて海外での製造を始めたり、大卒社員の初任給を5割近く上げたりするなど、挑戦を続けています。
2024年9月期の売上高は、前年比21億円増の195億円で、地方酒蔵ではトップクラスの規模に成長しました。
宇宙飛行士が「きぼう」で仕込み
宇宙での酒造りは、もともと博志さん、一宏さんともに構想を描いていたといいます。本格的に動き出したのは、2022年春ごろでした。
旭酒造によると、三菱重工宇宙事業部の若手メンバーが、宇宙空間や月面での食事について議論を重ね、「お酒が必要」という話で盛り上がりました。そして、一宏さんが「将来、獺祭が宇宙で飲まれるようになってほしい」と話していた記事を見て、旭酒造に声をかけたそうです。
米は水分を多く含むブドウと比べて軽いため、月まで輸送しやすいという特徴があります。旭酒造は将来的に米と月にあると言われる水を使って、月面で獺祭を造るという夢を描いています。
今回はその第一歩として、「きぼう」内に地球の6分の1の重力である月面環境を再現した醸造施設を設置。2024年にユネスコ無形文化遺産に登録された「伝統的酒造り」の肝となる並行複発酵という技術が、月面環境を再現した状況下で実現できるかを確かめるのが目的です。
醸造装置は、「きぼう」の日本実験棟にある細胞培養追加実験エリアの人工重力発生機に設置します。醸造装置内に、獺祭の原料である酒米の山田錦、麹、酵母を入れた状態で「きぼう」へと打上げます。
宇宙飛行士が原材料と仕込み水を混ぜ合わせて発酵を始め、その後は自動撹拌とアルコール濃度のモニタリングを行い、もろみの完成を目指します。
旭酒造の担当者は「試験プロトコルは調整中ですが、シリンジを使って水を注入するような簡単な機構を検討しています」と説明します。原料を混ぜ合わせるだけなので、酒造りに詳しくない宇宙飛行士でも実験できるそうです。
完成したもろみ約520グラムを冷凍状態で地球に持ち帰り、搾って清酒にした後、分析で必要な量を除き、100ミリリットルをボトル1本に瓶詰めします。
「きぼう」の活用は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の承認を得ており、現在は醸造装置の開発を進めています。打ち上げは2025年後半を目指しています。
1億円で販売して全額を寄付
宇宙で醸造したもろみを使った酒は、「獺祭MOON – 宇宙醸造」 と名づけ、希望小売価格1億円での販売を予定しています。旭酒造は出荷額を全額、日本の宇宙開発事業に寄付します。
日本酒業界の概念を打ち破り、ファミリービジネスのモデルとなってきた旭酒造にとって、新たな一歩を踏み出す2025年となります。
旭酒造の担当者は「一番の目的は、将来、月面で酒造りをするための第一歩を踏み出すことです。月面での酒造りの実現には数限りないハードルがあり、現時点では明確な道筋は見えていない状態です。宇宙関連事業の経験が全くない今、まずは第一歩を踏み出すことで、実現に向けて様々な広がりや、可能性が見えてくると期待しています」とコメントしました。
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この記事を書いた人
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広部憲太郎
ツギノジダイ副編集長
北海道函館市出身。2000年に朝日新聞に入社。記者としてスポーツや地方創生の分野などを担当。前任地の三重県では、農林水産業や酒蔵など伝統産業の経営者に取材する機会が多かった。2020年から現職。2023(令和5)年度の中小企業診断士試験に合格し、現在登録を申請中。
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