目次

  1. データドリブン経営とは
    1. 迅速で質の高い意思決定
    2. イノベーションと生産性向上
    3. リスク管理の強化
    4. 競争力の強化
    5. サプライチェーンとの連携強化
  2. データドリブン経営の鍵「データマチュリティ」
  3. データドリブン経営の実践事例
  4. データドリブン経営実現へのステップ
    1. 準備段階
    2. 導入段階

 IPAの特設サイト「データスペースアカデミー」によると、データは、「ヒト、モノ、カネ」と並ぶ重要な経営資源であり、様々な部門で価値を生み出せるだけでなく、繰り返し利用可能な経営資源でもあります。

 データドリブン経営とは、データをもとに企業の戦略や意思決定ができることを指しており、実践できると、以下のような具体的なメリットがあります。

 現在の状況を素早く正確に理解し、将来の動きを予測することで、エビデンスに基づいた合理的な判断ができるようになります。

 サービスや組織における新たなチャンスや課題を発見し、社内外のデータを組み合わせることで、新たなサービス創出や既存ビジネスの改善しやすくなります。

 異常の兆候を早期に捉え、データ漏洩などのリスク顕在時には迅速な状況把握と対応が可能となり、事故リスクも抑えることにつながります。

 競合他社がデータを活用し、AIが熟練の技さえ学習する時代において、データ活用は他社に先んじられる可能性があります。

 複雑化・高速化するサプライチェーンで、データ連携がスムーズな企業は迅速に対応でき、取引先からの信用が高まる可能性があります。製品そのものだけでなく、データ連携の観点からも企業が評価されるようになるには、標準に基づいたデータ整備が重要です。

 データドリブン経営の実現度合いを測り、改善を促すための指標が「データマチュリティ(成熟度)」です。データマチュリティとは、組織がデータを継続的に活用し、価値を最大化し、リスクを最小化する能力のレベルを示す考え方です。イギリス政府が「データマチュリティ・アセスメント・フレームワーク」を導入しているように、これは組織の継続的な成長を促す仕組みとして活用されています。

 データドリブン経営に向けてのデータマチュリティには次のような項目があります。

  • 利用:データが活用されているか
  • データ:データが整備され管理されているか
  • ルール、基盤:データを使う環境が提供されているか
  • リーダーシップ:データ戦略を推進するリーダーがいるか
  • 文化:データを重視する文化があるか
  • スキル:関係者がそれぞれ適切なスキルを持っているか

 評価項目ごとに自組織の客観的評価を確認し、次のステップに行くための策を考えつつ、リソースや組織の置かれた現状や経緯を踏まえ、各評価項目の目標を設定したり、他部門と比較し、優れた事例を参照して活用を検討することが大切です。

 トヨタの一次サプライヤー「Tier1」である旭鉄工はIoTとデータを駆使して製造現場のカイゼンに努めています。生産工程でセンサーを設置してデータを収集し、経営者の木村哲也さんが主導してきました。IoTを活用したDXで電力消費を42%削減するなどして、収益を年10億円近く改善させています。

 カイゼンに役立っているのが生成AIを活用した「AI製造部長」です。200本の製造ラインのIoTデータを自動巡回し、IoTデータを解釈し、「D(カイゼンアドバイス)」もできるようになりました。社員もSlackを通じて気軽にカイゼン相談できる環境が整っています。

「DX成功の鍵は経営者自身にあり:AI時代の挑戦と覚悟」について講演する旭鉄工の木村哲也社長
「DX成功の鍵は経営者自身にあり:AI時代の挑戦と覚悟」について講演する旭鉄工の木村哲也社長

 2024年に創業100年を迎えた青木商店(福島県郡山市)は、フルーツショップ、フルーツジュース、フルーツタルト&カフェの3事業を柱に、「フルーツバー果汁工房果琳」などを全国に約200店舗を展開しています。

 きっかけはコロナ禍でした。4代目社長の青木大輔さんは「それまでは売り上げ予測をベテランの勘に頼ることが多く、マネジャーが全国を飛び回って各店舗に直接アドバイスをしていたんです。しかし、人の往来ができなくなったことで、コミュニケーションが希薄になり、マネジメントにおける効率性の課題が浮かび上がってきました」と振り返っています。

 そんなときに取り組んだのがDX。これまで勘や経験に頼ってきた部分をデータで可視化。売り上げを予想し、フードロスの削減やスタッフのシフト調整、発注や在庫管理など、ITを活用した攻めの販促を目指しています。

 データドリブン経営を実現するために、IPAは段階的なステップを勧めています。

  1. 経営層の理解とコミットメント:データが企業の重要資産であることを認識し、データに基づいた判断を心がけます。
  2. 推進体制の構築:CDO(Chief Data Officer)またはそれに準ずる役職と専門チームを置きます。
  3. データリテラシーとデータマチュリティの向上:社員一人ひとりがデータを意識した活動を行い、組織全体のデータ活用力を高めるための人材育成プログラムやツールを整備します。
  4. データの棚卸とカタログ作成:社内にどのようなデータが存在し、事業にどのようなデータが求められているかを調査し、カタログ化します。
  1. データの企画・設計:目的と活用範囲を明確にし、FAIR原則(Findable, Accessible, Interoperable, Reusable)やサステイナビリティを意識して、10年、100年先の活用を見据えた設計を行います。相互運用性を確保するため、国際標準に準拠することも重要です。
  2. データの整備:社内データカタログ、オープンデータ、データ取引所などから必要なデータソースを探し、入手したデータをクレンジング・統合します。手作業を減らすため、APIを活用した自動収集も検討します。
  3. データの利活用とサービス創出:設定した目的に加え、多角的な視点からデータを分析し、新たな可能性を追求します。これを成長サイクルとして確立し、サービスの価値を明確にして関係者を巻き込みながら、デジタルトランスフォーメーションを推進します。

 データドリブン経営は、個人の活用能力を高めることを前提としつつ、組織全体の力を最大化する取り組みであり、そのためには組織のリーダーの強いコミットメントが不可欠です。

 データマチュリティの向上は、組織の基礎体力を向上させ、持続的な成長と競争力強化の道を切り拓く、現代ビジネスにおける最重要戦略と言えるでしょう。