経営者に必要な考え方とは 900社超の取材をもとにしたマインドセット

日本の経営者の考え方にはどのような特徴があるのでしょうか。変化の激しい時代を生き抜く経営者に必要なマインドセットについて、これまで900社超のインタビューをしてきた内容をもとに整理しました。軸をぶらさないために明確なビジョンを持つことや、持続可能な「三方よし」、数字やデータに基づく冷静な判断力などを紹介します。
日本の経営者の考え方にはどのような特徴があるのでしょうか。変化の激しい時代を生き抜く経営者に必要なマインドセットについて、これまで900社超のインタビューをしてきた内容をもとに整理しました。軸をぶらさないために明確なビジョンを持つことや、持続可能な「三方よし」、数字やデータに基づく冷静な判断力などを紹介します。
目次
記事「経営者に必要なスキルとは 不足しているスキルを補う方法も紹介」のなかで、次代の経営者像として必要なことは「自社の未来を描き、その実現に向け社員を巻き込み自ら率先垂範する」であるとし、具体的には以下のようなスキルを身に着けようとする考え方が必要だとしています。
しかし、経営者に必要な考え方はこれだけではありません。
ツギノジダイ編集部が中小企業の経営者や後継者900人以上にインタビューするなかで見えてきた「考え方」を紹介します。
事業を続けている限り、好調・不調はつきものです。一時的に経営が不振に陥っても、事業の軸をぶらさないためには「明確なビジョン」を持つ必要があります。
Collins&Porrasは1996年の「ハーバードビジネスレビュー」で、企業が永続するには、絶えず変化する社会のなかでコアバリューを定めること、ビジョンを示すことで何を維持し、何を変えるか、指針を示すことの大切さを説いています。
ビジョンとは、その事業を通じて実現したい未来の姿です。周囲に目標を宣言することで、目標達成に向けて自らを行動するよう仕向け、周囲の支援を得る「パブリック・コミットメント(Public Commit)」という効果も期待できます。
たとえば、アイリスオーヤマは大山会長の考えを浸透させるために、企業理念だけではなく、「経営方針」「管理者十訓」「企業成長の五原則」「業務指針」なども定めています。
1.会社の目的は永遠に存続すること。いかなる時代環境に於いても利益の出せる仕組みを確立すること。
2.健全な成長を続けることにより社会貢献し、利益の還元と循環を図る。
3.働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、 社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり。
4.顧客の創造なくして企業の発展はない。生活提案型企業として市場を創造する。
5.常に高い志を持ち、常に未完成であることを認識し、革新成長する生命力に満ちた組織体をつくる。
一時的に売上を上げることは可能ですが、継続的に売上を確保し、高い利益率を維持することは困難を極めます。そこでビジョンを社内に浸透させることで、社員を成長を促そうとしているのだと考えられます。
そんなアイリスオーヤマは2018年、大山晃弘さんが2代目社長となりました。晃弘さんは、「脱カリスマ」を掲げたチーム経営に取り組んでいます。
ビジョン実現のためには、事業を持続させることが不可欠です。そのためには、利益を出し続ける必要があります。しかし、常に先を見据えている老舗企業であるほど、「短期的な利益」だけにとらわれない視点を持っています。
補助金の不正受給や脱税といった行為は論外ですが、取引先へのコストカットの強要や従業員の使い潰しといった行為も、長期的に見れば事業の持続可能性を損なう要因となります。
これまで取材してきた老舗企業のインタビューで出てくる言葉が、近江商人の「三方よし」でした。愛知県常滑市の澤田酒造6代目・澤田薫さんは社長就任後、真っ先に作ったのが経営理念でした。
「働き手良し、売り手良し、買い手良し、世間良し、自然良し」。「三方よし」に、働き手と自然を加えた「五方よし」にして「素直、親切、謙虚、感謝、丁寧」の「五礼」も使命として掲げました。毎日の朝礼で唱和しています。
こうした企業事例から学べることは、自社に関係するすべての人に利益がいきわたることが長続きする企業にとって必要なことだと言えます。
「三方よし」の精神で事業を営むということは、ファンづくりにもつながります。ファンとは顧客だけではありません。取引先、従業員、すべてのステークホルダーを巻き込むことが大切です。ファンになってもらうことで、価格だけでない価値選択が生まれ、長続きする関係性を築くことができます。
ファンづくりの基本は、誠実さです。小さな約束も必ず守る、発言と行動を一致させる、という当たり前のことがまず大切です。その上で、相手の期待値を上回る価値を提供することで、ファンは育っていきます。
高山額縁店(名古屋市)3代目の高山大資さんは、大手と同じように安くしても薄利多売になるだけだと考え、人と人とのふれあいを大事にした「誰も見たことがない店」を目指して店をリニューアル。
若手のアーティストなど、新規のお客さんが「かっこいい」「覗いてみよう」と来てくれるようになり、 対面でニーズを把握する丁寧な接客や口コミでお客さんが増えていきました。
ただし、すべての人をファンにしようとする必要はありません。むしろ、どんな人にファンになってほしいのかを見極めることが重要です。
事業には「社会や地域に役立ちたい」という熱い思いが必要ですが、それだけでは継続しません。数字やデータにもとづく冷静な判断力の両方が求められます。数字で判断するため、厳しい現実を直視することにつながるかもしれません。
しかし、これが持続可能性を保つための鍵であることが、経営危機を立て直そうとしている企業のインタビューから見えてきました。
老舗企業が生き残り続けているのは、過去に固執し過ぎず、時代に合わせて柔軟に対応していく能力にあります。一般的に、新規事業を検討するときは、流行のビジネスに飛びつきがちです。
しかし、長期的に見て儲かる事業は、必ずしもブームとは関係がありません。むしろ、大企業が参入してこないような分野こそ、本当のチャンスが眠っているかもしれません。
創業100年超のクラモト氷業(金沢市)5代目の蔵本和彦さんは、新婚旅行で米・ラスベガスの高級バーを訪れた時、不純物の多い濁った氷ばかり提供された経験をもとに、海外向けに透明度が高く、棒状で3cm角のスティックアイスを開発しました。
グラスに入れて酒を注ぐと、氷が見えなくなるほど透明になるため、「ニンジャ」と呼ばれたといいます。米国の主要都市の高級レストランやバーで提供され、1tからはじめた輸出も2023年には220tに拡大しました。
新規事業のタネは見つけたときは、すごく価値の高いものに感じがちですが、じつは誰かがすでに参入していたが儲からなくてやめた、ニーズはあるけれどお金を出してまで解決したい課題ではなかったという可能性もあります。だからこそ、老舗企業であるほど見極めは慎重です。
また、本業が傾くような賭けをせず、新規事業はスモールスタートからが肝心です。ビジネスは決して簡単ではありませんが、成功するまで挑戦し続ける限り「失敗」ではありません。困難があっても折れない心と強い意志が必要です。
経営者は、社内で起こるすべての問題や状況に対して最終的な責任を負います。自責思考は、経営改善に大切ですが、やりすぎると、心の不調につながってしまうかもしれません。そのため、自分自身のマネジメント能力も必要です。
仕事は一人で抱え込まず、業務と責任は分散させましょう。中小企業は経営者のパフォーマンスが何より大切です。運動、食事、睡眠など健康的な生活習慣を心がけましょう。
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