目次

  1. ストレスコーピングとは ラザルスが理論を提唱
    1. ストレスを構成する要素
    2. ストレスコーピングが重要な理由
    3. ストレスコーピングとストレスマネジメントの違い
  2. ストレスコーピングの種類
    1. 問題焦点型コーピング
    2. 情動焦点型コーピング
    3. 認知的再評価型コーピング
    4. 社会的支援探索型コーピング
    5. ストレス解消型コーピング
  3. ストレスコーピングの具体的な実践方法と例
    1. コーピングリストの作成
    2. 現状把握とモニタリング
    3. 主体的な解決意識と分析
    4. 他者とのコミュニケーション
  4. 企業内でできるコーピング方法
    1. ストレスチェックとフィードバック
    2. 健康促進プログラムの導入
    3. ワークライフバランスの推進
    4. メンタルヘルスサポートの提供
    5. チームビルディングとコミュニケーションの促進
    6. リラクゼーションスペースの設置
  5. 従業員の健康維持と企業成長にストレスコーピングを

 ストレスコーピングの「コーピング」という言葉は、英語の「cope」(対処する、処理する)に由来します。つまり、ストレスコーピングとは、ストレス源(ストレッサー)やストレッサーによって引き起こされる感情的反応に対処するための具体的な行動や対応方法を指します。

 これは、アメリカの心理学者リチャード・S・ラザルスが提唱した概念です。ラザルスはこの言葉を使い、ストレスや困難な状況に直面したときの人の行動や対応を表しました。彼の理論は、ストレス状況における個人の受け取り方と、それに基づく反応に焦点を当てています。

 ストレスは、身体の健康や心理的な幸福感が脅かされるときに感じます。ストレッサー(刺激)となる出来事が発生し、それを認識して反応することを「ストレス反応」と呼びます。

 ストレスの原因はネガティブなことだけでなく、好ましい出来事も含まれます。たとえば、重要なプロジェクトの決定や結婚、引っ越しなどの好ましい出来事でも、日常生活の適応が必要になる場合はそれがストレッサーとなります。こうした出来事に対する認識を通じて、ストレス反応が引き起こされるのです。

 ストレッサーは多岐にわたりますが、主に以下のように分類できます。

ストレッサーの種類
環境的要因 自然環境や生活環境に関連する出来事
例:自然災害(地震、洪水、台風)、交通渋滞、都市の騒音や汚染
身体的要因 身体的な快適さや健康に影響を与える出来事
例:極端な気温の変化、騒音、病気、身体的な痛み、過労
心理的要因 個人の心理状態や感情に影響を与える出来事
例:過度な仕事のプレッシャー、試験、プレゼンテーション、重要な決定、トラウマ
社会的要因 人間関係や社会的な状況に関連する出来事
例:人間関係での衝突、社会的孤立、いじめ、職場での対立、家庭内の問題、経済的な困難
日常生活的要因 日常生活において発生する小さなトラブルや煩わしい出来事
例:通勤の遅延、家庭の雑事、時間の制約、小さなけがや病気、トラブル(パソコンの故障など)
人生イベント要因 個人の生活に大きな影響を与える重大な出来事
例:結婚、離婚、引っ越し、新しい仕事の開始、家族の死、出産

 ストレスコーピングは、ストレスの原因を理解し、適切な対処方法を選択するプロセスです。これにより、具体的な行動を取れるようになります。

 たとえば、仕事のプレッシャーが原因の場合、業務の優先順位を見直したり、適切な休息を取ったりすることでストレスを軽減できます。

 このようにしてストレスコーピングに取り組むことは、個人と組織の両方にとって多くのメリットがあります。

①個人のメリット

 ストレスコーピングを実践することで、日常生活でのストレスが軽減され、全体的な生活の質が向上します。健康なライフスタイルを維持し、仕事やプライベートのバランスを保てるようになるでしょう。

②組織のメリット

 個人のストレスは、組織にも影響を及ぼします。従業員のストレス管理が適切に行われると、生産性が向上します。ストレスの少ない環境では、従業員が集中力を発揮しやすくなり、業務を効率的に遂行できます。また、職場の雰囲気が改善されることで、コミュニケーションが円滑になり、チームワークの強化にもつながるでしょう。

 ストレスコーピングと似た表現にストレスマネジメントがあります。両者の違いは、アプローチの焦点にあります。

 ストレスコーピングは、個々のストレス反応に焦点を当て、ストレスを軽減し、対処する方法を探るプロセスです。個人がストレスにどのように対処し、ストレス源との関係を調整するかに注目します。

 一方、ストレスマネジメントは、組織や環境全体に焦点を当てて、ストレスの原因を特定し、総合的なアプローチでストレスを管理する方法です。組織がストレスを管理するための政策やプロセスを実施し、従業員の福利厚生や職場環境を改善することで、ストレスの影響を軽減します。

 つまり、ストレスコーピングは個人中心のアプローチ、ストレスマネジメントは組織中心のアプローチといえるでしょう。

 コーピングの方法はラザルスが分類した「問題焦点型」「情動焦点型」の2点以外にも「認知的再評価型」「社会支援探索型」「ストレス解消型」の三つがあります。

 「問題焦点型」「情動焦点型」「認知的再評価型」の目的は、ストレス反応を起こす要因に働きかけ対処すること。「社会的支援探索型」は客観的視点からアプローチするもので、「ストレス解消型」の目的は問題と距離を置き発散させることです。

ストレスコーピングの種類
問題焦点型コーピング ストレスの原因に焦点を当て、問題解決に向けたアクションを起こす方法です
情動焦点型コーピング ストレスを引き起こす考え方や捉え方に焦点をあてて、対処する方法です
認知的再評価型コーピング ストレスの捉え方や解釈を受け取りやすく変化させ、ポジティブな視点で状況を再評価する方法です
社会的支援探索型コーピング ストレスを軽減するために、他者からの支援や助言を求める方法です
ストレス解消型コーピング ストレスを軽減するために、娯楽や趣味、リフレッシュ活動に注力する方法です

 それぞれの特徴について、例とともに解説します。

 問題焦点型コーピングは、ストレスの原因に直接的にアプローチし、問題解決に集中する方法です。例えば、仕事のプレッシャーを軽減するために、タスクを優先順位付けし、計画を立てることが挙げられます。

 情動焦点型コーピングは、ストレスを引き起こす感情や不安を生じさせる捉え方や考え方に焦点を当てて対処する方法です。たとえば、自分の気持ちや考えを第三者に話したり、書き出したりする方法が挙げられます。

 直接の対処が難しい場合は、ヨガや瞑想、深呼吸などのフィジカルな側面からのアプローチで、ストレスを軽減することもあります。

 認知的再評価型コーピングは、情動焦点型コーピングの一つであり、ストレスを引き出す捉え方や解釈を変えることでストレスを軽減する方法です。失敗を成長の機会と捉えるなど、ポジティブな視点で状況を再評価します。

 社会的支援探索型コーピングは、他者からの支援や助言を求めてストレスを軽減する方法です。友人や家族にストレスの原因や感情を打ち明け、アドバイスや励ましを受けることで、ストレスを和らげます。

 ストレス解消型コーピングは、ストレスを軽減するために娯楽や趣味、リフレッシュ活動に注力する方法です。スポーツや音楽、アートなどの趣味に没頭することで、ストレスから解放されます。

 ストレスコーピングは、ストレスを効果的に管理して軽減する手法です。以下に、その具体的な方法とポイントを説明します。

 コーピングリストは、ストレスを感じた際に行える具体的な対策をまとめたリストです。このリストを作成すると、ストレスを感じたときに素早く効果的に対応できます。

 リスト作成のステップは、下記のとおりです。

コーピングリストの作成手順
1.ストレス要因の特定

どのような状況や出来事でストレスを感じるのかを書き出しましょう。そして、特にストレスが生じる要因を特定します
2.現在の対策方法のリスト化 現在、どのようにストレスに対処しているのかをリスト化します
3.効果的な対策方法の追加 リストに効果的な対策方法を追加します。問題焦点型コーピング、情動焦点型コーピング、認知的再評価型コーピング、社会的支援探索型コーピング、ストレス解消型コーピングのなかから、効果がある対応をリスト化していきます
4.リストの見直しと更新 コーピングリストは定期的に見直します。新たな対策方法を追加したり、効果がなかったものを削除したりしましょう

 ストレスコーピングを効果的に行うためには、自分がストレスを感じていることを自覚し、その強度や頻度をモニタリングする必要があります。

 しかし、想定できていないストレッサーに適応しようと起きる反応は無意識に生じるため、自分では気づきにくいもの。自覚するためのサインは、いくつかあります。

 たとえば、ネガティブな感情が表出したときは要注意。ネガティブな感情は、本来は、こうであるはずという期待や想定とのズレが自身の存在を脅かすと感じられた際に生じます。怒り、憤り、戸惑い、不安、イライラやもどかしさは小さなサインです。

 また、義務感からも自身の想定を超えている場合があります。「~しなければならない」この言葉が出ているときは、外的な何かの役割や責務を負って自身を過剰に追い込んでいるサインかもしれません。

 ストレッサーと捉え方、反応を分解して起きた事象を客観的に捉え直していきましょう。

 ストレス管理は、他人任せにせず、自分自身で積極的に取り組むべきです。自分にとって最適な状態をイメージし、それを維持できるように自己管理することが大切です。前向きな思考とポジティブな考え方を維持し、ネガティブな状況でも前向きな側面を見つけるように努力してみましょう。

 また、ストレスの原因や対策方法の効果分析も重要です。分析をきちんとおこなうことで、今後の対策を改善し、より効果的にストレスを管理できるようになります。

 友人や家族、同僚と良好な人間関係を築き、必要に応じて支援を求めたり、 自分の感情や考えを表現し、他者とコミュニケーションを図ろうと努力することも大切です。

 「どんなことに負担やストレスを感じるのか」また「ストレス状態になるとどんなコミュニケーションをとる傾向があるのか」、そんなとき「どのように対応してもらえると嬉しいのか」自分の傾向や状態を相手に話すことで、サポートを得やすい環境を作ることができるでしょう。

 困る、辛い、大変など、SOSを出せるように。ノンジャッジで話を聞いてくれる、あるいは、忖度なく話せる第三者の存在が貴重です。普段からの良好な関係作りを心がけましょう。

 必要に応じて、専門家の助けを求めることも重要です。

 企業内で実践できるストレスコーピング方法は、従業員のストレス管理と健康促進に非常に有効です。

 実際に、筆者が関わらせていただいている企業でも、ストレースコーピングを導入し、色々な施策を実施されています。従業員がリラクゼーションにかけた費用を福利厚生で負担する施策や、サステナブルな視点(休耕地の活用や地下水の浄化)も加味した田植えイベントの実施、いつでもなんでも相談できる外部支援者の配置など。

 企業内でのストレスコーピング方法は多岐にわたり、さまざまなアプローチがあります。これらを組み合わせることで、従業員のストレスを効果的に管理し、健康で生産的な職場環境を実現できます。

 以下に、企業内で取り入れやすい具体的なコーピング方法を紹介します。

■ストレスチェック

 定期的に従業員のストレスレベルを測定するためのストレスチェックを実施します。これにより、従業員がどのような状況でストレスを感じているのかを把握できます。

■フィードバックとカウンセリング

 ストレスチェックの結果をフィードバックし、必要に応じて専門のカウンセリングを提供します。これにより、従業員は自身のストレス状況を理解し、適切な対処法を学ぶことができます。

■運動プログラム

 オフィスにフィットネス設備を設けたり、スポーツイベントを開催するなど、運動を奨励するプログラムを導入します。定期的な運動はストレス軽減に効果的です。

■各種セミナー

 健康的な食生活や睡眠習慣について、またストレスについての知識を深めるセミナーを開催し、従業員の健康意識を高めます。専門家による指導を通じて、従業員は日常生活で取り入れられる健康習慣を学ぶことができます。

■フレックスタイム制の導入

 従業員が自分のライフスタイルに合わせて勤務時間を調整できるフレックスタイム制を導入します。これにより、仕事とプライベートのバランスが取りやすくなります。

■リモートワークの推奨

 リモートワークやテレワークの導入を推奨し、従業員が自宅や好きな場所で働ける環境を提供します。これにより、通勤ストレスが軽減され、柔軟な働き方が可能になります。

■メンタルヘルス研修

 従業員向けにメンタルヘルス研修を実施し、ストレスの兆候や対処法について教育します。また、上司やマネージャーに対しても、部下のストレスサインを見逃さないための研修を行います。

■社内相談窓口の設置

 社内にメンタルヘルスに関する相談窓口を設置し、従業員が気軽に相談できる環境を整えます。専門の相談員が常駐し、従業員の悩みや問題に対して適切なアドバイスを提供します。

■チームビルディング活動

 定期的にチームビルディング活動を行い、従業員同士の絆を深めます。これにより、職場内のコミュニケーションが円滑になり、ストレスが軽減されます。

■オープンコミュニケーション

 従業員が自由に意見を述べられるオープンなコミュニケーション環境を促進します。定期的なミーティングやフィードバックセッションを設け、従業員が感じている問題や意見を共有する機会を提供します。

 オフィス内にリラックスルームを設置し、従業員がリフレッシュできるスペースを提供します。マッサージチェアやリラックスできるソファ、音楽などを設置し、短時間でもリラックスできる環境を整えます。

 ストレスコーピングは、企業が従業員の心身の健康を維持し、持続的な成長を達成するための重要な手段です。

 ストレスチェックの実施、健康促進プログラムの導入、ワークライフバランスの推進などを通じて、従業員が自分に合ったストレス対処法を見つけることが可能になります。これにより、生産性の向上、離職率の低下、職場環境の改善など、多くのメリットが期待できます。

 ストレスコーピングを生かして、日常のQOLを高めていきましょう。