いいオフィスの休憩室の特徴は?中小企業診断士が事例や注意点なども解説
リモートワークが進み、改めてオフィスの在り方が見つめ直されるなか、休憩室が注目を集めています。本記事では、健康経営エキスパートアドバイザーの資格も有する中小企業診断士の筆者が、オフィスの休憩室の機能や、効果的に機能する休憩室の特徴について事例を交えて紹介します。
リモートワークが進み、改めてオフィスの在り方が見つめ直されるなか、休憩室が注目を集めています。本記事では、健康経営エキスパートアドバイザーの資格も有する中小企業診断士の筆者が、オフィスの休憩室の機能や、効果的に機能する休憩室の特徴について事例を交えて紹介します。
目次
従業員が食事をとったり歓談したりするオフィスの休憩室。実は、事業者は法によって休憩室の設置に関する努力義務が求められているのをご存じでしょうか。労働安全衛生法の事務所衛生基準規則第十九条では、「事業者は、労働者が有効に利用することができる休憩の設備を設けるよう努めなければならない」と定められています(参照:事務所衛生基準規則 第四章 休養|中央労働災害防止協会)。
オフィスの休憩室の設備を整えることは、企業にとってもメリットがあります。休憩室は以下の3つの機能を持つためです。
・従業員の心身の健康を保ち、プレゼンティズムを解消する
・従業員同士のコミュニケーションを活性化させる
・企業のブランディングを向上させる
1つ目のオフィスの休憩室の機能は「従業員の心身の健康を保ち、プレゼンティズムを解消する」ことです。
「プレゼンティズム」とは、「出勤しているものの、心身の健康上の問題によりパフォーマンスが上がらないこと」をいいます。例えば、従業員がアレルギーや偏頭痛、メンタルヘルスの問題で不調を抱えたまま働いている状態が挙げられます。
プレゼンティズムは、健康経営の面からも注目されており、経済産業省の「企業の『健康経営』ガイドブック」によると、健康関連総コストのうちプレゼンティズムによる損失は、約78%といわれています(参照:企業の「健康経営」ガイドブック p.27|経済産業省)。
休憩室を設置すると、従業員は適度な休憩を取ることができ、仕事に取り組むための集中力・体力を回復することができます。また、プレゼンティズムの解消することで、健康関連コストの削減や、仕事のパフォーマンス向上が期待できるのです。
2つ目のオフィスの休憩室の機能は「従業員同士のコミュニケーションを活性化させる」ことです。休憩室は、オフィス内ではあるものの、仕事場以外の場所でもあり、従業員同士が気軽に話しやすく、社交的な場として機能します。
経済産業省の「企業の『健康経営』ガイドブック」では、「健康経営」を評価する指標の例として「コミュニケーションの活性度」が挙げられています(参照:企業の「健康経営」ガイドブック p.50|経済産業省)。そのことからも、休憩室は従業員の心身の健康に大きく関わっているといえます。
また、休憩室のようなリラックスした場でのコミュニケーションからアイディアや発想が生まれ、新しい仕事につながる可能性も大いに考えられます。その他、部署の多い企業では、部署間の情報交換や情報共有が気軽に行える場所として機能するなど、コミュニケーションの活性化により多くのメリットが期待できます。
3つ目のオフィスの休憩室の機能は「企業のブランディングを向上させる」ことです。繰り返しになりますが、オフィスの休憩室設置と「健康経営」には密接な関係があります。
「健康経営」は、政府の施策として「健康経営優良法人認定制度」が設けられています。「健康経営優良法人認定制度」とは、経済産業省ホームページによると「地域の健康課題に即した取組や日本健康会議が進める健康増進の取組をもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する制度」のことです(参照:健康経営優良法人制度|経済産業省)。
先に述べたとおり、休憩室の設置による「プレゼンティズムの解消」や「コミュニケーションの活性化」は健康経営のポイントでもあります。適切な休憩室の整備は、「健康経営優良法人認定」の第一歩であるといえるのです。
「健康経営優良法人認定」されることで、企業は対外・対内ともに従業員を大切にしている企業としてPRをすることができます。つまり、休憩室の設備を整えることは、企業ブランディングの向上にもつながるのです。
休憩室は、ただ設置するだけでは上記で紹介したメリットを得られません。そのため、休憩室を作るときは、事前に効果的に機能する休憩室(よい休憩室)の特徴を把握することが重要です。
効果的に機能する休憩室の特徴は、目的に応じて変わりますが、次のような共通点があります。
第一の特徴は、従業員がリラックスして過ごせる場所になっていることです。
リラックスできる空間と言っても人によって感じ方はさまざまかと思いますが、以下のような条件を満たしているほど過ごしやすい休憩室と考えられます。
第二の特徴は、設備が充実していて、さまざまな用途で使えるようになっていることです。前述したとおり、休憩室には「従業員同士のコミュニケーションを活性化させる」機能がありますが、よい休憩室はその機能がより効果的に働くように、「休憩」といったワードに縛られず、多様なシーンで使えるように設備が整えられています。
例えば、ディスカッションや勉強会、セミナーなどにも使える設備(プロジェクターやスクリーンなど)や、懇親会や交流会に使える設備(スピーカーやミニキッチン)が用意されています。
ディスカッションや勉強会などはオフィスの会議室でも十分可能です。ただ、休憩室というリラックスした空間で行ったら、従業員が会議室のときよりも積極的にコミュニケーションを取るようになった、というケースは多々あります。
第三の特徴は、1人で集中したい場合や、疲れをとるために仮眠を取りたい場合などに活用できるパーソナルブースが設けられていることです。
休憩室はコミュニケーションの活性化の場としても重要な意味合いを持ちますが、それと同時に、プレゼンティズムの解消の役割も担っています。
休憩室内にパーソナルブースを何カ所か設け、1人で過ごしたい場合などにゆっくり使えるスペースがあると、従業員にとってメリットのある休憩室になります。
休憩室を作るうえで、注意しなければいけない点もあります。その注意点としては以下のようなものが考えられるでしょう。
休憩室を作るには、一定の広さを持つ物件でなければなりません。そのため、物件選定時には休憩室を設置する前提で物件を探すことが必要になります。
広さに余裕のない状態で無理に休憩室を作った場合、効果的に機能する休憩室が作れず、従業員の満足度も低くなってしまい、望んだ効果が得られない可能性が高くなります。
オフィスに休憩室を設置してプレゼンティズムの解消やコミュニケーションの活性化につなげるには、多くの従業員に使ってもらう必要があります。
しかし、そのためには、利用制度やルールを明確にし、全員が気持ちよく利用できるよう、注意を払うことが大切です。
例えば、下記のようなルールがあれば、従業員が快適に過ごせるかと思います。
・自分の出したゴミは捨てるなど清潔に利用する
・話し声や電話の声などは周囲の利用者にも配慮する
・利用者が多く席が足りない場合などは長時間の利用を避ける
当たり前のルールのようではありますが、休憩室は共有スペースであることを念頭に置き、利用ルールを定めるとよいでしょう。
従業員のニーズや意見を積極的に取り入れると、それぞれのオフィスに合った休憩室を作ることができるでしょう。前述したとおり、休憩室は用途や目的によって作り方が異なりますが、従業員の声をヒアリングすると必要な設備が明らかになるはずです。
最後に、休憩室の事例を3つ紹介します。各社ともそれぞれの事業内容にあった取り組みをしており、プレゼンティズムの解消やコミュニケーションの活性化などのため、よいオフィス作りに努めています。
総合電機メーカーのソニー株式会社では、クリエイティブな職場環境づくりが行われており、広々とした休憩室だけでなく、品川・みなとみらい・大崎・厚木の各事業所それぞれにユニークな休憩スペースが設けられています。
例えば、品川事業所には「NEST」と呼ばれる、寄木細工の壁に囲まれた休憩スペースがあります。また、大崎事業所には、全面窓ガラスで囲われた開放感のあるラウンジの一角にカフェバーコーナーが設置されています(参照:オフィス・ワークプレイス|SONY)。
光ファイバーや電線等を製造する非金属メーカーの株式会社フジクラでは、従業員の自発的な健康活動の支援と組織的な健康活動の推進を行なっており、その一環として休憩室の自動販売機の前に雲梯(ウンテイ)を設置しています。休憩の際に従業員はウンテイにぶら下がりストレッチをすることができ、肩や背中の筋肉をほぐしたり、腰痛や肩こりの予防・緩和を図ることができます(参照:健康経営オフィスレポート p.15|経済産業省)。
腰痛や肩こりもプレゼンティズムの大きな原因となるため、プレゼンティズムの解消に役立っているといえるでしょう。
清掃事業とともに、ミスタードーナツの事業も行っている株式会社ダスキンは、オフィスの最上階にコミュニケーションを促進するカフェスペースを設けています。
打ち合わせや情報交換の場として利用されるこのカフェスペースでは、ドリンクや自社のミスタードーナツなどが無料で提供されており、そこで従業員はリラックスして過ごすことができます。適切な気分転換を促すダスキンの休憩室は、従業員のメンタルヘルスの問題の改善などに寄与しています(参照:健康経営オフィスレポート p.17|経済産業省)。
なお、フジクラやダスキンの事例が紹介されている「健康経営オフィスレポート」には、この2社以外の事例も多数紹介されています。ご覧いただくと休憩室作りの参考になるでしょう。
コロナ禍でテレワークも進み、オフィスの在り方も変わりつつあります。
「ただ働く場」から「より充実した働き方ができる場」へ。
筆者はこのような視点の転換が重要だと考えています。そして、「より充実した働き方ができる場」としてオフィスを作っていく際、大きなポイントの一つが休憩室作りとなります。
「よいオフィス」「通いたくなるオフィス」は企業の一つのブランドになり、人手不足のなかでよい人材を集めるための差別化要因にもなるでしょう。
しかしながら、休憩室作りには場所とコストが必要です。そのため、休憩室の目的を明確化し、具体的なイメージを持つことから始めるのをおすすめします。
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