風通しの良い職場とは?メリットやデメリット、施策と注意点を紹介
風通しの良い職場は、トラブルへの迅速な対応や離職率の低下につながります。ただし、勘違いしやすいポイントもおさえなければなりません。この記事では、風通しの良い職場の特徴やメリット・デメリット、施策や注意点について、累計200件以上の経営支援に関わった中小企業診断士が解説します。
風通しの良い職場は、トラブルへの迅速な対応や離職率の低下につながります。ただし、勘違いしやすいポイントもおさえなければなりません。この記事では、風通しの良い職場の特徴やメリット・デメリット、施策や注意点について、累計200件以上の経営支援に関わった中小企業診断士が解説します。
目次
風通しの良い職場とは、社員がお互いを尊重し、円滑なコミュニケーションができる雰囲気が醸成されている職場のことです。
例えば、部下が上司の顔色をうかがわなくても相談ができたり、部署を超えて気軽に会話ができたりするような状態を指します。
逆に、部下が上司に相談するのをためらっていたり、部門間のコミュニケーションが取れず、意見の対立が続いていたりするといった状態は、「風通しの悪い職場」になっているかもしれません。
近年では、職場の「心理的安全性」が注目されています。「心理的安全性」とは、自分の考えや気持ちを安心して話すことができる状態のことを言います。
株式会社カルチャリアが2022年2月に転職者を対象に実施した「転職における心理的安全性」の調査結果では、職場を選ぶうえで「心理的安全性を重要視する」と回答した人が8割にのぼりました。また、転職者の4割以上が、前職では「オープンに話す雰囲気がなかった」と回答しています(参照:「転職における心理的安全性」の実態調査丨株式会社カルチャリア)。
つまり、風通しが良い職場環境を作ることは、優秀な人材を呼び込むためのフックにもなるのです。
さらに、「風通しの良い職場」を作ることは、働き方改革とも関連があります。
生産年齢人口の減少や、育児や介護との両立など働く人のニーズの多様化にともない、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作る「働き方改革」が中小企業でも求められています(参照:「働き方改革」の実現に向けて丨厚生労働省)。
多様な価値観を持つ社員が1つの会社という組織で働くためには、お互いの価値観を理解することが必要です。社員それぞれが持つ多様な価値観を理解し合う雰囲気を醸成するには、円滑なコミュニケーションが生まれている「風通しの良い職場」づくりがカギになります。
しかし、風通しが良い職場を目指す際に、勘違いしやすいポイントも存在します。それは、風通しの良い職場が「社員の自分勝手を許す風土」ではないということです。
「風通しの良い職場」を作ろうと、上司と部下の関係性がフラットになりすぎた場合、社員それぞれが自分の階層に応じた、求められる役割分担が曖昧になることがあります。この状態になると、自分の果たすべき役割を認識しないまま、要求だけを述べる社員も出てくる可能性があります。
また、上司が部下に嫌われたくないと思うあまり、ネガティブな評価を伝えないような状態も、「風通しが良い職場」とは言えないでしょう。
良い意見もネガティブな意見も含めて、アサーティブ(相手を尊重しながら適切な方法で自己表現を行うこと)に意見交換ができる環境が、「風通しが良い職場」と言えるはずです。
では、風通しの良い職場になることのメリット・デメリットを解説します。
メリット | デメリット |
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新事業などのイノベーションが生まれる | 社員によっては居心地が悪く感じることがある |
離職率が低下する | 上司部下の関係性が曖昧になる |
トラブルがあっても迅速に対応できる | 組織として緊張感がなくなる |
まず、メリットとして挙げられる点は「新事業などのイノベーションが生まれる」ことです。筆者が支援した会社では、風通しの良い職場になることで、部署を超えた社員同士のコミュニケーションが発生し、新事業へのアイディアが生まれたという事例があります。さらに、万一トラブルがあった場合も、迅速な連携で対応できます。風通しが良い職場を作ることは、リスク回避の側面もあるのです。
また、社内の人間関係が良好になったことで、社員の離職率が低下したという成果があった会社もありました。
逆に、デメリットはあるのでしょうか。まず挙げられるのは、社員同士の頻繁な交流を好まない社員にとっては、後述する風通しの良い職場にするための対策が、居心地悪く感じる可能性があります。
また、風通しが良い職場を目指して、上司部下の関係性をよりフラットにしようとする試みをした企業があります。しかし、上司部下の関係性をフラットにしすぎた結果、「仲良しな友達同士の集まり」になってしまいました。
この企業では、前述のとおり、上司部下の関係性が曖昧になることで、上司の指示を部下が聞かない、自分勝手な行動をしてしまう社員が出てきてしまったと言います。結果、組織としての緊張感もなくなり、経営者の指示が社員に届かなくなってしまったのです。
風通しの良い職場のメリットを生かしつつ、デメリットが大きくならないようにするためには、どのような施策が考えられるのでしょうか。注意点と一緒に解説します。
まず、風通しが良い職場を目指すには、あいさつの励行から始めてみましょう。
ついついパソコン作業に熱中していると、相手の目を見ることがおろそかになってしまいます。しかし、あいさつをしても相手から反応してもらえなければ、相手側は、これからあいさつをしたくなくなるかもしれません。
朝出社したら、お互い目をあわせて「おはよう」と言い合うことを習慣としたいものです。
実施するときの注意点 |
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この施策は、まず社長自らが社員に積極的に「おはよう」とあいさつをしましょう。社長が取り組んでいることを、社員は進んで実践するはずです。 |
社員同士の価値観や人となりを知るために、公式・非公式でイベントを開催する企業もあります。イベントの例としては、運動会・飲み会・誕生日会・取引先や地域住民も含めた交流会などがあります。
しかし、コロナ前はこのようなイベントを数多くやっていたものの、人が集まることが難しくなってしまったという中小企業の声も聞きます。
そこで、「社員の誕生日を教え合う」といったような、社員同士の話題となるきっかけを提供する方法に変えるなど、各社が試行錯誤しながら工夫をしています。
実施するときの注意点 |
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社内行事に社員を強制的に参加させると、労働に該当し、賃金の支払い対象になる可能性もあるので注意してください。詳しくは社会保険労務士などの専門家に相談しましょう。 |
社員が雑談しやすい場を作る施策は、コロナ禍でリモートワークが主流になってから、価値観が見直されています。
仕事が忙しいと、社員同士はついつい業務だけの関わりになってしまいます。そこで、社員の雑談が生まれる場を作るには、カフェスペースや、おやつの時間を設けるなどの施策があります。このような場があることで、業務のちょっとした相談や、業務以外の雑談につながっているのです。
イノベーションを生むアイディアは、何気ない雑談から生まれることもあります。社員が所属する部署の人以外と関わる機会を、会社として積極的に作っていくことがおすすめです。
実施するときの注意点 |
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雑談ばかりしていては仕事に支障が出る場合があるため、カフェスペースを利用できる時間を決めておく、雑談がほかの社員にとってはうるさく感じる可能性があるので離れた場所に設置するといった工夫も必要でしょう。 |
筆者が取材で関わった企業では、コロナ禍を機に業務コミュニケーションツールをチャットツールに切り替え、さらにチャットツール上に雑談ができるチャンネルを作っていました。
その雑談チャンネルでは、業務以外でも社員が趣味で行っている活動などが投稿され、反応もスタンプで返していました。社員同士が直接会って話す機会が減っても、それぞれの人柄を知ることができる場として機能しています。
コロナ前は知られていなかった、ある社員の「意外な趣味」について盛り上がったこともあるそうです。
実施するときの注意点 |
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チャットツールは気軽に連絡が取れるというメリットがある一方で、労働時間以外にもメッセージの受信通知が来てしまうなど、プライベートと仕事の領域が曖昧になるというデメリットもあります。使用する時間などの運用ルールを定めるのも良いでしょう。 |
いつでも社長に話しかけることができる雰囲気を作ろうと、社長室を撤廃した企業があります。筆者がその企業に訪問した際、社長は社内を忙しく歩き回っており、ちょっとした合間に社員たちが相談や報告を持ちかけていました。
社長室を撤廃したことで、「社長がいつどこで何をしているのかわからない」という、社員にとっての不透明さがなくなるほか、意思決定が迅速に行えるようになったというメリットがあります。
実施するときの注意点 |
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せっかく社長室がなくなっても、社長がいつも不機嫌に忙しくしていては、社内の風通しが悪くなってしまいます。社長こそ、社員一人ひとりに目を配り、積極的に声かけをしていきましょう。 |
部署間のコミュニケーションを活発化させることや、事業の新たな軸を作ることを目的に、新規事業にチャレンジする企業もあります。
変化の激しい市場に対応するには、事業開発から事業のローンチまで、すばやいPDCAを回す必要があります。開発には部署間の連携が欠かせないですが、部署間の連携がうまくいかないと、PDCAが止まってしまいます。
筆者が支援した企業では、各部署から若手人材を選びプロジェクトチームを作りました。その若手人材が起点となり、ほかの社員の間でもコミュニケーションが増えるという成果がありました。
実施するときの注意点 |
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意思決定スピードが遅くなると、せっかく新しいアイディアを形にしようとしている社員のモチベーションを下げてしまいます。新規事業を始めるならば、社長もプロジェクトに最初から加わり、迅速な意思決定をしていきましょう。 |
1on1ミーティングとは、上司と部下の1対1で行われるミーティングを言います。部下が抱えている課題の確認をしたり、その解決策をともに考えたりすることなどが主な目的です。
定期的に1on1ミーティングをすることで、部下のメンタル不調や抱えている悩みの早期発見に役立ち、部下の成長にもつながります。
日中はなかなかお互い忙しく、本音を言い合う時間が取りづらいものです。1on1ミーティングで部下と話し合う時間を設けることで、部下のモチベーション向上も期待できるでしょう。
実施するときの注意点 |
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1on1ミーティングは、目標や成果を確認する面談とは異なり、社員の人材育成のために使われる時間です。上司が部下の話を傾聴できなかったり、解決策を教えるようになったりしてしまうと、1on1ミーティングの目的から外れてしまいます。 導入する場合は、上司や部下ともに、1on1ミーティングについての研修などを実施し、実施する目的の共通理解を持っておくと良いでしょう。 |
では、実際にこれらの施策を導入したことで、風通しの良い職場に改善できた事例を解説します。
プラスチック成形メーカーのA社は、BtoB事業が主事業であったものの、消費者に直接販売するBtoC事業への参入を検討していました。
そこで、営業・生産・金型部門から選んだ若手社員をプロジェクトチームとし、新製品開発が学べる社外研修に派遣しました。普段はお互いのコミュニケーションが少ないことが課題でしたが、新製品のコンセプト立案から連携して開発に取り組んだことで、部内連携も活発になりました。
実際に製品化され、商品が生活雑貨量販店に並んだことで、ほかの社員のモチベーションアップにもつながりました。
第二弾の製品開発時には多くの社員からアイディアが出てきたほか、「新しいチャレンジをしている会社」ということで採用活動にも役立っています。
産業用機器メーカーのB社は、近隣地域の女性をパート社員として積極採用しています。
比較的標準的な製品を販売するECサイト運営を、そのパート社員に任せたことで、パート社員たちが自主的に仕事をするようになった効果があらわれました。
このパート社員たちの強みは、雑談も含めた普段からの頻繁なコミュニケーション能力です。困り事や課題もほかのパート社員や、ときには社員にも相談して、すぐ解決策を実行しています。パート社員にECサイト運営を任せてから、仕組み改善が進み、利益率も上がりました。
風通しの良い職場は、施策を取り入れるだけでは実現できません。
風通しの良い職場を作ろうとすると、運動会などの交流イベントとして、何をやるかに焦点がいきがちです。しかし、そのイベントを実施したからといって、急に風通しの良い職場にはならないでしょう。
風通しの良い職場を作る土台は、毎日の何気ない「あいさつ」や「雑談」から生まれる社員同士の会話の積み重ねです。
もし最近、社員と会話した記憶がなかったり、その社員の趣味を知らなかったりするならば、まずあなたから、社員との会話を増やしてみてください。
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