カニバリゼーションとは?対策や効果的な活用方法、成功例を解説
カニバリゼーションとは、自社事業の商品・サービスが同じ市場内で競合になってしまい、シェアを「共食い」することです。結果的に、思ったほど収益が上がらないという事態に陥る可能性があります。本記事では、カニバリゼーションの対策や戦略的な活用方法、成功例を製造業界の専門家が解説します。
カニバリゼーションとは、自社事業の商品・サービスが同じ市場内で競合になってしまい、シェアを「共食い」することです。結果的に、思ったほど収益が上がらないという事態に陥る可能性があります。本記事では、カニバリゼーションの対策や戦略的な活用方法、成功例を製造業界の専門家が解説します。
目次
カニバリゼーションとは、自社の商品・サービスが同じ市場の中で競合化してしまい、シェアを取り合ってしまう状態を指します。日本語で言うと、「共食い」という意味です。
カニバリゼーションの具体例としてよく知られるのが、ビール業界の事例です。ビールを販売していた飲料メーカーが、これまでよりも安い価格で同じような飲み心地が得られる「発泡酒」という新製品を販売しました。発泡酒は値頃感もあって売上を伸ばしましたが、逆にビールの販売量が減るという事態に陥っています。
発泡酒の購入者層はこれまでビールを愛飲していた層であり、シェアを共食いした結果、顧客単価が下がって収益はむしろ下がってしまいました。
カニバリゼーションが起こってしまう主な原因は、新しい商品・サービスを展開する際に、既存事業と同じ顧客層や市場セグメントをターゲットにしてしまうことです。また、ターゲット顧客の年齢や性別などを変えていたとしても、機能面での差別化ができていなければ、結果的に購入者層が重なってしまい、カニバリゼーションが起こる可能性が高くなります。
カニバリゼーションが起こることで、大きく分けて3つのデメリットがあります。
新事業を立ち上げることで新規顧客の獲得などによって、収益向上を目指したはずが、結果的に既存事業のシェアを奪ってしまい、トータルとしての収益が期待したほど得られないことが少なくありません。
カニバリゼーションは、同じ市場セグメント内で自社の事業がシェアを食いあっている状態です。そのため、その他の市場への参入が遅れてしまい、競合他社にシェアを先に奪われてしまう恐れがあります。
カニバリゼーションが起こってしまえば、経営資源が分散されて自社経営の改善・革新に新たなコストをかけることが難しくなり、長期的な目線ではマイナスになってしまう可能性があります。そのため、それまで各事業に集中させていた「ヒト・モノ・カネ」といった経営資源の浪費につながってしまいます。
カニバリゼーションに関連する用語として、ドミナント戦略があります。
ドミナント戦略とは、小売店や飲食店などでよく取られる戦略で、特定の地域に店舗展開を集中させてシェアを拡大し、競合他社に対する優位性を築く戦略のことです。コンビニ業界のセブンイレブンや、カフェ業界のスターバックスなどで知られています。
ドミナント戦略は、シェアを拡大することで収益性を高められる地域に限定して意図的な多店舗展開を行なっているため、カニバリゼーションが起こることを前提とした経営戦略でもあります。
カニバリゼーションを起こさないためには、商品・サービスを差別化したり、ターゲットを変えたりするなど、さまざまな対策があります。また、カニバリゼーションがすでに発生してしまっている場合の対策も欠かせません。ここでは、状況に応じた対策を3つ紹介します。
自社がすでに市場参入している商品・サービスとの差別化は、カニバリゼーションの発生防止対策として効果的でしょう。用途はもちろん、機能面やデザインなど、ターゲット層が類似商品だと判断しないような差別化が必要です。
例えば、アルコール飲料の製造・販売メーカーが、OEMを利用して自社のビールに合うツマミを開発・販売するなど、参入市場は同じながら異なる商品を展開するというのは、オーソドックスな対策です。
なお、商品・サービスとの差別化をする際は、他の事業との競合を防ぐためにも社内での情報共有が欠かせません。
商品・サービスの提供先であるターゲット層を変えるのも、事業の共食いを防ぐのに有効です。差別化と似ていますが、そもそものターゲット層や市場セグメントを変えてしまうことで、カニバリゼーションが起こらないように配慮する方法です。
例えば、アルコール飲料のみを扱っていたメーカーが、その子どもをターゲットにした清涼飲料水や食品を扱ったり、これまでと販売地域を変えたりするなどの方法があります。
カニバリゼーションが起こってしまったら、新規事業と既存事業のコストバランスの調整が必要です。共食いが起こったまま事業を続けると、新規市場への参入を逃す可能性があるため、経営資源のリバランスが必要です。
各事業の収益性の推移を確認しつつ、成長可能性の高い事業に注力するために、採算性が悪い事業のコストを削減してカニバリゼーションを解消しながら、差別化やターゲット層を変えた新規事業に経営資源をシフトさせていきましょう。
カニバリゼーションが起こると、自社事業の収益性が下がりやすいといったデメリットがありますが、戦略的に実施することで自社にとってメリットになることもあります。ここでは、カニバリゼーションの効果的な活用方法を紹介します。
特定の市場ですでに大きなシェアを誇る企業との間でカニバリゼーションを起こすことで、自社の収益性を高めるというマーケティング手法があります。
市場セグメントによっては、参入したものの収益が思ったほど得られないことも少なくありません。しかし、すでに競合他社が実績を上げている市場ならば、参入することである程度の収益予測が立てられるため、リスクを大幅に下げることができます。
また、競合他社がカニバリゼーションを嫌い、事業規模を縮小するといったこともあり、自社のシェアを想定以上に拡大できる可能性もあります。
もちろん、自社の経営資源で競合他社と同等以上の商品・サービスを展開し続けられることが大前提ですが、新規事業を起こす際に選択候補とすべき戦略の1つです。
カニバリゼーションを意図的に起こすことで、自社の各事業や店舗ごとの競争意識を高めることもできます。
例えば、ドミナント戦略によって事業を拡大する場合は、ほぼ確実にカニバリゼーションが起こります。しかし、店舗ごとに売上アップのために独自の商品開発をしたり、サービスの質の向上に努めたりすることで、自社の認知度や社会的価値が向上し、結果的に収益の拡大につなげることもできるでしょう。
カニバリゼーションのデメリットを理解しつつ戦略的に実施することで、収益の拡大が期待できます。ここでは、地方の中小企業がカニバリゼーションを活用して事業を拡大した事例を紹介します。
主に海外から雑貨などを輸入してネットショップで販売していた小規模事業者は、消費者の健康志向の高まりに目をつけて、サプリメントの販売を計画していました。
ただ、サプリメントを輸入して販売するだけでは収益性が低いと考え、海外の人脈を活用して、ECショップで人気がある商品の類似商品をOEMとして生産・販売することで、収益拡大に成功しました。
現在は、OEMによる製品開発の経験を活かし、社員数を増やして女性向け商品などの製造・販売を行なっています。
ある地方の経営者は、都市部の高齢者層が増加したことに商機を見出し、新規事業として介護付き有料老人ホームサービスを開始しました。ターゲット層の絞り込みもあって収益性の高い事業へと成長し、今後のさらなる需要の伸びを考慮したうえで、同市内に複数の老人ホームを展開しています。
カニバリゼーションによる収益の停滞が起こるリスクはあったものの、元々のサービスの質の高さや顧客層の絞り込みもあり、戦略的な多店舗展開によって収益化に成功しています。
カニバリゼーションは自社が参入している市場内でシェアを共食いし、既存事業の収益性が下がる、新規市場参入の機会損失を生んでしまうといったリスクがあります。
しかし、カニバリゼーションを戦略的に行なえば、他社の成功を参考にして新規市場に参入できる、事業部や店舗同士の競争意識を高められるといったメリットもあります。
カニバリゼーションが起こることで、自社にどのような影響があるのかを事前に考慮しつつ、ドミナント戦略のように経営手法の1つとして活用できないかを検討することも忘れないようにしましょう。
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