コロナ禍でも売上は前年比増

 アイリスオーヤマは、園芸商品やLED照明など、幅広い種類の商品を製造販売し、コロナ禍でもマスクの生産設備を増強するなどして、事業を拡大しています。最近では専用容器に水を入れてスチームを発生させて、しっとりとした食感を楽しめるオーブントースターといった家電領域でも、存在感を発揮しています。

 2020年12月期決算では、単体での売上高が前年比36%増の2185億円、グループ全体では、同38%増の6900億円で、いずれも過去最高を記録しています。同社は上場しておらず、オーナー一族が株式を保有し、経営を担っているファミリービジネスでもあります。

 実質的な創業者である大山健太郎さん(現会長)が、長年カリスマ経営者として舵取りを担ってきましたが、2018年6月に長男の晃弘さん(当時39歳)に、社長職を譲りました。同社は、健太郎さんを筆頭に4人の兄弟が経営に参画していることでも有名です。これだけ大規模になったファミリービジネスの運営や事業承継を、どのように推し進めたのでしょうか。

アイリスオーヤマの大山健太郎会長(2018年撮影)

不況でも利益を出し続ける会社に

 アイリスオーヤマの前身は、先代・大山森佑氏が1958年に大阪で創業した大山ブロー工業所です。しかし、創業者の森佑氏は1964年、がんで急死します。当時、19歳の健太郎さんが父から工員5名、年間売上高500万円の町工場を継ぎました。

 健太郎さんは工場を必ず存続させるという強い気持ちを持ち、他社が断るような注文を積極的に引き受け、会社を大きくしていきます。1960年代後半、脱下請けを図るために、漁業用ブイを自社開発したことで、自分たちで製品の値段を決められるようになりました。当時の真珠養殖ブームにもハマり、大きく業績を伸ばします。その後、農業用品がヒットして、宮城県にも工場を建設し、1975年には年商約15億円へと拡大します。

 しかし、オイルショックの影響で大きく業績を悪化させ、宮城の拠点を残して大阪を閉めるという大きな決断をします。その際、「好況の時に儲けることより、不況の時でも利益を出し続ける会社」を目指すことにしました。この苦い経験から、健太郎さんは経営体制を抜本的に見直します。

経営に兄弟の力を借りる

 健太郎さんは、開発、生産から営業、経理まで、1人ですべて見る体制に限界を感じ、商社に勤務していた三男・富生さんを呼び寄せ、営業や管理を任せたのです。一方で、幹部研修会を開き、ファミリー以外の幹部の育成にも力を入れていきます。

 同社はその後、園芸用品、ペット用品などの取り扱いも始め、さらにクリア収納(透明ケース)が大ヒットし、問屋機能も担うようになります。さらに業容が拡大していくなかで、他社で働いていた四男・繁生さんと五男・秀雄さんを呼び寄せ、生産技術とIT分野を強化していきます。1991年には社名をアイリスオーヤマに変更し、企業理念も策定しました。

 このように、19歳で事業承継した健太郎さんが他の兄弟の面倒をみており、実質的には育ての親のようなものだったのでしょう。そのため、健太郎氏の呼びかけに兄弟が応じて、アイリスオーヤマに就業しています。

まずは会社の機能や分掌を先に

 中小のファミリービジネスでも参考になるのは、企業の成長に合わせて必要な機能を補う形で、親族を入社させている点です。

 営業、生産技術、ITのように、会社の成長に応じて必要となる「分掌(役割)」を、兄弟間で明確に分担しているところが重要な点です。その頂点に、育ての親である長男・健太郎さんが立っているところもポイントです。

 多くのファミリービジネスでは、企業の成長に合わせるのではなく、他の親族から頼まれたために、親族を入社させるケースが少なくないように思います。しかし、それでは分掌が明確に定まっていないために、親族間で衝突するケースも少なくありません。まずは会社の機能や分掌が先にあり、そこに親族や、経営幹部を登用することが重要なのです。

ノンファミリーの幹部育成も

 健太郎さんは、企業規模や株式上場、事業内容以上に、「創業の理念」がきちんと引き継ぐことを重視しています。そのためにも、血のつながった人間による「株式非公開の同族経営」が一番良いとしています。

 とはいえ、ノンファミリーの幹部をないがしろにしているわけではありません。社長職を譲った長男の晃弘さんを支える経営幹部の育成に力を入れています。それは、アイリスオーヤマの企業理念にもよく表れています。

大阪市にあるアイリスオーヤマのアンテナショップ(2019年撮影)
大阪市にあるアイリスオーヤマのアンテナショップ(2019年撮影)

 理念の第3条に社員を大切にすることを明示し、社員のモチベーションを上げられるように、360度評価、社内論文の外部機関評価、追い越し人事、決算賞与、社員持ち株会制度などの仕組みを整備しています。

【アイリスオーヤマの企業理念】
1.会社の目的は永遠に存続すること。
 いかなる時代環境に於いても利益の出せる仕組みを確立すること。
2.健全な成長を続けることにより社会貢献し、利益の還元と循環を図る。
3.働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、 社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり。
4.顧客の創造なくして企業の発展はない。生活提案型企業として市場を創造する。
5.常に高い志を持ち、常に未完成であることを認識し、革新成長する生命力に満ちた組織体をつくる。

経営ビジョンを社内に浸透

 また、アイリスオーヤマでは、健太郎さんの考えを浸透させるために、企業理念だけではなく、「経営方針」「管理者十訓」「企業成長の五原則」「業務指針」なども定めています。

 一時的に売上を上げることは可能ですが、継続的に売上を確保し、高い利益率を維持することは困難を極めます。健太郎さんの経営に関するビジョンを社内に浸透させることで、社員を常に成長させることの重要性をよく理解しています。

 また、チーム型経営の重要性も理解しており、今後、後継者の晃弘さんと中心とした経営チームを構築していくと思われます。チーム型経営については、ツギノジダイで配信した記事「ジャパネット2代目が進めた脱トップダウン 従業員の主体性を引き出す」をご覧ください。

カリスマの役割をチーム型経営に

 アイリスオーヤマの強みの1つとして、毎週月曜日に社員が新製品のアイデアを次々と発表する「プレゼン会議」というものがあります。このプレゼン会議が、毎年1,000点以上の新製品を発売し、発売後3年以内の新製品が売上高の6割強(2018年実績)を占める同社の成長を支えているといいます。

 会議には大山一族や経営幹部が集まって、激論を交わし、健太郎さんが開発を即断即決することもあるといいます。

 健太郎さんは2018年、晃弘さんに代表取締役社長を譲りましたが、今も代表取締役会長を務めています。カリスマ経営者の跡を継ぐことは並大抵ではありませんが、これからはチーム型経営として、会長が担っていた機能をチーム全体で引き継ぐ必要があります。もう一つの課題として、健太郎さんはこれまでの業務から離れて、経営の実権を晃弘氏に譲ってもよいのではないかと思います。

生産予定のマスクを手に取る大山晃弘社長(2020年撮影)

 そうすることで、後継者が本当に腹をくくれて、ある意味、失敗もできると思いますし、経験を積むことで本当の経営者になっていきます。健太郎さんは、全く異なる会社を起業しても良いでしょうし、メセナ活動などを推進しても存在感を発揮できると思います。カリスマ経営者ほど傍から後継者を見守るのは難しいものですが、本当に問題が起きれば、そのときに経営に戻ったらいいと考えます。

 チーム型経営を実現していくための具体的な取り組みについては、拙書「『経営』承継はまだか」(中央経済社)にもまとめています。本書ではファミリービジネスが抱えている課題やその解決方法についても、欧米の知見を盛り込んだ内容となっています。ぜひ、参考にしてください。

【参考文献】
「『経営』承継はまだか」(中央経済社)
「アイリスオーヤマの経営理念」(日本経済新聞社)