経営者に必要なスキルとは 不足しているスキルを補う方法も紹介
経営者になるには資格や学歴は必要なく、誰でもなれます。一方で、経営者により業績が大きく変わることも事実です。その差にはどのような違いがあるのでしょうか?累計100件以上の経営支援に関わった中小企業診断士で事業承継士🄬が、経営者に必要なスキルやその習得方法・補う方法を解説します。
経営者になるには資格や学歴は必要なく、誰でもなれます。一方で、経営者により業績が大きく変わることも事実です。その差にはどのような違いがあるのでしょうか?累計100件以上の経営支援に関わった中小企業診断士で事業承継士🄬が、経営者に必要なスキルやその習得方法・補う方法を解説します。
目次
国の機関である中小企業大学校が実施する経営後継者研修では、次代の経営者像として、「自社の未来を描き、その実現に向け社員を巻き込み自ら率先垂範する」を示しています。
この経営者像を実現するためには、経営者の仕事に当てはめながら考えると、以下の6つのスキルが必要と言えます。
本章では、これらの6つのスキルについて深堀りをしながら、よりシンプルに能力・スキルを説明いたします。
経営理念は、ビジョン、ミッション、バリューから構成されます。ビジョンは実現したい未来を描いたもの、ミッションは会社の役割・使命を定義したもの、バリューはそのための行動指針です。経営理念を策定することで、自社が実現したい未来、自社のありたい姿が明確になります。
当然ながら、ビジョン、ミッション、バリューを作成するだけでは、その実現のために社員が主体的に動くことは少ないので、社員や関係する利害関係者に浸透させなければいけません。
そのため、自社の経営理念を策定するには、自分の想いを言語化する力、理念浸透のためのコミュニケーション力も必要になります。
経営理念を実現するためには、経営戦略が必要となります。経営戦略を作成するには、初めに、自社を取り巻く環境について、SWOT分析の「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」という視点で分析をおこないます(外部環境分析)。
次に、自社の「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」についても分析をおこない(内部環境分析)、外部環境分析の機会と内部環境分析の強みを組み合わせることで、基本戦略を立案します。
そのため、現状についての情報収集力・分析力、自社の事業の属する業界に精通する力などが必要になります。
作成したビジョンをもとにして、近い将来である3年から5年後に実現していたい状態を定義します。その状態を実現させるために現状の課題を設定し、さらにその課題を解決するための実行計画を策定します。
実行計画には、納得性・具体性が必要になります。目標値を単純に売上高と置くのではなく、その構成要素である客数と客単価に因数分解をしたり、進捗が思わしくないときに対策が打ちやすいように行動量で設定したりすることで、計画に納得性や具体性を持たせ、進捗管理もしやすくなります。
また、実行計画には、経営数字をもとにした、経営計画(売上計画)や投資計画、人員計画、新製品開発計画なども含んでいます。そのため、実行計画を立案する力と一口に言っても、課題設定力、課題解決力、ロジカルシンキング、計数管能力などが必要になります。
計数管理能力について補足をします。経営者は会社の数字に明るくないといけないと言われますが、経営者が見るべき会社の数字とはどのようなものでしょうか?
それは、会社の未来に関わる投資判断に必要な数字や、日々の資金繰りに関する数字です。
逆に、経営者にとって学ぶ必要性が低いのは、経理処理における細かい仕訳のルールや税務関係の専門的すぎる内容です。国民には納税義務があるため、どちらも重要な内容ではありますが、専門家に任せる方法が確実です。
実行計画を立案した際に設定した目標値に対して、その達成状況の進捗を管理をして、進捗が思わしくないときには対策が必要です。
例えば、売上目標を因数分解した客数や単価が目標値に届かないのであれば、それを社員の行動量に落とし込んで、テレアポ件数、訪問件数、契約件数などを把握し、計画より実績がわるいところをテコ入れします。
このように対策を考えるときには、事実やデータに基づいて、効果的と考えられる手を打つことが大切です。
そのため、情報収集力、分析力、課題設定力、課題解決力などが必要になります。
実行計画の達成には、組織を活性化し、社員のベクトルをそろえることが重要です。
組織活性化は、人材力、組織力、関係力の3つの要素をループさせること、すなわち、「チームビルディング」をおこなうことによって生まれます。
人材力では、チームメンバーの強みや思考のクセ、行動の特徴を把握します。組織力では人はみな違うことを前提に、チームとして一丸になって機能し、相乗効果を発揮するための仕組みやルールを整えます。関係力では、やる気と能力を引き出すコミュニケーションをおこないます。これら3つの力のサイクルを回していくことで、それぞれの能力のレベルアップを図ります。
そして、チームビルディングを進めるにあたっては、リーダーシップ力、個々人の特徴を理解する力、組織マネジメント力、コミュニケーション力が必要になります。
経営者は自ら描いた自社の未来を実現するためには、不確実な状況においても、複数の選択肢から最適な選択をして、組織を代表し責任を持って意思決定をおこなわなければいけません。
また、状況を臨機応変に見極め、柔軟に意思決定をすることも求められます。これらのスキルは柔軟な対応力、判断力、決断力と言えます。
人間は、知らないことに直面したり、先のことが分からないと、不安や恐怖を感じます。経営者として色々な経験を積んでいくと、不確実な未来や変化に対する抵抗力(レジリエンス)が身についていきます。
経験の浅い経営者や後継者がレジリエンスを身につけるには、分析力、課題設定力、実行力を磨き、少ない経験から多くのことを学べるようになることが重要です。
経営者に必要な知識・スキル | 主に必要な能力・スキル |
---|---|
経営理念を策定する力 | ・自分の想いを言語化する力 ・理念浸透のためのコミュニケーション力 |
理念を実現する戦略を立案する力 | ・現状についての情報収集力・分析力 ・自社の事業の属する業界に精通する力 |
実行計画を立案する力 | ・課題設定力 ・課題解決力 ・ロジカルシンキング ・計数管能力 |
計画の進捗を管理・対策する力 | ・情報収集力 ・分析力 ・課題設定力 ・課題解決力 |
社員をリードし、社員のベクトルを揃える力 | ・リーダーシップ力 ・個々人の特徴を理解する力 ・組織マネジメント力 ・コミュニケーション力 |
責任感を持って、自ら実践する力 | ・柔軟な対応力 ・判断力 ・決断力 ・抵抗力(分析力、課題設定力、実行力) |
創業したばかりの経営者や事業を継承したばかりの後継者、これから会社の経営に関わる予定の経営者が、自身に不足する必要なスキルを身につけるにはどうすれば良いのでしょうか。
ここでは、4つの方法について解説します。
昨今は経営者に必要な基本的な知識・スキルを学べる良書や素晴らしい教材が多くあります。また、国の機関や民間の会社、団体による研修なども多く実施されています。単に知識を提供する講義型の研修も多いですが、近年はアクティブラーニングの手法を取り入れ、ワークや課題を多く実践する研修も増えています。
書籍や研修で学ぶときに気を付けないといけないのは、中小企業の経営者向けなのか、大企業の経営幹部や管理職向けなのかを見極めて選択することです。筆者のクライアントでも、「創業時に経営の本を読んで勉強したが、大企業向けの本が多かったため、自社の経営に上手く当てはめることが難しかった」と言う経営者もいます。
後継者が社内で影響力を獲得し、次期経営者として社員に認知されるには、何らかの実績が必要になります。
複数の事業をおこなっているのであれば、今後の成長が見込まれる新規事業を受け持ったり、他社や公的な機関と共同で新規事業の立ち上げを担当したりすることで、実績を積み上げながら、行動力など経営者として必要なスキルを磨く良い機会となります。
一方で、新規事業を担当する場合は失敗するリスクもあります。そこで代替案として、社内の制度改革や新規システムの導入などのプロジェクト、最近では、事業継続計画(BCP)策定のプロジェクトのリーダーを担当するケースもみられるため、検討してみましょう。
自ら学ぶ姿勢は基本ですが、仲間や師匠(メンター)と一緒に切磋琢磨して取り組むことは、自分だけでは難しい「気づき」が得られるため、とても有効です。
地元の商工会や商工会議所、中小企業向けの経営者団体、民間が主宰する経営者の学びの場などに所属し、相互に学習したり意見交換をしたりすることが、経営者としての成長につながります。
経営者に必要なスキルの必要性を理解し、身につけるべく努力しているが、まだまだ不十分だと感じている経営者も多いと思います。
そのような場合は、経営陣として人材(右腕)をそろえることや、経営コンサルタントと契約し、自社の経営について伴走支援してもらうことも、不足するスキルを補う方法として有効です。
信用保証協会や産業振興センターなどの公的機関では、専門家派遣制度を用意していますので、相談することも検討してみましょう。
企業において、後継者が経営者としての実力を身につけることはとても重要な問題です。
本章では、後継者が経営者として認められるようになるために、どのようなことをおこない、そのなかでどんなスキルを身につけていったのかについて、事例をもとに紹介します。
祖父が創業した総合エネルギー関連企業の3代目であるTさんは、2023年現在は常務で、2024年に社長就任を予定しています。地元では商工会に所属しており、仕事でも社長の片腕として活躍されています。
会社としては店舗を3店舗構えていますが、新規に1店舗を建設し、既存店の2店舗を閉めて、2店舗に集約することを構想していました。
コロナ以前から銀行とも交渉をしていましたが、億を超える投資額となるため、投資回収見込みが厳しく、承認が出ない状況が続いていました。
今回Tさんの発案で、事業再構築補助金を活用した店舗の新設と、既存店舗の閉店の事業再構築計画を策定し、補助金の申請に挑戦しました。
一度目の申請では不採択でしたが、事業計画を構想から練り直し再チャレンジ。具体的には、理念策定、戦略策定、採算性を検討するための経営計画、投資計画の作成を重要視して、結果、採択となりました。
現在も、原材料費の高騰などにより投資計画の細部を修正しつつ、事務局と密に連絡を取りながら、事業再構築補助事業に取り組んでいます。
この結果は、自社の将来を見据えた将来構想と実行計画を、補助金に採択されるレベルまで作りこんだことが成功の要因と言えます。
発案から構想・計画の作成まで自らおこない、一度不採択になったものの、あきらめずに再挑戦し採択となった働きは、社長や社員、地元の事業者仲間のTさんを見る目を変え、社長交代もスムーズにいきそうな様子です。
Mさんは、祖父が創業した食料品の小売卸売の3代目予定者ですが、元々地元を離れていました。
大学卒業後、就職した会社がバブル崩壊により入社1年目で倒産。地元には帰らず、都会で生きづらさを感じている若者に向けて、居場所づくりや就職支援、気がねなく立ち寄れる”場”を提供する任意団体を立ち上げ、活動をしてきました。
転機が訪れたのは、家業の2代目社長であった父親が倒れ、入院したときでした。父親の体調は、幸い1カ月の入院で回復しましたが、その間事業について父親に意見を言ったり、提案をしたりしたことで、事業承継を真剣に考えるようになります。
しかし、当社はコストコのような取り扱い商品数が多い業態で、100円から数百円の商品を扱う業態にもかかわらず、最盛期には2店舗で10億円超を売り上げてきたベテラン経営者である父親からは、全く相手にされなかったとのこと。
その経験から、Mさんは自分の実績、経験、経営に対する知識・スキルが不足していることを痛感したそうです。
そこで、経営者としての経験と実績を積むことを目的に、自分で創業することを決心し、創業塾などに通い始めました。そして、地元の野菜を使ったスイーツをブランド化する事業を開始します。
Mさんは事業主としての理念、事業計画、資金計画などを作成し、実際に進めていくなかで何度も修正したそうです。今は法人化していますが、個人事業主として創業したため、理念策定が自分自身の想いの言語化となり、自分と向き合い続けました。
今では、地元を活性化することをミッションに、ブランド化したスイーツを自社店舗と百貨店に納品しています。
そして家業では現在3代目の予定者として1店舗を管理していますが、コロナの影響で大手企業で商品の欠品が発生し、仕入れが難しい状況が発生しています。
日本の食品は安全で美味しいため、インバウンドで人気だったのが、コロナによりインバウンド需要がほぼ消失したために、製造元が輸出中心に切り替えたことが原因です。
しかし、店舗では地元の食品メーカーの商品を発掘し、取り扱いを増やそうとしています。これは、Mさんが創業した会社のミッションである地元の活性化と重なるものであり、今まで個人事業主として築いてきたネットワークが活かされてきています。
経営者に求められる6つのスキルは、「自社の未来を描き、その実現に向け社員を巻き込み自ら率先垂範する」ために必要なスキルです。
経営者になったばかりの人は、「自分には、経営者として経験が無い」「知識・スキルが足りているのだろうか」と不安に感じている方もいるかもしれません。経営者として必要な知識・スキルを身につける方法、不足している場合に補う方法を参考にしていただきたいと思います。
一方で、経験を積んでくると、「それ知ってる」「それについては、こうすることで上手くいく」と経験値を獲得できたことで、自信につながり、経営者としての風格も出てくるでしょう。
ただ、気を付けないといけないのは、自信が慢心につながり、独りよがり、いわゆる、「裸の王様」にならないことです。
そのためには、「無知の知(知らないことがあることを知っている)」を意識し、初心を忘れず、謙虚に人の意見に耳を傾け、常に自己変革をおこなう努力を惜しまない姿勢を持ち続けることが重要です。
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