経営理念とは 意味や必要な理由から作成方法・企業事例まで紹介
不確実性の高い現代に、企業が向かうべき方向性を示す「経営理念」が改めて注目されています。この記事では、経営理念の定義や必要とされる理由、実際の作成方法及び社内に浸透させる方法について、累計200件以上の経営支援に関わった中小企業診断士が解説します。
不確実性の高い現代に、企業が向かうべき方向性を示す「経営理念」が改めて注目されています。この記事では、経営理念の定義や必要とされる理由、実際の作成方法及び社内に浸透させる方法について、累計200件以上の経営支援に関わった中小企業診断士が解説します。
目次
経営理念とは、企業が何のために企業活動をするのか、また、企業が向かうべき方向性を明確にするための存在意義をまとめた言葉です。
経営理念には、創業者の思いや企業としての考え方、大切にすべき価値観が含まれていることもあります。
中小企業庁が発行している「中小企業白書」2022年版では、東京商工リサーチが実施した調査「中小企業の経営理念・経営戦略に関するアンケート」を紹介しています。
この調査では、約9割の企業が経営理念・ビジョンを定めており、これに対して明文化していない企業は1割程度と、ほとんどの中小企業で経営理念が明文化されていることがわかります。
経営用語のなかには「経営理念」と似ている言葉も複数あります。
ミッション・ビジョン・バリューとは、経営学者のピーター・F・ドラッカーが提唱した用語です。
ミッションは企業が存在する目的、ビジョンは企業が実現する将来像を指します。バリューは企業が重視する価値観を表し、組織が行動するための指針であり、ミッション・ビジョンに対して、より具体的な行動を示しています。
ミッション・ビジョン・バリューの定義付けは、企業のアイデンティティや、企業活動の目的を明確にするという趣旨では、経営理念と同じと言えます。
企業によっては、経営理念をミッション・ビジョンの上位概念としたり、ミッション・ビジョン・バリューの総体として捉えたりすることもあります。
パーパスも、経営理念と同じく企業や組織が存在する理由や目的、存在意義を表す用語ですが、社会的な影響力や責任についても言及される点が特徴です。
近年では、投資家や消費者からの支持を得るためにも企業のパーパスを明確化することが重視されています。
企業は利益を追求するだけでなく、社会的責任を果たして、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されているのです。
企業理念も、経営理念と同様に「企業がなぜ存在し、どのような価値を提供するか」を示した、企業の基本的な考え方を指します。
企業理念と経営理念では明確に区別をしていない企業も多いですが、あえて区別するのであれば、企業理念は、創業者の思いや企業の存在意義といった、時代が変わったとしても「不変」な価値観を示しています。
一方、経営理念は、企業の存在意義に基づいて事業活動のなかで何をするのかを表しているため、時代によって「変化」し得るものと言えるでしょう。
では、経営理念はなぜ必要なのでしょうか。経営理念を定める理由と、定めることによるメリットを解説します。
ビジネス環境が複雑で変化が激しく、予測不可能な状況下にあることについて、Volatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとって「VUCAの時代」とも言われるようになりました。
中小企業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染症拡大や地政学リスクの高まりなどにより、さらに不確実性が増していると言えます。
予測不可能な状況下では、企業が目指すべき方向性が定まっていないと、経営者・社員はどのような行動を取るべきか迷い、VUCAの時代に求められる迅速で柔軟な行動が取れなくなってしまいます。
経営理念が改めて注目されている背景には、現代の不確実性の高い経営環境下で、企業が目指すべき方向性を見直す機会が求められているからと言えるでしょう。
経営理念は、企業が持つべき価値観や姿勢を示すものです。
持続可能な社会の実現が求められている昨今、企業の社会的責任を果たすことが重要となっています。
経営理念を明文化し、自社が社会に提供する価値を誰の目にも明らかにしている企業は、経営の方向性が明確であり、事業の成長性が評価されやすくなります。
それゆえに、社会的信頼につながり、実務上で金融機関から有利な金利での資金調達や、投資会社からの投資が実現している企業もあります。
経営理念を明確にすることで、社員は会社の存在意義や方向性を理解し、自分が携わっている仕事がどのように会社全体の成長に貢献しているのかを実感することができます。
その結果、社員のモチベーションが向上し、より意欲を高く仕事に取り組むことができるようになります。
また、企業が定めている経営理念に共感する人材であれば、自身が仕事で成し遂げたい目標と会社の目指す方向性が重なり、入社後もモチベーションを高く仕事に取り組むことができるため、人事採用での指標にもなっています。
では、経営理念はどのようにつくれば良いのでしょうか。作成のステップに準じて解説します。
まず、会社が将来実現したい未来(ビジョン)を考えます。経営理念は会社が向かうべき方向性を定めているものであり、長期的な未来に実現したい目標や、理想の企業イメージであることが必要です。
企業として目指すべき方向性はどこにあるのか、事業活動を通じてどのような社会をつくりたいのか。
この言語化は主に経営者が行いますが、一人で考えていてもなかなか難しいものです。
筆者が話を聞いた経営者には「ビジネスコーチに壁打ちしてもらった」「経営者仲間にひたすら聞いてもらった」など、他の人との会話のなかで言語化が進んだ経営者が多いようで、行き詰ったり、イメージを広げたりしたい場合は、そのような方法も積極的に取り入れてみましょう。
経営理念は、社員やステークホルダーに理解されやすいように、具体的で簡潔な表現を心がけましょう。
なかなかしっくりくる表現が思い浮かばない場合は、下記の2つの手段を考えてみましょう。
しかし、他社が使っている表現に引っ張られてしまう恐れもあるので、これらのサイトは参考程度にとどめることが望ましいです。
経営理念は、経営陣だけでつくるのではなく、社員も巻き込んでつくりましょう。
一緒になって考えられるミーティングの場を設けて、経営陣は社員からのアイデアや提案を取り入れることで、社員は「自分たちがつくった経営理念である」と自分ごととして考えられるようになります。
社員は参加意識や経営理念への共感度も高くなることで、意識しながら業務に取り組むことにつながります。
経営理念は、作成をして終わりではありません。
冒頭で経営理念を策定している企業は約9割あることを説明しましたが、社内に浸透しているかどうかという点では、頭を悩ませている経営者もいるのではないでしょうか。
策定した経営理念は、社員一人ひとりの行動にまで落とし込まれることで、初めて意味をなします。
策定した経営理念は、まず全従業員へ知らせましょう。
知らせるのは社員だけでなく、パート・アルバイト、また、一緒にプロジェクトを進める業務委託パートナーへも、方向性を認識しあうために共有している企業もいます。
周知方法としては、通達を出すほか、経営理念に関する説明会やガイダンスを開催することが多くあります。
説明会では、経営理念を策定した背景、なぜこの言葉にまとめたのか、会社としてどこを目指していくのか、実現までのストーリーも一緒に伝えることで、社員からの共感を得やすくなります。
経営理念は簡潔な言葉にしていることもあり抽象度が高く、そのままでは社員の具体的な行動まで落とし込めません。
筆者が話を聞いた経営者の事例では、経営理念を実現するためにはどのような行動が求められるのか一人ひとりに考えてもらったり、経営理念から逆算して数値目標などに落とし込んでいたりする企業がありました。
このような具体的な行動の落とし込みは、経営者と社員、上司と部下という上下の関係ではなく、経営者と社員がフラットな関係で行うことが重要です。
お互いに意見を出し合うことで、経営者と社員どちらの立場でも納得する行動や数値目標に落とし込むことができます。
経営理念は、最初に一度社員へ知らせるだけではなく、いつでもどこでも見て確認ができるなど、必要なときに立ち返る場をつくることが必要です。これには、下記のような方法があります。
しかしながら、コロナ禍でリモートワークが多くなったため、オフィスで確認ができなくなったり、お互いに会って話をする機会が減ったことで、よりこの経営理念の浸透が難しくなっています。
リモートワークでも浸透をしやすいよう、社内で誰もがみるイントラネットのトップページに経営理念を掲示するほか、オンライン上の朝会で唱和をするといった取り組みも出勤形態に応じて取り入れていきましょう。
せっかくつくった経営理念でも、経営者がその思いに沿わない行動をしていたら、意味のない言葉になってしまいます。
経営者こそ、経営理念を実現するためにはどのような行動が必要なのかを考え、率先して自ら示していきましょう。
では、実際に企業ではどのような経営理念を掲げ、社員へ浸透させているのでしょうか。具体的な事例を用いて解説します。
神奈川県横浜市に拠点を構える「スリーハイ」は、産業用ヒーターを製造・販売する、社員40人(2022年12月時点)の企業です。
スリーハイの経営理念は、「ものを想う。ひとを想う。」です。この経営理念には、「ヒーターの製造を通して、モノ、人をどこまでも温めていける存在でありたい」という思いが込められています。
スリーハイは、かながわSDGsパートナー及び横浜市SDGs認証制度「Y-SDGs(上位 Superior)」に認定されているなど、SDGs(持続可能な開発目標)のゴール達成に向けた取り組みを数多く行っています。
また、スリーハイでは、持続可能な社会の実現を目指し、事業活動を通じたSDGsの取り組みについて、取引先・仕入先・金融機関といったステークホルダーに伝える「サステナビリティレポート」を2021年から発刊しています。
2冊目となる2022年版は、社員が中心となって作成されました。
代表取締役の男澤誠さんは、サステナビリティレポートを社員が中心となってつくることで「ものを想う。ひとを想う。」という経営理念がどのように社会に役立っているのか、改めて社員とともに確認しあう機会となったと述べています。
続いて、創業5年目で社員26人のPR会社「LITA」の例をご紹介します。
LITAの経営理念は「全ての人・企業の可能性開花に貢献する。」です。
この経営理念のほか、社員の行動指針として「お客さまの感動にコミットしよう!」「PDCAをいち早く回し自らの手で最高の結果を目指そう!」「仲間に良い影響を与えよう!」の3つを挙げています。
ただ、具体的にどのような行動が経営理念の実現につながるのか、社員にとってはわかりづらいという意見もありました。
そこでLITAでは、毎週月曜日に全社員が参加する朝会をオンラインで開催しており、そこで「経営理念を実現するために、一人ひとりどのような行動を取るべきか」を社員全員でディスカッションをしています。
例えば、「仲間に良い影響を与えよう!」という行動指針について、自分でこの行動指針ができたと思ったエピソードを各自が考えます。それぞれの考えをグループでシェアをし、そのグループで出た意見を、さらに全体へシェアします。
このように、個人で考えるだけでなく他の社員の考えも聞く機会があることで、新たな気づきが社員のなかで生まれ、行動指針につながる行動が積み重ねられ、その結果として経営理念が浸透するという好循環となっています。
このほか、大企業の経営理念や企業理念を紹介します。
経営理念は「経営者が一人で考えるもの」と思っている経営者も多いのではないでしょうか。
しかし、これまで解説したとおり、経営理念は一人で机に向かってつくるものではありません。社員や他の経営者仲間と多くのディスカッションを通して洗練されながら、だんだんと形になっていくものです。
これから経営理念を考えようと思っている人は、まず、自身の考えを信頼できる経営パートナーや、経営者仲間に話してみましょう。きっと、自分にはない気づきをもらえます。
そして、作成した経営理念は社内外でも都度確認ができるようにし、経営者含め一人ひとりの社員たちが経営理念を実現するための行動を取れるようにしていきましょう。
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