ペロブスカイト太陽電池とは 2025年度の実用化へ政府も補助金で支援

かつて日本の太陽電池産業は世界を牽引する存在でした。しかし、中国などの海外勢の台頭により、日本のシェアは直近で1%未満にまで落ち込んでいます。この失われた競争力を取り戻し、日本のエネルギー自給と産業競争力強化の切り札として、政府は日本初の技術「ペロブスカイト太陽電池」の実用化と普及に向けて補助金で支援しようとしています。
かつて日本の太陽電池産業は世界を牽引する存在でした。しかし、中国などの海外勢の台頭により、日本のシェアは直近で1%未満にまで落ち込んでいます。この失われた競争力を取り戻し、日本のエネルギー自給と産業競争力強化の切り札として、政府は日本初の技術「ペロブスカイト太陽電池」の実用化と普及に向けて補助金で支援しようとしています。
目次
ペロブスカイト太陽電池は、桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発明した技術で、3種類のイオン(代表的にはA:有機アンモニウム、B:鉛、X:ヨウ素)がABX3のペロブスカイト結晶構造で配列する材料を発電層に用いた太陽電池の総称です。
政府が立ち上げた「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会」がまとめた「次世代型太陽電池戦略」によると、ペロブスカイト太陽電池の歴史は比較的浅く、2009年に初めて作製された際の発電効率は3〜4%でした。
しかし、2012年に英国と日本の研究者らによって固体型ペロブスカイト太陽電池が共同開発されたことを契機に研究開発が加速。近年、その開発競争は世界的に激化しており、2024年に科学誌Natureに掲載された論文“Steering perovskite precursor solutions for multijunction photovoltaics” によると、シリコン型太陽電池と層を重ねたタンデム型では29.7%にも到達したといいます。
市場の95%を占める主流のシリコン太陽電池の発電効率を超えると期待されている技術で、一部の国内企業が2025年度から事業化を始める予定です。
ペロブスカイト太陽電池には、主に「フィルム型」「ガラス型」「タンデム型」の3つのタイプがあり、それぞれに用途に応じた特徴を持っています。
軽くて柔軟という最大の特長を持ち、これまで太陽電池の設置が困難だった建物の壁面や曲面などにも導入できるポテンシャルがあります。日本は特にこのフィルム型で、耐久性や大型化の面で世界をリードする技術力を持っています。
ペロブスカイト太陽電池(フィルム型)と従来のシリコン太陽電池を比べると、製造に必要な温度がシリコン太陽電池の1400度以上に対して150度と低く、製造日数も3日以上かかるシリコンに対して1日程度を目指しているといいます。
また、その発電効率や耐久性などの製品としての競争力は、製造装置そのものではなく、複雑な材料加工や成形、温度・湿度の管理など製造プロセス等のノウハウによる部分が大きく、製造のみならず、施工・運搬・回収などを含めたシステム全体で付加価値を創出し、競争力を実現していく余地が大きいといいます。
ただし、発電コストの低下という課題には引き続き耐久性の向上などの技術開発が必要です。
建物の建材の一部として、高層ビルや住宅の窓ガラスの代替設置が期待されており、こちらも新たな導入ポテンシャルを秘めています。フィルム型よりも耐水性が高く、耐久性が期待できますが、海外勢でも技術開発が盛んであり、競争が激化しています。
既存のシリコン太陽電池の上にペロブスカイト層を重ねることで、変換効率の大幅な向上が期待されます。将来的にはシリコン太陽電池の置き換えも見込まれるため、世界的に巨大な市場が見込まれており、引き続き研究開発が進められています。
フィルム型やガラス型に比べて開発進捗はやや遅れており、競争も激化しています。
ペロブスカイト太陽電池は、太陽光発電が持つ課題を解決し、再生可能エネルギーの導入拡大、エネルギー安定供給、産業競争力強化に貢献することが期待されています。
日本では太陽光発電の導入量が大幅に拡大し、平地面積当たりの導入量は主要国で最大級である一方で、設置適地の制約や、土砂崩れや景観を損なうといった地域との共生上の課題が生じています。
そこで、2025年4月から、改正再エネ特措法を施行。関係法令違反時のFIT/FIP交付金の一時停止措置や、申請時の説明会の開催など周辺地域への事前周知の要件化など規制の強化を進めています。
軽量で柔軟なペロブスカイト太陽電池は、これまでの太陽電池では設置が困難だった場所(建物壁面、曲面、窓など)にも設置可能であり、生活環境や景観に配慮しつつ、新たな導入ポテンシャルを生み出せる可能性があります。
太陽光パネルの原材料や設備機器の大半が海外に依存している現状に対し、ペロブスカイト太陽電池の主要な原材料である「ヨウ素」は、日本が世界第2位の産出量(シェア約30%)があるという強みを持ちます。
2030年代後半には、シリコン太陽光発電設備の大量排出が想定されており、適切な廃棄・リサイクルが課題となっています。
ペロブスカイト太陽電池は、一般的なシリコン太陽電池の約1/10の重量、1/20の容積といい、より低コストなリサイクルシステムを確立できる可能性があります。ただし、鉛を含むため、その適切な処理・回収が必要です。
次世代型太陽電池戦略は「太陽電池産業を巡る過去の反省を踏まえ、官民連携し、世界をリードする規模とスピードで、時間軸の中で目標を定めながら、量産技術の確立・生産体制整備・需要創出を三位一体で進める」という考え方を示しています。
具体的には以下の通りです。
2030年を待たずにGW級の生産体制を作れるよう、2025年度までに20円/kWh、2030年度までに14円/kWhを可能とする技術の確立を目指しています。将来的には2040年に自立化が可能な発電コスト10〜14円/kWhの実現を目指します。
この実現には、国内需要だけでなく、年間累積生産量80GW超という相当量の海外需要を見据えた生産規模の拡大が不可欠とされています。ヨウ素などの主要原材料、フィルムなどの部素材、製造装置など、サプライチェーンの中で特に重要なものは国内で強靭な生産体制を確立する方針です。
過去の技術流出の反省を踏まえ、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の競争力を左右する材料加工・成形、製造プロセスに係るノウハウを重視します。
特許とブラックボックス化した製造プロセスを組み合わせ、サプライチェーン全体で技術・人材の両面から戦略的な知的財産管理をします。
製造だけでなく、運搬、設置、施工、回収、交換、廃棄、リサイクルといったライフサイクル全体での付加価値創出を目指します。
2025年度から早期に国内市場を立ち上げ、2040年には約20GWの導入を目指します。導入初期は、自治体を含む公共部門や環境価値を高く評価する企業が率先して導入を進めるとしています。
政府は2025年2月に閣議決定した政府実行計画において、政府部門における温室効果ガスの排出削減目標を達成するため、政府が保有する建築物等への率先導入や、社会実装の状況(生産体制、施工方法の確立等)を踏まえた導入目標等の検討率先導入も検討しています。
経産省と環境省は2025年度予算にペロブスカイト太陽電池の社会実装モデルの創出に向けた導入支援事業として、50億円を計上するなど様々な補助金で支援しています。
国内市場が海外市場と比較して小さいことを踏まえ、当初から海外展開を視野に入れています。特に、電力料金が高く、設備利用率が高い、施工コストが安い、あるいは日本との国際標準策定での連携が見込める高度研究機関を有する国・地域への展開が優先されます。
国際競争力を持つ産業へと成長するため、国際標準化の取り組みも進められており、2024年3月には国際標準化等検討委員会が設立されました。
ペロブスカイト太陽電池は、多様な用途・設置形態を想定した製品開発と施工方法の確立が課題であり、2024年度からGI基金などを通じて社会実証が進められています。特に建築基準法などの関係法令への適合も検討・整理が進められています。
2024年度税制改正では、再生可能エネルギー発電設備の固定資産税軽減措置にペロブスカイト太陽電池が追加され、適用期限が2年間延長されるなど、導入を後押しする税制措置も講じられています。
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