目次

  1. MBOとは
  2. MBOの特徴とメリット
    1. MBOの目的
    2. MBOの目標設定
    3. MBOの目標達成度
    4. MBO目標・達成度の共有
    5. MBOの目標達成期限
  3. MBO導入のポイント
    1. 上司・部下間のコミュニケーション
    2. 社員本人による適切な目標設定
    3. 定性評価を併用する
  4. MBOの導入ステップ
    1. 個人の目標設定
    2. 上司と部下で目標の調整・共有をする
    3. 自己評価
    4. 上司と部下で評価の調整・共有をする
    5. MBOの評価例
  5. MBOとOKRの違い
  6. MBO導入のポイント

 MBOは、個人や組織ごとに設定した目標の達成度を管理する手法です。個人の目標と組織の目標をリンクさせて、業務効率性の向上、社員教育、業績改善を目的とします。

 日本では、1990年代には多くの企業がMBOを導入し始めました。バブル経済崩壊後、年功序列型の雇用制度から成果主義に切り替え、年俸制や人事評価ツールMBOが導入されました。

 当時、筆者も仕事の早い人ほど残業代など給与面で不利になることなどへの不満があり、成果主義、目標管理制度の導入に納得感があったことを覚えています。

 しかし、制度自体が未成熟であったため色々な課題・弊害が指摘されました。

 個人的には、評価者の制度の理解が不十分であると、目標設定に不公平感があったり、評価時にはやはり人情的なものが加味されたりすることに不満を感じていました。

 MBOを導入した企業は、こうした目標管理制度の問題点を洗い出し、自社の実情に沿った制度設計を行い、本来の目的を達成するためのフレームワークとして運用・定着しています。

 例えば、行動評価や情意評価(仕事に対する意欲や姿勢)を行ったり、本給・賞与など人事制度そのものを見直したりする制度変更が行われました。

 MBOの特徴は次の通りです。

 MBOは、基本的には目標達成を尺度とした人事評価ツールです。

 MBOは、社員が自ら目標を設定し行動することを求めています。そのため、目標設定は、上司の承認を前提として、社員自ら設定します。

 MBOは、報酬など人事評価面が強いため、目標は達成可能な100%の達成度が期待されます。

 MBOは、人事評価ツールとして機密性があり、個人の目標・評価は上司(評価者)と個人の間だけで共有されるのが一般的です。

 MBOは、昇給や賞与の関係もあり、半期または1年での目標達成が求められます。

 現在では自社にカスタマイズされたMBOを持っている企業が多くなっています。

 しかしこれからMBOの導入を検討している企業は、「MBO導入は失敗するリスクが高い」ことに留意する必要があります。MBO導入のポイントは次の通りです。

 MBOを安定的に運用するためには、上司・部下間のコミュニケーションを良質なものにすることが求められます。特に上司(評価者)のコミュニケーション能力が必要です。

 部下が納得性のある目標設定や評価を行うためには、日ごろから上司が部下の行動や考え方をしっかり把握し、きちんとしたコミュニケーションがとれていることが重要です。

 多くの企業で、評価者となる新任幹部社員に対して、目標管理制度など人事制度を幹部社員の視点で理解してもらう研修制度などを取り入れています。

 MBOでは、会社や組織の目標とリンクさせつつ、社員が自ら目標を設定することが重要です。

 上司が勝手にノルマを押し付けたりするなど「高すぎる目標設定」は、社員のモチベーションを低下させます。

 また、目標の達成度が自分の報酬に関わってくるため、「低すぎる目標設定」をする傾向は、社員の能力開発や育成など本来の目的を阻害します。

 組織の目標をきちんと提示し、どのような成果が求められているのかなどを理解させたうえで、社員自身に設定させることがポイントです。目標の難易度により、評価のウェイトを変え、全体のバランスをとる方法が多くの企業で採用されています。

 筆者の勤務先でもそうでしたが、MBOでは、成果主義の側面が重視されすぎる傾向があります。

 コロナ禍など、経営環境の変化による目標の未達が社員の報酬に反映されてしまうと、社員の不満は募ります。また、人事総務など数値目標自体が設定しづらい部門もあります。

 この課題は、1990年代にMBOを導入した多くの企業が直面しました。この課題解決のため、数値目標に加えて定性評価を加味することが一般的になりました。

 定性評価の一つに行動(コンピテンシー)評価があります。行動(コンピテンシー)評価とは、高い成果を上げる社員に共通する行動特性を基準として、社員の評価基準を作成する手法です。

 最後に、「目標管理シート」を利用したMBOの導入ステップをご紹介します。

 MBOでは、評価や能力向上に向け適切な個人目標を設定します。

 基本的には、社員自ら目標設定することになりますが、組織目標に沿った個人目標が必要です。

 そのためには、全社や組織の目標を設定し、決定した目標を所属する社員に公開します。「目標管理シート」には次の項目を記入します。

目標

 全社目標に沿った個人目標を設定します。組織目標が売り上げアップの場合、自分の担当エリアや商品の売り上げ目標を設定します。また、自己開発など定性的な目標も設定します。

目標設定の理由

 その目標を設定した理由を説明します。数値目標の場合、組織目標とリンクしますので理由は比較的簡単です。定性目標の場合、設定理由を明らかにします。例えば、営業職でも顧客の決算書を理解できるようにするため、会計系資格をとるなど具体化します。

達成レベル

 数値目標は、過去の実績などから達成可能なレベルとし、100%の達成が一定の評価をされる水準にします。定性目標でも検証可能な実績を把握できるレベルにします。〇〇資格を取得する、社外セミナーを〇回受講するなどです。

ウェイト

 ウェイトとは、目標達成の難易度を表します。難易度が高ければ高いほどウェイトは高くなります。ウェイトは目標ごとに%で配分し、合計が100%になるようにします。

達成のためのアクション

 設定した目標を達成するためにどのような行動をとるのかを記述します。結果が出せなかった場合でも、行動計画をきちんと実行していると評価時点で一定の考慮をしてもらえることができます。

 個人の目標設定を終えた後に、上司と部下との間で面談を行い、目標が適切に設定されているかを確認します。

 上司・部下との間に目標に対する認識が違うと、評価時に自己評価と上司評価にギャップが生じてしまいます。

 目標管理シートに記載された内容を十分に確認し、必要があれば、上司は記載項目の修正を指示します。

 目標管理の期間が終わった後、まずは、社員の自己評価を行います。

 重要なことは、評価基準を明確にすることです。例えば、5段階評価の場合、100%達成をどこに設定するのか、段階ごとのレンジはどれくらいかを事前に公開しておく必要があります。自己評価時に目標管理シートに記入する項目は次の通りです。

達成レベル

 設定した目標に対し、どれだけ達成できたかをきちんとした計算による%表示で記入します。例えば、目標売り上げが1000万で実績が900万であったら、90%の達成レベルとなります。

振り返り

 設定した目標に対する達成レベルを自己評価します。未達の原因は何か、達成に向け何をすべきだったのかなどの振り返りを行います。

自己評価

 目標の達成度に応じて、5段階評価などで記入します。事前に公開された評価基準に基づいて客観的に評価します。

 自己評価を終えた後に、上司と部下との間で面談を行い、自己評価が適切に行われているかを確認します。評価は社員の報酬に直接関係します。

 上司・部下との間で評価に対する認識が違うと、部下に不満や不信が生じる可能性があります。

 上司は、目標管理シートに記載された内容を十分に確認し、上司・部下納得の上で上司評価を行います。

上司評価

 達成レベルや社員の振り返りなどを確認し、5段階評価などで評価します。

ウェイト

 目標設定時と評価時の内外の環境変化などを加味し、両者が十分に会話し、納得すればウェイトを変更します。

最終評価

 上司評価×ウェイトで算出します。

MBO(目標管理)の評価例。上司評価とウェイトをかけあわせ、最終評価を算出します

 同じ業績管理ツールであるOKRと比べたMBOの特徴は次の通りです。

MBO OKR
目的 目標達成を尺度とした人事評価ツール 全社や組織の目標達成の進捗(しんちょく)管理を行う業績管理ツール
目標設定 上司の承認を前提として、社員自ら設定する 同じ職務・職責であれば、同一の目標が設定される
目標達成度 目標は達成可能な100%の達成度が期待される 全社目標達成に向け、挑戦的な目標が求められる
目標・達成度の共有 上司(評価者)と個人の間だけで共有される 全社や組織で共有される
目標達成期限 半期または1年での目標達成が求められる 1カ月、四半期など短いスパンで達成が求められる

 MBOは、人材育成やコミュニケーション活性化などに有効な評価ツールです。しかし、人事評価の側面が強いため、その運用を誤ると社員の不平不満が生じかねません。

 日本で定着して30年。そのため色々なMBOツールが提供されています。自社の企業風土や人事制度を十分に考慮し、MBOの導入を検討してはいかがでしょうか。