親の会社を継ぐ前に確認したい5つのこと 学ぶべき経営の知識と経営者心理
あなたが親から「会社を継いで欲しい」と言われたら、まず何から取りかかればいいでしょうか。『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』の著者で、全国の後継ぎが学ぶグロービス経営大学院の田久保善彦研究科長は「後を継げるか不安に思うのは大事なこと」と語ります。学ぶべき経営の知識や、後を継がせる親の心理状態について解説しました。
あなたが親から「会社を継いで欲しい」と言われたら、まず何から取りかかればいいでしょうか。『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』の著者で、全国の後継ぎが学ぶグロービス経営大学院の田久保善彦研究科長は「後を継げるか不安に思うのは大事なこと」と語ります。学ぶべき経営の知識や、後を継がせる親の心理状態について解説しました。
グロービス経営大学院経営研究科研究科長、グロービス経営大学院常務理事。慶應義塾大学理工学部卒業、修士(工学)、博士(学術)、スイスIMD PEDコース修了。三菱総合研究所を経て現職。経済同友会幹事、経済同友会・規制制度改革委員会副委員長(2019年度)、ベンチャー企業社外取締役、顧問なども務める。
まず、事業承継と言っても、企業ごとに様々な形があります。たとえば、親の病気や死去をきっかけに突然継がなければならなくなることも少なくありません。継げるかどうかを迷う時間もなく継がざるを得ない状況からのスタートです。
事前に準備できているかどうかに関わらず、最初から完璧にこなせる後継者はいません。まず、継げるのかどうか不安に思うことは大切なことです。何が分かっていなくて、何を学ぶべきかを知る出発点だからです。経営者になれば、従業員やその家族を守る責任があります。経営を学ばないということは、その責任を放棄するに等しいことです。
損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)など自社の財務諸表を読むことはできますか。まずは3年分を読み込んでみて、自分なりの意見が言えるかを確認してみてください。会社が金融機関から借り入れがあったとして、借金の意味を理解できていますか。たとえば、5千万円の借り入れがあったとします。その理由は運転資金の不足なのでしょうか。それとも次の事業に向けた設備投資なのでしょうか。
そのほかにも、事業が製造業だった場合、仕入れから納品までのバリューチェーンが頭に浮かびますか。自社の経営資源である「ヒト・モノ・カネ」の現状を番頭役の経営幹部に聞いてみましょう。その説明が理解できますか。自分が会社について何が分かっていないのかを明らかにし、学ぶべきポイントを明らかにしましょう。
後継者としての教育を受けてこなかった人も少なくありません。たとえ、入社前に大企業や金融機関に数年間修行していたとしても、一社員では経営全体のことはなかなか見通せる機会は得られません。将来会社を継ぐことを念頭に取締役として在籍したとしても、その立場から見える景色は、経営者とは別の物です。グロービス経営大学院でも、100~150人の後継ぎが、お互いに不安や悩みを共有しながらも学びを続けています。
会社を継ぐ前に知っておいてほしいのは、親が創業者だった場合、継がせる側も継ぐ側も初めての経験になるということです。創業者は会社に時間と情熱をすべて注ぎ込んできました。ですので、後継者側から「会社の株を譲渡してほしい」などと求めると、まるで体の一部を奪われるかのような感覚に陥ることがあります。そこでもめてしまうと、会話が難しくなり、場合によっては数年間の冷却期間が必要になります。その間、事業承継はストップします。
一方、現経営者が2代目、3代目の場合、自分自身も会社を継いだ経験がありますので。継ぐ側と継がせる側の気持ちを想像しやすいかもしれません。
では、どうすればいいのでしょうか。後継者である自分のことを「こいつは同じ景色が見られる」と経営者に認めてもらうことです。前任者を否定せず、経営者が大事にしてきたものを継いでくれるという確信を持ってもらうことです。会社を継がせるときに、経営者はどんな心境に陥るのか。後継者には人間の本質を理解する能力が必要です。
長寿企業の経営者は、後継ぎが同じ景色を見られるような工夫に取り組んでいます。経営者には、創業家が元々持っていた価値観を時代に合わせて柔軟に解釈し、行動で示しながら有形無形で伝えていく役割が求められています。たとえば、京都・伏見で1637年に創業した日本酒メーカーの「月桂冠」では、経営者と後継ぎが昼食を共にしたり、取締役会に後継ぎを長年の間一緒に参加させたりして、社長としての判断軸を共有する取り組みをしていました。
とくに長寿企業は、価値観をつなぐということを大切にしています。一時的な成長を目的としているのではなく、事業を継続するために成長しているのです。つまり、急速な成長ではなく、たとえば、年1%の成長を100年続けることを目指しています。経営者が理解でき、勝ち続けていくことができる自社のコア能力を見定めた「本業重視の経営スタイル」です。
チャレンジは続けますが、長期視点での事業拡大のため、致命的なリスクは負いません。抽象的な概念を伝えるには、文字面だけでは限界があります。経営者の語る言葉を聞き、具体的な行動を見て、さらに後継者が考える時間があってようやく理解できるのが価値観なのです。
会社を継ぐということは相続の問題でもあります。株式が後継者に集中していると事業は安定しやすくなりますが、権利である株が分散すると会社の意思決定が進みにくくなるなどのリスクが生まれます。そのためにも、議決権のある株式は後継者に集め、そのほかのファミリーメンバーには現金などの財産で分配するといった工夫をしている企業も多いです。会社の権利と、財産を分離してコントロールできると事業承継の手続きがスムーズになります。
ファミリービジネス(同族経営)は、地方の金融機関とのつながりも大切です。会社を継続するうえで最も避けなくてはならないのが手持ちの現金がなくなることです。
地元の信用金庫とはともに地域経済を担っているため、大手メガバンクと比べて相互依存性が高いのです。必ずしも借りなくても良いときであっても最低限のつきあいは継続しておくことをおすすめします。
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