刀剣女子に人気「日本刀はさみ」 岐阜・関の地場産業が全国でコラボ
岐阜県関市の地場産業は刃物で、イギリスのシェフィールド、ドイツのゾーリンゲンとならび、世界三大刃物産地の一つです。そんな伝統産業が「刀剣女子」と呼ばれる若い女性から注目されています。2016年7月に開設した関市ビジネスサポートセンター(Seki-Biz)がサポートした刃物メーカーの1つ、ニッケン刃物の事例をご紹介します。
岐阜県関市の地場産業は刃物で、イギリスのシェフィールド、ドイツのゾーリンゲンとならび、世界三大刃物産地の一つです。そんな伝統産業が「刀剣女子」と呼ばれる若い女性から注目されています。2016年7月に開設した関市ビジネスサポートセンター(Seki-Biz)がサポートした刃物メーカーの1つ、ニッケン刃物の事例をご紹介します。
近年、名刀を擬人化したオンラインゲームのヒットをきっかけに、若い女性を中心に日本刀への関心が高まりました。全国で開催されている刀剣の展覧会には、「刀剣女子」と呼ばれる若い女性が訪れています。お気に入りの名刀をいつでも身近に置いておきたいと、刀剣女子たちの間で人気なのが、「日本刀はさみ」「日本刀ペーパーナイフ」です。この商品を企画・製造販売しているのは、関市にある老舗刃物メーカー・ニッケン刃物です。
ニッケン刃物は、2018年10月に社長に就任した熊田祐士さんの祖父・文夫さんが1946年に創業し、主にはさみやペーパーナイフ、歯科で使うデンタルツールなどを製造販売しています。「折れず、曲がらず、よく切れる」という関の刃物の流れを受け継ぎ、職人が1本1本丁寧に刃付けしたはさみは切れ味が鋭いと定評があります。
「日本刀はさみ」は、電機メーカーで商品開発の経験を持つ熊田さん(当時は社員)が「他社にないようなおもしろいものも作ろう」と若手社員とともに企画したものです。
2015年5月の発売当初から、商品のユニークさと刃物の街・関市で作られたという本物感がギフトショーで注目を集めました。既存商品の需要が伸び悩む中、新商品を新たな会社の柱に育てていきたいと、熊田社長は更なる販路拡大を模索していました。
相談を受けたセキビズは、オリジナルのデザインを50個の小ロットから自社で製造できる強みと歴女や刀剣ブームで日本刀に注目が集まっている時流に着目。全国のご当地武将や名刀モデルを受注生産してはどうかと提案しました。
熊田社長は「2回目に相談に行った時に、セキビズから『その場所に行かないと買えないレア感のある、特定の武将モデルを作り込んではどうですか』と提案を受け、すぐに取りかかりました」と当時を振り返ります。 熊田社長は早速、興味を持ちそうな博物館や自治体をターゲットにダイレクトメールを送り、「縁組相手募集」を始めました。すると、東京都日野市の土方歳三資料館や、山口県防府市の毛利ミュージアムショップ・ギャラリー舞衣などから問い合わせがあり、次々とコラボレーションが実現していきました。
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「これまではつながりのない会社がほとんどでしたが、セキビズのおかげで取引先が大きく広がりました。名古屋市の徳川園や、岐阜県関ケ原町の関ヶ原駅前交流館など、既に日本刀はさみを取り扱っていたところにも提案したところ、とても乗り気で徳川家康や石田三成モデルの制作が実現しました。受注生産なので在庫を持つリスクがないこともありがたいです」
「日本刀はさみ」の縁組が順調に進む中、熊田社長は新たな一手を仕掛けました。縁組の取り組みから発展して、刀剣女子にとりわけ人気の高い土方歳三の愛刀「和泉守兼定(いずみのかみかねさだ)」のペーパーナイフ商品化を土方歳三資料館と共同で進めることにしたのです。そして同モデルなど、名刀をモチーフにしたペーパーナイフの販売をクラウドファンディングで挑戦しました。セキビズでもPRのサポートをしたところ、クラウドファンディング目標額の100万円をはるかに上回る1,617万円の支援を達成。多くの支持者を得てプロジェクトは大成功しました。
「日本刀はさみ」「日本刀ペーパーナイフ」は、2018年に岐阜で行なわれたアジアジュニア陸上競技大会の参加記念品にも採用され、人気アニメ『ONE PIECE』とのコラボも実現するなど、当初は予想していなかった大きな展開が生まれています。
クラウドファンディングの成功や積極的な取り組みにより、新聞、テレビで取り上げられる機会も格段に増加しました。取引先や売上の増加だけでなく、間接的な効果も生まれていると熊田社長は声を弾ませます。
「テレビでうちの会社を知って、刀剣女子の高校生が新卒採用に応募してきてくれたんです。製造の現場は重い荷物を運ぶなど女性に難しい作業があるためかなり悩んだのですが、とても情熱を持った子だったので採用しました。すごくがんばってくれていて、新入社員なのに難しい工程を任せられるまでになりました」
会社や商品がメディアで紹介されることは、社員が会社や自分の仕事に誇りを持つことに繋がってきたと熊田社長は大きな手応えを感じています。
月に1度は必ずセキビズを訪れる熊田社長。セキビズからのアドバイスはすべて社内ですぐに共有、検討しているそうです。
「相談を重ねるごとに、セキビズさんにうちの会社のことをどんどん深く知っていただけて、さらに提案の幅が広がっていると感じています。なくてはならない、パートナーのような位置づけですね」
新たなチャレンジとしてギフト市場への展開も進んでいます。
「自分にはないアイデアや知識を持っているので、選択肢が広がりますね。新たに商品を出すにあたっても、『これ売れるかなあ』とか不安を感じている時に、新しい気づきを与えてもらえて、訴求効果がある形でリリースできるのは心強いです」
関市などによって開設されたセキビズは、2019年12月に開設以来3年半で相談件数6,000件 を突破しました。売上アップや新商品開発、販路開拓、人材採用など、様々な分野で多くの実績が出ています。これらの支援において共通するポイントは、会社の強みを見いだし、生かすことです。そして今回の事例では、変化するトレンドや消費者ニーズと組み合わさることで大きな成果につながりました。これまでのお客様や市場だけではなく、自社の商品やサービスが生かせる場所を考え直すことで、飛躍のきっかけを掴めることがあります。
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