日本ブランドはなぜ海外で負ける?弱点から学ぶ中小企業のブランディング
今回は、日本企業にとって長年の難題「日本はなぜブランド力で海外に負けるのか?」がテーマです。国内企業の努力や製品の質や愛情などが負けているわけではありません。日系ブランドの弱点の要因と対策を知ることは、中小企業の経営者が自社のブランディングを考える上でも役立ちます。
今回は、日本企業にとって長年の難題「日本はなぜブランド力で海外に負けるのか?」がテーマです。国内企業の努力や製品の質や愛情などが負けているわけではありません。日系ブランドの弱点の要因と対策を知ることは、中小企業の経営者が自社のブランディングを考える上でも役立ちます。
日系ブランドの弱点は、以下の3点で考えることができます。
ブランドの基礎知識については、前回記事の通りです。ブランド論の初歩である『ペプシ・パラドックス』の例を用いて、高機能&安さ=即、勝利ではないことをお伝えしました。今回はブランド力の弱点について原因と対策をさらに詳しく見ていきます。
私はおもにアジアで活動をしてきました。理由は、急激に伸びている国・市場とそこにいる人材、挑戦が好きだったからです。当時、グローバル系企業で、クリエイティブ・ディレクターなどとして、日本人がいない環境で働いていました。
私の役割は、最新デジタル技術と芸術性を組み合わせ、人の心を惹きつけ、真意を伝え、ファンとなってもらうブランディングの実行です。どの国で行われるか、テレビか、ウェブかというのは関係なく、各プロジェクトの企画や制作すべての責任者となります。
当時の会社のクライアントは多様で、企業だけではなく、各国の政府、政党(選挙戦略など)や観光、軍の広報などもありました。日本に比べると、文化的な多様性があり、ミスコミュニケーションの恐ろしさも自然と理解されています。それゆえにブランディングの価値が高く認められていました。
社外に日本人の知り合いはいましたので、日系企業の仕事のやり方の違いを理解していました。実際に目の当たりにした日本の製品・ブランドの負け方は、例えるなら正確な時計が、不正確な時計に負ける、まさにペプシ・パラドックスのような話ばかりでした。
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思い出せば、日系企業の苦戦は共通していました。現在も解決はされていません。「なぜいい人が雇えない。機能が良いのになぜ売れない。使ってもらえればわかるのに…」
苦戦している日系企業の行動・発言について、先ほどに示した日系ブランドの3つの弱点に沿って説明します。
考えられる原因は「ブランドの基礎知識の欠如」です。
ブランディングの第一歩の始め方がわからない、会社は何のために存在し、何の価値を提供するのか、何をしていくのか?が全く言語化されていないのではないでしょうか。それがなければ、とりあえず機能や効率をアピールし、追いやすい数字を追うことになります。ニッチ市場を機能性などで切り開くのでしたら、しばらくは通用しますが、競合企業とのコスト競争になったり、人材難が発生したりして、中期的にひっぱくしてくると考えられます。
考えられるのが「日本という特殊環境の理解不足」です。
日本というほぼ単一文化の中で、ブランディングの重要性を見誤っていると考えられます。伝わっていると勘違いし、言語化・可視化を怠っているのではないでしょうか。結果、世代や文化が違う優秀・若手人材の獲得ができなくなります。
理由は、特に20代〜30前半の優秀人材は、市場において、金を稼ぐ自信があります。そのため、自分に目先の金より、キャリアや、やりがいを提示してくれる会社に入ります。日系企業の多くは、金だけ出して採れないから、早い段階で現地人材獲得に幻滅し、日系人材を送る、または日系企業のみとの取引に偏ることになります。やり方も自ずと日式となり、コストが増加し、結果が出ない状態となります。これは、日本国内の人材獲得にも通ずるところがあります。大手に人が集まり、価値ある中小は苦戦をしている状態です。価値が、伝わっていないのです。
考えられるのが「正しいブランディングを実行できる人材の欠如」です。
予算確保は良いのですが、無計画に雑に使うのは、国内外どちらのブランディングでもご法度と考えてください。製品機能で優っているので、認知だけが足りないと考え、ライバルの何倍もの巨額のプロモーション費用を用意し、広告代理店などに自由演技をさせる。これでは、せいぜい短期的成果しか出ません。
日系企業が狙いたい成長著しい市場には定価の概念がありません。金を出せば出すほどいくらでも吸われます。各種メディアも日本に比べたら信頼度も低く影響力も限定的です。
つまり、その時々で、ウケの良いことをするのは、ブランディングではなく、再現性もない浪費というわけです。では、それぞれの弱点に対し、どのようにするのが良いかについてお伝えします。
「ブランドの基礎知識の欠如」の原因は、国内にはそもそもブランド論を体系的に教える教育がないためです。
これは、私がTwitterで問いかけてみた質問です。「ブランドを体系的に習ったことはありますか?」
前からデザイナーや経営者、事業責任者の皆さんに聞いてみたかったこと。
— 石坂昌也(MASA) / 世界水準ブランディング (@msy_i) November 8, 2019
「ブランドを体系的に習ったことはありますか?」
「はい」は3.3%。「いいえ」が96.7%です。はいと答えた人は、海外留学経験者の方もいました。回答数は60票と少ないのですが、私のフォロワーは平均よりブランディングに対するリテラシーが高いはずなので、広く調べれば、さらに低くになることが予想されます。
さらに、ブランド論を活用したブランディングには、経験が必要です。これは、特別なことではなく、経営を学んだ後に、実際に運営をした時にそれがそのままハマることなく常に勉強の連続だと思います。一方で、これは、国内にブランディングのプロがほぼいない時に、経営者やエース社員などが奮い立つチャンスともいえるかもしれません。
皆さんの会社やチームに外国籍の人材はいますか?その方は、日本語を使って働いてくれていないでしょうか?日本のチームは、合わせられることに慣れており、合わせることはできません。お金の単位、法律、言語、文化すべてです。その時に、コミュニケーションが自分・会社が中心であることに気づかず、自己発信も相手の目線が欠如するため、魅力的に見えないのです。
でもこれは、社員が役員に合わせることにも似ています。本当にそれは、現代的で、三方よしと言えるでしょうか。この機会に見直してみませんか?
正しいブランディングができる人材の不足については、先述の国内の教育不足と海外での活動不足と重なる部分があります。しかしながら、逆をいえば、国内で外注を探す前に、まずは経営者がブランディングの情報を調べ、苦悩し、社内の人材と共に取り組むべきでしょう。私の経験上、それより大切なものはありません。ブランディングの成功には、お金よりももっと大切なものがあるのです。
ブランディングは内側から始めるものです。社内の情熱・人材を使えば良いのです。
世の中には、こんな事例があります。
お金が十分でない、外部の助けがない時でも、しっかりとビジネスを見つめていれば、誰よりも創造的になることもあるのです。
大きな話に感じてしまった人も多いと思いますので、現実的な話をします。国内を狙う場合でも、世界を狙う場合でも、現代ブランド論の基礎は通用します。
私が海外にいた時は、日系の大手が苦戦している印象でした。むしろ中小企業は、ポツポツと、しかしながら、活躍できているところもありました。業界も、美容系消耗品、医療系部品、船舶系部品など様々です。
共通点は、インドの50%のシェアを占めるというマルチ・スズキ・インディアと似ているのですが、自社を知る意思のある経営陣が始め、経営判断として長く継続した結果、成功しているところが多かったです。
大切なことは次の通りです。
ブランディングはわけがわからないものでなく、いきなり大きな投資をしないこと。まずは、創業の意志、自社の歴史、現在の状態、中長期計画をしっかり再確認しましょう。経営や意思ある内部の人間がまずはなんでも読み、学び、苦しみましょう。その後の議論に経営だけではなく、エース社員、若手社員も議論に加えてください。その先にどのような行動をすべきか、それは次回にお話しします。
次は、事業を強くするブランド戦略。どこから始める?に続きます。
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