会社の理念をどう浸透させる?デザイン経営を活用する3社の事例
アップル社がリードしていることで知られるデザイン経営は、組織運営のあり方も問いかけています。クリエイティブ企業ロフトワークが2020年3月に開いた「中小企業のデザイン経営」のイベントリポート最終回は、ファミリア(神戸市)社長の岡崎忠彦さん、ロフトワーク代表の林千晶さんらのパネルディスカッションの模様を伝えます。
アップル社がリードしていることで知られるデザイン経営は、組織運営のあり方も問いかけています。クリエイティブ企業ロフトワークが2020年3月に開いた「中小企業のデザイン経営」のイベントリポート最終回は、ファミリア(神戸市)社長の岡崎忠彦さん、ロフトワーク代表の林千晶さんらのパネルディスカッションの模様を伝えます。
パネルディスカッションに参加したのは、林さん、岡崎さんのほか、幼児用の教材や遊具の製造販売を手がけるジャクエツ(福井県敦賀市)常務の吉田薫さん、東京都内で「まちの保育園・まちのこども園」を運営するナチュラルスマイルジャパン(東京都練馬区)代表取締役の松本理寿輝さんです。イベントリポートの初回で紹介しましたが、ロフトワークが制作した冊子「中小企業のデザイン経営」では、デザイン経営の特徴を5つにまとめています。
ファミリア、ジャクエツ、ナチュラルスマイルジャパンの3社は、パネルディスカッションに先立ち、自社におけるデザイン経営の実践例を報告しました。ロフトワークの林さんはその内容も踏まえ、「デザイン経営の5つの特徴の中で、何が一番大切だと思いますか」と問いかけました。
2010年に創業したナチュラルスマイルジャパンの松本さんは「創業からの5年間は子どもたちや保護者、地域のコミュニティーと一緒に文化を創造する時期でした。2015年から今年3月までは、『まちの保育園』らしいアイデンティティーを言語化しようとしました」と振り返ります。「ここからの5年間は共創期です。企業や自治体、教育界などと手を組みながら、子どもたちの学びを深めたいと思っています。その意味では、デザイン経営におけるビジョンの更新から共創に入っています」
岡崎さんは、1950年に創業したファミリアの創業家出身の経営者として、こう強調しました。「未来に向けて、会社をどうやって持続経営していくかが大事になります。僕がいなくなってもできるように、会社にDNAやカルチャーを残すようにしたいです。十人十色の時代になってほしいので、『子どもの可能性をクリエイトする』というファミリアのカルチャーを育てていきたいです」
ジャクエツは、イベントに登壇した企業では最も古い1916年の創業です。それでも、2019年に「未来は、あそびの中に。」という新たなビジョンを発表しました。常務の吉田さんは「ジャクエツの社章は、子どもの守り神である『いぬはりこ』を使っています。創業の証しを守りながら、次の100年を目指していくためのビジョンとして定めました」と話します。
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デザイン経営の特徴の一つに「経営にデザイナーを巻き込む」とあります。経営の上流からデザイナーが関与することが必要になりますが、林さんは「経営陣の力だけで、社員一人ひとりの意識が変わるわけではない」という問題意識を持っています。3社はどうやってデザイン経営で打ち出す理念を社員に浸透させているのでしょうか。
デザイナー出身だったファミリアの岡崎さんが、2003年に家業に入って取り組んだのは、社内をきれいにするという地道な作業でした。「戻ってきたときのオフィスは本当に汚かった。ひどいときには筒型のゴミ箱の上に座って会議をしているほどでした。(デザイナーの師匠の)八木保さんには、オフィスが汚いグラフィックデザイナーには誰も仕事を頼まないと教わりました。きれいなオフィスを目指し、みんなのおかげで整理整頓して実現できました」
岡崎さんが一番嫌いだったのが「ファミリアらしい」という言葉でした。「今まではこうしていたから、という考え方が足を引っ張ります。組織はアップデートし続けないと死んでしまいます。整理整頓と組織論は、放っておくとすぐに汚くなるという意味で、似ていると思っています」
ジャクエツは、社員向けにブランドブックを制作し、理念の浸透に努めています。自社の歴史を紹介するだけでなく、遊具制作に関わった外部のデザイナーや研究者、保育現場からの寄稿も盛り込むなど、充実した内容になっています。吉田さんは「ビジョンが明確になれば、シャンパンタワーのように下に浸透していきます。社員に配ったところ、フェイスブックなどでも紹介されて、お客様からもほしいという声が上がりました」と話しました。
ナチュラルスマイルジャパンには、若い成長企業ならではの悩みがありました。代表の松本さんは「スタッフが160人前後だった頃は、私が日々、保育園やこども園に足を運んで対話ができていました。しかし、200人を超えた今では、それができません。各園にマネジメントチームを組織して、そこからビジョンを広げる形ですが、私とマネジメントチーム、そして一般社員それぞれの思いをすり合わせるのは、とても難しい作業です」と打ち明けました。
林さんは「会社が大きくなると、創業者が直接ビジョンを語りかけることができなくなります。例えば、各園で毎月新しい企画を10案や20案は考えるといったゴールを設定すると、会社が次のフェーズに進めるのではないでしょうか」とアドバイスします。
松本さんは「みんなが企画を出せば、『まちの保育園』が伝えるべきことは何か、という対話が起きますね。今までは私が指揮者として調整していましたが、チームで行えば可能性がより広がりそうです」と話しました。
デザイン経営は、自社の原点を見つめ直しながら、守るべきものと変えるべきものを洗い出す作業でもあります。林さんは、こんな問いを投げかけました。「大切だと言われていたけど、実は大切ではなかったもの。逆に世の中では大切じゃないと思われていたけど、実は大切だったものはありますか」
答えは三者三様でした。老舗を背負う岡崎さんは「プライドはすぐに捨てられます。老舗という大きな看板で、業者の方との上下関係を作るようなことはやめたい。仕事は相手を尊敬するという信頼関係が大切です。コミュニケーションを取って、社内で人を褒める文化を育てています」と答えました。
松本さんは「仕事で変なマニュアルは作りません。みんなが何かを想像し続ける環境にするために、答えではなく問いを立てていくようにしたいです」。ジャクエツの吉田さんはデザイン経営全体に触れ、「デザインは商品の方向性を決めるものです。世の中をどう発展させたいのかを決めて動くという意味で、経営との共通点があるのではないでしょうか」と言いました。
イベントに登壇した3社は、業種も歴史も規模も違います。しかし、商品や建物の見栄えやかっこよさを追求するだけでなく、自社のビジョンをしっかりと定めて、社会課題の解決を目指し、組織のあり方までデザインすることで、文化を創りだす意欲が感じ取れました。デザイン経営が示す考え方は、多くの企業でも採り入れることができるのではないでしょうか。
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