コカ・コーラはなぜペプシより「強い」? 中小企業にも大切なブランディング
『ペプシ・パラドックス』をご存じですか。ペプシコーラとコカコーラのどちらが美味しいかを調べたところ、ブランドを明かさない条件と明かす条件で結果が正反対となった消費者テストのことです。中小企業が生かせる「強いブランディング戦略」を考えるために、ブランド論の第一歩を紹介します。
『ペプシ・パラドックス』をご存じですか。ペプシコーラとコカコーラのどちらが美味しいかを調べたところ、ブランドを明かさない条件と明かす条件で結果が正反対となった消費者テストのことです。中小企業が生かせる「強いブランディング戦略」を考えるために、ブランド論の第一歩を紹介します。
目次
世界には、会社や製品は星の数ほどあり、ブランドはそれらに紐付き、多様な影響を与えています。そのブランド戦略を大きく分類すると、3つに分けられます。
これは、ものづくり系や古くから続く企業によくあるタイプです。戦略的には意識せずともビジネスがうまくいっている状態です。また、創業が古く、当時の話や情熱感がよくわからず、とにかくビジネスを回している状態のことを指します。
国内によくあるタイプです。大きな投資を行い、有名人、テレビ、大手メディアなどを通して、認知度・信頼度を上げて、ライバルに差をつける方法です。急拡大したい場合のベンチャーや、インターネット上で販売が完結するビジネスなどは、費用対効果も計算しやすい重要な方法となります。
海外に多いタイプです。投資を行う前に、まず自社のミッションなどを社内に普及させ、その上で投資の仕方を有機的に各社員・メンバーに実行させる方法です。ブランディングとしては、理想に近いのですが、自社が何を目指しているのかなどの整理が必要で、すぐに売上に反映されるかは、業態や状態次第になります。
今回、ブランディング戦略を考える上で例示するペプシコ社は、②に近く、コカ・コーラ社は③に近い取り組みをしています。
類似した商材を扱っている企業の場合、ブランディングの手法が異なると、どのような影響が出るのでしょうか。
2015年に帰国してからは、ブランドコンサルティングの開始、ブランド系講演に登壇するたびに、現代ブランド論の基礎の一部として「The Pepsi Paradox(ペプシ・パラドックス)」について話しています。
1975年に米国で、1980年代に日本でペプシコ社が消費者にペプシコーラとコカ・コーラを飲み比べてもらうPepsi Challenge(ペプシ・チャレンジ)というキャンペーンを実施した結果、ペプシコ社に訪れた解決し難い課題・葛藤(=The Pepsi Paradox)のことです。
ペプシコ社は自社製品とコカ・コーラ社の商品を使った目隠しテストを消費者に行いました。ペプシコ社は、清涼飲料水には味が重要と考え、徹底的に商品の旨味を追求し、目隠しテストでは、コカ・コーラ社の製品を上回る人々に「美味しい」と選ばれました。
しかし、目隠しを外し、ブランド名を明らかにした途端に、投票の結果は逆転し、コカ・コーラ社に軍配が上がりました。
清涼飲料水という味が最も大切であると考えられる商品カテゴリーで、味で勝ったのにどういうわけか、選ばれることはできない(=重大な葛藤)ということです。
これは日系企業ではよく聞く話ではないでしょうか?大変真面目に製品やその品質にこだわり、しっかりとしたものさえ作っていれば、必ずお客様は気づいてくれる。
しかし現実は、そうではなく、
✔︎ うちの製品の方が上質なのに...
✔︎ こちらの製品の方が多機能なのに...
✔︎ 弊社の製品の方がリーズナブルなのに...
なぜ、勝ち切れないのだろう…という状態ではないでしょうか?
いくつかの研究もあるのですが、この原因は、ブランド力に起因します。
ブランド論の大家であるデビット・アーカー氏は、「ブランドは資産であり、その要素の一つが連想である」と表現し、人の内部に直接働きかける力があると言っています。
また、こんな事例もあります。
2004年に科学誌「Neuron」に発表した研究によれば、ヒューストンのベイラー医科大学の研究チームはfMRI(機能的磁気共鳴画像)を使って、コカ・コーラとペプシコーラを飲んだとき、脳のどの部位が活性化するかを、ブランドを見せた場合と隠した場合とで比べる実験をしました。ブランド名を隠した状態でコーラを流し込むと、いずれのコーラも感覚(味覚)と快楽(糖分)を感じる脳の部位が活発に働きました。
一方、ブランド名を明かした場合は、コカ・コーラだけ、短期記憶や連想などの高度な認知機能をつかさどる脳の部位が活発に働きました。ペプシコーラでは反応しませんでした。そこで、研究チームはコカ・コーラの好き嫌いは味だけでなく、ブランドイメージが影響を及ぼしている可能性を示唆しました。
つまり、ブランド力があれば、定量的情報を乗り越えるほどの好意的感情を脳に作り出し、購買行動を引き寄せることができるのです。 これはライバルにやられてしまったらどうでしょうか? ライバルの方が、機能が少ないし、高いし、丈夫でもないかもしれないのに、勝てないのです。答えの見つからない葛藤をする以外にはないのかもしれません。
では、最も重要な戦略の差は、なんでしょうか?それは、二つの会社が何を押し出そうとしていたか?が重要な要因となります。
ペプシコ社は、マーケティングも理論的なものが多く、ブランドとは直接関係のないタレントやキャラクターの起用を多くしていました。それらはそれぞれがヒットしていて、商品の成功には十分な寄与がされていると考えられます。つまり、ペプシコ社は、自社の商品を押し出していました。
しかし、コカ・コーラはどうでしょうか?
日本の昔のコカ・コーラのCMを思い出すと特別な有名人は出ておらず、恋人たち、運動会の子供達、学生たちがコカ・コーラを囲んで、素敵な時間を過ごしています。コカ・コーラ社は、コカ・コーラ自体ではなく、コカ・コーラがある瞬間の体験を押し出していたのです。コカ・コーラ社は、ただの美味しい飲み物ではなく、それらによって幸せになる人々がいる世界を目指しているわけです。
これを、一般ユーザーたちが感じ取り、必ずしも最も美味しくなくても、機能的でなくても、安くなくてもコカ・コーラを選んでしまうという強力なブランドができました。
つまり、情報過多の現代において、なおさら国内企業に必要なものは、ブランディングに多くのお金や有名人を使うのではなく、しっかりと自分たちの会社や商品とそのブランドに向き合い、ユーザーに何を届けたいのか整理してから、ブランドに必要最低限投資を検討するべきなのです。
新型コロナウイルス感染症の影響で、あらゆる企業や個人にとって大変厳しい状態が今も続いています。しかし、そんな中だからこそ、自社の理念や製品を見つめる時間も増えたのかもしれません。なぜやっているのか、本当にやりたかったのか、何を発信すべきなのか、発信には何が足りなかったのか?などです。
これらは、ブランディングを行う際にどんな金銭的投資よりも重要なものです。ブランディングは遅効性なため、すぐに業績に反映しないこともあります。しかし、今だからこそブランディングに対しての投資を検討することで、他社がどうしても追いつけないブランド資産への道も開かれるのです。
ブランドに正しく投資ができたらなら、製品がしっかりしているほどに、これまで積み上げてきたほどに、ファンになってくれる方が多く見つかることでしょう。そして、その社や自身の内部からブランドを作り出す手法は、目的を基礎としたインナーブランディングと言われ、世界では再度注目を浴びている方法でもあるのです。それこそが、コカ・コーラ社のような体験に焦点を当てることで、掛け替えのない商品やサービスを顧客の中に作り出す愛されるブランドなのかもしれません。
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