デフレ構造の飲食店、新型コロナが追い打ち 深刻な赤字に補助金足りず
「いつまでもつか」――。都内で飲食店を営むあるオーナーはため息交じりにこう話しました。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の発令、外出自粛で飲食店の大淘汰時代の足音がひたひたと迫っています。「これまで一生懸命頑張ってきたのに、なぜコロナに追い詰められなくてはいけないのか」という想いを多くの飲食店経営者が抱いています。
「いつまでもつか」――。都内で飲食店を営むあるオーナーはため息交じりにこう話しました。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の発令、外出自粛で飲食店の大淘汰時代の足音がひたひたと迫っています。「これまで一生懸命頑張ってきたのに、なぜコロナに追い詰められなくてはいけないのか」という想いを多くの飲食店経営者が抱いています。
「この先、こんな状態が続けば、夏までに4~5割程度の飲食店が営業を続けていくのが難しくなるでしょう。(飲食業界で)数万人、数十万人という雇用が失われる可能性があります」と話すのは、飲食プロデューサーの周栄行(しゅうえい・あきら)さんです。
4月の緊急事態宣言で窮地に追い込まれている飲食店は、全国的に後を絶ちません。岡山県で居酒屋「成田屋田町店」を運営する店主の山田修一さんは「4月の売上高は前年同月比で75%減」といい、人件費など経費が重く、開店以来初の赤字になったといいます。「店をたたむことにしました」というネットニュースやブログ、「店舗をやめて、テイクアウトに切り替えることにしました」といった報道や書き込みが5月に入ってから日増しに増えています。新型コロナの感染拡大防止のための外出自粛要請の直撃を受けている飲食店の深刻な状況を物語っています。
外食業界ではすでに中小の閉店ばかりではありません。比較的体力があるとされる大手、中堅にも危機は及んでいます。「某有名外食チェーンが危ない」とか、「某チェーンが数百億円借り入れを起こしているが、経費の支払いなどでアッと言う間に雲散霧消した」、「取引先への支払いが滞っている」などと囁かれています。
「政府の支援も焼け石に水です」。前出の都内の飲食店オーナーはこう吐露します。政府や自治体が行っている助成金、補助金などはあります。しかし、2か月近く営業時間の短縮や休業で売上高が大幅に減って、固定費の負担が重くのしかかります。大赤字を計上している飲食店にとっては「全然、足らない」という声が多く出ています。
埼玉県で飲食店を経営するオーナーは「(補助金が下りるまでにスピードが遅いし、内容も決してよくない。規模にもよるが我々飲食店の赤字は補助金では補填できないほど深刻」と話します。
しかし、それでも何とかこの急場を乗り切ろうと、飲食店の自助努力による「Withコロナ」の対応も始まっています。
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中小の飲食店をはじめ、相当数の飲食店がテイクアウトやデリバリーを開始しています。こうしたことを背景に、飲食業の業務総合支援を行うフードコネクション(東京都目黒区)では、全国の飲食店のテイクアウトやデリバリーを紹介するテイクアウトマップ、「テイクアウトコネクション」を立ち上げました。「閉鎖を考える店が増えているなかで、少しでも飲食店の役に立てればと」とフードコネクション取締役の満園雄博さんは話します。
しかし、テイクアウトといっても簡単ではなさそうです。容器の準備や、告知の仕方などノウハウがない飲食店が少なくなく、試行錯誤の状態です。フードコネクションの満園さんは「もともとデリバリーを手掛けていたところはいいのですが、一から始めるとなるといろいろ準備が必要です」と話します。
デリバリーとなると、一段ハードルは上がり、クリアしなければならない課題は多くなります。中小の飲食店では、自らが料理を作り、自らが届けることになりますが、これではなかなか採算が合いません。勢い、デリバリーサービスに依頼することになりますが、手数料が安くありません。
料理宅配サービスのUBER EATS(ウーバーイーツ)で35%、出前館の公式手数料は33%(期間限定)です。中小飲食店にとって、この手数料では価格を高めに設定しなければ吸収できません。飲食プロデューサーの周栄さんはテイクアウトやデリバリーについて、付け刃のやり方に警鐘を鳴らします。
「お客を店に呼んで食べてもらう飲食店は、30分で注文されたメニューを出して食べてもらうノウハウが中心です。しかし、デリバリーやテイクアウトは数時間後に食べられることを考慮しなければなりません。このため、食材の加熱の仕方や塩分、糖分の使い方も違います。このあたりをわきまえていないと、これから夏場に向かって食中毒などを引き起こしかねません」と指摘します。
緊急事態宣言解除後も先行きは不透明です。周栄さんは「緊急事態宣言が解除されたからといって、飲食店に客足が戻るかどうか」とみています。
例えば、台湾では4月30日に中央感染症指揮センターが「新防疫運動」をスタートすると発表しました。同運動はいわば自粛の解除です。これまで通りマスクの着用など感染防止の措置は必要ですが、コロナ対策を講じている飲食店で食事が可能になるというものです。
ただ、新防疫運動が始まった現在も周栄さんは「客足はコロナ前に比べ3―5割程度にとどまっています」と話します。対面での食事のとり方や、細かく制限された食事が敬遠されていることもありそうですが、日本でも同じような状況になる可能性があります。
新型コロナが本当に収束するには、ワクチンが一般化され、国民に行き渡るようになってからといわれており、この先、コロナの影響は1、2年と及ぶことを覚悟しなければならないという声もあります。果たしてそれまでに飲食業界は立ち直っているのでしょうか。
飲食プロデューサーの周栄さんは「コロナが過ぎ去ったその時に、同じ飲食店の風景はない」とみています。それは「日本の飲食店業界は過剰供給という構造問題を抱えているからだ」といいます。
「オランダのアムステルダムでは、エリアによってライセンスの発行が決まっています。業種業態によって規制があり過当競争にならないし、廃業率が低いのです。しかし、日本は基本的にオーバープレイヤーの状態で、ナショナルチェーン同士の価格競争が激しい。このため価格が上げられず、業界はデフレ状態から抜け出せないのです」とみています。つまり、今回のような有事に抵抗力があまりないというわけです。
今回のコロナは、飲食業界の構造的な問題をあぶりだしました。残念ながらアフターコロナは、飲食店の景色も相当変わっているでしょう。しかし、今はこの難局をいかにして知恵を出して切り抜けるしかないのは確かです。
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