社員の高齢化、紙文化……経営課題の解決に向けた3代目の3つの改革
ユネスコの無形文化遺産に登録された「日本の手すき和紙技術」を生かしたエンジン部品をつくっている会社が埼玉県小川町にあります。2020年1月に家業に戻ってきた3代目は社員の高齢化や「紙文化」、売り上げの伸び悩みという経営課題に向けて3つの社内改革に乗り出しました。
ユネスコの無形文化遺産に登録された「日本の手すき和紙技術」を生かしたエンジン部品をつくっている会社が埼玉県小川町にあります。2020年1月に家業に戻ってきた3代目は社員の高齢化や「紙文化」、売り上げの伸び悩みという経営課題に向けて3つの社内改革に乗り出しました。
伝統的な紙すきの工法を応用して、注文に合わせて「何でもシートにする」技術を持つのが、和紙のまち、埼玉県小川町にある「セキネシール工業」です。断熱シート、遮熱シートなど様々な製品をつくっていますが、主力商品は、エンジンのなかで部品同士の隙間を埋めてオイルなどの液漏れを防ぐ「ガスケット」です。とくに合成ゴムや特殊耐熱繊維から作る「ソフトガスケット」を得意とします。
たとえば、エンジンで、一部の場所だけオイルを流すとき、部品同士のわずかな隙間からでも漏れない工夫が必要です。そこで部品の間の密閉性を保つために使うのが、固定用シール材であるガスケットです。素材はゴムや金属など用途によって様々。ちなみに、往復運動、回転運動など動的な場所の密封に使うシール材は「パッキン」と呼びます。
しかし、近年は、エンジンの部品に、メタルガスケットなど別の素材の製品が使われることが多くなってきました。さらにガソリン車の国内市場の販売台数も伸び悩むなかで、セキネシール工業の売り上げも伸び悩みます。今後の売り上げにつながる市場開拓が必要な時期に来ていました。そんな会社に3代目の関根俊直さん(32)が戻ってきたのは2020年1月。会社の現状を把握するため、各部門を回りながら仕事をしていると様々な経営課題が見えてきました。
最初に見えてきたのが、社員の高齢化でした。長年蓄積してきた技術が強みとはいえ、平均年齢は50歳弱。そこで、力を入れることにしたのが中途採用でした。
関根さんは「新型コロナの影響で、仕事を探している人がいる一方、企業からの求人数は減っています。そんな時だからこそ優秀な人材を採用できるチャンスです」と話します。採用の責任者に就くと、人材サービスを手がけるメガベンチャー「ビズリーチ」で勤めていた前職の経験を生かし、求人内容を大幅に改訂するところから始めました。
求人募集の会社ページのトップ画像は社員旅行。募集ページの見出しは「【製造スタッフ】高い有給取得率/毎年ボーナス有/寮完備/高い有給取得率/社員旅行充実/高い正社員登用実績」として、福利厚生や待遇を丁寧に説明しました。
こうした取り組みの結果、若手社員1人の採用につながりました。
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次に、関根さんを悩ませているのが、FAX、ハンコ、電話が当たり前の仕事でした。パソコンとモニターをつなぐ「HDMIケーブル」1本買うにも、Amazonの商品ページを印刷して申請書を添付して、購買担当の承認をもらうためにFAXする必要がありました。
そんな状況を少しでも変えようと、まず取りかかったのは、作業効率を上げるため古いデスクトップのパソコンをノートパソコンに更新することでした。つぎに、連絡手段をSlackにするために、関根堅司社長や営業部の上司とまず使い始め、営業部内に浸透させた上で全社展開しました。「社内で浸透させるには、地道に使い方を伝える講座も欠かせません」と話します。
その後、社長に「IT推進室」の設立も提案し、デジタル化を進めています。
最後の課題は、今後の売り上げを伸ばす商品開発です。会社の製品のなかで今後展開できる可能性のある電気自動車(EV)への調査に乗り出しました。EVに詳しい人を顧問に招き入れ、今後の展開の相談を始めています。
こうして入社して3つの社内改革に乗り出した関根さんですが、自戒を込めてこう話します。
「後継ぎだからこそ社内を変革しやすいのであり、自らの能力や努力があったからだと過信してはいけません。周りはその姿をよく見ています」
そんな関根さんは「家業に戻るまで葛藤がありました」と話します。大学2年のとき、創業者である祖父が亡くなりました。葬式の翌晩、社長である父から「将来家業を継いで欲しい」と言われ、そのときは「わかった」と答えました。
まずは修行だと考え、愛知県にある自動車部品大手に入社しました。5年間、工場の生産管理を任されましたが、大企業の雰囲気と自分の性格が合わずに退社を決意。自動車産業の魅力もわからなくなってしまい「いったん家業に戻ることさえ、白紙にしました」。
そこで出会ったのが「ビズリーチ」でした。採用コンサルタントとして数百社の企業の採用戦略をつくったり、採用活動を手助けたりしていました。自分の成長を感じられ、やりたいことができているという充実感。しかし、頭の片隅には、白紙にしたはずの家業のことがずっと残っていました。
家業にもどると決めたのは「悩みに悩み続けて、この先もずっと家業のことを気にかけ続けるのかと思うと悩み疲れてしまったのかもしれません」と話します。
しかし、その経験があったからこそ「いまの仕事の悩みはありますが、入社前を振り返れば、ちっぽけなことだと思えるようになりました。いまは楽しさの方が勝っています」と受けとめています。
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