目次

  1. 中小企業の採用に周到な準備が必要な理由
  2. 採用が困難な中小企業の現状
  3. 中小企業が採用に失敗する3つの理由
  4. 採用成功のために取り組むべき3つの準備

 「先代から引き継いだ会社の経営にも慣れてきた。これまでは先代からの社員や人脈に頼ってきたが、将来を考えて、一緒に会社を牽引してくれるような社員を見つけるには、どうすればいいのか」。多くの後継ぎ社長がぶつかる壁ではないでしょうか。

 採用コンサルタントとして多くの中小企業をお手伝いした経験から見て、企業によって「採用」に対する温度感は大きく違います。特に規模の小さい企業では、社長や取締役などの経営層が採用を兼務するケースがほとんどです。手間をかけにくい上、採用の頻度が少ないため、ノウハウを蓄積できないという課題があります。

 しかし、従業員数が少ない企業ほど、一度の採用、1人の採用にかかる重要度は高まります。既存の社員は年齢を重ね、いつかは定年を迎えます。自社のノウハウを引き継ぎ、将来経営を支えてくれる人材を育成し、組織を活性化するため「若手を採用したい」というのが、多くの経営者の本音でしょう。採用の現場でも、こういった要望がよく出くるのですが、若手層は少子化の影響で減る一方であり、安定志向によって、中小企業にとって最も採用が難しい層でもあります。

厚生労働省の資料から引用した若年労働力人口の推移からは若年労働力人口の割合が下がっていることが読み取れる。実績値は総務省「労働力調査(基本集計)」、2040年は(独)労働政策研究・研修機構推計

 中小企業における採用は「中途採用」が中心です。厚生労働省の調べによると、従業員数で5~29人の規模の企業では中途採用比率が90%近くにもあり、30~99人の規模でも約85%と大多数を占めています。

厚生労働省の資料から引用した企業規模別の中途採用割合。数値は2018年の厚生労働省「雇用動向調査」から

 また、実際の採用人数が非常に少ないのも中小企業の特徴で、充分な人材を獲得できないのが実情です。リクルートワークス研究所が1600社強を対象に2019年に実施した「中途採用実態調査」(PDF形式:618KB)によれば、従業員数5~299人規模の企業1社あたりの中途採用数は1.14人にとどまりました。2019年下半期に中途採用を実施した、または実施中の企業で「必要な人員を確保できなかった」と答えた企業は約41%に上りました。

 これはコロナウィルスの影響を受ける前のデータで、現在は有効求人倍率が下がっていることもあって、比較的採用しやすい時期です。しかし、コロナ禍が落ち着いた後には再び採用難の時代に入ることは容易に想像がつきます。

 なぜ中小企業、特に小規模な企業の採用は難しいのでしょうか。下記のような理由が考えられます。

  1. 自社を主観でとらえる
  2. 単純に「即戦力が欲しい」と考える
  3. 採用に関する「思い込み」にとらわれている

自社を主観でとらえる

 立地の悪さなどデメリットを考慮せず「給与はまずまずだから応募が来るはず」と楽観的に考えるのも、逆に「ウチはこれといっていいところがない」と、謙虚になりすぎるのも、採用にはマイナスです。
 自社が求職者にとってどう映るのか。良い点も悪い点も客観的にとらえなければ、採用戦略を考えようもありません。ただし、「ウチの会社のいいところは?」従業員に聞くのは、お勧めできません。都合の悪い本音は隠し、当たり障りのないことしか聞けない可能性があるからです。
 とある従業員10数人規模の企業で「社員同士の仲の良さ、雰囲気の良さには自信がある。社員は皆、そう言っている」と経営者から伺いました。ところが、採用活動を始めたころに退職者が続出。「採用人数を増やしたい」という相談が来たのです。一部の社員のせいで社内の雰囲気が悪くなっていたのに、社長には言いづらかったようです。

単純に「即戦力が欲しい」と考える

 ある中小企業経営者から「営業が1人退職するから、同じ業界の経験者で即戦力の人を採用したい」と言われた時のことです。商材には魅力があるものの、待遇面では業界の平均より少し下。正直に「難しいのではないか」とお伝えしたのですが、聞く耳を持ってもらえず、結果的に同業界からめぼしい応募者はいませんでした。
 同業界から転職する場合、求職者は自分にとってよりよい条件の会社を選ぼうとします。自社によほどの強みがある場合や業界他社よりも高水準の待遇などを用意しないと、難しいのが現実です。 
 また、仮に同じ業界の経験者を採用しても、会社が違えばやり方も違うのが当たり前。すぐに結果を出すことを求めようとすると、なかなか採用が成功しないということも頭に入れておきましょう。

採用に関する「思い込み」にとらわれている

 「ハローワークでは若手が採用できないらしい」「人材紹介は、小さい会社だと相手にしてくれないでしょ」。これらは中小企業経営者からよく聞く言葉ですが、本当でしょうか。
 実際は、ハローワークで若手の採用に成功する企業もあります。ただし、「必要最低限のことが書かれていない、魅力の感じられない求人票」を見て、応募する人はいないでしょう。また人材紹介に関して言えば、今は企業規模に関係なく親身になってくれるエージェントや、特定の業界に強いエージェントも少なくありません。採用に関する噂を正しいと思いこんでいると、採用の可能性を狭めてしまいます。

 それでは、採用に成功するために、具体的にどのような準備をすればよいのでしょうか。

  1. 自社の強みと弱みを具体的に、客観的に洗い出す
  2. 多くを求めすぎない
  3. 採用に関する情報収集を行う

自社の強みと弱みを具体的に、客観的に洗い出す

 まずは客観的な指標があるかどうか。特許を持っている、市場でシェアトップ、なんらかの賞を取ったなどという華々しいものではなくても、「最近注目されている品質管理の規格を10年前から取り入れている」というように自社の先進性がわかる情報や、「取引先から信頼が厚く、この3年で売り上げが3倍に増えた」といった会社の成長性がわかる数値でもよいと思います。

 逆に採用上の弱みとなりそうなポイントも洗い出し、解決できそうなものはできるだけ解決します。ある町工場は、「作業着の仕事だから人気がないんだよね…」と言っていましたが、思い切ってスーツに見えるオシャレな作業着へと全面的に切り替えて、見事に若手の採用に成功しました。

ある町工場が採用したスーツに見える作業着「ワークウェアスーツ」。企画販売する「オアシススタイルウェア」提供

 お金はかけられない、これといって強みがない…という企業も、諦めるのは早過ぎます。「これまで有給消化率が低かったので、これを機に完全消化を目指します」と具体的な施策を考えて、面接に来た求職者に説明しました。1円もかけず、しかもまだ実行もしていない施策の説明をしただけなのですが、「働きやすい環境作りに真剣に取り組もうとしていると感じた」と、入社が決まったそうです。

多くを求めすぎない

 採用に成功する企業は「諦め上手」です。採用成功を結婚に例えるとわかりやすいと思います。結婚するときに男女が数多くの異性からたった1人の本命を選ぶように、会社と求職者もお互いを本命と感じなければ成立しません。しかし、相手選びの段階で「高収入で背が高く、仕事がバリバリできて、優しくてなんでも言うことを聞いてくれる人がいいな」などと高望みばかりしていたら、結婚どころか恋愛も遠ざかってしまうでしょう。
 もちろん、最初は採用にあたって求職者にどのような要件を求めるのか、できるだけ細かく多くの要件をリストアップしてかまいません。しかし、次にそれらを「諦める」ことが重要です。例えば「マネジメント経験は欲しいけど、年数は問わないことにしよう」「フットワークの軽い人なら多少年齢が高くてもかまわない」という風に考えることで、採用の対象者をぐっと増やすことができます。

採用に関する情報収集を行う

 一見面倒に思えるかもしれませんが、それほど多くの時間は必要ありません。
「ちょうど人を採りたい時に営業さんから電話をもらったから」。以前、求人媒体の制作担当だった時に、何度となく経営者から聞いた言葉です。中小企業の中途採用というと、ハローワークに求人票を出すか、求人媒体に掲載するかのどちらかと思っている方が非常に多いのです。
 今は新しい採用手法や採用に関連するサービスがどんどん生まれており、「採用の常識」も日々変わっています。あわてて営業電話に飛びつく前に、簡単にでも情報収集をしましょう。ハローワークに求人票を出す、求人媒体に広告を掲載する、人材紹介を頼むといった手法以外にも、SNSを利用する、社員や知人から紹介してもらうなど、様々な方法があります。
 それぞれのメリット、デメリットを考えた上で1つ選ぶ、または複数を併用するのがお勧めです。注意したいのは、業界や事業内容、会社の立地などを考慮した上で採用手法を選ぶことです。

新型コロナをきっかけに広まったオンライン採用面接

 準備段階で必ずやりたいのが、同業他社の採用条件(応募資格、待遇、福利厚生など)の調査です。これは、ウェブの求人媒体などを利用すれば簡単です。同じくらいの企業規模で同じ仕事内容だったら、求職者は当然のように給与の高さ、休暇の多さなどで選びます。たまに「同業他社よりもウチは待遇がいいから応募がたくさん来るよね」という経営者がいるのですが、そういう方に限って最近の情報に疎かったりします。他の企業も採用を成功させるために給与を上げるなど、様々な工夫をしています。

 「今」の市況感をつかむことが採用成功への近道です。