会社の現状と自分のポジションを確認

 家業をもつ家の子どもとして生まれた方は、両親や親戚から「自分は後継ぎなんだ」ということを色んな場面で刷り込まれます。祖父に会いに行く度に、「孫なんだ」とお客さんや取引先に紹介され、自分のことを知らないはずの人から「将来頑張りやー」なんて声を掛けられます。

 それが誇らしく感じられるのは本当に幼い時だけで、自分自身でなく「〇〇家の長男」という見られ方をされるのが大きくなるにつれプレッシャーになったり、自分の未来を制限されているような気がしたりもします。

家業である一文字厨器を継ぐまでを紹介した記事

 私の場合は、記事 に書いた通り、祖父の死がきっかけに自ら継ぎたいと思うようになりましたが、まずは肩書なしの自分と、〇〇家の跡取りとしての自分の間に折り合いを付け、「自分の代でできることは何か」ということを見つけるステップが必要です。

 就職活動や転職活動では当たり前のことですが、まずは自分の会社の現状とポジションについてしっかり確認してはじめて「自分が後継ぎとして入ったとして、何ができるか」が見えることでしょう。

会社の現状確認は財務諸表から

 先代が家業をあなたに継承したい、という話なのであれば、まずは財務諸表(決算書)を5年分は見ましょう。財務諸表に目を通さず、家業に入る方が非常に多いです。いきなり社長になるわけではないにしろ、自分にできることを探る上でも見ておいた方が良いと思います。

 家業の仕事について何も分かっていなくても、財務内容を良くするという方向で先代と話せば、話がかみ合わないということは無いはずです。

 私は簿記の資格も持っていませんし、詳しい方ではありません。私の場合はもともと継ぐことを決めていたので決算書を見せてもらうのは確認に近かったです。親に見せてもらい、書店で決算書の読み方をわかりやすく解説する本を買って読みました。

 中川政七商店で有名な中川淳さんの「経営とデザインの幸せな関係」に大きく影響を受けましたが、内容が決算書の読み方にとどまらず、またおすすめできる業種が限られる部分があります。

 財務諸表のなかでも、とくに貸借対照表は、健康診断書みたいなものです。会社法で10年間の保管が義務づけられており、後継者に継がせようとしているような会社で「無い」というケースはあり得ません。

貸借対照表の構成

 しかし、「先代が決算書を見せてくれなかった」というケースは、後継ぎの仲間でも決して少なくありません。今までの経営状況が丸わかりになってしまうので、先代が公開することに抵抗するケースもあるでしょう。逆に後継ぎ側からも「見るということは継ぐことを決意したのか?」と決意を迫られたりするリスクを感じるのだと思います。

 継ぐかどうか、決めかねている場合、シンプルに「今の会社(や、大学の授業)で決算書が必要だから、参考に見せて欲しい」とか言いようはありますし、こっそり見ても良いんじゃないかと思います。家業でなくとも仕事をやっている以上、決算書が読めるということにマイナスはありません。

 決算書を「見せられない」という段階で、継ぐのは危険だと思います。要は「見せたら断られるかも」ということです。先代と後継ぎが、一緒に働いている間のすれ違いを防ぐためにも、「見せてもらった上で判断する」というスタンスは最初から持つべきだと思います。

財務諸表は数字の推移に注目

 財務諸表には、貸借対照表(BS)、損益計算書(PL)、キャッシュフロー計算書などが含まれます。
【BS】
 ・自己資本比率
【PL】 
 ・売上
 ・売上総利益(率)
 ・営業利益(率)
 ・経常利益(率)
の5年分の推移と、株主構成だけは最低見るべきと考えます。

 上記以外の項目にも、経営に携わる上の意思決定に必要な要素がたくさんあります。例えばキャッシュフロー計算書は業種によっては非常に重要ですが、一文字厨器は小売りがメインのいわゆる現金商売なので、そこまで気にすることはありませんでした。詳しくは解説本で確認してください。ただ、これからの投資の余地など後継ぎとしてチャレンジできる範囲が上記の項目で最低限分かると思います。

 5年分の推移、と書いたのは1年だけだとトレンドが分からないからです。今年の売上総利益率30%でも、40%あったものが30%になっているのと、25%から30%になったのでは全く見方が変わります。

一文字厨器のブランド「堺一文字光秀」のサイト

 また、今年の財務諸表は、新型コロナウイルス感染症の影響が大きく出るはずです。あえて借り入れを大きくしたり、意図的に生産を抑えたりしている可能性もあります。もちろん、もっと細かい見方や決算書の見栄えを良くするようなテクニックもありますが、自己資本比率が30%以上で推移しているかや、売上はじめPLの項目が安定しているかで、後継者に求められることが変わってきます。

 後継者は、株主構成をとくに注意して見ておいた方が良いと思います。3分の2以上の株を保有していなければ、会社の経営に対して自分の意思決定だけで物事を進められません。また株主が多ければ多いほど、経営に対して意見を言える人が多いことになります。新しいチャレンジがしたくても、株を持っている親族にストップをかけられていた。とか、株を買い取るのに10年以上かかった、という後継ぎ経営者の話も決して珍しくありません。

 会社の現状を確認できたら、次は「自分が後継ぎとして入ったとして、何ができるか」です。そもそも市場にどれだけのニーズがあるかを調べましょう。ウェブ上で無料のツールを使ってマーケットを調べるだけでも、たくさんの攻め手が見つかります。この内容については、9月12日に公開する記事でご紹介します。