目次

  1. 予実管理とは
    1. 予実管理の考え方
    2. 家計に置き換えると
  2. 予実管理と前年対比との違い
    1. 前年対比と予実管理
    2. 前年対比の落とし穴
    3. 予実管理で前年対比を補う
  3. 予実管理を進める際のポイント
    1. 予算の作り方
    2. 実績の計測方法は
  4. 予実管理表の作り方
    1. 作成方法
    2. 作り方の注意点
    3. 表の生かし方
  5. 予実管理で何が変わるのか
    1.  経営への影響
    2. 素早いPDCAで差別化を

 はじめに、予実管理という用語の意味について説明します。

 予算は、簡単に言えば会社の業績の数値目標です。そして予実管理とは、予算に対してどのような実績になったのか、差額の原因は何だったのかを分析して管理することをいいます(予算管理とも言います)。

 予実管理と聞くと、取っつきにくい会計の話というイメージを抱く方も多いと思います。しかし、実はそんなに難しい数字の話ではなく、足し算や掛け算で作成できてしまいます。

 予実管理を大切にしている会社は、不況下においても着実に成長をしていくことが可能です。ぜひ導入してみてはいかがでしょうか。

 予実管理を、家計の予算に置き換えてみましょう。

 ある家族の来年度の収入を、給与が手取り350万円、副業収入が50万円で、計400万円と想定します。そして、支出は住宅ローン、食費、子どもの教育費などで300万円とします。残った100万円は貯蓄や旅行に回す予定です。これが、予算になります。

 しかし、1年後に家計簿を見てみたら、収入の合計が300万円を下回っていました。原因を分析すると、テレワークになって残業代が減っていたり、副業収入が予定より少なかったりしていたことが分かりました。

 このように、家計の見込み収入と予定支出(予算)をつくり、結果的にどうだったか(実績)を比較し、なぜ予算との差が生まれたのかを分析管理することが予実管理です。

 経営状態をチェックする際に、よく使われる指標が「前年対比」です。本章では予実管理と前年対比との違いについて、詳しく解説します。

 中小企業においては「昨対(さくたい)」という前期比較の数字を使って、今期の業績を確認するケースが多いと思います。経営者の間でも「昨対を90%下回った、先月は昨対が1割上がってた」という会話をよく耳にします。

 前年対比の数字を使うことは間違いではありません。創業期や変化が激しい一部の企業を除けば、昨年と会社の業態が大きく変わることはあまり無いため、この数値比較でもある程度の管理は可能です。

 ただし、前期と今期の社会環境が大きく異なる場合、つまりコロナ禍のような状況においてはどうでしょうか。

 ほとんどの企業において、売上高は昨年とは大幅に変化し、人件費などの経費も例年とは大きく異なる企業が多いと思います。来期の数字を管理する際、コロナ禍の数字と比較しても、企業の業績を正しく判断することは難しくなっています。

 予実管理は、前年対比だけでは、把握できない事象が補えます。 

 もちろん、コロナの影響は当てはまります。その他にも、前年はたまたま自社の取扱商品がブームになり一時的に売り上げが増加した、ライバル店の出現など自社の企業努力とは関係ないところで売り上げが減少した、といったケースもあるでしょう。

 経費においても、地代・家賃や水道光熱費など、変動が少ないものは前年対比でも問題ありません。ただ、新たに従業員を雇用して人件費が上がる場合など、前期と環境が変わったものは、予算と比較した方が、素早い経営判断が可能となります。

 それでは、中小企業経営者が予実管理を進めるには、どうすればいいのでしょうか。基本的なポイントを説明します。

 予算を作る際には、まず自社が来期はどれだけの利益が必要なのかを考えましょう。例えば、借入金返済のために最低限必要な利益という視点や、数年後に控えている設備投資のためにこれだけの利益が必要、というような目標値です。

 その目標利益を達成するために、どれだけの固定費を払い、どれだけの粗利益が必要であるか、そのために売り上げはどれだけ必要なのかを総合して検討します。

 予算を立てたら、次は実績と比較するために、実際に日々の企業活動で表れた数値を、経理データにまとめます。例えば、仕入れ高や外注費などの変動費は売上高の増減に比例して変動します。単純な予実比較だけではなく、売上高に対する割合との比較が大切です。

 そして経理担当者や、税理士からの月次試算表をもとに、自社の経営成績の実績を確認します。なお、年に1度の決算だけでなく、毎月決算(少なくとも隔月)を出すことで、会社の業績をいち早く確認できます。

 月次決算は、決算前の事前予測や節税対策などでも活用できるため、予実管理に関わらず導入をお勧めします。

 では、実際に予実管理表をどのように作ればいいのか、詳しく解説します。

筆者作成の予実管理表のイメージ(※記事末尾のリンクから、予実管理表のひな形が無料でダウンロードできます。ツギノジダイへの無料会員登録が必要です)

 まずは前年度実績の欄に、売上高、仕入れ高などの変動費、給料や家賃などの固定費を記載します。次に、前年度実績をベースにしながら、来期の数字を予測していきます。

 例えば、売上高の来期予算は「得意先のA社は受注金額が毎年5%下がっているため来期も同じぐらい下がりそう」、「来期は新たな得意先からの受注があるため◯◯万円程度の売り上げがアップしそうだ」などという予測のもと、自社の商品やサービスごと、店舗別や得意先ごとに予測しながら考えていきます。

 固定費は、前期と変わらない費用を同額で記載し、前期と変わりそうな費用については増減を予測します。年に数回だけ発生する賞与や、決算のときだけ計上する減価償却費などの経費は、月割りで概算計上しておくと毎月の固定費が一定になって把握しやすくなります。

 例えば、「新たに正社員を1人増やしたので人件費が◯◯万円増加する」、「広告宣伝費を紙媒体からネットに切り替えたのでコストダウン」という考え方で進めます。

 製造業の場合は製品別や顧客別、店舗展開している場合は店舗別、飲食店ならフードとドリンクなどに分けて予実管理表を作ることで、予算と実績の差異分析が容易になります。

 ただし、あまり細かく作り過ぎると予算を立てるのが大変になります。自社にとって重要な部分に絞って細かく作りましょう。

 また、あくまで計画の段階ですので、予算と実績が一致しないことはやむを得ません。よく自社を取り巻く社会環境を天気に例えることがありますが、以下のように、晴れ、曇り、雨という3パターンの予算を準備すると、予想外の出来事にも臨機応変に対応ができ、さらに経営判断が迅速になります。

 晴れ:予定通りうまくいった場合やコロナによる影響が順調に回復した場合
 曇り:良くも悪くもない場合やコロナによる影響が比較的緩やかだった場合
 雨 :うまくいかなかった場合やコロナによる影響が悪化した場合

 実績を正確に記入するには、後からまとめて会計処理をするのではなく、日々こまめに経理をしていくことが大切です。最近では、クレジットカードやネットバンキングのデータと会計ソフトを連動させることも可能です。

 予実管理表の作成では、実績を把握するタイミングを間違えてはいけません。例えば、6月の数字を11月になってから把握しても少し遅いように感じます。なるべく翌月の末頃ぐらいまでには実績を確認できるように、経理の仕組みを作り上げることがポイントです。

 予実管理で一番大切なのは、予算と実績の差額が発生した理由を調べることです。予算を立てることに時間を使いすぎ、なぜ計画と乖離があったのかという差異分析をおろそかにしては本末転倒です。

 予定より売り上げが良かったり、悪かったりした原因、予定より経費がかかった理由など、差額を分析していち早く対策をするためにも、できるだけリアルタイムでの予実管理が必要なのです。

 また、予算と実績の差額が発生した要因は、今回だけの特別なものなのか、または来期以降も永続的に続いていくものなのかを確認しましょう。一時的な差異なら来期以降は解消されますが、永続差異は今後の経営に影響を及ぼすからです。

 終章では、予実管理に取り組めば、経営にどんな効果があるのかを解説します。

 予算を立てていなければ、実績と比較する数値は前期の数値しかありません。特に変化が無かった時代、人口増加で自動的に売り上げが増えていった時代は、前年対比のみでも問題なかったかもしれません。

 しかし、現代の経営者はしっかりと予算を立てて、実績と比較しながら、その差異を埋めることで、経営ノウハウを社内に蓄積できます。予実管理の導入で、成り行き経営からの脱却を目指しましょう。

 最後に、一番大切なポイントを一つお伝えします。

 予算が「絵に描いた餅」にならないためには、検証可能な行動計画とセットで進める必要があります。目標数値を達成するためにどのように行動するか、または戦略をもとに行動することによって生まれる数値を予測する、というように行動計画と予実管理の両輪を回しましょう。予算を立てることだけを目的にしないような注意が必要です。

予実管理表に基づいて、経営のPDCAサイクルを回すことが重要です(筆者作成)

 ぜひ予実管理を導入して、他の企業よりも素早くPDCAサイクルを回し、挑戦と改善を繰り返しながら、永続する中小企業に育てていただきたいと願っています。