【社葬とは】形式や事前準備、経費・香典に関する税務処理を解説
経営者が亡くなる場合に備え、社葬の開催を考える必要があります。後継ぎにとっては、故人の生前の厚情への感謝とともに、取引先などに新体制を示す大切な場です。社葬の形式や事前準備の方法、開催経費や香典に関する税務処理などを解説します。
経営者が亡くなる場合に備え、社葬の開催を考える必要があります。後継ぎにとっては、故人の生前の厚情への感謝とともに、取引先などに新体制を示す大切な場です。社葬の形式や事前準備の方法、開催経費や香典に関する税務処理などを解説します。
目次
そもそも社葬とは何でしょうか。辞書には「会社が施主となって行う葬儀」とあります。
一般的な社葬は、オーナー、創業者、会長、社長などの要職者が亡くなった場合、対外的にその事実を周知し、生前の厚情を内外の関係者に感謝する目的で行われます。
本稿では、社葬の意義や段取り、実施手順や税務処理について説明します。
社葬の目的は前述の通りですが、一歩踏み込んで、主催する会社の狙いを考えてみましょう。
社葬には、「故人を悼み、供養する」という本来の目的に加え、企業の広報的な意義も存在します。
特に圧倒的なリーダーシップを持っていたオーナー創業者が、後継者を指名することなく急に亡くなるケースもあります。そのとき、取引先は「あの会社と取引を続けて大丈夫なのだろうか」、社員は「うちの会社はこれからどうなるのだろうか」と不安に駆られます。
そういった不安を取り除き、新体制を知らしめる目的でも、社葬は行われます。例えば、社葬の席で次期社長が葬儀委員長となり、しっかりあいさつをして、社業の展望も示すことで、取引先や社内に安心感を与える効果が期待されます。
一般的に社葬は、遺族が密葬を行ったあと、一定の期間を置いてから、本葬として行います。「密葬」の定義も様々ですが、ここでは「遺族が、身内や親戚、友人等を招いて小規模で行う葬儀」とします。
「本葬としての社葬」は、密葬が終わって、四十九日法要の時期に行うことが多いです。僧侶を呼ぶなどの宗教色を絡める場合もあれば、宗教色を出さずに「お別れの会」として行うこともあります。
さらに時間をおいて、1年後などに行う場合は「偲(しの)ぶ会」と称されることも少なくありません。現代の「社葬」は「お別れの会」や「偲ぶ会」を包括していると考えてください。
一方、遺族と会社が一緒に主催する合同葬というやり方もあります。「○○家・□□産業株式会社 合同葬」といった形式になります。
密葬が行われた場合、合同葬は開きませんが、ごくまれに、密葬後1~2週間程度の時期に、密葬と別に行うこともあります。「密葬には間に合わなかったが会社としての葬儀はすみやかに済ませたい」といった場合です。合同葬として行った場合は、基本的に改めて社葬やお別れの会を開くことはありません。
コロナ禍を受け、「人が集まる催しはできるだけ回避する」という意識が高まっており、最近は企業規模にかかわらず、合同葬の形を採るところが多くなっています。
遺族だけでなく、会社が式の施主となる場合、経費を使って葬儀を行うことになります。
もちろん、ご不幸が発生してから役員会や取締役会で、経費の執行を承認する、という方法も可能です。しかし、会社の通常業務を行いながら、限られた時間の中で社葬の準備をすることは、担当部署・担当者に大きな負荷がかかります。
また、ご不幸が発生する時期の会社の経営状態によって、規模や経費の拠出基準が変わるのは望ましい状況ではありません。
従って、円滑な社葬を行うためには、事前に社葬に関する規程を整備しておくのがベターです。
社葬規程を作っているのは大会社がほとんどです。従業員100人以下くらいで規程を設けている会社は、ほぼ存在しません。しかし、作っておいて損はないですし、ご不幸が発生した際に会社としてスムーズな業務を行うためにも、社葬規程の制定をお勧めします。
規程に記載しておくべき内容は、おおむね以下の通りです。
そして、社葬までのタイムスケジュールや準備作業、当日の作業分担等の詳細もマニュアル化しておきましょう。従業員100人以下くらいの企業ではマニュアルも整備されていないことが多く、その場合は葬儀社のマニュアルやチェックリストに沿って準備します。ただ葬儀社の資料は、会社の業種や規模によって細分化されているわけではなく、会社独自のマニュアルがあるに越したことはありません。
もしもの場合に備え、「連絡先名簿」もあらかじめ作成しておいた方がいいですが、その都度名簿の更新が必要になります。往々にして更新を怠り、古い所属や肩書で連絡してしまうことがあるので、ご注意ください。
年賀状などに使用する取引先リストでも代用可能です。ただ、社葬のための連絡先名簿作成は、弔辞などの役目をお願いする「来賓」としての参列をお願いする方を、チェックしておくことが必要になります。
社葬規程やマニュアルに役職と役割を明記する際は、一例として、以下の文言が考えられます。
葬儀の最高責任者。会長や創業者の葬儀の場合は社長が務め、社長の葬儀の場合は会長や副社長、次期社長就任予定者などが務めることが多いです。もしくは、会社と関係の深い政治家や得意先企業の社長に依頼する場合もあります。
葬儀委員長を補佐します。役員全員が務めることが多いです。
社葬の実務を統括・管理するリーダーです。通常は総務部長が務めます。
葬儀実行委員長を補佐し、社葬の実務を執り行います。総務部員と他部からの応援の社員で構成されます。実行委員は、総合、受付、進行、場内、場外、接待、記録など、それぞれの部門に配置されます。
規程やマニュアルの制定に伴い、会社の経費で処理できるもの、税務上損金として処理できるものについて、あらかじめ知っておかねばなりません。
会社の経費として処理できる可能性が高いものは、おおよそ以下の通りです。
また、社葬費用に関する税務上の扱いについては、法人税法基本通達に以下の文言があります。
法人が、その役員又は使用人が死亡したため社葬を行い、その費用を負担した場合において、その社葬を行うことが社会通念上相当と認められるときは、その負担した金額のうち社葬のために通常要すると認められる部分の金額は、その支出した日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。 また、会葬者が持参した香典等については、法人の収入としないで遺族の収入とすることができます。(法基通9-7-19)
「その社葬を行うことが社会通念上相当と認められるとき」とありますが、逆に「社会通念上相当と認められないとき」とは、どのような場合でしょうか。
例えば「10年以上前に会長職を退いた創業者の妻」、「会社にほとんど顔を出さなかった監査役」などが亡くなった場合、社葬を行ってその経費を損金算入するのは、必ずしも社会通念上相当とは認められない、という見解が優勢です(実施にあたっては、税理士などの専門家にご確認ください)。
そして、税務上損金となる「社葬のために通常要すると認められる部分の金額」とは、どこまでの範囲を指すのでしょうか。
一例ですが、以下の裁決事例をご覧ください。
請求人の前代表者の死亡による社葬費用を法人の損金に算入することは妥当であるが、葬儀に引き続き場所をホテルに移して行った「おとき」は、死者に対する追善供養を目的とする法会の一環であり、主として請求人の取引先の者に飲食を供したものであるから、それに係る費用を社葬費用に当たるものとみることはできない。
したがって、「おとき」に係る費用のうち、取引先の者を対象とするものは交際費等、また現代表者の親族、友人を対象とするものは現代表者個人の負担とするのが相当である。(国税不服審判所 昭和60年2月27日裁決)
「おとき(お斎)」とは、法要の後、施主が列席者を招待して行う食事のことで、僧侶や参列者に対する感謝の思いを示す席です。上記の裁決事例は、「おとき」にかかる費用(食事代、場所代)を、取引先に対してのものと親族・個人に対してのもので案分することを求めています。
また、密葬、墓石、仏壇、位牌、さらに院号を受けるための費用など、明らかに故人の遺族が負担するべきと認められるものは、「社葬のために通常要する費用」に該当しないものと考えられています。従って、通常の会葬に関する費用が、「社葬のために通常要する費用」として認められると考えられます。
対取引先に関しては、会社にとって相手方1人当たりの支出が5千円以下であれば、(損金に計上できない)交際費などには含まれません。加えて、資本金1億円以下の中小企業の交際費は、一定の上限額(年間800万円)まで損金計上できます。ただし、800万円を超えた部分は、税務上の損金になりません。
つまり、社葬経費が一定額を超えると税務上は損金とならないため、課税所得は減らせず、法人税などは軽減されないので注意が必要です。
なお消費税の扱いですが、社葬のための費用が課税仕入れに係る支払い対価に該当するかどうかは、個別の取引ごとに対価性の有無によって判断することになります。
社葬の参列者から香典をいただいた場合、そして香典返しを行った場合の税務処理についても説明します。
社葬の費用を会社が負担している以上、香典は会社の収入にしてよい、という考え方に基づくものです。この場合、香典は、法人税法上は益金の額に算入されます。
そして、この時の香典返しの費用は、社葬関連費用(福利厚生費)として計上することは適切でない、との見解が優勢です。その場合は交際費として処理することになります。
前述の通り、国税庁のウェブサイトには「会葬者が持参した香典等については、法人の収入としないで遺族の収入とすることができます」という記載があります。つまり、社葬であっても、香典は遺族の収入としてもよい、という解釈です。
具体的には、いったん会社が香典を受け取り、後でそれを遺族に渡す方法が考えられます。ただこの場合、会社の雑収入と解釈され、課税対象となる可能性があります。会社は香典を受付で預かり、管理作業のみを担当。葬儀終了後、ただちに遺族に渡す、という形式が推奨されます。
そして、その金額が社会的地位や贈与者との関係に照らして「社会通念上相当」と認められるものは、遺族の所得とならず、所得税の課税対象とはなりません。なお、この時の香典返しの費用は、遺族の負担となります。
社葬を行う際は、税務について必ず顧問税理士などの専門家にご確認ください。
【監修】
小原正寛税理士事務所
【取材協力】
セレニオン(運営会社:フルールウーノ)
【参考文献】
中小企業のための社葬マニュアル(三上清隆著、清文社)
社葬のすべて(講談社)
法人税基本通達逐条解説(税務研究会出版局)
税務相談事例集(大蔵財務協会)
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。